「サラちゃーん、こっちこっち! おかえり!」
「あっ、東雲さん!わーいわーい!」
喧騒から少し離れた、コースのはずれ。
そこで、レースを走り終え勝利を収めたウマ娘が、トレーナーの元へ駆け寄っていく。
そんな微笑ましい一幕……
「それぇい!」
「うごぉ!?」
「まぁ」
……ではなかった様だ。
芦毛のウマ娘のドロップキックが、結構容赦ない事を示す音を立てながらトレーナーウマ娘に突き刺さる。
「ごほっ、ぐふ……ちょっと、何するのさ! ゴルシみたいな事しないでよ!」
「そういう事されても仕方ない事をした自覚、ないんですか?? 私、今日の事何も聞いてないんですよ?」
「何も……? テイオーさん、一体どんな指導を……?」
「えぇ……? ちゃんと勝てる作戦は仕込んだでしょ」
「連日自主練だけさせられた後、出走直前に好きな様に走れとしか聞かされてませんが?」
「テイオーさん……」
「そ、そんなに端折ってたかな……? で、でもちゃんとキミのオーダーに応えて、トレーナーとの引き合わせもしてるし……」
「今日、レースを直接見に来るなんて一言も聞いてませんが? お陰様で大変びっくりして、出遅れちゃいました」
「う……」
「ついでに、さっき私めちゃくちゃスカウトされてたんですが、その辺の根回しとかはできなかったんですか? 助けも貰えませんでしたし、断るの心苦しかったんですけど」
「……」
「……テイオーさん……」
サラは珍しくウマ耳を引き絞っていたし、スティルも心底呆れた様な目を向ける。
流石のトウカイテイオーも反省し、閉口。
言いたい事をひとしきり吐き切り、しょんぼりとしたその様子を見たサラはようやく溜飲を下げる事ができたのだった。
「ところで、お連れの方は……」
「……私も、自己紹介がまだでしたね。 初めてまして、スティルインラブです」
「ああ、どうりで見た事あるなと! 初めまして、私はキサ……スティルインラブさん!?!?」
「ふふっ、面白い子」
サラが仰天するのも無理は無い。
テイオーにとっては、かつてチームメイトだった気の置けない後輩の一人と、言った認識だろうが……サラにとっては、雲の上のレジェンドもいいとこである。
表情をころころ変える歳若い後輩を見て、スティルはくすりと微笑み……そして、先程の走りを思い出して、また違った笑みを浮かべる。
「……この脚が使えるのなら、喰らってしまいたいくらい可愛いわァ」
「わ、わァ……お、お眼鏡に適ったようで何よりですぅ……」
口元を三日月型に歪めた、妖艶な……空恐ろしさすら覚える微笑みがサラに向けられる。
意外と図太いサラもこれにはビビった。
……閑話休題。
「あの、それで……トレーナーさんは?」
サラが尋ねたトレーナーとは、サラが師事を希望し、かつてはテイオーとスティルのトレーナーでもあった葛城 昴の事である。
つい先程までテイオー達と共に居たはずの彼だが、今この場には何故だか姿が見受けられない。
「ああ、ちょっとお手洗い済ませて来るって。 こっからだとちょっと遠いけど……まあ、じきに戻ってくるよ」
「……遠い? そんな事なくないですか?」
「えぇと……この付近は女性向けしかないじゃん?」
「いやいや……私が来る少し前にやっと男性向けも増設されたって、言ってたやないですか東雲さん」
「え?」
「ほら、すぐそこに」
サラが指さした先には、数分以内に戻ってこれるであろう距離の所に、確かに御手洗の入口が二つ。
ここから見えるくらいなのだから、切羽詰まっているとあれば利用しない手は無い……はずなのだが。
……理由は、何故だか分からないが。
三人は自分の背筋に、氷のような冷たい寒気が走った様に思えてならなかった。
……
「星のマークの、青いチームジャケットの方ですね。 その方なら先程、こちらに入校証を返却して帰られましたよ」
入校を受け付ける窓口からそう聞かされた三人は、血相を変えて校門まで飛び出して来ていた。
テイオーは徐ろにスマホを取りだし、慣れた手つきでコールをかけ……怒号を飛ばす。
「……もしもし、ライス? 実はカクカクシカジカで……うん、うん! そういう訳だから、もし店の前通りかかったりしたら連絡して! カフェにもよろしく! それじゃ!」
「……もしもし、アヤベ? 今都内に近い?……あ、じゃあもう府中近く!? ならさ、急いで来てトレセン付近辺りを巡回して欲しくて……うん、マルマルウマウマな訳で。 うん、うん……よし、頼んだよ!」
二度のコールをほぼ一息に吐き切り、ようやくテイオーは大きく息を吸い、ため息をつく。
「あと、都内に居られるのは……タキオンさんとファルコンさんでしょうか?」
「今は多分、まだ仕事中で出ないよ。 後は……ボクらも足で稼ぐしかない」
「や、闇雲に走り回って、見つかるんでしょうか……?」
「……あ、そういう事であれば……これを」
今度はスティルが徐ろに、懐に手を突っ込む。
取り出したのは、随分と使い込まれた様子ながらも、丁寧に折り込まれていた紙切れが数枚。
それらを広げると、記されていたのは……
「……あれっ、この辺の地図と……これも、東京都内の地図ですね」
「私が配達や営業と言った仕事の中で、少しずつ集めたトレーナーさんの足取りや、それらしき目撃情報を全て記しています。 どこにお住まいなのかは、まだ絞りきれてはいないのですが……」
「いや、十分。ここまで絞れているなら、先ずはこの候補地からトレセンまでのルート付近を回ってみよう。でかしたよスティル!」
「よ、よく見ると情報がびっしり……すごい執念」
「よし、サラちゃんもスマホ出して! これ写真に撮って……あと、位置情報アプリを連携しよう」
共有情報をカメラロールに収め、ロードワークの管理用としてインストールが推奨されているアプリにて三人は連携。
これで、アプリを見ればお互いの位置が筒抜けとなる訳だ。
「何かあったら、LANEで一報入れて! 見つけたらすっ飛んでくから!」
「あの、今更ですけど外出許可とかは……」
「そんなもん後からどうにでも捩じ込んでおくから、大丈夫! じゃあ、ボクこっち行ってみるから、スティルはそっちお願い!」
「承知しました!」
そうして、テイオーとスティルは二手に別れ、傾きかけた日の中に駆けて行った。
スマホに視線を落とすと……地図に示されたルートは、三つ。
自ずとサラの担当は、残されたルートひとつとなる。
……のだが。
(……ここも、見てみようとおもうけど。 でも……なんか、こっちの様な気もする)
なんだか嫌な予感がする。
急がなければならない。
やはり、記されたルートを辿るのが一先ず手っ取り早くはある……が。
サラは担当ルートにほど近い別所が、気になって仕方がなかった。
───────
「───はあッ、はぁ……う、ごフッ、ゴホ……」
走ったのは、何時ぶりだろうか……。
存外に、足にも腕にも、力が入らない。
ふらつく。
今朝も何も食べていないのに、胃の中身が全部逆流するかのように思えた。
「はぁッ……はぁ……」
手すりにもたれ掛かる。
苦しい。
身体の奥が熱く、ずきずきと痛む。
みっともなく生にしがみついてきた、罰なのだろうか。
「は…………」
芦毛の彼女……サラ。
その名を聞いて、思わず逃げ出してしまった。
聞き覚えがあった訳ではない。
だと言うのに、どこか懐かしく感じる響きがあった。
何故だかは、分からない。
「……ラ、……ーヤ」
その名を、口にする。
妙にしっくりとくる。
これまで関わってきた……担当してきた、誰よりも。
まるで、そう、これは、運め……
「……ッッ……!」
自分の腕に、爪を突き立てる。
鮮烈な痛みが走り……熱いものが流れ出していく。
じんじんとした熱さが、だんだんと……邪な考えをかき消していく。
これで……良い。
これで良いんだ。
俺が……トレーナーであってなど、いけない。
そうだ。
俺が居たって、きっと、彼女らは過去を蒸し返され、辛い思いをするだけだ。
きっと、未来を生きる不幸な子が、また生まれてしまうだけだ。
そういう事だ。
なのに……
「……どうして、俺は……」
あの子のトレーナーをしたい、なんて思ってしまうのだろうな?
俺の原点……トレーナーを志す切っ掛けとなった、オグリキャップを思わせる走りに魅せられたから?
単に、あの子が心配で……親心の様な何かを抱いてしまっているのだろうか?
……あの子と、未来を歩みたいと思っている?
「ッ……!!」
もう一度、深く爪を突き立てる。
既に一度そうしたからか……痛みが薄い。
邪な考えが止まらない。
俺は。
あの子の。
俺が。
あの子の。
「……〜〜〜ッ」
振り払うように、頭を振る。
消えない。
あの子の走りを見たい。
どれだけターフを駆けていけるのか。
どこで戦えるのか。
どこまでいけるのか。
どんな相手と競うのか。
その道を……俺が、この手で。
「……いい訳がないだろッ」
テイオーも、ああ言っていた。
何か策があるのやも。
今の俺にも、できるやり方が。
「甘えるなッ」
テイオー達は、一蓮托生だと言ってくれた。
俺が、現役の彼女らにはいつも言ってきたことだ。
それが……俺に返ってきている。
「二人が勝手に言ってるだけだろッ……!」
俺は……トレーナーとして。
「生きていていい訳ないだろうがッ……!!」
……拳を、砕けるかと思う程に地に叩きつけた事で、漸く正気に戻れた。
駄目だなぁ……俺は。
熱に浮かされやすすぎる。
浪漫を求めすぎる。
ウマ娘の事を……愛してやまなさすぎる。
そんな俺の芯に従ってきた結果、数多のウマ娘を不幸にしてきたというのに。
懲りないものだ。
だと言うのに。
もう戻れないのに。
戻ってはならないのに。
どうして俺は、燻り続ける事を良しとしてきた?
いけないんじゃあないか?
どうしてケジメをつけていない?
「……」
手すりに手をかけ、背を擦り、よろめきながらも立ち上がる。
振り返って、下を覗けば……そこには、多摩川が流れていた。
とても広く、入ってしまえばきっと海の様に深い。
そして、本当に海へと流れていく。
「……ああ」
一度だけ、道の方に振り返る。
ここは、橋の上だ。
この橋は、かつてのチーム・プレアデスの面々と、いつもロードワークで通った道。
懐かしいな。
あの頃は、彼女たちの可能性を信じて疑わなかった。
きっと、偉業すら成し遂げられるだろうと。
きっと、どんな逆境も乗り越えていけるだろうと。
テイオー、ライス、アヤベ……三者三様、折れそうな脆さを抱えながら走る彼女らを、隣で支えた記憶が蘇る。
そのアヤベと……タキオンもだったな。
彼女らが、誰にも打ち明けなかった胸中を吐露してくれたのも、ここでだった。
思えば……スティルやファルコン、マーチャンと出逢い、惹かれたのもこの近辺だ。
クラフトとピサも……初対面は、ここから見える河川敷でだったな。
クロノの覚悟も、ここで聞き届けた。
そんな彼女らと、何度も何度も、ここを並んで駆けた。
数奇な事だ……ここに、惹かれてしまうとは。
「……」
ある意味、俺たちの夢の跡地……そのひとつとも、言えるのか。
……始末をつけるには、持ってこいなのではないか?
「……今日は、疲れた、な」
また、河を見やりながらそう一人ごちる。
気付けば、身体は前へ倒れていく。
……手すりを、乗り越えたんだろう。
浮遊感が、襲ってきた。
水面が正面に見え……皆の顔が再び、脳裏を過ぎる。
俺は……その全てを泣かせ、曇らせたんだ。
そんな奴にはうってつけの、誰にも看取られない……相応しい終わりだ。
海にでも、流れていけばいい。
「待ってぇっ!」
誰かが、手を掴んだ。
何故?
誰が?
「ひゃっ、血が……!? 何が、なんで? 葛城さんっ……!」
嗚呼。
何故ここに居る?
何故、来てしまった……?
サラ……何故君が。
「は、早まっちゃだめです! どうして、なしてこんなこと!?」
「……手を、離してくれないか」
「なんで!?」
「終わりに、したいんだ。 頼む……」
「何をなんですか!?」
彼女も、巻き込んでしまった。
こんな事を今を生きる子に頼むなんて、情けない。
それでも……譲れない。
「こんな事……居なくなっていい人なんて、何処にもおる訳ないじゃないですかっ!」
「いいや……いるさ、ここに一人な」
「え……?」
「俺は……最低なんだ」
それでも……理解って貰える様に、言うしかない。
「俺は……トレーナーで居たかった。今でも、そう思う。 それが、いけないんだ」
「それのどこが……!?」
「俺は、触れるウマ娘すべてを傷つける」
「!」
「例外無く……外面、内面問わずな。 そういう運命を抱えているのさ、俺は。 知っているだろ」
「それは……」
「俺は、君たちにとっての死神なんだ」
サラの宝石の様な蒼い瞳に、俺の草臥れた顔が映る。
なんてザマだ。
こんなものが、彼女の人生に関わっていい訳がない。
「だからって……こんな事する必要はないでしょう!?」
「いいや、必要だ」
「どうしてっ!」
「君に、惹かれてしまったから」
「っ……!?」
サラの目が、驚愕で見開かれる。
「きっと俺は、君も壊す」
「そんな事、やってみなくちゃ」
「解らないだろうな。 だが、駄目だったらどうする?」
「それ、は……でも」
「いいんだ、慰めなんて。 ……手を、離すんだ」
……見開かれていた目が、細められた。
それでも、と言いたげに、俺の手を握る力が強まる。
説得は、無理だったか。
若いウマ娘の力なら、成人男性くらい簡単に引き上げられてしまうだろう。
……そのはずだが。
「ん……あ、あれ……っ!?」
中々持ち上がらない。
ビクともしない……いや、引かれている?
俺にか?
それとも……別の?
「あ」
何かに引かれる様に。
サラの身体も、手すりを乗り越え、宙に─────。
落ちる。
そう思った瞬間……何かが一瞬、俺たちを引き留めた気がした。
「─────間に合ったァ!」
「キサラさん! ……トレーナーさんっ!?」
切羽詰まった、テイオーとスティルの声が聞こえる。
手が伸ばされ……サラを掴んだ。
「スティルっ!タイミングを!」
「そちらに合わせます!」
「せー、のっ……!」
現役を退いて長いとはいえ、ウマ娘の腕力はヒトのそれを大きく上回る。
二人分のウマ娘の力が合わさり、俺とサラの体重が易々と引き上げられていた。
逝けると思ったのに。
人の世に、戻されてしまう。
「……はぁっ、なん、とか、間一髪……肝が冷えたよ」
「お二人とも、大事はないでしょうか……っ、トレーナーさん、そのお怪我は……!?」
「そんな事、どうだっていいだろ……」
「トレーナーさん……? そんな事ありません、すぐ手当を」
「要らないと言ってるだろッ」
先程抉った傷に伸ばされたスティルの手を、思わず払ってしま、う。
いいんだ、本当に。
そんな事は。
俺の事は、どうだって。
「なんで逝かせてくれなかったんだ」
「は……え?」
「どうしてだ」
「トレーナー……?」
「なあ、教えてくれよ……俺を、何故助けた?」
教え子たちの目が、驚愕と困惑に見開かられる。
でも俺は、お前たちを……
「そんなの、私たちのトレーナーだから」
「もうトレーナーじゃない」
「それは資格の話で」
「俺はトレーナーになるべきじゃなかったんだッ」
「トレーナー!」
「もうそんな風に呼ぶなッ! 俺は、お前の脚を三度も折ったんだぞ!?」
「トレーナー、さん……!?」
俺は、お前たちを突き放さなければならない。
引き上げられてしまった以上、逃げ場の無い俺は、こうするしかない。
恨んでくれ。
幻滅してくれ。
見限ってくれればいい。
俺は……俺が、お前たちの未来を壊したんだ。
「……っ」
「……なんだ、その目は」
「〜っっ! この!」
パシリと、乾いた音が響く。
じんじんと、頬が痛む。
抉った傷に比べ、どこか暖かい痛み。
俺は、頬を叩かれたのか。
「こンの……バカトレーナーっ!」
「テイ、オー……」
「バカもバカ、大バカトレーナーめっ! ボクたちの気も知らないでさ! 逃げるなこの卑怯者!」
「あ……?逃げ、る?」
逃げられないように、両肩を掴まれた。
大粒の涙をボロボロ零しながら、それでも俺を見据えながら、テイオーが吼える。
「そうだ! キミは逃げてるだけだ! 他人の事棚に上げて、自分だけ全部抱え込んで、全部自分が悪い事にしてる!」
「それは……俺が悪いのはそうだろッ」
「そんな事ない!」
「違う! 全部俺の責任だ……!」
「バカ! 走りたいって願うのは、ボクらのエゴじゃないか!」
「!」
「ボクたちは、走りたくて! それで夢を叶えたくて! 自分を見つけたくて! そうやって走ってきたんだ! ボクらの走る理由まで、全部キミの物にするな!」
「……テイオー」
「キミは、それを支えたくてトレーナーになったんでしょ! それを見届けたいから、ボクたちの隣に居たんでしょ! だから……」
テイオーが、俺を真っ直ぐ見据えている。
「だから、ボクたちはキミが良いって思ったのさ」
「……」
「ボクは、キミにボクの想いを預けて、キミの想いだって背負っていたつもりだったよ。 スティルだって、そうでしょ?」
「……はい。 私も……いえ、私は、ずっとトレーナーさんのお側に居たいです」
「……!」
「ライスだって、アヤベだって、タキオンもピサもそうだった。 スズカも、クラフトもマーチャンも、クロノだってきっとそう」
嗚呼……逃れられない。
彼女たちの想いから、逃れられない。
俺は……俺は、トレーナーでしか有り得ないのか。
「だから……この子が、キミが良いって言う感性だけは、否定出来なかった。 だから、キミに引き合わせたかった」
テイオーが目を向けた先。
俺と一緒に引き上げられた、芦毛のあの子が居た。
……変わらず、その蒼い瞳をこちらに、真っ直ぐ向けている。
「……葛城さん」
「……サラ、見ての通りだ。 俺は……情けない男だ」
「トレーナー」
「だから、その……君は、それでもいいのか?」
「……私の希望は、東雲さんが言ってくださった通りです。 変わりはないです」
サラは……いや、サラも、か。
真っ直ぐに、真正面から……俺と向き合ってくれている。
俺は、どうしたら良いのか……
「でも私、葛城さんがどうしていけないかは、何度も聞きましたけど……葛城さんがどうしたいかは聞いとらんです」
「サラ……」
……本当に、これで良いのか。
彼女に、俺は良い影響を与えられるだろうか?
俺は、彼女の未来を切り開いてやれるのだろうか?
俺は、彼女を傷つけずに済むのだろうか?
分からない。
分からないが……
「君の……」
「葛城さん?」
「君の口から、聞きたい。 君の、名前は……?」
「……!」
サラの顔が、ぱっと綻ぶ。
意図は……伝わった様だ。
「私は……
“キサラアリーヤ”って言います」
「そうか……キサラアリーヤ」
「はい……葛城、“トレーナー”」
「こんな俺で良ければ、よろしく頼む」
日が暮れ、とっぷりと沈もうかと言う頃。
俺の未来が……明日が、開けた。
選んでしまったからには……突き進むしか、あるまい。
だが、俺の心の内は……どこか晴れやかに思えた。
本話サブタイ引用楽曲: ファンファーレ / 玉置浩二
結局、己を一番憎んでいたのは己だった。
堰き止めていた棘は抜け、運命の歯車は回り出す。
……
これにて序章完、一区切りとなります。 楽しんで頂けたでしょうか。
この後、構想中のキャラデザを完成させてから執筆再開、不定期更新を予定しています。
何時までかかるかは不明瞭ですが、サラの競走人生の結末まで、お付き合い頂けたら幸いです。
ではまた。