北神三世の兄-弟に勝つため本気出す-   作:ドゥンピドゥンピ

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#28 間話・ルーデウスの日記

甲竜歴425年。

中央大陸北部に存在する魔法都市シャリーアに存在するグレイラット邸の書斎にて、ルーデウスは古ぼけた日記を手に持っていた。

 

 

「…………」

 

 

昨夜のこと。

未来から老いたルーデウスが置いていった日記だ。

 

ヒトガミに裏切られ、全てを失った未来の自分が残した日記。

 

そんな日記を開くのは、気が重かった。

それでも、傷だらけの表紙を眺めていても進展はない。

 

 

「……ええい、ままよ」

 

 

意を決して、ルーデウスは日記のページを捲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに書いてあったのは、失敗談だ。

 

ヒトガミに諭され、地下の扉を開いた。

そこから逃げ出したネズミの所為で、ロキシーが魔石病になった。

治療法を得るためにミリス神聖国の、神級治癒魔術の詠唱書を盗み出した。

指名手配されて、騎士団に追撃された。

クリフが死んだ。

家に帰ったが、間に合わなかった。

ロキシーも死んだ。

娼婦に手を出して、シルフィに泣かれた。

シルフィが居なくなった。

シルフィはアリエル王女の為に、アスラ王国へ向かったのだ。

王都でのクーデターは失敗した。

シルフィも死んだ。

王都を焼いた。

 

何もかもが上手く行かなかった。

何も出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「うっ」

 

ルーデウスは吐き気を感じながら、書斎から離れた。

自分の書いた絶望の未来。

それを読めば、実体験として理解してしまった。

 

トイレへ行き、吐けるだけ吐いた。

水で口をゆすいで、ルーデウスは書斎に戻った。

 

もう読みたくはない。

だが、読まなければならない。

 

絶望の未来を変えるには、その未来を知らなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

日記の内容は軽薄なものになっていた。

 

何処かのどの女の子が可愛いとか。

どの娼館が一番良かったか、とか。

抱いた事もない女のランク付けすらしていた。

 

全てを失って、自暴自棄になっていたのだろう。

リーリャ、ゼニス、ノルン、アイシャ……ルーシー。

家族の名前は出て来なくなった。

出ていってしまったのだろう。

 

エリスに追われて、碌でもない日々を送っている。

 

そしてまた、時代が進んだ。

 

ヒトガミへの怒りと憎しみを募る文が増えていく。

 

ヒトガミの使徒を探す旅をしていた。

使徒を思しき人間を尋問するも、手掛かりはない。

 

そんな日々を続けていく中で。

 

エリスが死んだ。

ザノバが死んだ。

ジンジャーが死んだ。

ジュリが死んだ。

アイシャも死んだ。

 

結局、みんな死んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「……そうか」

 

 

日記を読みながら、ルーデウスは息を深く吐いた。

酸っぱい臭いがした。

 

これからの後悔が、重くのしかかっている。

誰かの未来じゃない、自分が辿る未来だ。

この道を歩くことになっていたかも知れないと思えば……背筋が凍る。

 

机に置いてあったコップに、魔術で水を入れて飲み込む。

 

 

「……はぁ」

 

 

身体中にある疲弊感と、精神的な重みを、吐息に込めて吐き出した。

それでも、体が軽くなる事はなかった。

 

そして、ページを捲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、ヒトガミの手掛かりを探っていた。

そして、アスラ王国での捜査中、騎士達に見つかってしまった。

王都アスラを焼いた犯人として、指名手配されていたのだ。

 

そこでアスラ王国は手持ちで最も協力な駒を使ってきた。

水神流の長、『水神』レイダ・リィアである。

 

老婆だと聞いていたが、綺麗な女性だった。

 

聞いた事がある。

水神レイダという名前は襲名性であり、新たに水神となった剣士が名乗るものだと。

 

つまり、最近、代替わりでもしたのだろう。

 

『水神』レイダは強敵だった。

一対一ならば、『魔導鎧(マジックアーマー)』があっても勝てなかっただろう。

 

だが、味方がいた。

俺ではなく、レイダに。

 

彼女が水神流を教えた騎士達だ。

 

俺は徹底的にレイダを無視して、その騎士達を攻撃した。

 

結果、レイダは庇うために行動して、動きが鈍った。

その隙を突いて、俺は水神レイダを殺害した。

岩砲弾(ストーンキャノン)で身体を打ち抜き、首を刎ねて殺した。

 

彼女の弟子達でもある騎士達の動きが鈍った。

その隙に、俺は彼等を皆殺しにした。

 

追手が来ないように、徹底的に戦う必要があった。

 

事実、アスラ王国は俺のことを諦めた。

手を出さなければ反撃されない。

犯した罪は許せないが、これ以上の被害は看過出来ないという訳だ。

 

アスラ王国からの追手は来なかった。

だが、無関係なたった一人の男が俺を追ってきた。

 

『北帝』アルフレッド・カールマン・ライバック。

不死魔王アトーフェラトーフェ・ライバックの孫だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔導鎧(マジックアーマー)を装備したルーデウスに対して、アルフレッドが追い縋る。

 

 

「クソ、まだ追ってくるのかよ!」

 

 

既にアルフレッドとは何十回も戦っている。

ヒトガミについて調べる中、何度も鉢合わせた。

その度に殺し合っている。

 

老いたルーデウスは確信していた。

この男は、ヒトガミの使徒だ。

 

 

「今度は……今度こそ、逃さない」

 

 

アルフレッドの表情は怒りに満ちていた。

明確な殺意を抱き、ルーデウスを追いかけていた。

 

このままなら、何処までも追いかけて来るだろう。

 

 

「チッ、しつこいんだよ!」

 

 

ルーデウスは『岩砲弾(ストーンキャノン)』を連射した。

圧縮され硬度を増し、高速で回転する円錐状の弾丸がアルフレッドへ迫る。

 

これこそが今代の水神レイダを殺した魔術であった。

 

水神流の長ですら防げなかった魔術。

アルフレッドが防げる筈もなく、身体を貫いた。

 

勝った……とは、ルーデウスも思っていなかった。

 

 

「……くそッ!」

 

 

貫かれた身体の部位は即座に再生し、再びルーデウスへと迫る。

アルフレッドの眼に痛みによる怯えはない。

ただ無心で、ルーデウスを睨み付けていた。

 

ルーデウスは、その眼に覚えがあった。

鏡で見る自分の目に似ていた。

 

 

(くそっ、何でだ!何がコイツをこんなに怒らせている!俺がコイツに何かしたのか!?)

 

 

何が虎の尾を踏んだのか。

ルーデウスには覚えがなかった。

 

 

「お前だけは、ここで殺す」

 

 

アルフレッドが剣を構えた。

その構えに、ルーデウスは覚えがあった。

 

あれは北神流奥義『飛燕』。

闘気を纏った剣を回転させながら打ち出し、遠くの敵を殺す投擲技だ。

 

不死魔族の我が身を顧みない全力の闘気による技……『魔導鎧(マジックアーマー)』でも防ぎようがない。

 

瞬間、ルーデウスは手を正面へと突き出した。

そして『水蒸(ウォータースプラッシュ)』と『氷結結界(アイシクルフィールド)』を同時に発動させた。

 

 

「フロストノヴァ!」

 

 

直後、手を向けた方向、アルフレッドに向かって全てが凍り付いた。

剣を振るう腕も止まった。

 

 

「よし……!」

 

 

この程度で戦闘不能になる相手ではない。

なるのであれば、こう何度も戦っていない。

 

ルーデウスはよく知っていた。

 

アルフレッドはしつこい。

『しつこい』という一言で表す事も躊躇われるほどに、しつこい。

手をもがれようが、口で剣を握って追いかけて来る。

足をもがれようとも、すぐに再生して追いかけて来る。

 

そして、同じ手が通用しない。

前々回は電撃で意識を飛ばして、その隙に逃亡した。

だが、前回も同様の手を使った際、剣を地面に突き立てて電撃の威力を受け流された。

 

戦う度に、ルーデウスの手札に対する対処法を学んでいるのだ。

不死魔族の肉体が可能とする、命を賭けた殺し合いのトライ・アンド・エラー(やりなおし)。

それこそがアルフレッドの強みであった。

 

 

「っ、ルーデウス……ッ!」

 

 

怒りに満ちて名を呼ばれるが、ルーデウスは振り向きもしなかった。

このまま姿を隠して、逃げ切るのだ。

 

会話が出来るような段階はとうに過ぎ去っていた。

殺そうとすれば、手痛い反撃を貰うことも理解していた。

 

氷と共に肉体が砕ける音が響く中、ルーデウスはその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーデウスは日記を閉じた。

そして、こめかみを揉んだ。

 

 

(『北帝』アルフレッドって、フィリップとヒルダを助けてくれた人だよな?オルステッドに殺されたんじゃなかったのか?)

 

 

フィットア領の難民キャンプで、ルーデウスは聞いていた。

フィリップとヒルダ、ギレーヌを逃すために『龍神』オルステッドと戦い、命を落としたと。

 

その筈だが、日記の終盤では何度も相手をしている。

 

 

(つまりまだ、生きているのか。実は生きていたってことだな)

 

 

ルーデウスは思った。

 

死体が見つからない限りは、死んでいるとも限らない。

らない。

前世でもアニメや特撮でのお約束だったな、と。

 

 

(しかし、何で戦ってるんだ?何がアルフレッドを怒らせてるんだ……?)

 

 

何処に地雷があるのか分からない。

であれば、気を付けようがない。

 

 

(いや、そもそもアルフレッドもオルステッドに殺されていた……未来の俺が言う通り、ヒトガミの手下なんだ。俺と同じで騙されてるのか……分かった上で従ってるのか分からないけど……潜在的な敵、なのか?)

 

 

ルーデウスは思う。

今は、ヒトガミと敵対できない。

敵対すれば家族に被害が及ぶ。

決して手を出せない場所から、未来を見て、パズルを解くかのように家族を殺す。

日記で読んだ通りに、ヒトガミへの対策など不可能だ。

 

ならば、ヒトガミに従うしかない。

そして、ヒトガミと敵対する『龍神』オルステッドを殺さなければならない。

 

だが、もし、殺せたとしても。

 

その次、ヒトガミが手を出して来ないとは限らない。

オルステッドを殺せば、家族を見逃してくれるとは言っていた。

しかし、それが真実かは分からない。

それでも、ヒトガミに従うしかない。

 

それでも、今後敵対するのであれば……このアルフレッドという男が敵となるのだろう。

 

 

(そもそも、未来の俺は屑だった。だから、恨まれて当然なんだが……どうして、ちゃんと出来なかったんだろうな……理由なんて分かってる、けど)

 

 

人に憎まれるのは怖い。

それが、大切な人の恩人だとしら尚更だ。

 

 

「……少し、休憩するか」

 

 

悩んでも答えはでない。

ルーデウスは席を立ち、書斎を出た。

 

 

「あっ、ルディ……どうしたの?また顔色悪いけど……大丈夫?」

 

 

肩まで伸びた白い髪、綺麗な顔。

それが血塗れになって、失われる。

この心配そうな表情も、優しげな声色も……二度と。

 

 

「シルフィ……」

 

 

思わず、ルーデウスは抱きしめた。

 

 

「えっ、ど、どうしたの?」

 

 

戸惑うシルフィに対して、それでもルーデウスは抱きしめ続けた。

 

 

「もう少しだけ、こうさせてくれないか……」

 

「……しょうがないなぁ。辛かったら、いつでも頼ってくれて良いんだからね?」

 

 

シルフィに抱き締め返されながら、ルーデウスは決意を強めた。

 

家族を、守らなければならない。

その為に、誰かを殺さなければならないとしても。

 

家族を、守ると。

 

 

 

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