覚悟ガンギマリ系一逸転生者による幻想郷破壊録 作:フリッツⅩ
夜が更け、親類の家が静まり返ったあとも、俊宏はなかなか眠りにつけずにいた。
隣の部屋からは伯父と伯母の話し声が聞こえていたが、翌日の仕事について相談しているのか、親戚の用事について話しているのかまでは分からなかった。
やがて声が途絶えると、家の中には柱の軋む音と、窓の外を吹き抜ける風の気配だけが残った。
布団の中で目を開けたまま、俊宏は両親を失った夜から今までに知ったことを整理していた。
家族を殺した妖怪への憎しみは消えていない。
父と母が最後まで自分を守ろうとしたことも、あの妖怪が人間の命を奪うことにためらいを見せなかったことも、記憶の中では少しも薄れていなかった。
しかし、寺子屋で慧音と接し、人里で暮らす人々の様子を観察するうちに、彼の認識にも変化が生まれていた。
人間を守るために力を使う妖怪がいる一方、人間には到底対抗できない力を持ちながら、命を奪うことに何のためらいもない妖怪も存在する。
どちらも同じ世界に生きている以上、種族だけを理由にすべてを同じものとして憎んでも、家族を失った理由を理解したことにはならなかった。
慧音が自分を気遣い、学ぶ場所を残してくれたことは、紛れもない善意だった。
その事実を否定するつもりはないが、彼女のような妖怪がいるからといって、幻想郷全体が安全な場所になるわけでもなかった。
人間を守ろうとする者がいても、妖怪に命を奪われる人間はいる。
人里の秩序が暮らしを支えていても、その外側で起きることを人間自身が制御できるわけではなかった。
俊宏が変えたいと思い始めたのは、家族を襲った妖怪の存在だけではなく、同じ悲劇が繰り返される可能性を抱えたまま、人々が暮らし続けなければならない状況だった。
仮に犯人を見つけ出して復讐を果たしたとしても、別の妖怪が別の家族を襲う可能性は残る。
個々の妖怪の性質や判断に、人間の安全が委ねられているような仕組みをそのままにしておけば、問題の根本は何も変わらないだろう。
そこまで考えたとき、俊宏はまず、自分の力の限界を認めなければならなかった。
彼はまだ七歳の子供であり、前世の知識が戻ったからといって、妖怪と戦う能力まで手に入れたわけではない。
体格も体力も不足しており、武器を扱う訓練も受けていなかった。
人間と妖怪の間にある力の差は、知識や努力だけで簡単に埋められるものではなかったのである。
ましてや、八雲紫や博麗霊夢を相手にすることなど、現実的な選択肢にはならなかった。
境界を操る能力を持つ紫は、幻想郷の成立にも深く関わる強大な妖怪であり、普通の人間が正面から挑んでも勝ち目はない。
博麗神社の巫女として異変に対処する霊夢も、妖怪に対抗できる力を備えた存在だった。
妖怪の山へ無計画に踏み込めば、天狗や河童をはじめとする妖怪たちの領域で、目的を果たす前に命を落とす可能性が高い。
無謀な戦いを仕掛けることは、勇気ではない。
自分に何ができるのかを理解せず、勝ち目のない相手に命を投げ出すだけなら、父と母が命懸けで守った自分自身まで失うことになる。
俊宏は、怒りに任せて行動するよりも、まず生き延び、長い時間をかけて実現できる方法を探すべきだと考えた。
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最初に必要なのは、人里で目立たずに成長しながら、計画に必要な知識と経験を蓄えることだった。
前世の記憶を持っていると周囲に知られれば、年齢に不相応な知識を持つ理由を疑われるかもしれない。
特に、座敷童子が人間の里の動向を監視する役割を担っていることを知っている以上、自分の考えを不用意に口にするのは避けるべきだった。
養子先の少女は、家族の一員のように俊宏へ接し、食事を共にし、困っていれば気遣ってくれる。
その親切に偽りがない可能性もあり、彼女を最初から敵だと決めつけるつもりはなかった。
それでも、彼女が監視役として誰かに報告を行っている可能性は否定できない。
自分が何を考えているのかを知られないためには、少女との生活を普段どおりに続けながら、胸の内にある目的を表に出さないことが重要だった。
周囲から見れば、家族を失った少年が親類に引き取られ、少しずつ生活を立て直しているだけでよい。
寺子屋へ通い、人々との関係を築き、働くための知識を身につけながら、必要な情報を集めていく。
前世の記憶があることを特別な言動で示さず、誰からも不審に思われない暮らしを続けることが、計画を進めるための土台になるはずだった。
次に考えるべきなのは、幻想郷から外の世界へ出る方法である。
前世で東方Projectに触れていた俊宏は、外界から幻想郷へ迷い込んだ人間が、博麗神社を通じて帰還できる例を知っていた。
少なくとも、幻想郷から外へ出る道が完全に閉ざされているわけではなく、必ずしも大結界を力ずくで破壊する必要はないということだった。
ただし、その知識を自分にそのまま当てはめられる保証はなかった。
外界から迷い込んだ人間と、幻想郷で生まれ育った人間では事情が異なるはずである。
自分が博麗神社へ向かい、外の世界へ帰りたいと願ったところで、霊夢が外来人として扱ってくれるとは限らない。
そもそも、彼女に接触することが自分の目的を知られる危険につながる可能性もあった。
それでも、幻想郷の内部で妖怪社会に直接対抗するより、外界へ出る方法を探る方が実現性は高いように思えた。
自分が妖怪を倒す必要も、大結界を破壊する力を得る必要もない。
外の世界へ移動する道を見つけられれば、幻想郷の中では試せない方法を使って、状況を変える可能性が生まれるからだった。
もっとも、自分一人が外界へ出るだけでは、俊宏の目的を果たすには不十分だった。
仮に脱出に成功しても、それだけで人里の住民が自由に外へ出られるようになるわけではない。
自分の経験を証言したとしても、外界の人々がそれを信じる保証はなく、そもそも身元も証明できない人間の話が、社会に広く受け入れられるとは限らなかった。
そこで俊宏は、自分が外界へ出る前に、ほかの人間が幻想郷から姿を消す事例を残すことも考え始めた。
本人たちを協力者にするのではなく、彼ら自身も理由を知らないまま外界に現れ、その体験が後に記録や証言として残るような状況を想定していたのである。
複数の人間が別々の時期に姿を消し、外の世界で似た経験を語ったなら、後世の人々がそれらを比較し、同じ現象が繰り返されてきた可能性を調べるきっかけになるかもしれなかった。
しかし、それは成功が保証された方法ではない。
人が姿を消したとしても、妖怪に襲われたのか、山で遭難したのか、別の土地へ移ったのか、周囲の人間には判断できないだろう。
外界へ到達できたとしても、本人が証言を残すとは限らず、年月が過ぎれば記憶が曖昧になる可能性もある。
俊宏は、複数の事例があれば後の調査に役立つ材料を残せるかもしれないと考えたが、その構想を実現するための具体的な手段までは分かっていなかった。
さらに、彼は、他人の人生を自分の目的のために利用しようとしていることも理解していた。
彼らは俊宏の復讐に同意しているわけでも、何らかの計画に協力するつもりでもない。
自分の意図を知らせずに事例を作ろうとすることは、相手の意思を尊重した行動とはいえなかった。
それでも、幻想郷の外に人間が現れた記録を残すことが、将来、自由に外へ出る道を探すための手掛かりになる可能性は捨てきれなかった。
この構想も、実際に使える方法を見つけるまでは、計画の一部にすぎない。
俊宏は、焦って行動するより、まず幻想郷で生き延びながら、外来人についての知識を整理し、どのような条件で帰還が可能になるのかを探ろうと考えた。
必要な情報を集め、方法が見つかれば試し、失敗した場合には原因を考え直す。
今の自分にできるのは、そのための準備を積み重ねることだった。
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外界へ出られたとして、その先で何をするのかも考えておかなければならなかった。
前世の記憶には、現代社会で暮らしていたころの知識が残っている。
交通手段や通信技術、学校で学んだこと、インターネットを通じて情報をやり取りする方法など、幻想郷の日常とは異なる仕組みを断片的ながら覚えていた。
しかし、知識があることと、実際に生活を立て直せることは同じではない。
外界で暮らすには、住居や収入を確保し、社会の中で自分の立場を築く必要がある。
前世で生きていたときの身分や経歴を、そのまま利用できるわけでもなかった。
幻想郷から脱出することに成功しても、その先で生活に行き詰まれば、目的を果たすための活動を続けることは難しくなるだろう。
だからこそ、外へ出る道を探すのと同時に、外界で生きるための準備についても、成長する過程で考えていく必要があった。
俊宏が目指しているのは、外界で自分の安全を確保することだけではない。
幻想郷の存在を、外の世界に暮らす人々へ知らせることだった。
彼は前世で、東方Projectという作品を通じて博麗霊夢や八雲紫をはじめとする登場人物、人間と妖怪の社会、さまざまな異変や出来事について知った。
その知識がなければ、自分が暮らしている世界の正体を理解することも難しかったはずである。
ところが、この世界には、前世で知っていた東方Projectが存在しなかった。
外界へ出られれば、自分の記憶に残る物語を作品として世に送り出す機会があるかもしれない。最初から幻想郷の実在を主張しても、信じてもらえるとは限らない。
むしろ、物語として人々の興味を引き、作品そのものを多くの人に知ってもらう方が、未知の世界に関心を持つ者を増やす可能性があった。
もちろん、作品を作れば必ず人気が出るわけではない。
世界観を細かく作り込んでも、読者に受け入れられなければ広く知られることはないだろう。
創作で生計を立てられるようになるには、作品を完成させる能力だけでなく、読者を獲得し、活動を長く続けるための工夫も必要だった。
俊宏は、まず他のジャンルの小説にも取り組み、作家としての基盤を築いてから、東方Projectを世に出すことを考えた。
その作品が人気を得て、幻想郷の人物や土地、妖怪の性質や出来事が広く知られたなら、後に現実の証拠が現れたとき、人々は未知の世界を理解するための共通の手掛かりを持つことになる。
そこへ、幻想郷から姿を消した人間の証言や、過去の失踪に関する記録、説明のつかない目撃情報などが結びつけば、単なる空想として処理されてきた話を改めて調査する者が現れるかもしれなかった。
ただし、作品の人気だけで大結界が弱まるとは限らない。
外界の人々が幻想郷の存在を認識することが、結界や妖怪のあり方にどのような影響を及ぼすのか、俊宏には確かな知識がなかった。
前世で知っていた設定を現実の現象へそのまま当てはめることはできず、どれほど作品が流通しても、世界の仕組みが変わらない可能性は残っている。
それでも、外界の人々が幻想郷をまったく知らない状態と、作品や記録を通じて共通の認識を持っている状態では、現実を示す証拠が現れたときの反応が変わるはずだった。
物語によって関心を引き、複数の証言や記録によって現実との接点を増やし、幻想郷を架空の世界として片づけることが難しい状況を作る。
その積み重ねが、やがて外界と幻想郷の関係を変える可能性につながると、俊宏は考えた。
こうして、彼の構想には三つの方向が生まれつつあった。
幻想郷の中では目立たずに暮らし、外界へ出る方法を探す。自分より先に外界へ現れた人間の記録を残し、後の調査に役立つ材料を作る。
そして、脱出後は生活基盤を整え、創作活動と現実の証拠の積み重ねによって、幻想郷の存在を広く認識させる。
いずれも確かな成功の見込みがあるわけではないが、妖怪と直接戦うより、自分の知識を活用できる道だと思えた。
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計画の輪郭が見えてくるにつれて、俊宏はその内容を紙に書き残すべきではないと気づいた。
養子先には座敷童子が住んでおり、彼女が人間の里を監視する役割を担っている可能性を知っている以上、計画書を保管しておくのは危険だった。
彼女が部屋を勝手に探ると決めつけるつもりはなかったが、わざわざ重要な情報を読まれる可能性のある場所に置く理由もない。
少女の親切をすべて偽りだと考える必要はなかった。俊宏を家族の一員のように気遣う気持ちが、本物である可能性もある。
それでも、監視役としての務めがあるなら、日常の会話や行動から得た情報を誰かに伝えているかもしれない。
計画を知られれば、実行に移す前から警戒される危険があるため、その内容は自分の頭の中だけに留めておく方がよかった。
俊宏は、長期的な目標をいくつかの柱に分けて記憶し、細部は成長してから考え直すことにした。七歳の自分が、十年、二十年先までの手順を正確に決めるのは難しい。
これから幻想郷で何が起きるのかも分からず、前世で知っていた作品の展開が、この世界でも同じように進む保証はない。
だからこそ、計画を完成された設計図として固定するのではなく、新しい情報を得るたびに修正できる構想として持っておく必要があった。
彼には、まだ時間も知識も経験も足りていない。
外界へ出る方法は分からず、他の人間を先に外へ移動させる手段も見つかっていない。
作家として成功できるかどうかも、大結界に影響を与えられるかどうかも、現時点では仮説にすぎなかった。
それでも、何もせずに生きることを受け入れれば、家族を失った出来事は自分にとって取り返しのつかない悲劇のまま終わってしまう。
父と母が命を懸けて守った自分を、彼は生き延びさせなければならなかった。
そして、自分が暮らしている世界の仕組みを知り、人間が自らの意思で生き方を選べるようにするためにも、まずは必要な知識と機会を集めていくしかない。
俊宏は目を閉じ、今夜考えた構想をもう一度、頭の中でたどった。
明日になれば、彼は何も変わらない子供として、寺子屋へ通い、親類の家で食事をし、周囲の人々と普段どおりに接するつもりだった。
計画を誰かに相談することも、協力を求めることもない。
状況が変わるたびに考え直しながら、自分が取れる行動を少しずつ増やしていけばよかった。
彼は復讐を諦めたわけではない。
ただ、妖怪を倒すことだけを目的にするのではなく、妖怪社会が成り立つ仕組みそのものを変える方法へと、考えを移し始めたのである。
外界へ出て、幻想郷の存在を外の世界に知らせ、人間が自分の意思で生き方を選べる道を作る。
その目標を、俊宏は誰にも話さず胸の内にしまい込んだ。
今夜の構想がどこまで実現できるのかは分からないが、少なくとも彼は、これから何を目指して生きるのかを自分自身に示すことができた。
座敷童子が隣の部屋で何をしているのか、俊宏には分からなかった。
それでも、彼の頭の中で組み立てられた計画の全容まで、誰かに読み取られることはない。
そう考えながら、彼は静かに眠りにつこうとした。
翌朝になれば、周囲の人々には、親類に引き取られた少年が少しずつ元の生活を取り戻しているようにしか見えないだろう。
その平凡な日常の裏側で、井深俊宏は、長い年月をかけて幻想郷の外から世界を変えるための第一歩を踏み出していた。