『天雲星系・銀河の記憶』 作:DanhDu_Chronicle
空間そのものを引き裂きながら。
その頃、地上のヴァン・ティエンは――
陳國寶のもとへと戻っていた。
若き将軍を見た後――
ヴァン・ティエンは、赤眼黒龍へと視線を向ける。
そして――
すぐに構えを取った。
その後ろで、宝瑛は震える両手を強く握りしめている。
瞳には、押し寄せる不安が満ちていた。
陳國寶は空を見上げる。
その目には、決意が宿っていた。
何万もの陳軍の戦士たちも――
雲模様の縁取りが施された長い木盾の後ろで、砂と岩を踏みしめ、戦場に足を固く据える。
興道大王・陳國俊は依然として崖の上に立っていた。
深い瞳で、静かに、そして厳かに戦場を見下ろしている。
最後の兵士たちまで生命力を吸い尽くされると――
その身体は崩れ落ち。
そして――
痕跡すら残さず、空中へと完全に消えていった。
上空の妖しく巨大な紫黒色の球体は――
ついに最大まで膨張した。
夜空そのものを覆い隠すほどに。
赤眼黒龍の身体もまた、その圧倒的な圧力を受けていた。
呼吸が徐々に途切れていく。
胸の中央にある鍵穴の溝は、焼けつくように熱く――
骨まで凍るほど鋭い痛みを放っている。
それでも――
彼は歯を食いしばり、全身に力を込めて耐えた。
ただ一つの目的のために。
下にいる者たちを――
すべて消し去るために。
周囲の風が――
止まった。
白藤江の波も――
再び静まり返った。
赤眼黒龍は、下を見下ろす。
その目には、強い決意が宿っている。
何も言わず――
ただ、一声叫んだ。
「Ahhhhh――!!」
直後。
球体からエネルギーが放たれた。
戦場のほぼ半分を覆い尽くす。
すべてを飲み込もうとするかのように――
大地へと落下していく。
絶滅の災厄を前にして――
陳軍も民も、一人として退かなかった。
何万もの戦士たちが、雲模様の縁取りが施された長い木盾を固く構え――
一斉に足を踏み鳴らし、咆哮を上げる。
そして――
戦線の前に、堅固な防壁を築いた。
ヴァン・ティエンは腕に力を込める。
青いエネルギーが腕の周囲を駆け巡った。
そして――
すぐに手を上げ、受け止める。
その隣では、陳國寶が英雄の咆哮を上げた。
そして躊躇なく大刀を握り――
目の前へ横薙ぎに振り抜き、受け止める。
巨大な紫黒色の球体が――
我々の防衛線へ真正面から叩きつけられた。
二つの衝撃が激突する。
ドォォォン!!!
球体から放たれる絶滅の圧力は――
あまりにも凄まじかった。
正気の陣勢と激しく擦れ合い――
空間を引き裂くような轟音を次々と響かせる。
陳國寶は歯を食いしばり、力を込める。
ヴァン・ティエンの目尻からは血が流れた。
何万もの陳軍も、腕の筋肉を固く引き締め――
砂と岩を踏み砕きながら耐える。
誰もが――
千軍のような圧力に苦しみながらも。
不屈で、勇猛な意志によって――
その場に立ち続けた。
決して――
屈しない。
上空の赤眼黒龍は、さらに力を込め続ける。
その圧力によって――
ヴァン・ティエンも。
陳國寶も。
そして陳軍も。
必死に耐えなければならなくなっていた。
圧力は――
ますます強くなる。
その時。
後方から――
宝瑛がヴァン・ティエンのもとへ歩いてきた。
彼は驚いて振り返る。
「何をするつもりだ?」
宝瑛は彼を見る。
「私も……手伝う」
「ダメだ。危険すぎる」
「早く後ろへ戻ってくれ」
宝瑛は首を横に振った。
決して退こうとしない。
「嫌……」
「私は行かない……」
「私も……あなたを助ける」
彼女は頭上のエネルギーを見上げる。
そして――
静かに目を閉じた。
首にかかったペンダントが――
突然、桃色の光を放つ。
全身が桃色の光に包まれていく。
そして――
ゆっくりと目を開いた。
その瞳には――
もう、いつもの明るく無邪気な光はなかった。
冷たい。
感情が――
一切ない。
ヴァン・ティエンは、その光景を見て驚く。
「宝瑛……」
その時。
宝瑛が手を上げた。
すると――
大地の底から、巨大な水柱が次々と噴き上がった。
目の前に迫るエネルギーを遮る。
それだけではない。
水柱を駆け上がるように――
青と桃色の光を纏ったエネルギーが、水流と共に上昇する。
そして――
頭上から押し寄せる力を受け止めた。
徐々に――
上空のエネルギーが押し返され始める。
ヴァン・ティエンは、それを見て驚愕した。
信じられない。
隣に立つ陳國寶も――
感嘆の声を漏らした。
「さすがは女の力……」
「決して侮れんな」
上空の赤眼黒龍は、その光景を見て怒り――
さらに力を込めた。
「調子に乗るな!!」
押し返されていたエネルギーが――
徐々に止まる。
そして――
再びヴァン・ティエンたちの方へと進み始めた。
圧力が、さらに増していく。
巨大なエネルギーの圧力に耐えきれず――
宝瑛は、血を吐いた。
「宝瑛!!」
「大丈夫……」
宝瑛は、それでも頭上の力を押し止め続ける。
赤眼黒龍は、それを見ると――
さらに力を加えた。
エネルギーは、ますます下へ。
ヴァン・ティエンたちへと近づいていく。
ヴァン・ティエンは頭上を見上げる。
そして――
陳國寶を見る。
次に、宝瑛を見る。
そして――
未だに巨大な圧力に耐えている陳軍を見る。
どうすればいいのか――
分からない。
ヴァン・ティエンは目を強く閉じた。
「このままじゃ……」
「みんなが……」
その時――
陳國寶の声が響いた。
「おい、小僧!!」
ヴァン・ティエンは、ハッと目を開く。
陳國寶を見る。
若き将軍は、彼を見つめていた。
「お前……怖くなったのか……???」
「俺は……」
「言わなくても分かる……」
「お前が怖がっていることくらいな」
「だが――」
「周りを見てみろ」
ヴァン・ティエンは周囲を見る。
宝瑛も。
陳軍も。
未だに頭上から押し寄せる力を食い止めていた。
陳國寶は続ける。
「見ただろう……」
「みんな、まだあの上のものと戦おうとしている」
「でも、このままじゃ……みんなが……」
「俺たちを、侮るな」
「俺たち陳軍と民は――」
「数え切れないほどの生死を懸けた戦を越えてきた」
「だから、こんなもの――」
「恐れるに足りん」
「それに――」
「お前の隣にいる、あの娘を見ろ」
「あの娘は、今もあれを押し止めている」
「危険だと分かっていても――」
「それでも、向き合っている」
「俺たちの民族の豪気を……」
「決して、侮るな」
ヴァン・ティエンは、その言葉を聞くと――
再び精神を奮い立たせた。
その瞳に、決意が戻る。
「俺たちは……必ず勝つ」
彼の精神が戻ったのを見て――
陳國寶も、ようやく安心した。
だが――
ヴァン・ティエンは、依然として上空を見上げていた。
不安は消えていない。
「でも……」
「このままじゃ、どう考えてもまずい」
陳國寶も同意した。
頭上のエネルギーの圧力は――
さらに強くなっている。
「どうすればいい……」
「……そうだ」
その瞬間――
陳國寶の目が輝いた。
彼は振り返らない。
だが――
戦場の軍人特有の鋭い声で、ヴァン・ティエンへと叫んだ。
「おい、新時代の後裔!!」
「この球体の圧力は強すぎる!」
「ただ受け身で防いでいるだけなら――」
「遅かれ早かれ、全員が力尽きて死ぬ!!」
「だから今――」
「俺が陳軍の武陣に伝わる奥義――」
「蛟龍破浪を、お前に授ける!!」
「俺の歩法を、よく見て真似ろ!!」
「俺たちで――」
「こいつを弾き返すぞ!!」
ヴァン・ティエンは――
一切の躊躇をしなかった。
前へと踏み込む。
青い気を纏い、燃え上がる両手を――
若き将軍の青龍刀の峰へ、強く叩きつける。
一振りの大刀。
二人の両手。
二つの世代。
それらが――
宝瑛の桃色に輝く水柱と。
その後方に並ぶ、何万もの雲模様の縁取りが施された長い木盾と。
固く絡み合う。
すべてが一つとなり――
戦場の半分を遮る、無双の正気の石盤陣を形成した。
「力を弾き返せ!!」
「蛟龍破浪!!」
「波を――」
「切り裂けぇぇぇ!!」
陳國寶が、雷鳴のような咆哮を上げた。
ドォォォォン――!!!
一瞬。
二人は同時に――
身体の捻りによって生まれた力を、一気に解放した。
そして――
前方へと、力強く押し出す。
二世代の大越英雄たちの心が一つとなり――
宝瑛の宝物から放たれる霊光と重なった。
それは――
戦況を覆す奇跡を生み出した。
しかし上空では――
赤眼黒龍が、それを許さない。
残されたすべての力を――
この最後の一撃へと注ぎ込む。
空中で――
二つの力が激しく拮抗する。
息が詰まるような力のせめぎ合い。
その中で――
ヴァン・ティエンは燃えるような瞳を大敵へと突き刺し――
雷鳴のような声で叫んだ。
「俺に――」
「跳ね返させろぉぉぉ!!」
言葉が終わるより早く――
ヴァン・ティエンと陳國寶は、渦巻く水勢が生み出した遠心力に身を預けた。
そして同時に――
すべての霊力を爆発させる。
両手に力を込め――
大刀の柄を強く押し出した。
すると――
巨大な横薙ぎの剛力が、遠くから一直線に爆発の中心へと撃ち出された。
黄金の王族の剛力と――
残された青い力。
二つが一つとなる。
そして――
最大級の反発力へと変わった。
凄まじい剛力が――
宇宙のように妖しく紫黒色に染まった巨大な球体へ真正面から叩き込まれる。
そして――
落下していた攻撃の軌道を、完全に断ち切った。
巨大な球体そのものが――
反転する。
そして――
空中にいる、その持ち主へ向かって一直線に戻っていった。
自らの攻撃。
戦場の半分を覆っていた絶滅の一撃が――
速度も威力も、さらに何倍にもなって自分へ返ってくる。
赤眼黒龍は空中に浮かんだまま――
目を見開いた。
極限の恐怖。
そして――
絶望。
「あり得ない……!!!」
ドォォォォォン!!!!!
妖しく巨大な紫黒色の球体が――
悪魔の胸へ真正面から叩き込まれた。
鍵が砕ける。
そして――
胸の中にあった球体も、粉々に砕け散った。
強制的に反転させられた邪悪な力が――
一瞬にして巨大な紫色の光となって爆発する。
それは――
宇宙の中心で起きた銀河爆発のように。
幻想的で。
壮大で。
そして――
美しかった。
自ら生み出したエネルギーの熱が、狂ったように自分自身へと噛みつく。
赤眼黒龍の身体を――
完全に焼き尽くしていく。
「ぐ……あああああああああっ!!」
赤眼黒龍は、心を引き裂くような絶叫を上げた。
「まさか……」
「俺が……ここで死ぬことになるとは……」
全身が――
徐々に崩れていく。
消滅する直前。
ほんの一瞬――
あの謎の男の姿が、彼の脳裏に浮かんだ。
「申し訳ありません……」
「どうやら私は……もう、あなたに会いに戻ることはできないようです」
「これ以上……あなたに仕え続けることができなくなってしまいました」
「さようなら……」
「私の……主人よ」
彼の身体は――
徐々に砂となっていく。
そして――
一滴の涙が、頬から落ちた。
その涙は、崩れゆく身体と共に――
空中へ溶けていく。
そして彼の身体は完全に消滅した。
跡形もなく。
歴史ある白藤江の天地から――
邪気と魔物の気配が、完全に消え去った。
静寂だけが――