『天雲星系・銀河の記憶』   作:DanhDu_Chronicle

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第67話 記憶の夢と、謎の少女

空間が……流れていく。

 

星々が、光の川のように流れていく。

 

戦艦のガラス窓の外には――

 

果てしなく広がる銀河。

 

その指揮室で――

 

ヴァン・ティエンはそこに立ち、静かに宇宙の彼方を眺めていた。

 

船室のガラス越しに見える無数の星々が、彼の瞳に映っている。

 

「……綺麗だな」

 

その時――

 

背後から、女の声が聞こえた。

 

優しく……。

 

だが、はっきりと。

 

「船長も、ちゃんと景色を楽しむんですね」

 

彼は振り返らなかった。

 

だが――

 

口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。

 

「さっきまで、あんな戦いをしてたんだ……」

 

「……少しくらい休んでもいいだろ」

 

足音が、さらに近づいてくる。

 

少女は彼の隣で立ち止まり――

 

二人で、満天の星空を見つめる。

 

ほんの小さな静寂。

 

平和で――

 

そして、滅多に訪れない時間。

 

「……この瞬間が」

 

彼女は小さく呟く。

 

「……ずっと、このまま続けばいいのに」

 

ヴァン・ティエンは目を伏せ、ほんの僅かに笑った。

 

「俺も、そう願ってる」

 

「……でも、戦争はまだ終わってない」

 

パキッ。

 

突然――

 

空間に亀裂が走った。

 

すべてが、ガラスの破片のように砕け散る。

 

戦場。

 

爆発。

 

炎。

 

漂う戦艦の残骸。

 

そして――

 

何百もの敵に囲まれる二人。

 

ヴァン・ティエンと少女は――

 

戦場の中心に立っていた。

 

「左だ!!」

 

「分かってる!!」

 

二人は――

 

まるで何百回も共に戦ってきたかのように連携する。

 

息が合っている。

 

正確だ。

 

だが――

 

敵の数が多すぎる。

 

遠くから――

 

巨大な戦艦が砲身を旋回させる。

 

エネルギーが集まり――

 

光が圧縮されていく。

 

「船長……!!」

 

少女が、突然足を止めた。

 

その瞳が――

 

変わる。

 

その瞬間。

 

ヴァン・ティエンは、それに気づいた。

 

だが――

 

もう遅かった。

 

少女が、彼の前へ飛び出す。

 

しかし――

 

間に合わない。

 

「ダメだ!!」

 

ドォォォン!!!

 

光が――

 

すべてを飲み込んだ。

 

周囲の空間が真っ白になる。

 

何も見えない。

 

やがて――

 

ヴァン・ティエンは、ゆっくりと目を開けた。

 

身体に――

 

温かな感触を感じる。

 

「……誰かに背負われてる……?」

 

徐々に視界がはっきりしていく。

 

そして――

 

自分を背負っている人物が分かった。

 

あの少女だった。

 

少女はヴァン・ティエンを背負いながら――

 

危険な場所から必死に走っていた。

 

その時。

 

何人もの兵士が二人へ襲いかかってくる。

 

少女は片手でヴァン・ティエンを支えながら――

 

もう片方の手で剣を握る。

 

そして――

 

迫り来る敵を、一人ずつ斬り伏せていく。

 

一人。

 

また一人。

 

少女の剣に斬られた敵が――

 

次々とその場に倒れていく。

 

その時――

 

剣が、ヴァン・ティエンの顔のすぐ横を通り過ぎた。

 

その刃には――

 

宇宙に浮かぶ小さな星々が、淡く輝いていた。

 

ヴァン・ティエンは、その剣に――

 

どこか見覚えがあるような気がした。

 

だが――

 

今の彼の頭は、ひどく痛む。

 

視界も――

 

徐々に暗くなっていく。

 

そして――

 

目を閉じる直前。

 

彼は、少女の声を聞いた。

 

「船長……頑張って……」

 

「私が絶対に守るから……」

 

「あなたには、何もさせないから……」

 

ヴァン・ティエンの目が――

 

ゆっくりと閉じた。

 

目の前に広がる――

 

真っ黒な世界。

 

そして――

 

すべてが、砕け散った。

 

その瞬間。

 

ヴァン・ティエンは突然、目を開いた。

 

ガバッ!!

 

身体を起こす。

 

呼吸が乱れている。

 

額には汗。

 

彼は手を額へ当てた。

 

「また……あの夢か!!」

 

夢の中の少女の姿を思い出す。

 

だが――

 

あの時、強い光が彼女の顔を隠していた。

 

「……あの少女は……誰なんだ?」

 

「どうして……」

 

「こんなにも、懐かしい感じがするんだ……?」

 

その時――

 

突然、頭に激痛が走った。

 

ヴァン・ティエンは目を閉じる。

 

しばらくすると――

 

痛みも、徐々に引いていった。

 

彼は顔を上げ――

 

窓の外を見る。

 

そして――

 

先ほどの夢について、深く考え込んでいた。

 

――――――――――

 

翌朝。

 

昨夜の夢のせいで、ほとんど眠れなかった。

 

ヴァン・ティエンの身体は、かなり疲れていた。

 

それを見た母親が尋ねる。

 

「昨夜は何してたの?」

 

「朝からそんな、夕方の肉まんみたいな顔して」

 

ヴァン・ティエンは頭を掻く。

 

「えっと……」

 

「昨夜、眠れなかったんです」

 

母親は少し心配そうな顔をする。

 

「もう少し寝たら?」

 

ヴァン・ティエンは首を横に振った。

 

「大丈夫です」

 

「少ししたら目も覚めますから」

 

しばらくして――

 

朝食を終えたヴァン・ティエンは外へ出た。

 

見慣れた故郷の道を歩く。

 

道の脇に広がる――

 

黄金色の稲田を眺める。

 

そして――

 

空を見上げる。

 

何千もの敵を前にして――

 

自分を背負って走っていた、あの少女の姿が。

 

今も頭から離れない。

 

ヴァン・ティエンは一本の木のところまで歩いていく。

 

そして――

 

木の幹に背を預けて座った。

 

ため息を吐く。

 

「昨日の夢……」

 

「一体、何だったんだ?」

 

彼は頭を掻いた。

 

「本当に……分からないな」

 

木の根元に身体を預ける。

 

涼しい風が吹いてくる。

 

ヴァン・ティエンの目が――

 

徐々に重くなっていく。

 

そして――

 

いつの間にか、眠りに落ちていた。

 

その背後。

 

木の陰から――

 

一対の瞳が、静かに彼を見つめていた。

 

――――――――――

 

宇宙空間。

 

巨大な黒い戦艦が――

 

静かに浮かんでいる。

 

その指揮室。

 

一人の総帥が、じっと立っていた。

 

手にはワイングラス。

 

その目は――

 

氷のように冷たい。

 

一人の部下が頭を下げる。

 

「ご報告します……」

 

「回収したデータチップの情報によれば――」

 

「赤眼黒龍は……」

 

「すでに撃破されました」

 

パキッ!!

 

総帥の手の中で――

 

グラスが砕け散った。

 

赤い酒が――

 

血のように滴り落ちる。

 

「忌々しい……」

 

「断鉄……」

 

「……そして今度は、赤眼黒龍か……」

 

ホログラム画面が起動する。

 

そこに――

 

ヴァン・ティエンの姿が映し出された。

 

「データによる確認では……」

 

「こいつが――」

 

「二人を殺した犯人です」

 

空間が――

 

一瞬で静まり返る。

 

総帥は顔を上げる。

 

その目は――

 

刃物のように鋭い。

 

「……こいつか?」

 

彼は指揮席から立ち上がる。

 

圧力が広がる。

 

空気そのものが――

 

凍りついたようになる。

 

「命令を伝えろ」

 

「全侵略計画を――」

 

「中止する」

 

兵士が驚く。

 

「閣下!?」

 

「私が言ったんだ」

 

その瞳に――

 

赤い光が走る。

 

「……中止しろ」

 

「最優先事項は――」

 

彼は画面を真っ直ぐに見つめる。

 

声が、低くなる。

 

「奴を――」

 

「殺せ」

 

「了解しました!!」

 

総帥は背を向ける。

 

そして――

 

指揮室の扉へ向かって歩き出す。

 

「ヴァン・ティエン……」

 

「……お前は、俺の部下を殺した」

 

彼は足を止める。

 

その目から――

 

温度が消える。

 

「ならば、今度は……」

 

「……この俺自身が、お前を消してやる」

 

――――――――――

 

地上。

 

穏やかな風が、田園を吹き抜けていく。

 

実った稲の香り。

 

そして――

 

湿った大地の匂い。

 

いつもの木の下で――

 

ヴァン・ティエンは眠っていた。

 

呼吸は穏やか。

 

顔も力が抜けている。

 

何も起こらないように見える――

 

平和な午後。

 

だが――

 

その時。

 

鼻先に――

 

かすかな、くすぐったい感触。

 

ヴァン・ティエンは眉を寄せ、手で鼻を掻いた。

 

だが――

 

まだ、残っている。

 

もう一度。

 

軽く。

 

まるで、何かがわざと彼をつついているように。

 

ヴァン・ティエンは――

 

ゆっくりと目を開いた。

 

「あ、やっと起きた」

 

小さく、澄んだ声が――

 

すぐ目の前から聞こえた。

 

彼は何度か瞬きをする。

 

そして――

 

目の前に、一人の少女がいた。

 

長く垂れた黒髪。

 

風で少し乱れている。

 

明るい瞳。

 

そこには、少しだけ悪戯っぽさがあった。

 

少女の手には――

 

一本の葦の葉。

 

ヴァン・ティエンは手をついて身体を起こす。

 

そして、少し眉を寄せた。

 

「君が俺の昼寝を邪魔したのか?」

 

少女は笑い、頭を掻いた。

 

「だって……」

 

「すごく気持ちよさそうに寝てたから……」

 

「起きるかなって、ちょっと試してみただけ」

 

そして――

 

少女は少しだけ立ち止まる。

 

視線を周囲へ走らせた。

 

「それに……」

 

「ここ、私の場所でもあるから」

 

ヴァン・ティエンは首を傾ける。

 

「君の場所?」

 

「あ……」

 

「その……」

 

少女は慌てて言い直す。

 

そして、周囲の土地を指差した。

 

「お兄ちゃん、家で寝ないで……」

 

「なんでこんなところで寝てるの?」

 

ヴァン・ティエンは小さく息を吐いた。

 

「ちょっと休むつもりだったんだ」

 

「風が気持ちよくて……」

 

「いつの間にか寝ちゃったみたいだ」

 

少女は「へぇ」と声を漏らす。

 

そして――

 

もう少し近づいてくる。

 

「じゃあ……」

 

「すごく疲れてるの?」

 

ヴァン・ティエンは、少しだけ固まった。

 

一見、何でもない質問。

 

なのに――

 

なぜか、妙なものを感じた。

 

「うん……」

 

「たぶん、そうだな」

 

少女は身を屈める。

 

そして――

 

彼の目を真っ直ぐに見つめた。

 

距離が、少し近い。

 

だが――

 

その瞳は、普通の子供のものとは違っていた。

 

「お兄ちゃんが疲れてるのって……」

 

「……あの夢のせいじゃない?」

 

ヴァン・ティエンは――

 

凍りついた。

 

「……今、何て言った?」

 

少女は立ち上がった。

 

そして――

 

背を向ける。

 

広がる田園を見つめた。

 

風が吹き――

 

黒髪が、静かになびく。

 

「何でもないよ」

 

「ちょっと、そう思っただけ」

 

空気が――

 

突然、静かになった。

 

ヴァン・ティエンは少女を見る。

 

心の中に――

 

言葉では説明できない感覚が湧き上がってくる。

 

その時。

 

少女が突然振り返った。

 

そして――

 

小さく笑った。

 

「お兄ちゃん、私と遊ぼ」

 

ヴァン・ティエンは呆気に取られる。

 

「……は?」

 

「私と遊ぼ」

 

少女はもう一度言った。

 

優しい声。

 

だが、はっきりとしている。

 

「お兄ちゃん、暇なんでしょ?」

 

ヴァン・ティエンは、まだ理解できていない。

 

「俺と君……」

 

「会ったばかりだろ?」

 

「知らない人を怖がらないのか?」

 

少女は瞬きをする。

 

そして――

 

笑った。

 

「怖くないよ」

 

「だって……」

 

「お兄ちゃんが、いい人だって知ってるから」

 

「どうやって知った?」

 

ヴァン・ティエンが聞き返す。

 

少女は、しばらく彼を見つめた。

 

笑わない。

 

ふざけもしない。

 

ただ――

 

静かに言った。

 

「だって、お兄ちゃんは……」

 

「今まで、たくさんの人を守ってきたから」

 

風が――

 

静かに止まった。

 

空間そのものが、一拍遅れたように感じられる。

 

ヴァン・ティエンは――

 

心臓が強く鼓動するのを感じた。

 

「……君は……」

 

「一体、誰なんだ?」

 

少女は答えなかった。

 

代わりに――

 

視線をゆっくりと下へ落とす。

 

そして――

 

ヴァン・ティエンの首にかかったペンダントで止まった。

 

ほんの一瞬。

 

少女の瞳が変わった。

 

真剣で――

 

深い。

 

「……分かった」

 

「そういうことだったんだ」

 

少女は小さく呟いた。

 

ヴァン・ティエンは驚く。

 

「どういう意味だ?」

 

だが――

 

少女はすぐに、何事もなかったかのように笑った。

 

「何でもないよ」

 

そして――

 

突然、彼の手を握った。

 

「行こ」

 

「少しだけ、私と遊ぼ」

 

ヴァン・ティエンは反応する暇もなかった。

 

「おい――待て――」

 

彼は引っ張られて立ち上がる。

 

少女は先に走り出す。

 

そして――

 

ヴァン・ティエンも、その後ろを引っ張られていく。

 

再び風が吹いた。

 

田園が揺れる。

 

すべてが――

 

再び、いつもの日常へ戻っていく。

 

だが――

 

少女の手がヴァン・ティエンに触れた、その瞬間。

 

彼の首にかかったペンダントが――

 

かすかに光った。

 

淡い青い光。

 

ほんの一瞬だけ。

 

――――――――――

 

宇宙空間。

 

巨大な黒い戦艦の中。

 

ホログラム画面が――

 

激しく点滅している。

 

一人の兵士が声を上げる。

 

「閣下!」

 

「目標の位置を確認しました!」

 

「現在、目標は――」

 

「タイ・ミー社にいます」

 

総帥は、じっと立っていた。

 

その目は――

 

氷のように冷たい。

 

周囲の空間が、わずかに歪んでいる。

 

「それなら……」

 

彼はゆっくりと言った。

 

「計画を――」

 

「開始しろ」

 

「了解!!」

 

画面には――

 

ヴァン・ティエンのいる場所を示す、赤い点が一つ。

 

静かに――

 

点滅していた。

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