空が青かった。
うーん、今のは私が悪かったか?
でも仕方なくないか?
魔人だぞ??
個体により使える魔法が変わり、特性や特質すら変化する。
もはや魔人と総称しているだけで、それぞれが固有種のような存在だ。
やはり、我慢しろという方が無理では?
「つまり、過失割合は5対5といったところですか」
「ナメんなアホ。10対0だ」
「いえいえ、私にも悪いところがありましたから」
無言のフルスイング。
フルフェイスとはいえ2度もぶっ叩いてくるとか頭がおかしいのではないだろうか?
「あなた名前なんでしたっけ?」
「ルストだカス。いい加減覚えろ」
「すみません。微塵も興味なくて……」
ルストね。
あとで組合に苦情を送ろう。
「はぁー……すいませんセレ、スさん。こんなやつですがこの街の傭兵では一番の適任者です」
セレスか……けど名前を呼ぶ時にちょっと間があったな……
ともあれ、一番の適任者とは買いかぶられたものだ。
「そう、ね。話に聞く以上だったわ……あなたの言う通りどうやってか私を魔人だと見抜いていたみたいだし」
いや、見たらわかるでしょ?
「敵意もなく飛びかかってきたのはよくわからなかったけど……あなたの言う通り依頼の変更をお願い」
「賢明かと」
頭の上で話が進んでいる。
二重の意味で。
どうしたものかと考えていたら手に持っていた依頼書をひったくられた。
「何するんですか」
「さっきの依頼書はキャンセルだ。お前はこっち」
専用の依頼書らしい。
嬉しくない特別扱いだ。
いつまでも寝ているわけにはいかないので、その依頼書を受け取って立ち上がる。
「動いていいの?」
セレス某が心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「……何がです?」
「さっき吹き飛ばされていたし、追い打ちも食らっていたから」
あぁ、そういうことか。
「ちょっとは鍛えてるんで、平気ですよ」
なにか信じられないようなものを見る目で見られた。
「あなたはセレスさんでしたよね?」
「え、えぇ」
「紫の森を抜けたい。そのための護衛を探している、でいいんですよね?」
依頼書はさっき一瞥している。
新しいこの依頼書も、一瞬目を通した限り拘束期間が短くなっているだけで内容はほとんど変わっていない。
「紫の森の先にあるガレンという街へ行くのならば、もっと安全なルートがあります」
7日程度プラスすることになるが安全な道がある。
「それでもなお、あなたが紫の森を通りたいという理由が知りたい」
「……それ、は」
セレスの言葉が濁る。
言いづらそうに、困惑しているのがわかる。
「ノーバット。依頼に必要のないことを聞いてんじゃねぇよ」
「……ごめんなさい」
「いえいえ、こちらこそすみませんでした。こちらも命をかけることになるので理由ぐらい知っておきたいと思っただけですので」
申し訳なさそうに目を伏せるセレス。
それとは対照的な、肩に棍棒を担ぐというガラの悪すぎるルストがめんどくさそうに私を睨む。
「命をかける理由がなきゃこの依頼は受けられないか?」
心にもない言葉。
確信犯だ。
「何言ってるんですか、この権利は誰にも渡しませんよ!? 魔人の方と一日共にできる、今更断られても私はついていきますからね!!?」
「!?」
「今更キャンセルとか言いませんよね??」
「い、言わないけれど……」
「よし!」
まぁ、危険を冒してでも急ぐ理由はなんとなくわかる。
セレスという魔人、
ひどい苦痛のはずだ、これでは激しい運動などマトモにできないだろう。
けれども彼女はそれを微塵も表に出さない。
だからこそ、私は笑って応えるのだ。
「この依頼、ノーバットが受領しました。短い間ですが、どうぞよろしくお願いします」
〜
「この度私ノーバットは、ガイア様に一切の相談なく連続依頼をキメてしまった件について誠に申し訳なくお詫び申し上げます……!」
私は今、生ゴミを見る目をしたガイアに対して必死に赦しを乞うていた。
いや、書類を一瞥しただけで依頼を受けたのは私のミス、言い訳しようもない。
しかし、だ……
「あなたがガイア、ね。これからよろしくね」
まさか即日配達だとは思わないじゃん???
「グルル……」
「ノーバットさん、彼はなんと?」
「え? あぁ、多分全部諦めてあなたを受け入れてくれたんだと思います」
「多分?」
「えぇ、多分」
ガイアは体を起こし、街の出口の方向へ進み出す。
「行きましょうか」
紫の森を越える程度なら手持ちで充分。
元々、誘引器官を得るまであと二日ほど掛かる想定だった。
だから物資は残ってる。
ガイアの横に付き、ガイアに運ばせている荷物袋を整理する。
寝袋……一つだけどマントはあるな、これなら寝床は充分。
食料は……半分は現地調達の予定だったから殆どない。
ガイアは自分で動物狩って勝手に食うからな……
買っていくか?
いやでも、魔人の好みなんてわからないぞ。
聞くか。
「多分? ……コンダクターなら、
「セレスさん」
「……何かしら」
「食料に関してなのですが、現地調達しますか? それとも買っていきますか?」
「あぁ、それに関してなら心配しないで。自分の分は持っているわ」
「了解しました」
なら心配ないか。
そうこうしているうちに門前だ。
つい先程顔を合わした衛兵に声をかける。
「すみません、街を出たいのですが」
「うん? お前……さっき帰ってきたばかりじゃなかったか?」
「つい2時間前ですね」
まぁ、正気じゃないのは確かなのだが全部ルストとかいう奴が悪い。
「しかも一人増えてるし……人間とつるむのなんて珍しいな?」
衛兵の一人が訝しむ。
セレスはどうやら、魔人であることを隠しているようなので答えず、さっさと傭兵の身分証を渡す。
そのセレスも逆側で検問を受けている。
「……契約登録しているのは鎧熊だけだな。じゃあこっちに手を置いてくれ」
「はい」
「質問するから正直に答えろよ。嘘ついたら反応するからな」
「毎度の説明お疲れ様です」
嘘発見器的な魔道具に手を乗せ、犯罪の有無や通行の目的を聞かれる。
別に嘘をついても電流が流れるわけじゃない。
ちょっとブザーが鳴るだけだ。
原理は知らない。
「じゃあこれが最後だ」
「おや? いつもより一つ多いですね?」
「念の為だよ……あなたは同行者に対して邪な思いを持っていますか?」
「そんなわけないでしょう!」
ブー。
「……」
「……ち、違うんですよ」
「おい、コイツを裏へ連れていけ」
くそ! やめろ離せ!!
ちょっと角みたいなぁ……とか思ってただけだろ!!
私は無実だ!!