覚悟ガンギマリ系一逸転生者による幻想郷破壊録   作:フリッツⅩ

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第11話 ……手段を選ばない

 井深俊宏が二十二歳になった頃、人里で暮らす人々の間では、五年前に起きた失踪事件は、いまだ解決していないものの、日常の話題に上ることが少なくなっていた。

 行方不明になった人物の家族は捜索を続けていたが、新しい手掛かりは見つからず、周囲の人間も次第に別の出来事へ関心を移している。

 俊宏自身も、その事件について誰かに尋ねたり、独自に調査を続けたりすることはなかった。

 外界へ移動した可能性は否定できないものの、確かめる方法がないまま同じ疑問を考え続けても、計画を前進させる材料にはならなかったからだ。

 

 その間、彼は人里の住民としての暮らしを続けながら、再び状況が動く機会を待っていた。

 最初の試みから得られたのは、一人の人間が姿を消したという事実にすぎず、何が失踪を引き起こしたのかも、外界への移動が関係していたのかも判明していない。

 別の人物について同じような出来事が起きれば、二つの事例を比較することはできるだろうが、それだけで原因を特定できるとは限らなかった。

 それでも俊宏は、情報が少ないという理由だけで可能性を切り捨てるつもりはなく、実行する価値のある機会が現れるかどうかを注意深く見ていた。

 

 やがて彼は、人里で竹細工を扱う弥吉という男が、村の外れにある取引先へ品物を届けることになったと知る。

 弥吉は仕事の都合に合わせて行き先や道順を変えることがあり、今回も、いつもとは少し異なる経路を通る可能性があった。

 妻子と暮らす彼は、仕事を終えた後には家へ戻り、翌日の商いに備えるつもりでいたらしく、幻想郷を離れたいという考えを抱いている様子もない。

 俊宏と弥吉の間に親しい関係はなく、これまで個人的な事情を話し合ったこともなかったが、俊宏には、その予定の変化が以前の仮説を改めて試す機会に見えた。

 

 弥吉が別の経路を選ぶことになった背景には、俊宏が人づてに伝えた、仕事上の都合に関する話が関わっていた。

 その話は特別に不自然なものではなく、弥吉にとっても商いを進めるうえで検討に値する、ありふれた情報の一つだった。

 俊宏は、相手を直接誘い出したり、特別な目的地へ行くよう命じたりしたわけではないが、自分の行動が相手の予定に影響する可能性を理解していた。

 今回もまた、特定の人物を外界へ送り出せると考えていたわけではなく、状況に小さな変化を加えることで、何らかの現象が起きる可能性を探ろうとしていたのである。

 

 もっとも、弥吉の暮らしや今回の移動は、五年前の失踪者の事情とは大きく異なっていた。

 以前の人物が人里の外へ出る機会を得たことから試みが始まったのに対し、弥吉は日常の商いのために仕事先へ向かうのであり、その行動には家族の生活や取引上の都合が関わっている。

 出発する時刻も、目的も、移動する理由も同じではなく、俊宏は二件の間に明確な共通条件があるとは考えられなかった。

 それでも、異なる状況に置かれた人間が同じように姿を消すなら、最初の事例だけを観察していたときとは別の可能性を検討できるかもしれない。

 

 弥吉が品物を持って出発した日、俊宏は普段どおりの仕事をこなしながら、彼が戻る頃合いを意識していた。

 目立つ形で後を追えば、弥吉との関係を周囲に知られるおそれがあり、そこで何かを見聞きできたとしても、自分の行動を不審に思われては計画全体に支障が出かねない。

 彼には、境界に関わる現象がいつ起こるのかを知る手段も、それが起きた場所へ確実にたどり着く方法もなかった。

 結局、状況に手を加えた後は、表立って動かず、周囲に広がる情報を待つしかなかったのである。

 

 日が暮れ、村の往来が少しずつ落ち着いていく頃になっても、弥吉が戻ったという話は聞こえてこなかった。

 翌朝になっても姿を見せず、取引先へ確認に向かった者からも、彼が予定どおり到着したのかどうかを確かめる話は届かなかった。

 やがて弥吉が行方不明になったことが人里に伝わり、家族や知人は、彼が通ったはずの道や立ち寄る可能性のあった場所を調べ始める。

 しかし、品物を届けに出たということ以外に確かな情報はなく、彼がどこへ向かったのか、どこで姿を消したのかさえ、はっきりしなかった。

 

 俊宏はその知らせを耳にすると、五年前の事件を思い返した。

 二人目もまた、人里から姿を消したのである。だが、一人目と同じく、失踪したという事実だけでは外界へ移動したとはいえず、妖怪による被害や、予想もしなかった別の事情が原因だった可能性も残っている。

 今回の出来事が自分の介入と関係しているのかどうかも、俊宏には断定できなかった。

 二件の失踪が起きたことは確かでも、両者を結びつける仕組みについては、まだ何一つ説明できていなかったのである。

 

 彼は、最初の事件と今回の事件を比較し、失踪前の状況や当人たちの生活、移動する理由を書き出すように頭の中で整理した。

 二人の間には年齢や暮らし向きの違いがあり、移動の目的も、出発するまでの経緯も一致していない。

 共通しているのは人里から姿を消したという結果だけで、その原因を推定するには情報が足りなかった。

 仮に二人とも外界へ移動していたとしても、何がその現象を引き起こしたのか分からないままでは、俊宏が自分自身の脱出に利用できる方法を見つけたことにはならない。

 

 それでも、一件だけだったときより、検討できる事例が増えたことには意味があった。

 二件の状況が異なるからこそ、特定の条件だけが失踪を引き起こしたと早合点する危険を避けられる。

 反対に、両者の間に説明できない共通点があるのなら、それを見いだすためには、さらに情報を得なければならなかった。

 俊宏は、二件目の失踪についても成功と失敗のどちらかに分類することを避け、原因不明の事例として扱うことにした。

 

 弥吉の家族が彼の帰りを待ち、周囲の人々が行方を案じていることは、俊宏の耳にも届いていた。

 しかし、彼は家族のもとを訪ねて事情を説明しようとはせず、自分が関わった可能性について口にすることもなかった。

 失踪が自分の行動と関係していたとしても、今の段階で告白したところで、外界への移動を確かめられるわけではなく、むしろ計画を疑われる危険が増える。

 彼にとって重要なのは、自分が何をしたかを他人に理解してもらうことではなく、失踪という結果から何が分かり、何が分からないままなのかを見極めることだった。

 

 数日が過ぎると、人里では弥吉の行方をめぐる噂が交わされるようになった。

 仕事先へ向かう途中で妖怪に遭遇したのではないか、道を間違えて山中へ迷い込んだのではないか、それとも何らかの事情で遠くへ移ったのではないかと、さまざまな推測が語られたが、どれも決め手を欠いていた。

 俊宏は、周囲の人間がそれぞれの知識や経験から原因を推し量る様子を見ながら、失踪という出来事だけが残された場合、いくら推測を重ねても真相に届かないことを改めて理解する。

 自分自身もまた、同じ限界の中にいることを認めざるを得なかった。

 

 俊宏は、弥吉が外界へ移動した可能性を考え続ける一方、その後の所在を追いかけることはしなかった。

 もし外界で何らかの記録が残っていれば、将来それを手掛かりにできるかもしれないが、今の幻想郷で個人の行方を追っても、外界に到達したかどうかを確認する方法は見当たらなかった。

 人里の外へ出る機会を作ることと、その先で何が起きたのかを突き止めることは、彼にとって別の問題だったのである。

 俊宏は二件目の失踪も未解決のまま残し、現時点で確かな結論を出すことはできないと判断した。

 

 こうして、五年前の失踪に続いて、もう一つの原因不明の失踪が記録されることになった。

 二つの出来事は、当事者の暮らしも、失踪するまでの事情も異なっているため、外から見ただけでは互いに関係があるとは分かりにくい。

 俊宏は、これらが同じ現象によるものなのか、あるいは別々の原因によって起きたのかを判断できないまま、次の機会を待つことにした。

 二件目の失踪もまた、彼が求める答えを与えなかったが、可能性そのものを切り捨てる理由にはならなかった。

 

 彼が二十五歳になったとき、もう一つの機会が訪れるかどうかは、まだ分からない。俊宏は、今回の結果を成功例と決めつけず、得られた情報だけを記憶に留め、日常の中で周囲の様子を見続けることにした。

 二件の失踪から共通する条件を導けない以上、すぐに同じ方法を繰り返しても、手に入る情報は限られるだろう。

 それでも、外界へ移動できる可能性が完全に否定されたわけではないと考え、彼は復讐の計画を続けるために、次の判断材料が現れるのを待ち続けた。

 

 

――

 

―

 

――

 

 

 二度目の失踪から三年が過ぎ、井深俊宏は二十五歳になっていた。

 人里では、かつて行方不明になった二人の話も、身近な者たちの間で時折思い出される程度になり、新しい手掛かりが見つかったという噂も聞こえてこない。

 俊宏自身も、以前の二件について積極的に調べ直すことはせず、仕事や日々の付き合いを続けながら、次に状況が変わる機会を待っていた。

 二件の失踪から外界への移動を確かめる方法は見つからなかったが、可能性を否定できる材料も得られておらず、彼は結論を急がずにいたのである。

 

 そんなある日、俊宏は、人里で薬草を集めて売っている女が、近いうちに山裾へ出向くという話を耳にした。

 普段は人里の周辺で採集を済ませる彼女だったが、その時期には特定の薬草が不足しており、少し離れた場所まで足を延ばす必要があるらしい。

 彼女は商いの都合から出かけるだけで、幻想郷を離れたいと考えているわけでも、誰かの計画に加わろうとしているわけでもなかった。

 俊宏とは顔を合わせれば挨拶を交わす程度の関係しかなく、彼女の事情に深く立ち入る理由もなかったが、山裾へ向かう予定を知った彼は、以前から考えていた仮説をもう一度検討できる機会だと受け止めた。

 

 今回の状況は、過去二件とは異なっていた。

 一人目が人里の外へ出る機会を得た際には、俊宏は境界に関係する場所へ赴く可能性に注目し、二人目については商いのために普段と異なる経路を通ることに関心を持ったが、今回は薬草を採集するという目的が移動の理由になっている。

 対象者の生活も、出かける事情も、予定している行動も一致しておらず、三件目が同じ現象につながるかどうかは分からなかった。

 それでも俊宏は、異なる状況で同じような失踪が起きるなら、原因を推測する際の材料が増える可能性はあると考えた。

 

 彼は、薬草を求める者がいるという話が人里で交わされた際、山裾に残る採集場所について、自分が以前に聞いた情報をさりげなく伝えた。

 その場所が本当に目的の薬草を見つけやすいのか、彼自身が確かめたわけではなかったが、少なくとも話の内容は、相手の行動を不自然に誘導するものではなかった。

 女は聞いた情報を参考にして行き先を検討し、予定どおり翌朝に出かけることを決めたらしい。

 俊宏は、その話が彼女の予定に影響した可能性を理解していたものの、どの場所へ向かうかを決めた後に何が起こるのか、そして自分の働きかけがどこまで意味を持つのかについては、依然として確かな見通しを持っていなかった。

 

 翌朝、女は採集に必要な道具を携え、人里を出ていった。俊宏は普段どおり仕事へ向かい、彼女を尾行したり、出発後の行動を直接確かめようとしたりはしなかった。

 人の往来がある場所で特定の相手を追い続ければ、その関心自体が周囲に目立つ可能性があり、得られる情報と引き換えに余計な疑念を招くおそれもあったからである。

 彼にできるのは、状況に小さな変化を加えた後は普段どおりに振る舞い、何らかの結果が生じたかどうかを、後から入ってくる情報によって判断することだった。

 

 その日の夕方になっても、女が人里へ戻ったという話は聞こえてこなかった。

 翌日、薬草を納める予定だった相手が彼女の不在を不審に思い、親しい者たちに行方を尋ね始めたことで、ようやく異変が周囲に知られるようになったのである。

 彼女が予定の時刻を過ぎても戻らないため、家族や知人は普段使う道や採集場所の周辺を調べたが、持っていった道具や本人の姿を見つけることはできなかった。

 やがて人里では、彼女が山で道に迷ったのではないか、あるいは妖怪に襲われたのではないかという話が交わされるようになった。

 

 俊宏は、三人目も人里から姿を消したという知らせを聞き、過去二件の記憶と照らし合わせた。

 今回もまた、失踪という結果は得られたものの、それが外界への移動だったことを示す情報は見つからず、妖怪による被害や予想外の事故といった別の可能性も残っていた。

 自分の働きかけが失踪のきっかけになったのか、それとも女は別の理由で行方不明になったのか、現時点で確かな結論を出すことはできない。

 三件の失踪が起きたこと自体は事実だったが、それだけでは、俊宏が知りたい現象の仕組みを説明するには足りなかった。

 

 彼は、これまでの三件を比較し、何が共通し、何が異なっているのかを改めて考えた。

 一人目は人里の外へ出る機会があり、二人目は商いの都合で普段と異なる経路を通り、三人目は薬草を採集するために山裾へ向かっているが、それぞれの行動に直接結びつく共通条件は見当たらなかった。

 失踪した時期も生活環境も違い、三人が互いに関わりを持っていた形跡もないため、同じ現象が起きたのかどうかさえ判定できない。

 仮に三人とも外界へ移動していたとしても、その結果を引き起こした要因が分からなければ、自分の脱出に利用できる方法を見つけたことにはならなかった。

 

 俊宏は、試行を続ければいずれ明確な答えを得られるかもしれないという考えも検討した。

 しかし、過去二件と今回の結果を見比べても、新たに得られた情報は限られており、同じような機会をさらに作ったところで、何が分かるのか予測できなかった。

 四人目の失踪が起きれば、それまでとは異なる条件を観察できる可能性はあるものの、同じように何も確かめられないまま終わることも十分に考えられる。

 情報を増やすという目的だけで試みを続けても、時間と労力を費やすわりに、復讐計画の前進につながらない可能性が高かった。

 

 それ以上に、俊宏は自分が行動を続けることによる危険も考慮しなければならなかった。

 三人は互いに面識がなく、失踪前の生活にも明確な共通点がないため、現時点で一連の出来事が同じ原因によるものだと判断できる者はいないだろう。

 しかし、失踪がさらに増えれば、紫や藍をはじめ、人里の動向を監視している者たちが、過去の事例をまとめて調べ始める可能性はあった。

 俊宏自身が直接疑われるとは限らないが、調査が進む過程で彼の行動や人付き合いが記録と照合されるようになれば、これまで保ってきた平穏な生活にも影響が及ぶかもしれなかった。

 

 俊宏は、三人目の失踪をきっかけに自分の行為を悔やんだわけではなかった。

 彼が気に掛けていたのは、失踪した三人がどうなったのかという事実そのものではなく、彼らの行方を確認できないことで、自分の仮説がいまだ検証されていないという点だった。

 もし三人の誰かが外界へ到達していたと後から分かれば、その記録は有用な情報になり得るが、今の段階で彼らを探し回っても、確かな証拠を得られる見込みは薄い。

 対象者やその家族に事情を説明することも、彼らの安否を案じて何らかの償いを考えることも、俊宏の計画を進めるうえでは必要のない行動だった。

 

 三件目の失踪が人里で話題になっている間も、俊宏は普段の生活を崩さなかった。

 仕事をこなし、養子先の家族と食卓を囲み、周囲との会話でも不自然な態度を見せないようにする。

 座敷童子が身近で暮らしぶりを観察していても、彼女の目に映るのは、日常を送る一人の青年の姿だった。

 俊宏の中では復讐計画が続いていたが、それを外から分かる形で示す必要はなく、むしろ周囲から特別な関心を向けられない状態を保つことが重要だったのである。

 

 数日が過ぎると、女の行方について新たな情報がないまま、人里では別の噂や用事が人々の関心を集め始めた。

 行方不明者の家族や親しい者たちが捜索を続けていても、三人の失踪には確かな解決がもたらされず、原因不明の出来事として残ることになった。

 俊宏は、その結果に満足していたわけではないが、情報が得られない以上、同じ方法を繰り返す必要もないと考えた。

 三件の失踪を成功例として数えることも、すべてを無意味だったと断定することもせず、彼は分かったことと分からないことを区別したまま、実験を続ける価値を見直していった。

 

 最終的に俊宏は、逆幻想入りに関する実験を打ち切ることにした。

 三件の失踪からは、外界へ人間が移動できる可能性を完全に否定する材料も、移動を再現するために利用できる条件も得られていない。

 これ以上続けても情報が増えるとは限らず、むしろ失踪が重なることで調査の対象となり、自分の行動に余計な注意が向けられる危険が高まる。

 彼にとって実験を止めることは、他人を利用した行為を反省するためではなく、得られる成果と発覚の危険を比較した結果だった。

 

 俊宏は、今後の時間を自分自身の脱出準備へ振り向けると決めた。

 人間の失踪という制御できない現象に頼り続けるより、外来人として博麗神社を訪れ、霊夢に外界へ帰還させてもらうという計画を具体化するほうが、自分で準備を整えられる部分が多い。

 もちろん、その方法にも成功の保証はなく、幻想郷生まれの人間が外来人と同じ扱いを受けられるかどうかは分からなかった。

 それでも、服装や振る舞いを整え、外界の人間として不自然に見えない姿を作ることなら、少なくとも自分の判断で進められる余地があった。

 

 こうして、三件の失踪は、俊宏の中で未解決の記録として残されることになった。

 彼は、その後も誰かの失踪を繰り返し起こそうとはせず、これまでに得られなかった答えを無理に追い求めることもやめた。

 しかし、復讐への執着が薄れたわけではなく、妖怪社会の秩序を変えるという目標も変わっていない。

 二十五歳になった俊宏は、次の五年間を自分自身の脱出計画に費やすため、行動を目立たせずに必要な準備を進めることにした。

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