「まっ
「無理だね」
「いやいや、
「諦めてね」
「あっ、あっ! アッ──!!」
腕がっ! 腕がああ──!!
「ふぅ……君、無理をしすぎたよ。砕けた歯が肉の中に潜っちゃってえぐり出すしかないんだもん」
だからって痛み止めなしでやるやつがいるんですかね?
悪態つきたいけど声が出ない……っ!
「悪いけど、何言ってるかわからないから……次行くね?」
「か、かす…………」
「おりゃっ!」
アッ────!!!
死ぬ、マジで死ぬ。
麻酔はともかくなんかあっただろ!
マリヒリ草とか!
なんで布を噛ますだけなんですかね!?
いっそ気絶させてくれよ!
「はい、回復魔術をかけるから意識を保ってね。この魔術、君の意識ないと意味ないから」
「んんんん!!!!」
「“リージェ”」
ん゙ん゙ん゙っ!!
肉が塞がっていく……が、頭がおかしくなりそうな激痛が走る。
アンダーリーフの牙抜かれた時より痛いんですけど!?
「ぜぇ……ぜぇ…………」
「いやぁ、君結構余裕だね?」
ぶっ飛ばすぞ?
「これ、歴戦の戦士でも失禁して泣き出す奴なんだけど」
これ訴えたら勝てるやつ?
「そんな恨みがましく見ないでほしい。これは君が僕に頼んだ施術なんだから」
まぁ……そうなんだけど。
目の前の医術師……クルスは、私の怪我を見てこういった。
「うーん、これは酷い……とりあえず1ヶ月は入院ね」
1ヶ月ものんびり出来るわけがないので、他の方法を問いただしたところ。
「魔術使えばやれないことないけど、酷いよ?」
……で、現在に至る。
事前説明足りなさすぎない?
「すまないね、“リージェ”は対象の自認による再生魔術。意識を少しでも混濁させるような薬は使えないんだ」
傷の塞がった左腕の調子を確認。
まぁ……動くかな?
「これで入院はいらないけど、しばらくは無理させないこと。傷が開くからね」
クルスはそういいながら私の腕に布を巻いていく。
治療は終わったので、必要なくなった布を口から外す。
「お疲れ様です。流石にキツイですね……」
「はい、お疲れ様。共用だがベッドは確保してある。体を拭いたらそこで休むといい」
「そうさせてもらいたいところですが……セレスさんは?」
「まだ眠っているが問題ない、じきに目を覚ますだろうからね」
まぁ、そりゃあそうか。
窓から外を見る。
まだ昼にも……セレスを運び込んでまだ1時間も経っていない。
「なら、昼まで借りてもいいですか?」
「おや、いいのかい。明日までとってあるよ?」
「別に入院しなくちゃいけない状態でもなくなりましたからね」
身体の調子のチェック、荷物整理、買い出しやら今日のうちにやりたいことは山ほどある。
護衛依頼は一旦終わったが……このまま雇われる可能性も無いわけじゃない。
ヘマをしたから可能性は低そうだけど、備えないわけにはいかない。
というか、雇われなくてもついていこうと考えている。
あの異質な魔法とその後の症状。
襲ってきたレゾナンスの異常にも特に驚く様子はなく、むしろ予測していたことのように思えた。
まぁ、色々理屈をこねくり回したが……つまるところ興味があるのだ。
「ふぁ……」
「血がかなり流れていたからね、食事をとったら休むべきだ」
「すみませんね、そうさせてもらいます」
眠い……いや、気絶寸前かこれ。
ふらつく頭を支える。
「これを飲むといい」
……なんか、めちゃくちゃグロテスクな赤いスープ出てきた。
なんか生臭い。
え?
飲むの?
これを???
「薬、と言うほどではないが、血を作るのを手伝ってくれるだろう」
まじかよ……
好意っぽいし、実際に効果があるんだろう。
鼻をつまんで一気に飲み干す。
「ウォェ!」
くせぇ!
何かの血とキノコ?
あとはちみつ的な甘さもあって……
そんでもってくせぇ!
酸っぱくて苦くて甘くてくせぇ!!
「…………」
「はい、これ水。部屋は助手が案内するから」
水を飲み、助手らしい人物に案内された病室。
同室人は居たが、構わずベッドに寝転ぶ。
疲れやら痛みやら崩壊した味覚やらで、もう寝たくて仕方がなかった。
何も考えたくねぇ……
とりあえず……3時間くらい仮眠を……
…………
……
……
〜
「その子を助けるつもりですか」
赤く燃える木々の中。
力がなくうなだれる子熊を指して、あの人は言った。
「前にも言ったはずです。獣人のような街で暮らすレゾナンスはともかく、その子のように野生に生きているレゾナンスを助けるべきではない、と」
私は子どもだった。
特殊な事情で少し早熟はしていたが……それでも、正しさよりも感情を取ってしまうような。
そんな愚かな子どもだった。
「それは優しさではなく、甘さです。それも、身を滅ぼす類の」
これはそんな大層なものじゃない。
いや、もっと始末が悪いかもしれない。
「それはどういう意味でしょうか」
だって私は、この子熊を最後まで助けるつもりはない。
この場から連れ去って、安全だと思った場所で置いていく。
このまま放置していたら100%死ぬ。
そうわかっていて放置するのは、私自身が殺したようで目覚めが悪いから。
「あなたは身勝手で、見殺しにするよりも残酷な事をしようとしていますよ」
火の勢いが強くなる。
木々の燃える焦げ臭さに、肉の焼けたような臭いが混じって鼻を障る。
私には、レゾナンスと繋がることのできるコンダクターとしての才能は無い。
だからあの人も、助けた拍子に専属レゾナンスにさせるという打算ではなく、本心でそう言っているのだとわかってくれている。
「……」
まぁ、内心ブチギレられていたのだろうけど。
火に巻かれないように、子熊を抱いて歩き出す。
この後、なんていわれたんだっけか。
「ノーバット」
そうそう、確か……
「あなたのその歪な価値観と興味優先思考は、いずれ大きな禍となりその身を滅ぼします」
優しい人だ、親に捨てられた私を拾い、ここまで育ててくれた程に。
美しい桃色の瞳が火の光を反射し、紅く煌めきながら私を射抜いている。
嘘は吐けなかった。
吐く気もなかった。
「私は、この両手が届く範囲の全てを好きにしたいだけなんです」
傲慢すぎる?
知ってる。
身の程知らず?
身に染みている。
けれど──
「こんな美しい世界に生まれ落ちたんです。未練を残したら……もったいないじゃないですか」
それが偽らざる本心なんだから。
その答えを聞き、あの人は──
私の育ての親である魔術師ルーナ・スターリングは、きょとんと目を丸くし、小さく苦笑した。
だから、それだけでいいと思ってた。
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