北神三世の兄-弟に勝つため本気出す- 作:ドゥンピドゥンピ
目を開けば、白い空間にいた。
真っ白な空間だ。
アルフレッドは察した。
これは夢の中の世界なのだと。
また人神か。
そう察して、周りを見渡すと……いた。
「…………」
しかし、無言だ。
白い空間の中で膝を立てて、黙っている。
どうしたのだろうか。
「別に。ちょっと、くだらないトラブルがあってね」
声色も分かりやすく不機嫌だ。
普段の何を考えているか分からない態度より、好感が持てる。
「それってボクの不幸が嬉しいってことかい?」
アルフレッドは首を横に振った。
そういう訳じゃない。
赤竜の下顎、そこの地底から助けてくれたのだから、恩ぐらいは感じている。
「ふーん、そっか」
人神は少しだけ態度を軟化させた。
その様子に、今度はアルフレッドが腕を組んでため息を吐いた。
渓谷の底で一人ぼっちの時、話し相手ぐらいにはなって欲しかった。
暇だったからだ。
「それは君が悪いよ。だって寝ないんだから。仕方ないだろ?」
それは確かにそうだ、とアルフレッドは頭を下げた。
事情も知らず文句を言って申し訳ないと。
「……君のそういう素直な所、ボクは嫌いじゃないけどね」
しかし、急に現れたという事は、話したい内容があるのだと思った。
用がなければ来ないからだ。
「まぁ、それはそうだね。ボクって忙しいから」
こんな何も世界にいるのに、何が忙しいのだろうか。
「そりゃあ世界平和のために頑張ってるんだよ。この世界を滅ぼそうとする悪神と戦っているんだ」
冗談めかして言うので、アルフレッドは真意を測り損ねていた。
よく分からない話より、要件を済ませて欲しい。
「いいよ。助言を授けよう……あーあ、みんなが君みたいに素直だと良いんだけど」
みんな?素直?
自分以外に助言をしているのだろうか。
「まぁね。そりゃあ君だけ特別扱いって訳じゃないさ。それとも、自分は特別だ、なんて思っていたのかい?」
アルフレッドは首を横に振った。
父や弟に勝てず、龍神オルステッドにも負けた。
特別な才能がある筈もない。
「では、助言を授けよう……の、前に。君、オルステッドが憎いよね?」
関係のない話に首を傾げつつ、アルフレッドは少し悩んだ。
これまで帰れなかったのも、将来的にイゾルテから怒られる原因を作ったのもオルステッドだ。
だが、アルフレッドは首を横に振った。
「え?憎くないのかい?」
アルフレッドは頷いた。
尋常な勝負であり、卑怯な手は無かった。
何故襲われたかは分からないが、負けたのは自分である。
そして、フィリップやヒルダ、ギレーヌは見逃された。
ならば、恨む事などないのだ。
「……君、変わってるね。普通は殺されかけたら、恨むもんだよ。あーあ、異世界人ってのはどいつもこいつも」
最後の方はボソボソと喋っており、アルフレッドには聞こえなかった。
「まぁ、君がオルステッドを恨んでないのは分かったよ。でも、君の周りの人達はどうかな?」
アルフレッドは首を傾げた。
どうかな?と言われても、どうだろう?って気持ちだ。
「君が殺されたと知って、イゾルテ・クルーエルは相当、恨んでいるよ。このままだと、オルステッドを追って、戦う事になるだろうね」
その言葉に、アルフレッドは身体を硬直させた。
「そうなると、どうなるかなぁ。オルステッドと戦った君なら、分かるよね?」
間違いなく、イゾルテは殺されてしまう。
別にイゾルテを侮っている訳ではない。
戦ったからこそ、アルフレッドには分かっていた。
オルステッドは超越者である。
人の身では、どれだけ鍛えようと敵わないだろう。
自分と同じように身体を切り刻まれ、死ぬ。
そんなイゾルテの姿を、アルフレッドは幻視した。
「まぁまぁまぁ、そんなに焦らないでボクの話を聞いてくれよ。ね?」
アルフレッドは姿勢を正して、頷いた。
「そんな未来を解決するために、どうすべきか……ボクが助言してあげよう」
しかして、アルフレッドは思った。
「オルステッドは魔法都市シャリーアへ向かっている。そこで君も戦うんだ」
そう聞いて……アルフレッドは眉を顰めた。
前に『龍神』オルステッドの未来は見えないと言っていたのに、何故分かるのか?
「未来も今も見えないよ。でもね、オルステッドは来るよ。誘き寄せられてね」
何を言っているのか分からない。
アルフレッドは首を傾げた。
「とにかく、重要なのはそこじゃない。君は魔法都市シャリーアへ向かうんだ。分かるかい?」
アルフレッドは首を傾げた。
それで何故、オルステッドと戦わなければならないのか。
オルステッドと戦うイゾルテを止めれば良いだけじゃないのか。
「君、オルステッドに嫌われてるからね。オルステッドは君を殺そうとする……それで、イゾルテは君を助けようとする。どうなる?」
言われて、再びアルフレッドは顔を顰めた。
オルステッドにもに殺されかけた原因は、人神という名前を出したからだ。
人神の使徒だとか、何とか。
人神の所為ではないのだろうか。
「うーん、まぁね。オルステッドはね、世界を滅ぼそうとしてるんだ……そして、ボクを殺せば世界が滅ぶ。ボクと協力関係を結んでいる君を殺そうとしてるのは、彼が邪悪な存在だからさ」
そんなに邪悪だっただろうか。
悪そうな奴ではなかった、とアルフレッドは首を傾げた。
「君と同行してたギレーヌやフィリップ達も、オルステッドを怖がってだろう?君、彼等より人を見る目あるのかい?」
いや、ない。
アルフレッドは後頭部を掻きながら、そんなものかと頷いた。
「とにかく、シャリーアに向かうんだ。そこで取れる選択肢は二つだ」
アルフレッドは首を傾げた。
二つ?
オルステッドを殺す以外に選択肢があるのだろうか。
「そう、まずはオルステッドを殺す。でも、それは君には難しいかも知れない。なら、もう一つの選択肢があるんだ」
アルフレッドは頷いた。
確かに、オルステッドを殺せるとは思えない。
前回戦った時よりはマシになったと思うが、それでもオルステッドの強さに底が見えない。
なら、どうすればいいのか。
もう一つの選択肢があるなら、そちらを選びたい。
「オルステッドと敵対している魔術師……ルーデウスって言うんだけどね。彼を殺すんだ」
アルフレッドは首を傾げた。
オルステッドと敵対しているというのなら、仲間ではないのか。
「そうだけどね。彼を殺せばオルステッドも許してくれるかも知れない。まぁ、最終手段だね」
アルフレッドは眉を顰めた。
敵でもない人を後ろから斬って殺すなんて、そんな事が出来るはずがない。
「最終手段だよ。やらなくて済むなら、やらなくていい。でもね、これだけは覚えてると良いよ……」
何を覚えておくと言うのか。
アルフレッドが首を傾げると──
「君が死ねば、ルーデウスはね。将来的にイゾルテを殺すよ」
★
アルフレッドは布団を蹴飛ばし、起き上がった。
「…………」
大粒の汗が流れる中、アルフレッドは窓の外を見た。
早朝……と呼ぶには早すぎる。
朝日すら登っていない。
「……酷い夢だったな」
アルフレッドは顔を水で洗い、タオルで拭う。
鏡で見れば、少し険しい顔が写っていた。
「…………」
イゾルテが死ぬかも知れない。
何もしなければ、間違いなく死ぬらしい。
龍神オルステッドと戦って、死ぬ。
「…………」
とにかく、魔法都市シャリーアに向かわなければならない。
人神のことはあまり信用できない。
胡散臭いし、過去に誰かから信用しないほうがいいと言われた気がする。
それでも、人神の言っていた通りにすれば、赤竜の下顎から脱出できた。
もし、赤竜の下顎の前で待っていれば、父であるアレックスと合流出来ただろう。
嘘ではない。
人神には未来が見える。
その人神が言っていた内容。
ルーデウスという魔術師は、将来的にイゾルテを殺すという言葉。
(何が何だか……)
とにかく、何をすべきかは分からない。
それでも、ここに居ても仕方がない。
何をするにしても、自分の目で確かめなければならない。
人神が信用出来ないからこそ、その足で向かわねばならない。
(……よし)
アルフレッドは決心した。
まずは北へ向かい、剣の聖地へ行こう。
そこでイゾルテと合流して、オルステッドと戦わないように説得する。
それが……出来なかったら、ヒトガミの言う通り、シャリーアに行くとしよう。
服を着替え、アルフレッドは旅の支度を始めた。