燃える荒野、水晶の森、浮かぶ湖。
人知の及ばない奇跡、再現されることのない芸術。
この世界にはそんな場所に生きる生き物たちがいる。
レゾナンス。共鳴するもの。
そして、そんな彼、彼女らと出会うため、心を通わせるため命を投げ捨てて危険へと飛び込んでいく変態が居た。
彼の名は──
〜〜
時に、ミミックパックデスマンティスというレゾナンスをご存知だろうか。
彼は素晴らしい生き物だ。
時に地面に潜り、時に木に擬態し、時には岩すら擬態する。
そして最も大きな特徴として、獲物を誘う誘引器官が体から生えている。
それは甘い香りのする果実であったり、花であったり、変わったところでは動物の死骸であったり。
その環境に合った誘引物を作り出し、適応する。
しかもその誘引物には弱い毒性と色、匂いによる強いマーキング作用がある。
この擬態能力、追跡能力も素晴らしいのだが、マンティス……つまりはカマキリと言うだけあってその鎌も特徴的だ。
その関節は340°回転するのだ。
その自由自在とも言うべき可動域から繰り出される捕食の妙技は、いかに俊敏な小動物や虫系のレゾナンスであろうと逃げられるものではなく……
「ギチチチチ」
このように捕らえられてしまう。
「やぁ、少し待ちませんか? 確かに私は君の誘引器官であるその赤い果実を切り取ろうとしました。だがそれはこちらにも事情があるゆえの行動で……!」
「ギギギ」
「代わりの食事ならこちらで用意します……!! 誘引器官を再生する間、食事に困ることはなくなると誓います! どうでしょうか!?」
「ギギギ……チチチチチ!」
駄目みたいですね。
着ている全身鎧が軋み、悲鳴をあげている。
どんどんと掛けられる圧力は増しており、このままでは10秒足らずで私は真っ二つになることだろう。
仕方がない、呼ぶとしよう。
「すみません、ガイア。作戦失敗です」
その名を呼んだ。
「グォ!」
唸り声と共に茂みから大きな影が飛び出した。
「ギギ!?」
困惑に硬直したミミックパッ──マンティスを影が突っ込んで吹き飛ばす。
鎌に挟まれていた私は解放され、そのまま宙を舞って影の主の元へと──
あれ?
「ぐへっ!?」
背中から全身を貫く鈍い衝撃。
肺から逃げた空気を取り戻し、影の主である私の相棒のガイアを見上げる。
ガイアは
種族名の通り体表の至る所に鉄片のような外皮が存在し、鎧を纏っているかのように見える。
だが、ガイアの前足、その内側にはその鉄片は存在せず比較的に柔らかい。
「ちょっと!? 私を受け止める算段でしたよね!?」
「…………」
だから交渉に失敗した時にこうして助けに入り、落ちてくる私を受け止めてもらう作戦だったのだ。
なのにコイツは私を無視した。
「…………ぺっ」
「ガイア!?」
相棒である。
相棒、なんだけどなぁ……?
「ギチチチチ!」
漫才は終わりのようだ。
体勢を立て直したマンティスが、咀嚼口を鳴らしてこちらを威嚇している。
鎌を折りたたみ、素早く振り下ろせるように構えた。
戦意は微塵も衰えていないようだ。
「ガウ」
「えぇ、残念ながら彼と対話を……
試しに再度、魔力の
やっぱり弾かれた。
完全拒否、って感じだな。
ガイアがゆっくりと前に出る。
その背中を軽く撫でる。
ガイアの全身の筋肉が隆起し、弾丸のようにマンティスへと突撃していく。
それを迎え撃つため、マンティスは鎌を大きく振り被った。
〜〜
「お待たせしました。こちらミミックパックデスマンティスの誘引器官です」
「おう、早かったな。いつもならあと2、3日掛かってただろ」
「好戦的な個体に当たりまして、仕方なくと言うやつです」
傭兵組合の裏、大型の動物やレゾナンスを解体するために作られた広間。
マンティスを倒したあと、傭兵組合の組員に何故かここに来るように伝えられた。
マンティスの解体は現地で行ったため、ここに来る必要はないはずなのだが……
まぁ、やることは変わらない。
手に持った誘引器官を目の前の組員へと渡す。
組員はそれを箱の中へとしまい込むと、改めてこちらへ視線を向ける。
「確かに受け取った。流石は『運び屋』、調達からこなす完璧な仕事だな」
「世辞はいいので、報酬をください。この後調べたいことがあるので」
「ああ、それなんだが少し待ってくれ」
組員がバツが悪そうに頭を掻く。
なんだ?
依頼人が直接品物を確認しないと達成にならないのだろうか?
契約書にはそんな事書いていなかったはずなのだが……
「そんな目をするな、金は直ぐ払う」
「じゃあ何ですか?」
組員が懐に手を入れる。
そこから何か紙のようなものが──
依頼書?
「仕事帰りのお前に、依頼だ」
「お疲れ様でしたー!」
「待て待て待て!」
誰が待つか! こっちは仕事帰りだぞ!
せめて明後日に持ってこい!
「すみませんね! うちのガイアにご飯を作らないといけないのですよ」
「お前みたいな
「くっ! 開かない……ハメましたね!?」
いつの間にか出口を施錠、封鎖されている!?
裏に通された時から警戒するべきだった!
「普通、大型レゾナンスを一体丸ごと持って帰ったのでもないのに裏に通される時点で何か気づくだろ」
「いやぁ、微塵も興味なくて……」
「そんなやつだよお前は」
まぁ、柵を飛び越えたりしたら逃げられないこともないのだが……一旦諦める。
「で、ここまでして私に何をやらせたいのですか?」
観念した私を見てひとまず安心したのか、組員は依頼書をこちらへ手渡すと背を向けた。
えぇっと、なになに……?
「お話していた傭兵が捕まりました!」
組員が誰かを呼びつける。
十中八九依頼人なのだろうが……なんでここにいるんだ?
待機してたの?
なんでもいいか。
で、仕事内容は護衛、護送系統で……拘束期間は……結構長いな。
「その人が、話にあった傭兵……?」
女性の声。
一度依頼書を読む手を止める。
どちらにせよ今はこの場所を離れる気はない。
断るか。
「えぇ、この全身鎧の男が傭兵ノーバット。ランクはBです」
「コンダクターと聞いていたのだけど」
「はい、私は鎧熊というレゾナンスと契約して──」
ん?
……んん!!?
「彼、固まってしまったけれど?」
「これあれですね、伝えていた懸念点の部分です」
な、なななななななっ!?
「ま、ままままままままっっ!?」
「彼、痙攣しだしたけれど……」
「ちょっと待ってくださいね、今迎撃用の棍棒を用意しているので」
「そう……迎撃?」
人間に非常に酷似した体躯!
フードに隠れて見えていないが、その膨らみから推測できる角!
そして何よりィ!
爪先から髪先まで迸る独特な魔力の波長ゥッ!
「ヒャッホォウ! 魔人だぁ!」
「!?」
ヒャア! 我慢できねぇ!
角見せてくれぇぇ!
好奇心のまま突撃した私の視界いっぱいに、満面の笑顔をした組員と……振り抜かれた茶色の物体が──