魔法生物狂いの運び屋 ~レゾナンス観察旅曲~   作:木偶人形

7 / 9
第7話 共鳴魔術

 シンクロというのは存在の共有だ。

 

 ガイアの身体能力の一部を扱える今の私には、土を掘り進むアンダーリーフの僅かな音すらも聞き取れる。

 

 私の背後、セレスさん狙いか……私への奇襲か……

 

 アンプスパイダーも木から木を飛び渡り、手当たり次第に糸を吐いて場を整えている。

 

 だが、忘れていないだろうか? 

 

 セレスが私の背後に居るということ。

 

 それはつまり──

 

「グォォォォォォオ!!!」

 

 ガイアがフリーになる。

 

 ガイアが全力で地面を殴る。

 

 軽く地震が起き、木々が揺れ、体が跳ねる。

 

 木と木の間を飛び回っていたアンプスパイダーが、僅かに動きを止める。

 

 普通の蜘蛛系レゾナンスなら問題なかったかもしれないが、振動による知覚に重きを置いているお前は無理だ。

 

 さて、それほどの衝撃……地面の中に、それも耳の良い狼が聞いたらどうなるか。

 

「キヤィン!?」

 

 そりゃあ、こうなる(耐えられず飛び出す)。

 

 場所は私たちの左側。

 

 ガイアに思念で位置を共有、間髪入れずにガイアは地面を殴った手をそのままめり込ませ、強烈な土の散弾を発射する。

 

 命中。

 

 大したダメージじゃない。

 

 所詮は土を飛ばしただけ、ちょうど良い石があれば良かったんだが。

 

 だが、これでお前らはガイアを無視できないだろう? 

 

 手に持った手斧をこれ見よがしに構える。

 

「グルルル……!」

 

 アンダーリーフも警戒し、地面に潜らず弧を描くように移動、距離を測っている。

 

「さて……」

 

 ここまでやってようやく微有利。

 

 アンプスパイダーは得意領域を広げるため糸を吐き続けているし、アンダーリーフは生半可な攻撃だと身軽さゆえにダメージを逃される。

 

 ガイアもアンプスパイダーを追いかけるが糸で絡められたり逃げられたりと追いつけない。

 

 そんでもって私の左腕もめり込んだ牙やら何やらでかなり酷い上、アンダーリーフの牽制で手が離せない。

 

 膠着状態、ただし時間は向こうの味方。

 

 有効打がなぁ、やれないこともないが……

 

 その場合、どうしても私も前に出る必要がある。

 

 それはつまり護衛を放棄することになる。

 

 伏兵がまだいないとも限らない、賭けに出るのは怖すぎる。

 

 一瞬、セレスへと視線を向けた。

 

 セレスと目があった。

 

 セレスが、こちらを見ていた。

 

「……どうしました?」

 

 大きく、深い魔力。

 

「これは、私のせいだから……ここからは私がやるわ」

 

「ちょっと待ってください、それはどういう……っ!?」

 

 魔法の気配! 

 

 アンダーリーフが地面に潜り、アンプスパイダーが張り巡らされた糸の上に着地する。

 

「セレスさん! 強生震度(フォルテッシモ)が来ます、糸には絶対に触れないで!」

 

 幾重にも重ねられた糸と糸。

 

 それらが振動し、増幅し、響き合う。

 

 離れていたらただの大きな音だ、だが……糸に直接触れている獲物に対しては──

 

「グァ……!」

 

 体内で音の爆弾を破裂させられることに等しい。

 

 それだけじゃない、この魔法による振動は魔力そのものに揺さぶりをかける。

 

 魔法生物というレゾナンスに対して、特効に近い効果を発揮する。

 

 魔力に異常が見られるセレスには絶対に触れさせてはいけない。

 

 ガイアなら耐えられる、だが動きは鈍る。

 

 思ったよりも糸の構築が早かった……? 

 

 いや、完成度を犠牲に速度を上げたのか。

 

 アンプスパイダーは魔法を使っている間は動けない。

 

 手斧で狙いたいところだが……アンダーリーフが邪魔だ。

 

 どうする……? 

 

「大丈夫」

 

 魔力に森が飲み込まれた。

 

 いや、そう誤認してしまうほどの巨大な魔力が放たれた。

 

 出どころは……セレス? 

 

「直ぐに終わるわ」

 

 チャリ。

 

 金属の擦れる音がする。

 

 何だ? 

 

 魔力の流れからして魔法なのは間違いないが、どういう魔法だ? 

 

 強烈な魔法を行使するセレスを危険と判断したのだろう。

 

 ……それとも元々狙っていたのか、アンプスパイダーがセレスへ向けて糸を吐く。

 

 同時にアンダーリーフも地面から飛び出し、セレスを背後から狙った。

 

 分かってて防げないわけないだろ? 

 

 糸を手斧で受け、震動に手が震える。

 

 だが私は人間で、そもそもカスみたいな魔力しかない。

 

 シンクロは乱れかけるが、心構えさえしていれば少しの間は問題ない。

 

力(・)を借り受けながら糸ごとアンプスパイダーを引っ張り、セレスの周りを弧を描くように回転。

 

 今まさに噛み付こうとしていたアンダーリーフへ回し蹴りを叩き込む。

 

 アンプスパイダーは姿勢を崩し、アンダーリーフは蹴りを受けて吹き飛んだ。

 

 当然アンプスパイダーもアンダーリーフもこの程度でなんとかなる相手ではない。

 

 だが魔法(強生震度)の維持は途切れるし、アンダーリーフは再び機を狙う必要が生まれる。

 

 どうするべきか、考えを走らせる前にこの言葉が届いた。

 

「感閃恋鎖(シンドローム)」

 

 直後、セレスを中心に無数の鎖が撃ち放たれた。

 

 この鎖、一つ一つが高密度の魔力で作られている? 

 

 これだけの数を? 

 

「ギギッ!?」

 

「キャウン!?」

 

 放たれた鎖は自由軌道を描きながらアンプスパイダーとアンダーリーフに命中。

 

 続いて、追撃の鎖が2本目、3本目と叩き込まれていく。

 

 それだけじゃない。

 

 他の鎖も鞭のように振るわれ、糸や木を触れるだけで腐(・)ら(・)せ(・)、(・)崩(・)壊(・)さ(・)せ(・)て(・)い(・)く(・)。

 

 どういう理屈かは全くわからないが……少なくとも私にはそうとしか見えない。

 

 僅か3秒の蹂躙。

 

 アンプスパイダーも、アンダーリーフも動かない。

 

 決着は一瞬だった。

 

 鎖が消え、魔法が終わる。

 

「セレスさん……あなたは一体……?」

 

「はぁ……はぁ……ぅっ」

 

「セレスさん!?」

 

 セレスが膝から崩れ落ちる。

 

 私は直ぐ横にいたので、倒れる前に何とか支えることができた。

 

「だ、大丈夫、だから……」

 

「そんなわけないでしょう!」

 

 ゆっくりと地面に寝かし、診察を試みる。

 

 ガイアは近くに戻ってきており、周囲の警戒をしてくれている。

 

 ぱっと見ただけでも魔力が乱れ、いくつものノイズのようなものが走っている。

 

 もっと深く観る。

 

 魔力を目に込める。

 

 昨晩、目視では難しい若いトーチモスを探したように。

 

 魔力によって強化された目は、魔力溢れる世界に適応し……その解像度を急激に引き上げる。

 

 アナライズ。

 

 魔力制御を誤れば眼球を損傷し、最悪失明する。

 

 だが……今この状況においてこれ以上に相応しい術もない。

 

 魔力を込めるにつれ、ノイズが鮮明になっていく。

 

 許容量の限界、そこまで魔力を込めてやっと何が起きているのかを把握した。

 

「魔力が……2つ?」

 

 どういうことだ。

 

 私の目には、セレス本来の魔力とは別の魔力が宿っているように見える。

 

 しかも、シンクロのように共鳴させて馴染んだ魔力じゃない。

 

 あり得ない。

 

 何があったらこんなことになる? 

 

 ……違う、今やるべきことを考えろ。

 

 最低限の手当てをし、セレスを街へ運び、医者に見せる。

 

 まとまった。

 

 これを抑えるのにはどうする? 

 

 多少応急手当はかじったが……これは全くの未知だ。

 

 ぎゅっと、手を握られた。

 

「大丈夫……落ち着け、ば……収まる、から」

 

 落ち着けば収まる……? 

 

 もう一度、そのノイズを覗き込む。

 

 確かに、段々と小さくはなっている気はする。

 

 セレスの活性化した魔力に反応している? 

 

 なら……

 

 やりようはあるかもしれない。

 

「はぁ…………ふぅ…………」

 

 セレスの反応が段々と弱くなっている。

 

 あんまり使いたくない手段だが……緊急避難というやつだ、許してもらおう。

 

 アナライズを解除する。

 

 セレスの魔力の流れを、波長を感じ取る。

 

 音が響き合うように、美しく重ね合うように魔力を調整していく。

 

 調律が最高潮に達し、私の魔力がセレスの魔力に馴染み切る。

 

 最後に、きっかけとなる言葉を胸の中で唱える。

 

 シンクロ、スタート。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。