北神三世の兄-弟に勝つため本気出す-   作:ドゥンピドゥンピ

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#12 紛争地帯③

褐色で灰色の髪を持つ、獣族の女剣士とアルフレッドは向き合っていた。

間違いなく正気を失っているその様子に、驚きつつも抜いた剣で向き合う。

 

 

「ガアアァァッ!!」

 

 

刹那、女剣士が雄叫びを上げた。

その咆哮には人を萎縮させる力がある。

しかし、アルフレッドには効かなかった。

 

ああいった技能を使う獣族と、アルフレッドは何度も戦っていた。

単純な慣れだ。

 

アルフレッドは怯まなかった。

それでも、女剣士は止まらない。

 

 

「ん……?」

 

 

闘気、というものが存在する。

一流の剣士であれば身に纏える力の流れだ。

身体の肉片全てに魔力を纏うことで、身体能力を強化する。

 

魔力を使うが、魔術とは違う技術体系に存在する。

 

そんな闘気を、女剣士は足へ、腰へ、腕に。

 

正気を失っているにも関わらず、極めて合理的な流れで剣先の一点へと力の流れを集中させたのだ。

一切のブレがなく放たれた、光速の刃がアルフレッドへと迫った。

 

これこそ剣神流を奥義、『光の太刀』である。

回避不能、防御不能の一撃だ。

 

 

その、瞬間。

 

金属音が鳴り響いた。

 

 

「グゥッ!?」

 

 

アルフレッドは『光の太刀』を防いでいた。

本来ならば、剣王クラスの『光の太刀』を正面から受け止めることは難しい。

難しいだけで不可能ではないが、それでも余裕を持って防ぐ事は出来ないだろう。

 

しかし、使い手は正気を失っている。

消耗もしているように見えた。

 

技と速さに、衰えが見えた。

 

 

「落ち着いてくれます?」

 

 

声を掛けるが、返事はない。

 

 

「グルルルルルル!」

 

 

それどころか、先程の攻防で警戒心を強めただけだった。

 

 

「……うーん、手加減は得意じゃないんだけどなぁ」

 

 

アルフレッドはそう口にする。

手加減とは高等技術である。

相手の力量を見極めて、無力化できる程度に痛めつける……言うは簡単だが、行うのは難しい。

 

そして、アルフレッドは器用ではない。

そう自覚していた。

 

 

「ガアアァァッ!!」

 

 

アルフレッドが侮っている事に気付き、女剣士が再び飛び掛かった。

 

 

(こういう時は、アレかな)

 

 

女剣士は、再び『光の太刀』を放とうと剣を振り上げた。

剣神流『光の太刀』だ。

 

そんな女剣士に対して、アルフレッドは剣を構えて、腰を落とした。

凄まじい速度で剣が迫る中、アルフレッドは構えた剣で受け止めた。

しかし、先程のようなただの防御ではない。

 

水神流『流』。

 

受け止めた『光の太刀』を、そのまま受け流したのだ。

 

 

「ッ!?」

 

 

女剣士の剣は勢いが一切落ちぬまま、地面へと突き刺さった。

対して、アルフレッドの剣はまだ健在だった。

 

反撃すべきか?

しかし、剣を返せば致命傷となる。

水神流の道場のように、治癒魔術の備えがあるなら別だが……こんな場所で怪我をすれば治療は難しい。

 

アルフレッドは腰を落としたまま、剣を引き──

 

 

「グギャッ!?」

 

 

女剣士の顎を蹴り抜いた。

闘気を纏った不死魔族の肉体から放たれた正確な一撃は、女剣士の顎を打ち抜き、脳を揺らした。

そして、一瞬で意識を奪ったのだ。

 

泡を吹きながら、白目を剥き、女剣士は地面に倒れた。

 

 

「ふぅ……いや、こんな場所で、このレベルの剣神流の剣客がいるとは。驚いたな」

 

 

疲労から息を吐き、アルフレッドは剣を鞘に収めた。

そして、視線を女剣士に向けた。

 

 

(てか、露出度高いな、この人……)

 

 

半裸と言ってもいいほど、布面積が少ない。

そこから褐色の艶めかし……くない、筋肉質で硬そうな身体が見えている。

 

 

(……でも、やっぱり見覚えある気がするんだよなぁ)

 

 

なんとなく罪悪感を感じたアルフレッドは、目を逸らして後頭部を掻いた。

 

 

(取り敢えず、フィリップ殿とヒルダ殿を呼ぶか。この人をどうするかは、それからだな)

 

 

そうして、アルフレッドは待たせていた二人を呼ぶべく、女剣士を放置して踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギレーヌじゃないか!」

 

 

戦いが終わったとアルフレッドに呼び出されたフィリップは、倒れた女剣士に覚えがあった。

ボレアス家に仕える剣王、ギレーヌ・デドルディアだったのだ。

 

 

「あれ?お知り合いですか?」

 

 

そんな事も知らず、アルフレッドは目を瞬いた。

 

 

「え、ええ、はい……先日話していた、ボレアス家に仕えて貰っている剣王です」

 

「あぁ……なるほど、剣王ですか。どうりで強い訳ですね」

 

 

あっけらかんと口にするアルフレッドに対して、フィリップは苦笑した。

正気を失った獣族の女剣士に襲われた……と語るアルフレッドの言葉を聞いて、ギレーヌかと期待していたが……まさか、無傷で制圧されているとは思ってもいなかった。

 

ギレーヌは極限状態に陥ると正気を失う。

敵味方関係なく暴れ続けて、甚大な被害をもたらす。

フィリップは実際に目撃した事はないが、そう聞いていた。

 

そんなギレーヌを怪我すらさせずに、制圧した。

それ程までに、この男は強いのか。

フィリップは内心で、アルフレッドの評価を更に上げた。

 

そして、ギレーヌの前に座り込んだ。

 

 

「ギレーヌ、起きてくれ」

 

「……む、ぅ」

 

 

声を掛けながら揺すると、ギレーヌはすぐに目を覚ました。

幸い、目には理性の色が見えた。

 

 

「起きたかい?ギレーヌ」

 

「……フィリップ様か!?」

 

 

瞬間、素早くギレーヌは姿勢を正した起き上がった。

しかし、顎を揺らされて脳にダメージが入っているのか、少しおぼつかない仕草だった。

 

 

「ヒルダ様も……」

 

 

そんなギレーヌは周りを警戒して……ヒルダを見付けて安堵した。

しかし、アルフレッドと目が合い、再び警戒心をあらわにした。

 

 

「お前は……!」

 

「あー……先程はすみません?正気を失っていたようなので」

 

 

アルフレッドにそう言われて、ギレーヌは硬直した。

先程までの記憶は曖昧である。

自分の悪癖により、正気を失っていたのだと……ギレーヌは察した。

 

しかし、警戒は辞めない。

この男が本気になれば、フィリップとヒルダを即座に殺害できる。

そう考えて、腰の剣に手を伸ばして。

 

 

「ギレーヌ、彼は仲間だ。名前をアルフレッド殿だね」

 

「……フィリップ様がそう言うのであれば。信用できるのですか?」

 

「命を助けて貰ったんだ。危害を加えるぐらいなら、そもそも私達を助けないだろう?」

 

 

フィリップにそう言われて、ギレーヌは「確かに」と頷いた。

難しいことは分からないが、単純な理屈は理解できた。

 

そう考えると、自身が居ない中、フィリップとヒルダを助けてくれた恩人となる。

 

 

「……フィリップ様とヒルダ様を助けて頂き、感謝する」

 

「いえ、成り行きだったので。感謝されるほどの事じゃないですよ」

 

 

ギレーヌは片眉を上げた。

強い剣士とは、強い自我を持っているものである。

強さに貪欲である人間は、勝利に執着するものだ。

こういった物腰の柔らかい……と言えば聞こえは良いが、悪く言えば『卑屈』な剣士は珍しいのである。

 

 

「ギレーヌ、ここに来てから何をしていたんだ?」

 

 

不審がるギレーヌに対して、フィリップが声をかけた。

 

 

「私は──

 

 

そこで語られたのは、ここに来るまでの経緯だ。

まず、フィットア領にてペルギウスの部下に襲われたこと。

エリスとルーデウスを守ろうとしたが、謎の光によって転移させられたこと。

 

見知らぬ場所で兵士や野盗、魔物に襲われ、戦い続けたこと。

空腹で意識が朦朧としていたこと。

などなど。

 

 

「なるほど……」

 

 

そこまで話を聞いたフィリップは、取り敢えずギレーヌに食料である干し肉と乾かした麦を渡した。

 

 

「はぐっ、ふぐっ」

 

 

脇目も降らず食べているギレーヌを横目に、フィリップはアルフレッドに目線を戻した。

 

 

「ギレーヌは剣王です。アルフレッド殿さえ良ければ、彼女も護衛に加わって貰いましょう」

 

「勿論、構いませんよ。しかし、元々の護衛の方が戻ってきたとなれば、私もお役ごめんですかね?」

 

 

冗談か本気か分からない事を言うアルフレッドに対して、フィリップは真顔になった。

 

 

「いえ、必要です」

 

「え?」

 

「ギレーヌはその、剣を振るうのは得意なのですが……旅などはその、致命的でして」

 

「……致命的ですか?」

 

「元々、行き倒れていたのをエリスが拾いまして。それ程です」

 

「……あ、そうなんですか」

 

 

フィリップとアルフレッドは、ギレーヌを一瞥した。

無心で食料を貪っており、こちらを気にする素振りすら見せなかった。

 

 

「とにかく、フィットア領のロアまでは護衛をお願いします……報酬は可能な限り用意致しますので」

 

「それは、まぁ……分かりました」

 

 

ここでアルフレッドを失いたくはない。

彼の存在はフィリップにとって、一種の安心材料となっていたからだ。

 

 

 

 

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