北神三世の兄-弟に勝つため本気出す- 作:ドゥンピドゥンピ
甲竜歴419年▲月◇日
夢の中に神様が出てきた。
俺ってそんなに信心深かったっけ?
彼……彼女?は自身をヒトガミと名乗っていた。
人の神、人神だろうか。
何処かで聞いた覚えがあるのだが、思い出せない。
うーん。
とにかく、その胡散臭い神様から父が紛争地帯に居ると聞いた。
待っていれば会えると。
まぁ、でも今一緒にいるフィリップやヒルダ、ギレーヌに迷惑は掛けられない。
不義理だしな。
ということで、さっさとフィットア領へ向かう事とする。
甲竜歴419年▲月◇日
赤竜の下顎へ向かうにあたって色々と用意が必要だ。
食料もそうだが、荷物を引く馬や牛……登山用道具の調達。
元々は心許ない量と質だったが、はぐれ赤竜討伐による金で万全の体制を整える事ができそうだ。
それらを用意するまでの時間。
二週間ほど、この小国に留まる事となった。
その間に、イゾルテ宛ての手紙を書く事にした。
これから俺はフィットア領へ向かう。
直接、アスラ王国へ行く訳じゃない。
手紙の方が早く着くだろう。
しかし、何を書くべきか。
現状を書こうにも、フィリップやヒルダのことは書けない。
彼等が生きているということを手紙に書いて、もし検閲でもされたら……みんなに迷惑が掛かるしな。
日記の方はいい。
万が一読まれても、“日本語”だから読めないだろうし。
取り敢えず、ギレーヌのことでも書くか。
あと色々、やりくりしながら旅してるって。
でも、フィリップとヒルダのことを書かないと二人っきりで旅してるように読めるな。
はぐれ赤竜討伐のお陰で、金は結構ある。
前と違ってアスラ王国までの距離も近いし、普通に手紙を送れる。
短い文章じゃなくていいんだ。
あれこれ書いて、封筒に入れて、冒険者ギルドで発送した。
この雪の中、赤竜の下顎を抜けて届ける冒険者は大変だろうな。
なんてしてたら、ヒルダから「誰に手紙を送ったの?」なんて聞かれた。
アスラ王国に残した妹のような女の子ですよー、と返したら睨まれた。
やっぱり俺はヒルダに嫌われているらしい。
うーん、この旅の中で少しぐらい仲良くなれたら良かったんだけど。
甲竜歴419年▲月◇日
やる事がないので、冒険者に北神流を教えている。
北神流の真髄とは、弱者が強者に勝つことである。
体格が小さい、腕が使えない、力が足りない。
そんな剣士でも、強敵に勝つ技術だ。
なんて話してたら、受講生の冒険者から「アルフレッドさんは、伝統派なんですね」とか言われた。
伝統派ってなんだ?と聞き返したら、現代の主流について教えてくれた。
まず、奇抜派。
道具や奇策を多用して、勝てばよかろうをしている派閥。
次に、魔王派。
人質やら多人数で勝つ、剣術というより兵法のような実践派閥。
この二つだ。
俺はこの二つから離れているので、伝統派……と呼んだらしい。
うーん。
奇抜派と魔王派ね。
奇抜派はあれだな。
北神流の考え方を元に、技を扱うことを優先した派閥だろう。
魔王派は逆に、技ではなく戦い方を優先した派閥か。
てか、魔王って……婆ちゃんのことかな?
でも寧ろ、婆ちゃん、そういう卑怯な手を嫌うタイプの人だと思うんだけど。
聞いてみたら、別名でアトーフェ派と呼ばれてるらしい。
やっぱり婆ちゃんだった。
兎にも角にも、俺は彼等に北神流を教えた。
といっても、細々とした技だ。
相手と剣を打ち合った瞬間、その剣を奪う技とか。
足元の剣を足先で拾いつつ、攻撃する技とか。
剣の鞘で攻撃を防ぎ、反撃する技とか。
自分よりデカい竜を殺す、両手で放つ技とか。
最後の技は誰も習得出来なかったが、他はぼちぼち習得してくれた。
まぁ、技を学ぶのは簡単だ。
才能がからっきしの俺にだって出来るのだから。
必要なのは心持ちだ。
強者に立ち向かい、如何なる困難と不利をも打ち砕く。
諦めずに知恵を働かせて、守るべきものを守る。
それは己の誇りでも、名誉でも、人でもいい。
北神流は弱者が強者に勝つための剣術なのだから。
甲竜歴419年▲月◇日
日課となっているギレーヌとの手合わせ。
彼女と手合わせしつつ、剣の術理を聞く。
ギレーヌは戦い方も性格も荒々しいが、剣術に関しては理屈立てて行っているようで、聞けばちゃんと理屈を教えてくれる。
何でも、彼女の師匠である剣神が「全てを合理的にやれ」と言っていたとか。
お陰様で剣神流の技を幾つか使えるようになった。
特にこの『光の太刀』というのは便利だ。
剣神流の使い手は剣速がずば抜けていると思っていたが、こんな技を使ってるとは知らなかった。
教えてくれたギレーヌには感謝だ。
まだ俺は特定の構えからしか放てない。
だが、この剣速だ。
防御は困難だろう。
何とか北神流の技に組み込みたいが……うーん。
ただただ力いっぱい振るってるだけになってしまう。
この辺は要練習だね。
甲竜歴419年▲月◇日
最近、巷で有名な冒険者チームが近くまで来ているらしい。
名前は『デッドエンド』……出会ったら終わりってこと?
とにかく、恐ろしい名前だ。
その名前の割には、人助けばかりしてるらしいけど。
お人好し集団らしい。
パーティ構成など、あまり詳しい情報は流れてきていないが、パーティメンバーにスペルド族が居るとか。
パーティ名が『デッドエンド』、そしてスペルド族。
該当するスペルド族には覚えがある。
父が言っていた。
『デッドエンド』、ルイジェルド・スペルディア。
『魔神殺しの三英雄』に加勢して、勝利へ導いた男……だとか。
父にしては珍しく、憧れを語るような顔をしていた。
さもありなん。
父は祖父、北神カールマンを尊敬している。
『魔神殺しの三英雄』、北神カールマンを。
その北神カールマンと協力して、魔神ラプラスを倒した男達。
父からすれば、神話の中の英雄なのだろう。
まぁ、父は父で英雄なのだが。
世に広まってる北神伝説の殆どは、二世である父のエピソードばかりだし。
とにかく、クソ強い父が尊敬する男、ルイジェルド。
そんな大物がこんな場所に居て、冒険者パーティとして働いている?
いやいや、絶対に嘘でしょ。
そんな訳ないでしょ。
では何故、『デッドエンド』を名乗り、スペルド族だと偽装するのか?
恐らくは箔を付けるため、だろう。
スペルド族は、世間では『極悪非道の魔族』とされている。
実際には違うと、父は言っていたが……世間での評価は『恐ろしい種族』だ。
冒険者パーティ『デッドエンド』はその名と、伝説を借りる事で箔を付けているのだ。
……まぁ、気持ちは分かるけどね。
俺も昔、どうしても関所が通れなかった時、カールマンの名前を出して無理矢理通った事があるからね。
旅をする上で、ネームバリューというのは大事なのだ。
甲竜歴419年▲月◇日
用意が出来た。
……出来たと言っても、用意したのはフィリップとヒルダだけど。
俺とギレーヌは剣を振り回してただけだ。
小国を発ち、俺達は『赤竜の下顎』へと向かう。
北神流の弟子達は俺との別れを惜しんでくれた。
良い奴らだった。
俺が教えるの下手でごめんね。
人神曰く、一年後ぐらいにシャンドルこと、北神二世である父が来るらしいし、続きは父に習ってね。
食料を持ち、持ちきれない物は牛に積み、渓谷へと向かう。
人が数人ギリギリ通れるような、狭い道が続く。
これは過酷だね。
とっても大変だよ。
フィリップとヒルダも大変そうだ。
しかし、これまで一緒に旅をしてきた。
旅慣れもしてきたようで、中々に頑張ってくれている。
これなら赤竜の下顎も、すぐに踏破出来るだろう。
ああ、早く王都アルスに帰らないと。
イゾルテに怒られてしまう。
すぐに帰ってくるつもりだったのに、長旅になってしまった。
得るものもあったが、苦労の耐えない旅だ。
旅の話ぐらいしかお土産はないが、これで許してくれるだろうか。
まぁ、先にフィットア領へ行き、フィリップとヒルダを送り届けるのが優先だけどね。
帰ったら、久々にイゾルテの手料理が食べたい。
あの頃から美味かったが、更に料理は上手くなってるだろうし。
いやでも、帰ったらイゾルテに彼氏が居た……同棲してる!とかなってたらどうしよう。
お邪魔虫になるだろうし、回れ右してフィットア領に帰るべきだろうか。
イゾルテは可愛いかったからな。
今頃はきっと美人さんだ。
タントリスも結婚しているかも知れないな。
彼はクルーエル家の長男として、家を存続させる使命感を抱いていたはずだ。
レイダとも話さなければ。
剣神流について伝手があれば、教えを乞うてもいいだろう。
ああ、彼女達と会うのが楽しみだ。
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