『天雲星系・銀河の記憶』 作:DanhDu_Chronicle
その時。
二人の腹が同時に鳴った。
グゥゥ……
ミンが腹を抱える。
「ティエン兄ちゃん……お腹空いた」
「何か食べに行こうよ」
ヴァン・ティエンが笑う。
「いいよ」
「じゃあ、二人で何か食べに行こうか」
二人は橋を降りる。
そのまま近くの旧市街のナイトマーケットへ向かった。
市場へ入る。
周囲は、とても賑やかだった。
靴やサンダル。
服。
アクセサリー。
お土産。
手作りのハンドメイド商品。
さまざまな店が並んでいる。
値段も手頃だった。
あちこちから、客を呼ぶ声が聞こえてくる。
「一個十五万ドン……じゃないよ! 一個一万五千ドンだよ!」
「一万五千ドン、一個一万五千ドン!」
「好きなの選んでってねー!」
「スマホケース激安だよー!」
「五万ドンで三個! 五万ドンで三個だよー!」
「在庫一掃! 在庫一掃!」
「タイのTシャツ、四万五千ドン!」
「安いよー! 持ってけ泥棒!」
客引きの声が、ストリートパフォーマンスをしているグループの音楽と混ざり合い、市場全体をさらに賑やかにしている。
二人はさらに市場の奥へ進んでいく。
そこには、たくさんの食べ物の屋台が並んでいた。
焼き鳥。
豆腐スイーツ。
さまざまなチェー。
そして、バイン・クック。
「串焼きあるよー!」
「熱々の肉串だよー!」
「バイン・クック、熱々だよー!」
「バイン・クックはいかがー!」
その時。
ヴァン・ティエンの鼻に、バイン・クックの香ばしい匂いが届いた。
二人はその屋台へ近づく。
ヴァン・ティエンが尋ねる。
「お姉さん、バイン・クックはいくら?」
店主の女性が答える。
「一個一万五千ドンだよ!」
「一個一万五千ドン!」
「好きなの選んでね!」
「じゃあ、四個ください!」
「ちょっと待ってね!」
「熱々のを取ってあげるから!」
ヴァン・ティエンは代金を払い、店主から包みを受け取った。
バナナの葉に包まれたバイン・クックから、熱がじんわりと手のひらへ伝わってくる。
ハノイの夜の少し冷たい風の中、その温かさが妙に心地よかった。
葉を開く。
すると――
薄い白い湯気が立ち上った。
野原の葉から漂う独特の香り。
そして、もち米の甘い香り。
その二つが混ざり合い、食欲をそそる匂いが広がる。
ヴァン・ティエンは一口かじってみた。
外側のもち米は、粘り気があり、柔らかく滑らか。
その中には、ほくほくとした緑豆の餡。
そして、脂身の濃厚な旨味。
さらに――
黒胡椒のピリッとした辛さが口の中に広がった。
「……うまい」
その美味しさは、ただ空腹を満たすだけではなかった。
どこか、とても「人間らしい」感覚。
とても身近で、温かい感覚だった。
二人は歩きながら食べ、夜市の中を見て回っていく。
――その時。
市場の奥。
暗く、人目につかない一角。
そこに――
赤い目が、暗闇の中で光った。
ギラッ……
ヴァン・ティエンが何かを感じ取る。
彼は周囲を見回した。
「……?」
ミンが尋ねる。
「ティエン兄ちゃん、何見てるの?」
ヴァン・ティエンは辺りを見回す。
だが、何も見つからない。
彼はミンへ振り返った。
「何でもないよ」
「たぶん、聞き間違いだ」
二人は再び旧市街の市場を歩き始める。
だが――
しばらくして。
突然、悲鳴が響き渡った。
「捕まえて!」
「誰か、あいつを捕まえて!」
「私の娘をさらったの!」
「助けて! 誰か助けて!」
ヴァン・ティエンが振り返る。
すると――
黒い服を着た男が、一人の少女を抱えて走っていた。
「ミン、ここで待ってろ!」
そう言うと、ヴァン・ティエンはすぐに男を追いかけた。
「えっ……?」
ミンには何が起きたのか分からない。
彼も追いかけようとした。
だが――
人混みに阻まれてしまった。
その場から追いかけられるのは、ヴァン・ティエン一人だけだった。
黒い服の男は、旧市街の細い路地へ入っていく。
路地は暗く、複雑に入り組んでいた。
ヴァン・ティエンはその後を追う。
狭い路地。
古びた建物。
苔むした壁。
その壁に、黒い服の男の赤い瞳から放たれる光が不気味に映し出される。
そして――
男の動きは異常なほど速かった。
「速すぎる……!」
ヴァン・ティエンも必死に追いかける。
何本もの細い路地を抜ける。
狭い街並みを走り抜ける。
そして、しばらくしたところで――
黒い服の男が立ち止まった。
その先には――
行き止まり。
ヴァン・ティエンも足を止める。
「もう逃げ場はないぞ」
「その女の子を放せ!」
黒い服の男が、ゆっくりと笑う。
「……俺が一人でここまで来たと思っているのか?」
その瞬間。
男の背後から――
三つの影が現れた。
暗闇の中で、赤い光が一つ、また一つと灯る。
そして――
三人の黒い影が、ゆっくりと闇の中から姿を現した。
その赤い瞳が、同時に開く。
黒い服の男が、喉を鳴らすように笑った。
「さあ……」
「一人のお前が――」
「俺たち四人を、どうやって相手するのか……見せてもらおうか」