『天雲星系・銀河の記憶』   作:DanhDu_Chronicle

77 / 83
第66話 永遠の川と、深淵からの信号 (前)

煙塵が舞い上がる。

 

周囲のすべてが、異様なほど静まり返っていた。

 

雲模様の縁取りが施された長い木盾の向こうで――

 

何万もの陳軍の兵士たちが息を呑み、無数の視線を一斉にある一点へと向けていた。

 

宝瑛の目は大きく見開かれていた。

 

瞳孔は衝撃のあまり縮まり、焦点を失っていく。

 

呆然とした瞳は、やがて薄い涙の霧に覆われていった。

 

その目は爆発の中心に釘付けになっていた。

 

瞬きすらできない。

 

もし、瞬きをしてしまったら――

 

あの人の姿が、消えてしまうような気がした。

 

「ティエンさん……」

 

宝瑛の心を引き裂くような叫び声が、戦場の静寂を切り裂いた。

 

前方に立つ陳國寶。

 

彼の眉が、突然きつく寄せられた。

 

鋭く細められた目。

 

それは驚愕と怒り、そして強い不安が入り混じった表情だった。

 

だが、それでも彼は冷静さを失わない。

 

戦況を見極めようとしていた。

 

その目には鋭い光が宿り、舞い上がる煙塵の向こうから――

 

仲間の、生きている気配を探していた。

 

高い崖の上。

 

陳興道は、依然としてそこに立っていた。

 

大海のように深いその瞳は、変わらぬ威厳と沈着さを湛えている。

 

石盤のように微動だにしない。

 

凡人のような狼狽など、どこにもない。

 

しかし――

 

その瞳の奥を、ごく僅かな揺らぎが走った。

 

若き才人への敬意。

 

そして、生死の境界にある彼の霊力を見極めるような、すべてを見通す眼差し。

 

その頃――

 

反対側では、赤眼黒龍がその光景を見ていた。

 

そして――

 

大きく笑い出した。

 

「ついに……俺も、お前を殺せたんだな」

 

「ハハハハ……」

 

だが――

 

その笑い声が、喉の奥で突然途切れた。

 

濃密な煙の奥から――

 

鋭く青い光が、突然まばゆく弾けた。

 

周囲へと猛烈な勢いで広がっていく。

 

赤眼黒龍の目が、大きく見開かれる。

 

風に乗って、煙塵がゆっくりと晴れていく。

 

そして、その中から――

 

見慣れた人影が、徐々に姿を現した。

 

ヴァン・ティエン。

 

彼は――

 

堂々と立ち上がっていた。

 

目尻には血が滲んでいる。

 

だが、その血がむしろ彼の不屈の姿を際立たせていた。

 

首にかかったペンダントが強く光を放つ。

 

そして――

 

ペンダントは自ら浮かび上がり、夜空の中を舞いながら暗闇を切り裂いた。

 

その瞬間――

 

先ほどまで呆然としていた宝瑛の瞳が、一気に輝いた。

 

見慣れた姿を目にした瞬間。

 

涙で濡れていた瞳が、再び光を取り戻す。

 

今まで必死に堪えていた涙が――

 

頬を伝って、次々とこぼれ落ちていった。

 

その瞳には、言葉では言い表せない喜びが溢れていた。

 

目の前の光景を信じられないほどの嬉しさ。

 

そして――

 

あの人が生死の境界を越え、無事だったことへの、天地と山河への感謝。

 

宝瑛は、幸せの涙を流しながら、嗚咽混じりに叫んだ。

 

「まだ生きてる……」

 

「ティエンさんは……まだ生きてる……」

 

「天に感謝します……」

 

陳國寶の方では――

 

固く寄せられていた眉が、すぐに緩んだ。

 

その瞳には、はっきりとした安堵が浮かんでいる。

 

そして――

 

それと同時に、誇りに満ちた眼差し。

 

天を仰ぐような賞賛。

 

豪放な笑み。

 

彼は、必死に立ち上がったその後裔を見つめていた。

 

まるで――

 

共に生死を駆け抜け、血に染まった戦場を肩を並べて戦った、本当の戦友を見るかのように。

 

勇将は首を振り――

 

そして、わずかに英雄的な笑みを浮かべた。

 

「この小僧……」

 

「本当に、いつも人を心配させるのが上手い奴だな」

 

長い雲模様の木盾の後ろにいた何万もの陳軍の兵士たち。

 

そのすべての瞳が、同時に緩んだ。

 

そして――

 

天を突くような英雄の炎が燃え上がった。

 

先ほどまで息を呑んでいた瞳には――

 

今や、計り知れない誇りが宿っている。

 

死地から生還した若き英雄を、兵士たちは絶対的な敬意を込めて見つめていた。

 

誰もが――

 

勝利の歓声を上げる準備をしていた。

 

その声は、この歴史ある白藤江の一帯全体を揺るがすほどになるだろう。

 

風の吹き荒れる高い崖の上。

 

興道大王は、静かに戦場を見下ろしていた。

 

大海のように深い聖人の瞳が、わずかに和らぐ。

 

先ほどまでの厳粛さと沈思は消え――

 

そこには、温かく、慈愛に満ちた、励ますような眼差しが浮かんでいた。

 

それは――

 

一人の賢者の眼差し。

 

そして――

 

国家の父が、死生の境界を越えた末に真に成長し、国土を背負うまでになった若き子孫を、誇らしく見つめる眼差しだった。

 

目の前で起きた衝撃的な光景を見て――

 

赤眼黒龍は完全に崩れ落ちた。

 

目の前で起きていることが、どうしても信じられない。

 

血を流す胸を押さえながら――

 

彼は、狂ったように叫び声を上げた。

 

「あり得ない……」

 

「絶対に、あり得ない……!!」

 

ヴァン・ティエンは――

 

自分の身体の中に、猛烈で深く強大な力が今にも噴き出そうとしているのを、はっきりと感じていた。

 

その力は――

 

前回よりもさらに激しい。

 

先ほどまで淡かった青い気が、一気に高く燃え上がる。

 

そして――

 

徐々に濃くなり、色を深めていく。

 

若き武士の全身を、完全に包み込んだ。

 

同時に――

 

首のペンダントも激しく光を放つ。

 

ヴァン・ティエンは自分の手を見下ろした。

 

そして、心の中で呟く。

 

「Hm……」

 

「身体の中を、力が駆け巡っているのが分かる」

 

「これを……何て呼べばいいんだ?」

 

「十……十……そうだ」

 

「前に爆発させた力が、まだ八パーセントだったなら――」

 

「今回、全力で引き出した力は……十パーセントって呼べばいいか!」

 

「どう呼ぶのが正しいのか、まだ分からないしな」

 

「数字で呼べば、それでいいだろ」

 

自分が完全に無視されたことに気づき――

 

赤眼黒龍の怒りは頂点に達した。

 

血の星雲の球体から小さなエネルギーを凝縮し――

 

怒りに満ちた咆哮を上げる。

 

「俺を……舐めるな!!」

 

言い終わると同時に――

 

そのエネルギーが、凄まじい速度でヴァン・ティエンへと撃ち出された。

 

その瞬間。

 

ヴァン・ティエンがまだ状況を理解するより早く――

 

死の光が、目の前まで迫った。

 

ヴァン・ティエンは、ほんの僅かに視線を動かす。

 

そして――

 

手を上げた。

 

バシッ!!

 

鋭く、簡潔な一振り。

 

飛来したエネルギーを弾き飛ばした。

 

エネルギーはそのまま空へと飛び――

 

上空の雲を切り裂き、大きな穴を開けた。

 

ヴァン・ティエン自身も――

 

驚愕したまま、自分の手を見つめていた。

 

「今の……」

 

「俺の手が……勝手に反応したのか?」

 

赤眼黒龍は、完全に怒り狂っていた。

 

彼はヴァン・ティエンたちを、憎悪に満ちた目で睨みつける。

 

歯を激しく食いしばる。

 

「次から次へと……」

 

「俺の邪魔をする奴が現れやがって……」

 

彼は顔を上げた。

 

紫黒色の瞳には――

 

すでに血のような赤が混じり始めている。

 

「お前たち全員……消してやる」

 

そう言うと――

 

彼は身体を跳ね上げ、空中へと飛び上がった。

 

薄い煙と霧に包まれた空間の中で――

 

その姿は、まるで宙に立っているかのように巨大だった。

 

紫黒色の瞳には、鮮血のような赤い筋が徐々に浮かび上がっていく。

 

彼は両手を広げた。

 

狂気に満ちた声で――

 

「今からお前たちに見せてやる……」

 

「絶望ってものをな」

 

直後――

 

彼の胸の中にある血の星雲の球体が、激しく反応した。

 

爆発の中心から――

 

紫色の妖しい暗黒エネルギーの糸が、狂ったように放たれる。

 

それは凄まじい速度で、下の戦場へと降り注いだ。

 

そして――

 

赤眼黒龍の兵士たちの胸へと突き刺さる。

 

その瞬間。

 

エネルギーが、兵士たちの身体から生命力を吸い上げ始めた。

 

「う……あああああっ!!」

 

生命力を吸われた兵士たちは、苦痛に叫び声を上げる。

 

弱々しく痙攣する身体。

 

そして――

 

一瞬にして干からびていく。

 

吸い上げられたエネルギーは、そのまま赤眼黒龍の胸にある球体へと流れ込んでいった。

 

そして徐々に――

 

二つ目のエネルギー球が形成され始める。

 

今度は、普通の赤色ではない。

 

紫黒色。

 

宇宙の虚無のように、妖しく、深く――

 

底が見えない色。

 

その大きさは、狂暴な勢いで膨張していく。

 

空間そのものを引き裂きながら。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。