ボロボロな傭兵を追いかけ、傭兵組合に入った私の目に飛び込んだのは……両膝をついて救援を懇願する傭兵と、それを苦笑いしながら遠巻きに眺める傭兵たちの姿だった。
「なんで誰も動いてくれないんだ!?」
絶望する傭兵の元に、顔を赤らめた男がしゃがみ込む。
「あー、兄ちゃんは確か先日B級に上がった……」
「と、トライマンのスグルだ……今もまだ依頼者と仲間が取り残されていて……」
「スグルか。残念だけどな、依頼に関しちゃ自己責任だ……助けたいのなら、お前がそういう依頼をだすしかない」
傭兵組合は善意による慈善事業ではない。
依頼の管理と最適な人員の振り分けを行うことで、スムーズな依頼執行を目的とした仲介所だ。
「B級3人が壊滅するほどの脅威に、救出依頼となると……ざっと30000エコーは覚悟したほうがいい。払えるか?」
「そんな、大金……すぐには無理だよ!」
「じゃあ諦めろ。俺らも端金で死にたかねぇし、組合も認めねぇ……調査依頼自体は貴族サマとの合同で出すんだろうが救助は別だ」
赤ら顔の男は、優しくスグルの肩を叩くと自分が居たグループへ戻っていった。
スグルは絶望し、肩を震わせている。
奥に居た傭兵組合の組員も動き出してるな、街の管理をしている貴族への連絡と調査依頼の準備に……一応スグルに救出依頼を出すかの確認かな?
まぁ、その前に……
「その話、少しお伺いしたいのですが」
「あ、あんたは……?」
「ノーバットと申します。あなたの護衛していた依頼者についてお聞きしたいのですが」
「依頼者って……もしかして、知り合いなのか?」
「もしかしたら、という話です。まず最初に、依頼はいつ受けましたか?」
スグルは訝しげにこちらを見つつも答えてくれる。
「ついさっき、2、3時間前だ。急ぎの依頼だってことでたまたま空いていた俺らが受けた」
ついさっき……タイミング的には合っている。
「襲われた場所は、どこに向かう途中でしたか?」
「東の方だ、霧の渓谷を通っている時に襲われた」
「……その方は女性の魔人ではありませんでしたか?」
スグルは、少し考え込んでから首を振った。
「人族……いや、悪いけど、わからないと言わせてほしい」
「わからない?」
「俺たちが依頼を受けた時、フードを被っててよく見えなかったんだけど……」
歯切れが悪いな?
「襲われた時、その人が魔法を使ったんだが、その拍子にフードが外れて……多分、頭に角があったような気がするんだ」
「魔法、どんな魔法ですか?」
「なんでそんな事を……って、そうか、魔人は人によって魔法が違うのか」
正直なところ見た目とか、フードで全く見えなかったから分からない。
その場合、判断材料になるのは魔法だ。
魔人の魔法は固有魔法とも言うべきか、その個人によって大きく姿を変える。
「確か、鎖か何かを操って──」
「ハイ確保ー」
「えっ!?」
さっき依頼を発行して、鎖を使う魔法を使うとまで揃ったらもうセレス以外居ないんだよなぁ……
スグルに肩を貸して立ち上がらせ、傭兵組合の扉を開ける。
「ガイア! この方を乗せてください」
「えっ、ちょっ……い、行くのか!?」
「そうです、よっと!」
スグルをガイアの背中に乗せ、私も乗り込んで走り出す。
「いいいい行ってくれるのはありがたいが! 俺まで連れてくつもりか!?」
いやいや、そんな事しないよ?
見ただけで結構辛そうなのは分かるし……
「いえ、時間がもったいないでしょう。門まででいいんで、詳しい情報をください」
馬車用に広く作られた街道を駆ける。
「歩いてどの程度で襲撃されたのか、レゾナンスの姿と特徴、注意事項をお願いします」
右手でガイアを掴み、左手で袋を漁る。
「襲撃された場所は、歩いて1時間程度の所だ。道なりに歩いて1の看板より少し先になる」
「あぁ、確か霧で視界が悪いため、数字の書かれた看板で位置を確認するのでしたか」
「そうだ」
袋の中の手斧を掴もうとして、指から滑り落ちた。
……握力が死んでるな。
軽い物を取るくらいはできるが、武器は振れないか。
「襲ってきたのは黒い猪系のレゾナンスだ」
「猪……?」
「あぁ、急に爆発したみたいな……多分風だと思うんだが、それが吹き付けてきたと思ったらそいつに吹き飛ばされていたんだ」
爆風か……霧の渓谷の中でそんなものが吹けば体は濡れ、水滴によって呼吸は困難になる。
顔面にシャワーを浴びているようなものだからな。
いや、それよりも──
「霧の渓谷、猪系統も風を操るレゾナンスも居ないはずです」
「……けど事実だ。だからこそ奇襲された」
紫の森の時と同じ、異常事態か。
「風を、それも爆風となると……
「ぶらすとぼあ?」
「えぇ。ですが、彼らは
たまに発生する亜種か?
だとしても、燃荒野からここまで幾つの環境を超える必要がある?
現実的じゃないな。
「まぁ、いいでしょう。事実だけ分かれば充分」
猪系統、爆風、霧、黒い毛並み……
それだけでも戦い方は作れる。
門が見えてきたな。
「最後に1つ、依頼人について……体調は大丈夫そうでしたか?」
これは聞いておきたい。
医療所でクルスから治療を受けているはずだが……
私の
また魔法を使ったのだとしたら……直ぐにまた悪化するだろう。
あの毒のようなものは、レゾナンスの正常な活動を許さない……
そういう悪意を感じさせる類のものだった。
「体調? 俺の見た感じ……問題ないように見えたな。猪の奇襲にぎこちなくとも反応してたし」
「……そうですか」
ならまだ問題ないか?
門の前に着いたので、門番に通行許可を貰う。
「通行許可を。私とこちらのレゾナンスだけです」
「傭兵だな、身分証を出せ……おい大丈夫か? さっき入ったばかりじゃないか」
「急用ができましてね。お勤めご苦労さまです」
門番は隣に置かれた魔道具で傭兵カードを確認すると、銀色のカードをこちらへ返した。
カードを受け取り、ガイアから降りている途中のスグルへと振り返る。
「情報提供ありがとうございます。あなたの仲間も可能な限り助けると約束しましょう」
「……大丈夫なのか? そのカードの色からして、俺らと同じB級だろ」
訝しむようなスグルの表情。
だが、その声色からは純粋な心配を感じ取れる。
だから私は笑って答える。
「戦闘はともかく、救助なら自信があるのですよ……」
袋から手斧を1本と予備の1本を腰へ、先程買い込んだペイントボールも腰に結びつける。
ガイアに飛び乗り、シンクロを開始した。
「私たちは、『運び屋』ですので」