『天雲星系・銀河の記憶』   作:DanhDu_Chronicle

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第68話 目覚めの余韻と、記憶からの呼び声 (上)

夕方の風が、野原を吹き抜ける。

 

ヴァン・ティエンは、少女に引っ張られるまま、かなり遠くまで連れて行かれていた。

 

ようやく我に返った時には、彼はすでに、まばらに草の生えた広い空き地の真ん中に立っていた。

 

「なぁ……もう少しゆっくり走れないか?」

 

彼は軽く息を吐く。

 

少し困ったような声だった。

 

少女はようやく立ち止まり、振り返る。

 

そして、両手を腰に当てた。

 

「お兄ちゃん、そんなに弱いの?」

 

ヴァン・ティエンは眉をひそめる。

 

「弱いんじゃない……」

 

「君が速く引っ張りすぎなんだ。」

 

少女はクスクスと笑う。

 

「じゃあ、これからはもっと鍛えなきゃね。」

 

「これからは、もっと速く走らなきゃいけないんだから。」

 

ヴァン・ティエンが、ぴたりと止まる。

 

「これから……?」

 

少女は答えない。

 

ただ振り返り、遠くを見つめる。

 

目の前には、どこまでも広がる野原。

 

夕方の黄金色の光が、すべてを優しく包んでいる。

 

だが――

 

何かがおかしい。

 

風が――

 

完全に止まった。

 

ヴァン・ティエンは眉をひそめる。

 

「この感じは……?」

 

少女が、わずかに首を傾ける。

 

「どうやら、お兄ちゃんも感じたみたいだね。」

 

ヴァン・ティエンが驚く。

 

「何だって……? 君……」

 

その時、少女の声が小さくなる。

 

「来たよ。」

 

「……何が?」

 

その瞬間――

 

上空から、風を切り裂くような音が響いた。

 

ヴァン・ティエンが空を見上げる。

 

空の彼方から――

 

黒い点が、凄まじい速度で落下してくる。

 

速すぎて、視界から消えそうなほどだった。

 

ドォン!!!

 

二人からそれほど離れていない場所に、巨大な爆発音が響く。

 

大地が激しく揺れ、土や石が吹き飛び、煙と砂埃が巨大な柱のように巻き上がる。

 

ヴァン・ティエンは反射的に少女を引き寄せ、後ろへ下がらせた。

 

「俺の後ろにいろ!」

 

低く唸るように言う。

 

心臓の鼓動が速くなる。

 

あの――

 

懐かしい感覚が、また現れた。

 

やがて煙が薄れていく。

 

そこには――

 

黒く焼け焦げた巨大な穴が、野原の中央に広がっていた。

 

そして――

 

何かが、その中から歩き出してくる。

 

黒い金属の装甲に覆われた、巨大な身体。

 

燃え盛る炭のように真っ赤な瞳。

 

一歩、足を踏み出すたびに――

 

大地がひび割れる。

 

ヴァン・ティエンは拳を強く握る。

 

「……」

 

その生物が立ち止まる。

 

そして、わずかに頭を傾け――

 

ヴァン・ティエンを真っ直ぐ見つめた。

 

「目標……確認。」

 

低く濁った声。

 

金属同士がぶつかるような、歪んだ声だった。

 

「指揮官級目標……最優先で排除。」

 

次の瞬間――

 

その姿が消えた。

 

そして――

 

ヴァン・ティエンの目の前に現れる。

 

拳が振り下ろされた。

 

ドォン!!!

 

大地が爆発する。

 

だが――

 

その拳は、止められていた。

 

ヴァン・ティエンがそこに立っている。

 

片腕を上げ――

 

その一撃を受け止めていた。

 

彼の瞳が、一瞬――

 

青い光を放つ。

 

強烈な風が、彼の身体を中心に爆発する。

 

「……」

 

ヴァン・ティエン自身も、呆然としていた。

 

腕が、わずかに震えている。

 

弱いからではない。

 

あまりにも――

 

強すぎるからだった。

 

黒い装甲の生物が、動きを止める。

 

赤い瞳が縮む。

 

「あり得ない……」

 

ドォン!!!

 

見えない力が爆発する。

 

生物の身体が、数十メートル先まで吹き飛ばされる。

 

地面を何度も転がり――

 

ようやく止まった。

 

煙と砂埃が巻き上がる。

 

ヴァン・ティエンは荒い息を吐きながら、自分の手を見つめる。

 

「……この力……?」

 

その後ろで――

 

少女は、まだそこに立っていた。

 

恐れてはいない。

 

ただ静かに、目の前の光景を見つめている。

 

その瞳は――

 

冷たいほどに落ち着いていた。

 

「やっと……」

 

少女が小さく呟く。

 

「……始まった。」

 

黒い装甲の生物が立ち上がる。

 

身体が震え――

 

赤いエネルギーが全身から噴き出した。

 

「脅威レベル……上昇。」

 

「排除モードへ移行。」

 

咆哮する。

 

足元の大地が大きく裂ける。

 

そして――

 

再び突進してくる。

 

速い。

 

強い。

 

だが――

 

その瞬間。

 

遠くにある――

 

かつて壊れた船が、野原の中に墜落していた場所。

 

そこから――

 

青い光が一直線に空へ向かって放たれた。

 

ドォォォォン!!!

 

空間が震える。

 

そして、機械的な声が響き渡った。

 

冷たい声。

 

「指揮官級主体を確認。」

 

「システム同期を開始。」

 

青い光が広がっていく。

 

周囲一帯を包み込む。

 

黒い装甲の生物が、空中で動きを止めた。

 

「……この信号は……」

 

ヴァン・ティエンも、動きを止める。

 

その瞬間――

 

頭を鋭い痛みが貫いた。

 

映像――

 

記憶――

 

音――

 

すべてが同時に押し寄せてくる。

 

懐かしい感覚。

 

まるで――

 

自分の身体が、これを何千回も繰り返してきたかのように。

 

戦艦。

 

銀河。

 

そして――

 

呼び声。

 

「船長!」

 

ヴァン・ティエンは頭を抱える。

 

「……ああ……!!」

 

青い光が、彼の身体を包み込むように爆発する。

 

首にかかったペンダントが――

 

空中で眩しいほどの光を放った。

 

少女は、その光景を見つめる。

 

そして――

 

小さく微笑んだ。

 

その笑顔には、もう幼さがなかった。

 

「ずっと……待ってた。」

 

少女が静かに言う。

 

「……ずっと、長い間。」

 

青い光は、まだ消えない。

 

周囲へと広がり続ける。

 

その光は、強烈な渦を巻く風を伴い――

 

大地を何度も震わせる。

 

その中心に――

 

ヴァン・ティエンが立っている。

 

両手で頭を抱えたまま。

 

「……ああ……!!」

 

砕けた映像が、次々と彼の意識へ流れ込んでくる。

 

戦艦。

 

艦隊。

 

果てしなく広がる銀河。

 

そして――

 

一つの声。

 

「船長!」

 

ヴァン・ティエンは歯を食いしばる。

 

頭が引き裂かれるような痛み。

 

「……やめろ……」

 

だが――

 

止まらない。

 

それどころか――

 

ますます鮮明になっていく。

 

目の前には、黒い装甲の生物がまだ立っている。

 

だが今度は――

 

すぐには突っ込んでこない。

 

赤く燃える瞳が、鋭く縮んでいる。

 

「エネルギー反応……予測値を超過。」

 

歪んだ声が響く。

 

「……目標を再確認。」

 

身体を低くする。

 

戦闘態勢。

 

「対象……高危険度。」

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