『天雲星系・銀河の記憶』   作:DanhDu_Chronicle

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第64話 江山を定める一閃 (上)

「死ぬ覚悟をしろ――!!!」

 

その言葉が途切れた瞬間――

 

狂暴な咆哮が戦場に響き渡った。

 

奴は全身の力を一気に絞り出し、爆発させる。

 

直後――

 

紫黒色の邪気を纏った暴風が狂ったように荒れ狂い、嵐のごとき勢いで陳國寶へ向かって突き進んでいく。

 

そして――

 

陳軍と敵軍が死力を尽くして激突している、戦場全体へと広がっていった。

 

死の気が広がる速度は、ますます恐ろしいものになっていく。

 

それが触れた場所から――

 

大地は変形し、ひび割れ。

 

周囲に転がる巨大な岩石も、その邪気に触れた瞬間――

 

バキバキッ……!!

 

亀裂が走り、腐り落ち、やがて灰となって消えていく。

 

その光景を見た陳國寶は――

 

自分の身を守るため、すぐさま大刀を地面へ突き立て、防御陣を張ろうとした。

 

だが――

 

何かを思い出したかのように。

 

突然、後ろへ振り返る。

 

戦場の一角。

 

そこには――

 

宝瑛とヴァン・ティエンが、どうすることもできず互いに抱き合ったまま立っていた。

 

そして――

 

紫黒色の邪気の奔流もまた、二人へ向かって狂ったように唸りながら迫っていた。

 

一切の迷いなく――

 

陳國寶は地面を強く踏み込む。

 

ドンッ!!

 

その身体は金色の光となり、風を切り裂く速度で一気に飛び出した。

 

二人のもとへ辿り着くと――

 

陳國寶は急いで叫ぶ。

 

その声には、これまでにないほどの焦りが滲んでいた。

 

「破滅の死気が、もうすぐ押し寄せる!! 早く、ここから離れろ!!」

 

しかし――

 

宝瑛は涙で濡れた顔を上げる。

 

そして――

 

ヴァン・ティエンを強く抱きしめたまま、頑として首を横に振った。

 

「私は行かない!!」

 

「ティエンさんはまだ目を覚ましてない……」

 

「絶対に……彼を置いて、どこにも行かない!!」

 

その小さな少女の決意を見て――

 

陳國寶は、言葉を失った。

 

どう説得すればいいのか――

 

彼にも分からなかった。

 

だが――

 

邪気は、もう目の前まで迫っている。

 

仕方がない。

 

陳國寶は身体を翻し――

 

二人の真正面に立った。

 

そして――

 

一歩も退かず。

 

荒れ狂う邪気の嵐と、真正面から向き合った。

 

ギリッ……!!

 

大刀の柄を逆さにして、地面へ深く突き刺す。

 

両手で刀身の峰を強く握りしめる。

 

その両肩に刻まれた蛟龍の刺青が――

 

まばゆい光を放ち、夜の闇を引き裂いた。

 

金色の正気が、彼の身体の周囲を渦巻いていく。

 

そして――

 

巨大で威厳に満ちた蛟龍の両眼が、大刀の前方に浮かび上がる。

 

王族の勁力が爆発する。

 

そしてそれは――

 

王者の金色を纏った、巨大な威圧の壁へと変わった。

 

「蛟龍護体」――!!

 

それが、目の前から押し寄せる紫黒色の邪気を――

 

真正面から食い止めた。

 

ドォォォン!!!

 

二つの力が、真正面から激しく衝突する。

 

紫黒色の邪気は「蛟龍護体」の壁に阻まれた。

 

だが――

 

その威圧は、あまりにも凄まじい。

 

千軍の重圧が一気に押し寄せる。

 

陳國寶は歯を食いしばり――

 

全身の霊力を絞り出しながら、必死に耐え続ける。

 

その一方で――

 

破滅の紫黒色の邪気の嵐は、なおも狂ったように膨張していく。

 

そして――

 

両軍が死力を尽くして激しく戦っている戦場へ、一直線に押し寄せていった。

 

最も近くにいた赤眼黒龍の部隊は――

 

真っ先に、その災厄を受けることになった。

 

死気が身体に触れた瞬間――

 

「う……ああああああッ!!」

 

苦痛のあまり、兵士たちは武器を取り落とす。

 

そして――

 

絶望の中で、悲痛な叫び声を上げる。

 

全身に亀裂が走り――

 

肉体そのものが崩れ落ち。

 

腐り。

 

そして――

 

跡形もなく虚空へと消えていった。

 

その光景を目の前で見た陳軍の兵士たちは――

 

思わず立ち尽くし、衝撃に凍りつく。

 

だが――

 

邪気は止まらない。

 

狂ったように、こちらへ迫ってくる。

 

先頭にいた一部の兵士たちは、完全には避けきれず――

 

邪気に身体を掠められた。

 

幸いにも、とっさに身を躱していたため――

 

致命傷にはならず、一部を損傷しただけだった。

 

後方の兵士たちはすぐさま負傷した仲間を引きずり、後方へ運ぼうとする。

 

だが――

 

この極限の状況で。

 

大越軍の鉄の規律が――

 

再び立ち上がった。

 

次の瞬間。

 

後方にいた兵士たちが、一切の恐怖を見せずに前へ飛び出す。

 

負傷した仲間を抱え――

 

後方の防衛線まで引きずり戻し、援護する。

 

ドン!! ドン!! ドン!!

 

直後――

 

数万の陳軍兵士が一斉に地面を踏み鳴らした。

 

そして――

 

一メートルもの高さを持つ、長い木製の盾を掲げる。

 

雲形の縁取りが施され、頑丈に補強された盾を――

 

地面へ一斉に突き立てる。

 

長年の風雨に晒され、鍛え上げられた木の盾が互いに噛み合い――

 

一枚の巨大な盾の長城を作り上げた。

 

それは――

 

真正面から、狂ったように押し寄せる紫黒色の暴風を受け止める。

 

ジュゥゥゥ……!!

 

死気が木盾の表面へ叩きつけられ――

 

鋭い音を立てながら激しく擦れ合う。

 

だが――

 

陳軍の防衛線は歯を食いしばり、全身に力を込めた。

 

一寸たりとも――

 

邪気を通さない。

 

陳國寶の側では――

 

彼もなお、紫黒色の邪気を食い止め続けていた。

 

だが――

 

いくつかの邪気が、わずかに内側へ侵入してくる。

 

その一筋が、彼の衣の裾を掠めた。

 

そして――

 

傷口から流れ落ちた霊血が、地面へと滴り始める。

 

王家の正気を宿した――

 

霊血が。

 

遠くからその光景を見ていた赤眼黒龍は――

 

陳國寶と陳軍がなおも耐え続けていることに、目を細めた。

 

そして――

 

さらに力を込める。

 

全身を限界まで縮め――

 

次の瞬間。

 

バッ!!

 

身体を一気に弾き出した。

 

紫黒色の邪気が、さらに爆発的に放たれる。

 

その凄まじい圧力によって――

 

陳國寶も。

 

陳軍も。

 

一斉に後方へ押し飛ばされる。

 

だが――

 

苦しみながらも。

 

不屈の意志によって――

 

彼らはなお立っていた。

 

屈服しない。

 

退かない。

 

二つの勢力は――

 

なおも激しく押し合っていた。

 

その頃――

 

宝瑛のもとでは。

 

ヴァン・ティエンは、まだ動かない。

 

目を覚ます気配もない。

 

宝瑛は彼を見つめ――

 

涙を流し続ける。

 

そして――

 

ヴァン・ティエンの胸へ顔を伏せた。

 

すすり泣く声が、震える唇から漏れる。

 

「ティエンさん……」

 

――その時。

 

ヴァン・ティエンの意識の中。

 

彼の目の前には――

 

地面に無数の人間の死体が横たわっていた。

 

周囲には戦艦。

 

そのいくつかは激しく燃え上がり――

 

またいくつかは、完全に破壊されている。

 

ヴァン・ティエンは気づいた。

 

自分自身が地面に倒れている。

 

そして――

 

身体を動かすことができない。

 

「これは……一体……どういうことだ……???」

 

突然――

 

黒い服を身に纏った一人の兵士が、目の前へと走ってきた。

 

兵士は槍を振り上げ――

 

そのままヴァン・ティエンへ突き刺そうとする。

 

ヴァン・ティエンが、もう一度目を開いた瞬間――

 

槍先は、すでに目の前まで迫っていた。

 

あと、ほんの少し。

 

それだけで――

 

槍は彼を貫く。

 

だが――

 

その兵士の胸には。

 

黒い剣が突き刺さっていた。

 

刀身には――

 

小さな星々が刻まれている。

 

そして――

 

兵士の背後には、一人の少女がいた。

 

少女は兵士を押し退け――

 

ヴァン・ティエンのもとへ走ってくる。

 

「船長……頑張って!!」

 

「あなたは……絶対に何もあってはいけない……」

 

「絶対に……!!」

 

霧のように曖昧な意識の空間で――

 

ヴァン・ティエンは、なおも幻覚の中へ沈んでいた。

 

そして――

 

問いかける。

 

「え……あの少女は……」

 

「一体……誰なんだ……?」

 

目の前の視界は、どんどんぼやけていく。

 

それでも――

 

あの謎の人影が必死に叫ぶ、その一言一言だけは。

 

はっきりと聞こえていた。

 

その声には――

 

泣きじゃくる少女の、胸を引き裂くような嗚咽が混じっている。

 

悲しみに満ちた。

 

痛みに満ちた。

 

心を切り裂くような泣き声。

 

その少女は、何度も何度も呼び続ける。

 

震える声が――

 

記憶の霧の中で、ヴァン・ティエンの耳へ届く。

 

「船長……頑張って!! 早く目を覚まして!!」

 

「死んじゃダメ……」

 

「早く……目を覚まして……」

 

「……船長!!」

 

――現実の戦場。

 

陳國寶と陳軍は、なおも紫黒色の邪気に抗い続けていた。

 

そして――

 

宝瑛は、動かないヴァン・ティエンの胸へ顔を伏せたまま。

 

熱い涙が――

 

彼の肩を濡らしていく。

 

絶望が最も深くなった――

 

その瞬間。

 

ヴァン・ティエンの指先が――

 

ピクリ……。

 

ほんのわずかに動いた。

 

重く閉じていた瞼が――

 

震える。

 

そして――

 

ゆっくりと開いた。

 

「え……ここは……どこだ……?」

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