『天雲星系・銀河の記憶』   作:DanhDu_Chronicle

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第63話 霊血、静かに滲む (下)

陳國寶の目には――

 

天を突き抜けるほどの正気が燃え上がっていた。

 

彼は赤眼黒龍を真正面から睨みつける。

 

そして――

 

低く力強い声を、夜空へ響かせた。

 

「戦いを続けよう」

 

風が吹き抜ける。

 

その瞬間――

 

赤眼黒龍の身体が、紫黒色の残像へと変わった。

 

「シュンッ!!」

 

一瞬で――

 

陳國寶の目の前へ飛び込む。

 

そして――

 

杖を振り上げた。

 

狙いは――

 

陳國寶の喉。

 

致命の一撃が――

 

真っ直ぐ振り下ろされる。

 

だが――

 

今回、陳國寶の速度は一段上だった。

 

彼は迷いなく大刀を振り上げる。

 

黄金色の剛力を刀身へまとわせ――

 

致命の一撃を真正面から止めた。

 

「ドォォン!!!!」

 

二つの凶暴な衝撃力が、正面から激突する。

 

だが今回は――

 

陳國寶は、先ほどのように苦しんでいない。

 

二人は互いに唸り声を上げ――

 

武器を激しく押し合わせる。

 

まるで――

 

天地そのものが崩れ落ちるような力比べ。

 

誰も――

 

一寸たりとも譲らない。

 

その時――

 

陳國寶の目に、極限の勇気と決意が閃いた。

 

彼はわざと太腿の力を緩める。

 

そして刀の柄を握る手を――

 

僅かに後ろへ引いた。

 

隙ができた。

 

赤眼黒龍はすぐにそれを見抜く。

 

「今だ――!」

 

力を込め――

 

一気に押し込む。

 

その勢いを利用して、刀身の横を滑るように前へ出る。

 

このまま――

 

斬り倒せる。

 

そう思った。

 

だが――

 

それこそが、陳國寶の狙いだった。

 

杖の刃が振り下ろされた、その瞬間。

 

陳國寶は身体を僅かに傾け――

 

紙一重でかわす。

 

片手で大刀を握り――

 

もう片方の手で、迫ってきた杖を――

 

完全に掴んだ。

 

赤眼黒龍の目が、大きく見開かれる。

 

自分の武器が――

 

若き将軍の素手によって完全に封じられている。

 

その瞬間――

 

陳國寶はもう一方の手で大刀を高く掲げた。

 

黄金色の王者の光が、刀身を包み込む。

 

標的を完全に捉える。

 

胸が大きく震える。

 

そして――

 

夜の闇を切り裂く雷鳴のような咆哮を放った。

 

「奪刀斬馬――!!」

 

「ズドォォォン!!!!」

 

大刀が――

 

一気に振り下ろされた。

 

黄金色の剛力をまとった雷のような横薙ぎの一撃が――

 

赤眼黒龍の胸へ真っ直ぐ叩き込まれる。

 

だが――

 

赤眼黒龍は異常な速度で杖を握る手を放した。

 

そして――

 

身体を横へかわす。

 

大刀の一撃は――

 

空を斬った。

 

だが、その一撃に込められた巨大な剛力は止まらない。

 

真っ直ぐ――

 

遠くの白藤江へ飛んでいく。

 

「ズドォォン!!」

 

白藤江の水面が――

 

剛力によって真っ二つに引き裂かれた。

 

水が大きく噴き上がる。

 

白い水飛沫が、夜空一面を覆った。

 

それを見た赤眼黒龍の目に――

 

恐怖が浮かんだ。

 

一瞬たりとも気を抜けない。

 

奴はすぐに身を伸ばし――

 

落ちた杖を掴み取る。

 

そして――

 

地面を蹴って数メートル後方へ跳び退いた。

 

神秘的な紫黒色の瞳は――

 

なおも陳國寶へ突き刺さっている。

 

安全な距離を取ると――

 

赤眼黒龍は杖を高く掲げた。

 

力を杖へ集中させる。

 

胸の鍵穴から――

 

紫色の黒気が狂ったように噴き出す。

 

それが杖全体へ絡みつく。

 

先ほどよりも――

 

遥かに強く。

 

遥かに濃密に。

 

赤眼黒龍は杖を強く握り締め――

 

陳國寶を真っ直ぐ見据える。

 

そして――

 

首を上げ、叫んだ。

 

「龍巻――!!」

 

言い終わった瞬間。

 

奴は杖を強く振り下ろした。

 

「ゴォォォ……!!」

 

黒い気が渦を巻いて飛び出す。

 

そして――

 

一瞬で、紫黒色の凶悪な龍へと凝縮された。

 

「グオオオオッ!!!!」

 

巨大な悪龍が――

 

陳國寶を喰らい尽くさんばかりの勢いで突進してくる。

 

だが――

 

陳國寶には、一切の動揺がなかった。

 

彼は大刀を逆手に構え――

 

円を描くように連続して振り回す。

 

柔らかく――

 

それでいて力強い。

 

荒れ狂う波が渦を巻いて流れるような、しなやかな軌道。

 

紫黒色の凶悪な龍が迫る。

 

しかし――

 

その龍は、目に見えない剛力の渦へ巻き込まれた。

 

「ゴォォォ……!!」

 

龍の力が――

 

水気の流れによって徐々に解かされていく。

 

そして――

 

横へ滑るように流され――

 

最後には力なく虚空へ消えていった。

 

陳國寶は赤眼黒龍を見つめる。

 

防御の構えを解く。

 

その目には――

 

燃え上がる正気と揺るぎない決意。

 

そして――

 

鋭い声が響く。

 

「次は――俺の番だ」

 

言い終わると同時に――

 

彼は泥と水で濡れた地面へ、踵を強く踏み込んだ。

 

「ドン!!」

 

その瞬間。

 

正気を帯びた霊血が――

 

戦場の水気と混ざり合った。

 

「ゴゴゴゴゴ……!!」

 

それが突然、激しく沸き立つ。

 

そして――

 

無数の水の矢へと変わった。

 

鋼のように鋭く――

 

冷たい刃のような無数の水矢。

 

それらが一斉に――

 

大地の底から空へ向かって撃ち出された。

 

「水勁箭――!!」

 

鋭く短い声が響く。

 

「シュシュシュシュッ!!」

 

無数の水矢が――

 

短剣のような鋭さを持ち、王者の正気をまといながら――

 

真っ直ぐ赤眼黒龍へ飛んでいく。

 

赤眼黒龍はすぐに手首を回した。

 

先ほど一本の杖へと結合していた鎖が――

 

再び分離する。

 

そして――

 

一本の鎖へ戻った。

 

奴は鎖を回転させ――

 

円形の盾を作り出す。

 

飛来する無数の水矢を防ぐ。

 

だが――

 

水矢の数があまりにも多い。

 

そして速度も――

 

あまりにも速い。

 

赤眼黒龍は――

 

すべてを防ぎきれない。

 

「シュッ!!」

 

「ドスッ!!」

 

水矢が鎖の渦をすり抜け――

 

赤眼黒龍の身体へ突き刺さる。

 

奴は何度も身体を翻し、かわそうとする。

 

だが――

 

矢の嵐はあまりにも密集していた。

 

逃げ道は――

 

完全に封じられている。

 

王者の正気を満たした水矢が――

 

紫黒色の気の鎧を貫く。

 

そして――

 

奴の肉体へ深々と突き刺さった。

 

「ジュゥゥゥ……!!」

 

邪気が焼け――

 

煙を上げる。

 

赤眼黒龍は苦痛に顔を歪める。

 

必死に防ぎ――

 

必死にかわし続ける。

 

やがて――

 

凶暴な矢の雨が、ようやく消えた。

 

だが――

 

赤眼黒龍の身体には――

 

無数の傷が残っていた。

 

黒い血液が、そこから滲み出る。

 

奴は自分の身体を見下ろす。

 

紫黒色の瞳に――

 

燃え上がる憎悪の炎。

 

怒りが――

 

限界まで達していた。

 

「忌々しい……!!」

 

奴は再び突進しようとした。

 

だが――

 

脚を一歩踏み出した、その瞬間。

 

突然――

 

身体が硬直した。

 

胸の心筋が――

 

突然、激しく収縮する。

 

「グッ……!!」

 

凄まじい痛み。

 

今までとは――

 

比べものにならない。

 

これまでの痛みを、すべて合わせても足りないほどの激痛。

 

「アアッ……!!」

 

身体を折り曲げる。

 

手で胸を強く掴む。

 

呼吸が途切れる。

 

苦痛の中で――

 

奴は心の中で問いかけた。

 

「なぜ……」

 

「なぜ、こんなに胸が痛む……?」

 

意識が朦朧とするほどの激痛。

 

その時――

 

過去の記憶が、再び脳裏をよぎった。

 

あの謎の男。

 

そして――

 

かつて言われた、冷たい忠告。

 

「だが……覚えておけ」

 

「それは、お前の力を一時的に引き出すだけだ」

 

「だから――」

 

「維持できる時間は短い」

 

「もし早く戦いを終わらせなければ――」

 

「お前の身体は、その力に耐えられなくなる」

 

「そのことを――」

 

「決して忘れるな」

 

――――

 

現在。

 

赤眼黒龍はようやく理解した。

 

自分の身体が――

 

すでに限界へ達している。

 

奴は歯を食いしばった。

 

必死に動揺を抑え――

 

呼吸を整える。

 

そして胸を見る。

 

「どうやら……」

 

「これ以上、長引かせることはできないようだ」

 

「早く……」

 

「この戦いを終わらせなければ……!」

 

奴は残った僅かな力を振り絞り――

 

ふらつきながら立ち上がった。

 

遠くから――

 

陳國寶は敵の奇妙な変化をすべて見ていた。

 

だが――

 

その原因までは理解できない。

 

彼は刀を下ろし――

 

薄く笑った。

 

そして――

 

挑発するように言った。

 

「どうした?」

 

「たったこれだけの斬撃で、もう耐えられなくなったのか?」

 

赤眼黒龍は濃密な黒気の中に――

 

堂々と立っていた。

 

その神秘的な紫黒色の瞳が――

 

若き将軍を真っ直ぐ射抜く。

 

そして――

 

その声が響いた。

 

低く――

 

重く。

 

そして――

 

極限の殺気を孕んだ声。

 

「もう……」

 

「お前と遊んでいる時間はない」

 

奴は武器を強く握り締めた。

 

そして――

 

低く唸る。

 

「今ここで――」

 

「すべてを終わらせる」

 

その不可解な態度を前に――

 

陳國寶の胸に、説明できない不安が湧き上がった。

 

赤眼黒龍は――

 

何も言わない。

 

ただ――

 

胸の鍵へ手を伸ばす。

 

そして――

 

一言も発することなく。

 

再び――

 

力強く押し込んだ。

 

今回は――

 

鍵をさらに深く、胸の奥へ突き刺す。

 

「ガキッ……」

 

「パキィィン!!」

 

一瞬――

 

空間そのものが凍りついたようになった。

 

そして――

 

突然。

 

風がさらに強く吹き始めた。

 

まるで巨大な嵐のように。

 

夜空には――

 

幾重にも重なった黒雲が押し寄せる。

 

星の光を完全に覆い隠す。

 

「ゴロゴロゴロ……!!」

 

銀色の雷が走る。

 

天空を縦に引き裂き――

 

薄暗い夜を、無数の亀裂で切り裂いていく。

 

その下では――

 

赤眼黒龍の身体の内側から、再び気が噴き出した。

 

だが――

 

今回は、ただ渦巻くのではない。

 

まるで――

 

噴火する火山。

 

止めることのできない勢いで――

 

一気に噴き出した。

 

一瞬で――

 

巨大な赤眼黒龍の身体が、濃密な紫黒色の邪気に飲み込まれる。

 

だが――

 

それでも終わらない。

 

その気は――

 

さらに周囲へ広がっていく。

 

足元の大地へ流れ落ち――

 

岩と土を侵食していく。

 

空間そのものを引き裂き――

 

天高く――

 

九重の雲へ向かって伸びていく。

 

そして――

 

暗黒の虚無を思わせる死の色で――

 

一帯の天地を完全に黒く染め上げていく。

 

「ゴゴゴゴゴゴ……!!」

 

その気は――

 

なおも広がり続けた。

 

やがて――

 

赤眼黒龍の兵士たちへ届く。

 

紫黒色の霧に触れた、その瞬間。

 

「ギャアアアアアッ!!!!」

 

敵兵たちが――

 

一斉に苦痛の叫び声を上げた。

 

身体が――

 

内側から裂けていく。

 

肉が腐り――

 

骨が崩れ――

 

そして――

 

身体そのものが蒸発する。

 

跡形もなく――

 

虚無へと消えていった。

 

目の前で繰り広げられる――

 

あまりにも凶暴で、人間性すら失った虐殺。

 

陳國寶は――

 

目を大きく見開いた。

 

驚愕。

 

そして――

 

信じられないという表情。

 

若き将軍の手が――

 

大刀の柄を握る手が、僅かに震えた。

 

彼は――

 

今、自分が見たものを信じることができなかった。

 

そして――

 

破滅の嵐、その中心。

 

赤眼黒龍は――

 

なおも堂々と立っていた。

 

紫黒色の禍々しい気が、その身体を包み込んでいる。

 

まるで――

 

死の世界から現れた龍の衣。

 

奴は深く、底知れない紫黒色の瞳を――

 

無感情に大越陳軍の勇将へ向ける。

 

そして――

 

低く、重く。

 

その声を戦場全体へ轟かせた。

 

「死ぬ覚悟をしろ――!!!」

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