北神三世の兄-弟に勝つため本気出す-   作:ドゥンピドゥンピ

10 / 10
本日二度目の更新です


#10 紛争地帯①

紛争地帯と呼ばれる場所がある。

アスラ王国から東、山を越えて更に北東。

 

そこは多数の小国が建国と滅亡を繰り返す、無法地帯。

人々は地位や権力、金や女を求めて争い続ける。

 

そこにある、とある国。

 

 

「話を、話を聞いてくれないか!?」

 

 

ロアの町長、フィリップ・ボレアス・グレイラットは弁明をしようとしていた。

相手は国の兵士であり、ここは紛争地帯の森の中。

天幕がいくつか張られている程度の小さな拠点に、フィリップは居た。

 

そのフィリップの背後には妻、ヒルダ・ボレアス・グレイラットが恐怖で怯えていた。

 

 

「身分を証明できるものはない癖に、格好だけは一丁前。挙げ句の果てに、気付けば突然ここにいたさと?マルキエンの奴らも、諜報を雇うんなら、まともな奴を選べってのに」

 

 

彼等は冒険者上がりの兵士だった。

兵長ですら、高度な学習を受けていない。

荒くれ者、と呼ぶに相応しい。

 

そんな彼等にとって、突然現れた貴族然とした姿の二人の姿は胡散臭く見えた。

 

 

「こ、これには訳があるんだ!聞いてくれ、私達はスパイなどではない……!」

 

「疑わしい奴こそ、疑わないでくれって言うもんだぜ」

 

 

兵長は貴族が嫌いだった。

前線で戦う兵士を、安全な場所でこき使う。

そんな奴らの格好をしているだけで、この目の前にいる男女に対しての印象は最悪だ。

 

 

「頼む……せめて、妻だけは……」

 

 

震える妻を前にして、フィリップは庇うように前へ出た。

 

そんなフィリップの後ろを覗くように兵長は見た。

胸の大きな赤髪の女性……ヒルダを見て、舌舐めずりをした。

 

そして、背後で待つ兵士達に振り向いた。

 

 

「男は殺せ!女は“使って”からだ」

 

 

その言葉の意味を察して、フィリップは顔を青ざめた。

ヒルダは身を震わせた。

 

ここには仲間がいない。

家臣も護衛も居ない。

身分を証明できるものも、ない。

 

所謂、詰みであった。

知恵の回るフィリップだからこそ、現状を突破する術がないことを自覚していた。

 

どうしたこんな事になったのか。

何が起こったのかフィリップには分からなかった。

途轍もない光が落ちてきて、咄嗟にヒルダの手を握ったのは覚えている。

 

次に目が覚めた時は、ここにいた。

そして既に捕えられていたのだ。

 

如何に知恵が回ろうと、既に詰まされていた状況を変える事はできない。

兵士に抑えつけられながら、フィリップは妻と……娘のことを思い出して──

 

 

「あのー」

 

 

声が響いた。

咄嗟に全ての兵士が振り返った。

 

兵長も含めて、振り返った。

 

 

「……あ、取り込み中でしたか?」

 

 

そこに居たのは黒髪、赤目の青年だった。

緊迫した状況に相応しくない愛想笑いを浮かべた青年だ。

腰の左右に剣を差している事から、戦える人間……剣士である事が分かった。

 

 

「お前、何者だ?」

 

 

それは当然、兵長や兵士達にも分かる事だ。

戦えないであろう、フィリップとヒルダより、その男の方が重要だ。

自然と警戒心を向けた。

 

 

「アルフレッドです。それで……ここは何処ですか?」

 

「はぁ?何言ってんだ?」

 

「いえ、気付いたらここに居たので……」

 

「ああ……?」

 

 

フィリップは察した。

この男も自分や妻と同じ被害者なのだと。

 

そんな男が、ちらとフィリップを見た。

 

 

「ん?あれ?フィリップ様ではないですか?」

 

「……なんだ、お前もこいつの仲間か?」

 

「あ、いえ?私は一度、ロアの街に行きましてね。彼はそこの町長なのですよ。何故、こんな事に?」

 

 

フィリップは、目の前に糸が垂らされたかのように幻視した。

救いの糸が見えた。

それを手繰り寄せならなければならない、と。

 

 

「ア、アルフレッド殿!助けて頂けませんか!?彼等に私の身分を証明して頂きたい!」

 

「え?ああ、はい。聞きましたか?彼はアスラ王国のフィットア領ロアの町長ですよ。私が保証します」

 

 

危機感のなさそうな顔に、フィリップは少し不信感を抱きながらも、この場で仲間になってくれるのなら……と全てを賭けた。

どうせ足掻かなければ死ぬ命だ。

これ以上、悪い方向には進まないだろうと、そう思ったのだ。

 

 

「お前ら何を言ってやがる。よく知らねぇ奴が、よく知らねぇ奴の知り合いだからって、なんの証明にもなりゃしねぇよ!」

 

 

兵長が剣で地面を叩いた。

 

 

「そうですか、それは残念です。ですが、見捨てても目覚めが悪いので、そこのお二人の身を私に預けてくれませんか?」

 

「だから馬鹿言うんじゃねぇよ!そもそも、お前も逃がすつもりはねぇ……どうせ、どっかの諜報仲間なんだろうが!」

 

「諜報……ふむ?」

 

 

首を傾げるアルフレッドを見て、兵長の怒りは限界に達した。

惚けたような顔と仕草に、腹が立ったのだ。

 

こちらは真剣に話しているというのに、脅しているというのに、危機感が全くないからだ。

 

 

「こいつも殺せ!」

 

 

紛争地帯に法は存在しない。

小国がひしめき合い、騙し騙され合う中、独自の裁量を持って殺し合いを続けている。

兵長の選択は、何もおかしいものではなかった。

 

 

「なるほど」

 

 

アルフレッドへ向けて、兵士が殺到した。

殺してやると、剣を振り上げて。

 

 

「では、これは正当防衛ということで」

 

 

囲んでいた兵士の全員。

その腕から血が吹き上がった。

 

 

「あ……?」

 

 

兵長は剣神流の上級剣士だった。

だから、理解してしまった。

 

取り囲んだ兵が襲おうとした一瞬。

その一瞬で、アルフレッドは兵の腕にある筋肉の筋を、撫でるように切り裂いたのだ。

それも一人ではなく、四人……全員が剣を持てぬように、腕の筋だけを斬ったのだ。

 

正直に言えば、見えなかった。

結果から推測することしか出来なかった。

 

だが、力量の差は分かった。

 

 

「ひっ」

 

 

くぐもった声が響いた。

それは兵が怯えた声か。

いいや、兵長自身の声だった。

 

 

「無駄な殺生をするつもりはありません。そこのお二人の身を、私が預かっても?」

 

 

全く危機感もなく、敵意もない。

町の商人のような態度で、アルフレッドはそんなことを口にした。

 

その様子に、兵長の誇りは強く傷つけられた。

彼は兵士である前に、剣士でもあった。

その力と技で、ここまで登り詰めたのだ。

 

我慢ならぬ事であった。

 

 

「っ、動くな!抵抗するな!抵抗したら、お前の仲間を殺す!」

 

 

兵長はフィリップの首元に剣をおいた。

薄皮が切れて、血が垂れた。

 

 

「まぁ、待ってください。仲間ではないと言ってるじゃないですか。人質にしても無駄ですよ」

 

 

アルフレッドに焦る様子はない。

 

 

「はぁ……!?お、お前!」

 

「何ですか?」

 

 

その様子に兵長は迷った。

ここでこの男を人質にしても……殺しても、意味がないのではないか。

殺した後に、皆殺しにされてしまうのではないか。

 

兵長が剣を緩めた、その瞬間。

 

 

「アルフレッド殿!私の身はどうなっても構いません!私が死んだとしても、妻だけは助けて頂けないか!」

 

 

抑えていたフィリップが、そんな事を口にした。

思わず、兵長はフィリップを抑えつけようとした。

 

 

「うるさい!今、交渉してるのは俺だ!お前は黙って──

 

 

そう、抑えつけようとした。

だが、出来なかった。

 

両腕が既に、その場に無かったからだ。

 

 

「あ」

 

 

冷たい感触がした。

熱が消えていく感覚……そして、兵長は尻餅をついた。

 

腕は地面に転がっていた。

だが、アルフレッドは一歩も動いていないように見えた。

 

何が起こったのか。

見えない、分からない、知らない。

怖い。

 

恐怖が脳内を締め付ける中、アルフレッドを見た。

ただ、恐怖に怯える兵長を無視して、フィリップを見ていた。

 

 

「……いいですね。そういう人は嫌いじゃないですよ。肩入れしましょうか」

 

 

瞬間、アルフレッドが剣を構えた。

分厚い剣と、細い剣。

それらが何をもたらすのか、兵士達は察した。

 

 

「さ、降伏するなら命までは──

 

「うわああ!」

 

「あ、あああ!」

 

 

そして、一目散に逃げ出した。

拠点を捨てて、逃げ出したのだ。

 

兵長も、遅れて逃げ出した。

切断された腕を捨てて逃げ出した。

だが……その出血では、長くは生きられないだろう。

治癒魔術を扱える魔術師が、兵の中に居る訳もない。

そんなことも頭に回らないほど、恐怖が強かったのだ。

 

アルフレッドの前に兵士達は居なくなった。

しかし、その表情は……困惑していた。

 

 

「え?あれ……?おかしいな、逃げるのか……降伏してくれたらよかったのに」

 

 

ぽつぽつと独り言を口にするアルフレッドに対して、フィリップとヒルダは目を合わせた。

一旦、危機は去ったのだ。

 

安堵の息を吐き、互いに抱きしめ合ってから……フィリップは立ち上がり、アルフレッドへ頭を下げた。

 

 

「アルフレッド殿……先程は助けてくださり、ありがとうございました」

 

「いえ、当然のことをしたまでです。私にも欲しいものがありますので」

 

「ほう、欲しいものですか?」

 

 

この男は見返りを求めているのだろう。

金か、名誉か、女か。

フィリップが少し緊張していると──

 

 

「情報ですよ」

 

「情報?」

 

「ここって何処なんですかね?分かります?」

 

 

フィリップにも答えようのない質問をしてきたのだ。

 

 

「……いえ、分かりませんね。何分、私達も急にここへ連れて来られたので」

 

「ああ、フィリップ様も私と同じ状況だったのですね。なら、困ったな……王都アルスに帰らなきゃならないのになぁ」

 

 

後頭部をがしがしと掻きながら、アルフレッドは顔を顰めていた。

 

そんなアルフレッドを見て、フィリップは危機感を覚えていた。

 

恩を売りたい訳ではないらしい。

金が欲しい訳でもないらしい。

町長という地位に対して、何の見返りも求めていない。

ただ、帰るべき場所に帰りたがっている。

 

それは困るのだ。

 

 

「アルフレッド殿、一つ依頼を受けて頂けませんか?」

 

「え?はい?受けるかどうかは……内容次第ですが」

 

 

フィリップは再び、アルフレッドに対して頭を下げた。

 

 

「ロアの街まで、護衛をして頂きたい。報酬として、払えるだけの金銭を払う事を保証しますので……どうか」

 

 

ここで断られれば、再び危機に陥るだろう。

フィリップもヒルダも貴族だ。

何処か分からないような森の中、二人で生き残る術はない。

 

そんな二人に対して、アルフレッドは目を瞬いた。

 

 

「ええ、はい。それは……勿論。それで、依頼とは何をすれば?」

 

「え?」

 

「えっ?何ですか?」

 

 

話が噛み合っていない。

フィリップは少し困惑して……察した。

 

 

「アルフレッド殿、ロアの街までの護衛が依頼です」

 

「え?あぁ、そういう事ですか……いや、失敬。すみません。護衛致しますよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 

アルフレッドは元から、依頼などなくともロアの街まで護衛してくれるつもりだったのだ。

それはきっと、あの時、「肩入れする」と口にした時から決まっていたことなのだ。

故に、話が噛み合わなかった。

 

フィリップは少し呆れた。

何の躊躇いもなく、無償で人助けをするアルフレッドに。

そして、そんな男がお人好しは嫌いでは無かった。

 

対して、アルフレッドは首を捻って天幕を見渡した。

 

 

「えーっと、じゃあ、まず、彼等の食料や灯りの燃料を頂きましょうか」

 

「え、え?」

 

「迷惑料ですよ。それに、どうせ彼等は帰って来ませんから」

 

 

アルフレッドの言葉の意味を、フィリップは少し考えて……理解した。

 

兵の殆どは剣を握れない。

兵長は恐らく失血死する。

 

そんな状態で、こんな森の中を行く。

こういった森には魔物がいる。

襲われれば、生きては帰れないだろう。

戦う術が無いのだから。

 

少し、怖気がした。

 

 

「さ、フィリップ様も手伝って下さい。人手が足りないんですから」

 

 

お人好しのような顔をしながら、残酷さも持ち合わせているのだと……フィリップは息を呑んだ。

 

 

 

 




次回は明日7:00
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

剛腕転生~気合いと根性で殴り倒します~(作者:ラリゴラリゴラリゴ)(原作:無職転生)

自分の我を通した結果、壮絶な最期を迎えた少年は気付けば異世界の戦場に放り出された幼子となっていた。▼前世で磨かれた喧嘩殺法と、異世界に来たことで獲得したチート染みたスペックをもって彼は世界を生きていく


総合評価:1860/評価:8.79/連載:7話/更新日時:2026年10月10日(土) 19:00 小説情報

迷宮を目指した俺は、世界を間違えた(作者:アルマトラン)(原作:無職転生)

二十一歳で死んだ大学生は、異世界で二度目の人生を始めた。▼魔法がある。▼魔物がいる。▼迷宮がある。▼大好きだった『マギ』の世界だと思った。▼……ところが。▼ジンがいない。▼金属器もない。▼ーーどうやら俺は、世界を間違えたらしい。▼これは、勘違いから始まる二度目の異世界人生。


総合評価:2558/評価:8.2/連載:26話/更新日時:2026年10月12日(月) 00:41 小説情報

天剣へと至る愚者(作者:一般通過害悪)(原作:無職転生)

ルーデウス・グレイラットの双子の弟は転生者である。▼後世には『天剣』として伝えられることになる。▼これは、彼が生前に書いた日記を辿っていく物語。▼※アンチ・ヘイトとクロスオーバーは念の為。


総合評価:3636/評価:8.14/連載:10話/更新日時:2026年08月22日(土) 15:30 小説情報

玉葱騎士、六面世界に立つ(作者:プラザ合意)(原作:無職転生)

▼何もかも忘れ、志半ばで倒れた騎士。▼彼は何の因果か、異世界で再び剣を取る。▼たとえ記憶を失っても、たとえ壊れてしまっても。▼それでも彼は、誰かを守ろうとした。▼※ダークソウルと無職転生のクロスオーバーがないので自分で書きました。玉葱と言っているものの、主人公はジークマイヤーさんでもジークバルトさんでもジークリンデさんでもないです、すみません。


総合評価:3913/評価:8.7/連載:50話/更新日時:2026年10月10日(土) 20:01 小説情報

選択内容全部S(作者:青林)(原作:オーバーロード)

「あなたの分身がオーバーロード世界にいたら」の六つの選択内容が全部Sの主人公を妄想した二次創作。▼作中の設定や諸々に妄想が入ってるので苦手な方はブラウザバック推奨です。▼「あなたの分身がオーバーロード世界にいたら」▼https://overlord-anime.com/_season4/10th-anniv/▼タグ追加 9/5


総合評価:3895/評価:8.65/連載:3話/更新日時:2026年09月07日(月) 06:36 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>