北神三世の兄-弟に勝つため本気出す-   作:ドゥンピドゥンピ

15 / 15
#15 夢と現実と折り合い

目が覚めれば、白い空間にいた。

真っ白な空間だ。

 

これはおかしい、とアルフレッドは思った。

自分は先程まで、シーローン王国の西にある小国に居た筈だ。

 

はぐれ赤竜を討伐して、素材を換金するために戻って来て……宿を借りて寝ていた筈だ。

 

だというのに、見えるのは白い空間。

自分の手足を見れば、痩せ細った病人のような手足。

なるほど、夢か。

 

二度寝をするべく、何もない空間で寝転がろうとして──

 

 

「ちょっとちょっと、夢の中で寝ようだなんて、おかしくない?」

 

 

男か女か分からない声に、アルフレッドは顔を上げた。

そこに居たのは、のっぺりとした白い顔をした人型の何かだった。

 

 

「初めまして、こんにちは、かな?アルフレッド君」

 

 

まるで全身モザイクがかかったように見えた。

何者なのか分からず、アルフレッドは警戒した。

 

 

「おっとっと、そんなに警戒しなくていいじゃないか?ボクは神様なんだよ、人神(ヒトガミ)だ」

 

 

ヒトガミ、という単語にアルフレッドは覚えがなかった。

神様というのは、聖ミリスのことじゃないか、なんて思ったほどだ。

 

 

「ああ、それは聖人だね。人さ。神様なんかじゃないよ。でも、君はアレだね。宗教の話とか、話半分に聞いてるだろ?」

 

 

図星だった。

だが、アルフレッドは警戒を強めた。

口に言葉を発していないにも関わらず、思考を読み取られたからだ。

 

 

「まぁ、ボクって神様だからね。君の思うことも、大体分かるってワケ」

 

 

なるほど、とアルフレッドは思った。

しかし、それと同時にやはり胡散臭いと思った。

人に無条件で優しくする奴は疑った方がいい……そう父は言っていたからだ。

 

 

「酷いなぁ。ボク、君に良い話を持って来たのに」

 

 

アルフレッドは首を傾げた。

 

 

「そう、良い話だよ。ボクはある程度、未来が見えるんだ……君の望み、叶えてあげてもいいんだけど」

 

 

望み、と言われても、アルフレッドには何も思い付かなかった。

無欲だと自認している訳ではないが、特に欲しいものなど今は無かったからだ。

 

 

「君のお父さん。北神二世アレックス・カールマン・ライバックの居場所について、知りたくないかい?」

 

 

瞬間、アルフレッドは膝を立てた。

 

 

「どうどうどう、落ち着きなよ。いやぁ、これだけ食い付きがいいと助言しがいがあるね」

 

 

助言、という言葉にアルフレッドは首を傾げた。

急に胡散臭くなったからだ。

初回無料と聞いて登録したら、有料分を支払うまで解約できない契約みたいだ。

 

 

「君の例え話はよく分からないけど、助言は聞いた方がいいよ?これからボクが語る話を、君は信用しても良いし、しなくてもいい。自分で判断すれば、ボクに騙される筈もないよねぇ?」

 

 

それは確かにそうだ。

人神の言葉に、アルフレッドは頷いた。

 

 

「では、ごほん。ではまず、君の父親、アレックスは今……シャンドルって偽名を名乗ってるね」

 

 

偽名を名乗っているのか。

どうりで見つからない訳だ。

 

 

「今は紛争地帯に居る。元々、北神流を広めるために、教えて回っていたようだね。いやぁ、熱心だ」

 

 

アルフレッドは目を瞬いた。

自分達の転移先も紛争地帯だった。

入れ替わりで来たのか、それとも、そもそも同じ場所に居たが合わなかったのか。

 

 

「いいや、入れ替わりだよ。君が去ってから、アレックスは来たんだ」

 

 

それは何故だろうか。

 

 

「簡単な話さ。君は結構、有名人なんだよ。紛争地帯で暴れ回っただろ?アルフレッドって名前の北神流使い……そこまで聞けば、分かる人には分かる。だから、アレックスが追って来たんだよ」

 

 

何故、父親が追いかけて来るのだろうか。

 

 

「そりゃあ君が心配だからさ」

 

 

アルフレッドは首を傾げた。

何故、心配されているのだろうか。

 

 

「アレックスは、北神流道場から逃げ出した奴らが作った盗賊団に、胸を痛めていた。捕えようとした矢先、君が動き出した……だから、アレックスはあえてフィットア領に行かなかった。分かるかい?」

 

 

アルフレッドは首を横に振った。

分からなかったからだ。

 

 

「君が使命感に燃えてたから、だよ。アレックスは自主性を重んじるんだ。君が自力で何とかしようとしてるなら、見守ってやろうって親心だね」

 

 

アルフレッドは首を傾げた。

自分の父親にそんな甲斐性があるとは思えなかったからだ。

 

 

「酷いこと言うね、君……親の心、子知らずって事かな?まぁ、いいや。魔力災害による転移で、フィットア領は消滅した。アレックスは心配してたみたいでね。君の名前を聞いて、紛争地帯まで追って来たのさ」

 

 

辻妻は合う。

アルフレッドは頷いた。

 

 

「そんな訳でアレックスは今、紛争地帯に居る。そして、君のはぐれ赤竜討伐の話は、紛争地帯まで広がる。そうすれば、アレックスの耳にまで届くだろうね」

 

 

アルフレッドは理解した。

 

 

「そう。だから、待ってるだけでいい。アレックスと会いたいなら、その国を出なければいい。赤竜の下顎を通って、アスラ王国に帰るな……って、言ってる訳じゃないんだ。ちょっと待つだけでいいんだ。分かるかい?」

 

 

しかし、アルフレッドは悩んだ。

父と会いたいというのは、自分の都合だ。

フィリップやヒルダ、ギレーヌはフィットア領に帰りたがっている。

自分の都合を押し通して良いのだろうか。

 

 

「君が言えば、彼等は納得するよ。何なら、北神二世であるアレックスも、護衛に加えられるって力説すればいい」

 

 

アルフレッドは悩んでいた。

道草を食って良いのだろうか。

自分の都合で彼等を納得させて良いのだろうか。

 

 

「とにかく、アレックスと会いたいなら、その国で待っておけばいい。それだけで会えるからね。命令じゃないよ、助言だから……最後は君が選ぶといい」

 

 

言葉が反射して、反芻するように何度も響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、アルフレッドは目を覚ました。

 

 

「……大丈夫か?うなされているように見えたが」

 

 

声を掛けてきたのは、ギレーヌだった。

 

ここは宿屋。

部屋がなかったので大部屋を借りており、フィリップヒルダ、ギレーヌを含めて四人で一部屋となっている。

 

フィリップとヒルダはまだ眠っている。

ギレーヌは警戒していたようで、浅い眠りから目を覚ましたようだ。

 

 

「大丈夫ですけど……何かご心配を?」

 

「……お前が深く眠っているのは珍しい。心配ぐらいするだろう。それで?流石に、赤竜討伐は疲れたか?」

 

「まぁ、疲れたとは思いますよ。でも、それほどですかね」

 

 

確かに、アルフレッドは疲労を感じていた。

それでも、気を失うような眠りにつくほど疲れてはいなかった。

 

先程の夢、人神と名乗る何者か。

それらが原因だと、アルフレッドは思った。

 

 

「悩みがあるなら話せ。聞くぐらいなら出来る」

 

 

ギレーヌの言葉に、アルフレッドは目を瞬いた。

自分の悩みを見破られるほど、ギレーヌとの関係は深まっていたのか。

 

随分と気安い関係になった。

 

何度か肩を並べて戦った事で、信頼されているのだ。

同様に、アルフレッドもギレーヌを信用していた。

 

 

「私の父が、この近くまで来ているそうで。近くといっても、紛争地帯らしいですが」

 

「お前の父親……北神二世か」

 

「そうです。何でも、転移災害に巻き込まれた私を追っていると」

 

「……それのどこが悩みなんだ?良い話だろ」

 

 

ギレーヌの言葉に、アルフレッドは苦笑した。

 

 

「赤竜の下顎は危険ですし、同行して貰えれば楽ですから、居て損はありません。北神二世ですし……問題は合流するまで居座るか、どうか」

 

「そうだな。それで、居座るとしたら、どれぐらいになる?」

 

「……分かりませんね。はぐれ赤竜討伐情報が父の耳に入って、ここに戻って来るまで。一年か、それ以上か……」

 

「長いな」

 

「ええ、長いですね」

 

 

ギレーヌは少し考え込むような顔をした。

 

 

「……フィリップ様とヒルダ様に話してみろ。私はあまり賢くないからな、判断できん」

 

 

そして、悩みは明後日に投げられた。

悩みを聞くとは言ったが、解決するとは言ってない……という事だろう。

 

それでも相談して良かった、とアルフレッドは思った。

悩みというのは大抵、話した方が楽になるものだ。

たとえ、解決しなくとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、待てばアルフレッド殿の父上……北神カールマン様と合流できると?」

 

「恐らく。いや、まぁ、確信は持てませんけど……あ、あと北神“二世”です」

 

「ああ、すみません」

 

「いえいえ」

 

 

アルフレッドに自信は無かった。

そもそも夢で出て来た神様が情報源という、何とも納得し難いものだからだ。

 

 

「ふむ……しかし、フィットア領の難民達も……エリスも探さないと……」

 

 

ぽつぽつとフィリップは独り言を話した後、視線をアルフレッドに戻した。

 

 

「アルフレッド殿の父上は確か、行方不明だった……ですよね?」

 

「ええ、はい。結構、前から。書き置きだけ残して行方不明になってまして、私も探していました」

 

 

アルフレッドは覚えている。

剣と称号を弟に残して、失踪してしまった父のことを。

そして、父が居なくなり、焦りから手の付けられなくなった弟のことも。

 

アルフレッドが北神道場を離れて、旅に出た目的は二つある。

大きな目標として、弟に勝ち、対等な存在になるために強くなること。

もう一つの目標が、失踪した父を見つけて、兄弟仲を取り持って貰うことだ。

 

アレクは父の言う事はある程度聞く。

焦り、自惚れて暴走している弟を咎められるのは、対等な存在だけだ。

自分ではなく、父ならば言う事を聞くだろう。

 

故に、父を探す事はアルフレッドも目標にしていた。

 

ただ待つだけで悲願が達成する。

千載一遇の好機なのだ。

 

 

「では、待たねばなりませんね」

 

 

フィリップはそれを当然のように、肯定してくれるという。

 

 

「ヒルダも同意してくれるかい?」

 

「ええ、構わないわ。家族と会えないというのは悲しい事よ」

 

 

ヒルダには息子が居た。

しかし、一緒に暮らせてはいない。

愛していない訳ではない。

寧ろ、愛していた。

 

ボレアス家の伝統として、権力争いに負けた家が次代の権力争いに参加できぬよう、産まれた男児を全て次期当主の養子としているのだ。

生まれたばかりの子供を、取り上げられた。

その事実は今も、ヒルダの胸に暗いものを落としている。

 

アルフレッドが見た目上、あまり落ち込んでいないとしても。

見た目が自分達より少し歳下なだけで、実年齢は老人だとしても。

 

それでも、家族と会える機会を奪える訳がなかった。

 

 

「…………」

 

 

アルフレッドは察した。

これは自分の我儘であり、彼等は許容してくれているのだと。

 

本来ならば、彼等もすぐにフィットア領に戻りたいだろう。

行方不明の娘であるエリスを探したいに違いない。

 

だというのに、自分に配慮してくれている。

 

普段は鈍いアルフレッドであったが、彼等との付き合いも長くなっていた。

故に、理解できた。

 

理解できてしまったのだ。

 

 

「……いえ、やはり火竜の下顎へ急ぎましょう。そして、フィットア領へ帰りましょう」

 

 

故に、甘える事が出来なかった。

 

 

「……よろしいのですか?アルフレッド殿」

 

「ええ、はい。待っていても、合流できるか確証は無いですからね」

 

 

待てば会える。

そんな確信は、アルフレッドにはなかった。

それでも、待ちたいと思っていた。

 

だが、人に迷惑をかけてほど、父と会いたい訳じゃない。

 

フィリップもヒルダもギレーヌも、フィットア領に帰らねばならない。

イゾルテの為に、自分も帰らねばならない。

 

そして、長命種でない彼等の時間は貴重だ。

 

自分の我儘より、彼等の時間を優先する。

それが正しい事だと、アルフレッドは考えていた。

 

 

「なら、よいのですが……本当によろしいので?」

 

「構いませんよ。私も父も長命種ですから。会う機会なんて、何度もありますし。五年後、十年後、二十年後でも構いませんからね」

 

 

アルフレッドの言葉に、二人は顔を見合わせた。

長命種の価値観に困惑していたのだ。

 

そんな中、ギレーヌが口を開いた。

 

 

「しかし、アルフレッド。北神二世が居なくとも、フィリップ様達を連れて赤竜の顎を通れるのか?」

 

「確かに父が居れば楽でしょうが、居なくとも問題ありませんとも。私とギレーヌが居ますし」

 

「……それもそうだな」

 

「それこそ、七大列強でもなければ負けませんよ」

 

 

アルフレッドの言葉に、ギレーヌは頷いた。

はぐれ赤竜とはいえ、無傷で余裕を持って討伐できたのだ。

余程の敵でも来ない限り、問題はないだろう。

 

そう楽観視していた。

フィリップも、ヒルダも、ギレーヌも……アルフレッドも。

 

楽観視していたのだ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

剛腕転生~気合いと根性で殴り倒します~(作者:ラリゴラリゴラリゴ)(原作:無職転生)

自分の我を通した結果、壮絶な最期を迎えた少年は気付けば異世界の戦場に放り出された幼子となっていた。▼前世で磨かれた喧嘩殺法と、異世界に来たことで獲得したチート染みたスペックをもって彼は世界を生きていく


総合評価:2036/評価:8.75/連載:7話/更新日時:2026年10月10日(土) 19:00 小説情報

迷宮を目指した俺は、世界を間違えた(作者:アルマトラン)(原作:無職転生)

二十一歳で死んだ大学生は、異世界で二度目の人生を始めた。▼魔法がある。▼魔物がいる。▼迷宮がある。▼大好きだった『マギ』の世界だと思った。▼……ところが。▼ジンがいない。▼金属器もない。▼ーーどうやら俺は、世界を間違えたらしい。▼これは、勘違いから始まる二度目の異世界人生。


総合評価:2916/評価:8.07/連載:27話/更新日時:2026年10月16日(金) 21:19 小説情報

天剣へと至る愚者(作者:一般通過害悪)(原作:無職転生)

ルーデウス・グレイラットの双子の弟は転生者である。▼後世には『天剣』として伝えられることになる。▼これは、彼が生前に書いた日記を辿っていく物語。▼※アンチ・ヘイトとクロスオーバーは念の為。


総合評価:3672/評価:8.09/連載:10話/更新日時:2026年08月22日(土) 15:30 小説情報

玉葱騎士、六面世界に立つ(作者:プラザ合意)(原作:無職転生)

▼何もかも忘れ、志半ばで倒れた騎士。▼彼は何の因果か、異世界で再び剣を取る。▼たとえ記憶を失っても、たとえ壊れてしまっても。▼それでも彼は、誰かを守ろうとした。


総合評価:4107/評価:8.72/連載:51話/更新日時:2026年10月18日(日) 06:00 小説情報

選択内容全部S(作者:青林)(原作:オーバーロード)

「あなたの分身がオーバーロード世界にいたら」の六つの選択内容が全部Sの主人公を妄想した二次創作。▼作中の設定や諸々に妄想が入ってるので苦手な方はブラウザバック推奨です。▼「あなたの分身がオーバーロード世界にいたら」▼https://overlord-anime.com/_season4/10th-anniv/▼タグ追加 9/5


総合評価:3910/評価:8.65/連載:3話/更新日時:2026年09月07日(月) 06:36 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>