北神三世の兄-弟に勝つため本気出す-   作:ドゥンピドゥンピ

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#3 水神流②

水神レイダ・リィアは目の前の青年……アルフレッドについて冷静に観察していた。

優男のような容姿に似合わぬ、型にはまらない剣術。

恐らくは、北神流だろう。

 

北神流は自分より体格が上の相手や、力が上回る相手に勝つための剣術だと言われている。

勝つためならどんな事でもする……剣術というより兵法だとも言われている。

 

そんな北神流を習得しているのだと、レイダは判断した。

その上で、剣術に対する高い理解と、練度を合わせ持つ相手だと理解していた。

 

目の前の、隙の無さ。

 

 

(あたしの知っている北神流とはえらい違いさね)

 

 

警戒しつつ、アルフレッドの持つ剣を見る。

アスラ王国では珍しい片刃の剣。

右の方がやや長く、左の方がやや分厚い。

同じ意匠を持っていることから、対となる剣なのだろう。

 

恐らく、何かしらの魔剣。

だが、その能力は分からない。

 

そんな剣を持つ男、アルフレッドは一切の油断がないように見えた。

 

そうして向き合い、互いに微動だにしない。

孫娘であるイゾルテが息を呑む音すら聞こえる。

 

 

「見てるだけで良いのかい?打ち合いに来たんだろう?」

 

「それもそうですね……では、失礼して──

 

 

瞬間、アルフレッドの姿が消えた。

直後、金属が爆ぜる音がした。

 

 

「っと!」

 

「おや?」

 

 

レイダの剣が、アルフレッドの一撃を弾いた音だ。

そのまま、レイダは受けた勢いを活かして、アルフレッドへと反撃した。

 

 

「……むっ」

 

 

狙いはそのまま、アルフレッドの首元へ……辿り着かず、空を切った。

 

 

「チッ、随分と身軽だね」

 

「レイダ殿、今、私のこと殺そうとしませんでした?」

 

「気のせいさね。これぐらいで死ぬとは思ってないだけさ」

 

「……なら、いいのですが」

 

 

アルフレッドが不服そうな顔をしている。

手合わせと口にしたにも関わらず、真剣で首元を狙われたからだろう。

 

しかし、この一撃で殺せるとはレイダも思っていなかった。

故に加減なく剣を振るったのだ。

 

 

「しかし、あんた北神流だろう?」

 

「え?ああ、はい。そうですが、分かります?」

 

「あたしを馬鹿にしてんのかい?分かるさ」

 

「それは光栄だ」

 

 

北神流と見破られて、アルフレッドは嬉しそうにしている。

その様子にレイダは片眉を上げた。

 

そして一つ、鎌をかける事にした。

 

 

「にしても、北神流っぽくない戦い方をするね」

 

「そうですか?」

 

「北神流ってのは、もっと汚い戦い方をするもんだろう?」

 

「……そんな事はありませんよ」

 

 

その様子を見ていたイゾルテの背筋に、少し冷たいものが走った。

常に穏やかな空気を醸し出していたアルフレッドから、苛立ちを感じ取ったのだ。

 

そして、イゾルテは理解した。

レイダがアルフレッドの攻撃を誘うべく、挑発しているのだと。

 

 

「おっと図星かい?」

 

「……いえ」

 

「違うと言うなら、証明すりゃいいさね」

 

 

そう誘うように口にした瞬間、破裂音が響いた。

稽古場を構成する木の板が砕けた音だ。

 

それほど強い踏み込みで、アルフレッドはレイダの元へ迫ったのだ。

 

 

(さっきより速いね……でも)

 

 

水神流『流』、それは水神流の基本であり奥義である。

水聖であるイゾルテと、水神レイダが同様に技を扱ったとしても、練度に差がある。

全く違う技として昇華されるだろう。

 

事実、レイダの『流』はアルフレッドの剣を受け流した。

右の長剣による一撃だ。

 

そして、衝撃を受け流し、それを勢いに変えて反撃した。

 

だが、その反撃をアルフレッドはもう片方の左の短剣で防いでいた。

 

 

「っと……!」

 

 

それはレイダにも想定外だった。

攻撃時に発生する確実な隙を狙った一撃だった筈だ。

それを受け止められたのは……人生で二度目の経験だった。

一度目は龍神……二度目はこの男。

 

しかし、二度目だ。

 

狼狽える事なく、レイダは剣を引いた。

そして距離を置くべく交代して……アルフレッドの攻撃を誘った。

 

 

「……っ!」

 

 

その隙をアルフレッドは見逃さなかった。

いいや、見逃さなかったのではない。

誘われてしまったのだ。

 

レイダの思惑通りにアルフレッドは剣を振るい、それは受け流された。

 

 

「……むっ」

 

 

アルフレッドが声を上げるより早く、レイダは再び反撃した。

そしてまた、その反撃をアルフレッドは受け止めた。

 

攻撃、反撃、防御。

そしてまた、攻撃、反撃、防御。

 

レイダとアルフレッドは幾度か打ち合った。

 

 

「そ、そんな……」

 

 

その様子をイゾルテは驚愕しながら見ていた。

 

水神レイダは、水神流の頂点に立つ剣士である。

ただ一撃を受け、返す剣で敵を屠る。

真剣を抜いて何度も打ち合う相手など、レイダには居ない筈だ。

 

だというのに、アルフレッドという男は打ち合っている。

 

 

(まいったね……このままじゃ埒が明かないよ)

 

 

レイダはそう判断して、アルフレッドに強く反撃を加えた。

当然、それをアルフレッドは受け止めたが……レイダは反動で距離を取っていた。

 

 

「ここまでさね」

 

 

そして、剣を鞘に収めた。

戦いは終わったのか。

いいや、それは構えであった。

 

水神レイダは、水神流の頂点に座す剣士である。

 

紛う事なき天才である。

だが、老い衰えているのは事実。

だというのに何故、代替わりもせず水神のままなのか。

 

答えは、その奥義にあった。

水神流奥義『剥奪剣界』……レイダのみが有する奥義である。

 

レイダはこの体勢から、前後左右上下、四方八方三百六十度、如何なる相手をも斬る事が出来る。

一歩でも、一寸でも動いたら即座に斬る。

宙を舞う木の葉だろうと、一枚残さず斬る事ができる。

 

そんな構えだ。

 

 

「……っ、お師匠様」

 

「動くんじゃないよ」

 

 

イゾルテも硬直した。

見境がない訳ではないだろう。

 

だが、目の前のアルフレッドという強敵と向き合う中、孫娘に気をかけている余裕はない。

 

殺気が稽古場に充満し、不可視の重みがイゾルテを襲う。

 

 

「…………」

 

 

その重みを、アルフレッドも感じているのだろう。

硬直したまま、レイダを見ていた。

 

そして。

 

 

「……素晴らしい」

 

 

アルフレッドが言葉を漏らした。

 

 

「ん?」

 

 

レイダは困惑した。

そこにあったのは敵意ではなく、純粋な賞賛だったからだ。

 

 

「水神レイダ殿、その技の名はなんというのですか?」

 

「……戦いの中、手の内を明かすように見えるかい?」

 

「それもそうだ……では……」

 

 

アルフレッドは剣を握ったまま、笑みを浮かべて──

 

 

「降参です」

 

 

白旗を上げた。

 

 

「は?」

 

「え?」

 

 

驚いたのはレイダと、イゾルテであった。

そして、衝撃から一足先に戻ってきたのはレイダであった。

 

 

「何を言ってるんだい。勝負はまだ決まってないだろう?」

 

「いえ、決まっていますよ。剣術において、私の完敗です。この技を打ち破る術を、私は知りませんから」

 

 

その言葉にレイダは違和感を感じた。

 

 

「……剣術では、という事かい。剣術でなければ、打ち破る術があるように聞こえるね」

 

「ええ、はい。剣術でなければ、打ち破る可能性はあります。可能性、ですがね」

 

 

鎌をかけたが、即答されるとは思ってもいなかった。

その様子を、イゾルテは面白くないと思った。

対して、レイダは納得した。

 

 

「そうかい……参考までに、どうやって破るつもりだい?」

 

「ごり押しですよ。レイダ殿の剣を受けつつ、そのまま突き進ませて頂きます」

 

「ほう……あたしの剣では死なないって言うのかい?」

 

 

レイダが目を細めた。

侮りから……だとは思えなかった。

確実な自信から発せられた言葉だと思った。

 

事実、アルフレッドは悪びれる様子もなく頷いた。

 

 

「お気を悪くされたのなら申し訳ありません。ですが私、不死魔族の血を引く者でして。多少の負傷では死ねないのですよ」

 

「不死魔族かい……驚いたね。そりゃ納得だが……あんた、何者だい?」

 

 

レイダは構えを解いた。

敵意もなく、白旗を上げた相手に対して剣を構える趣味はなかったからだ。

 

勝敗は決した。

ならば、ここから先に戦いはない。

 

レイダの興味は、アルフレッドという存在へ向けられていた。

 

 

「私の名前はアルフレッド……アルフレッド・カールマン・ライバックです。分かりますか?」

 

 

その名前にレイダは覚えがあった。

アルフレッドという名前ではない。

カールマンという名前に対してだ。

 

一方でイゾルテにも覚えがあった。

アスラ王国でも語り継がれている逸話……魔神殺しの三英雄。

龍神ウルペン、甲龍王ペルギウス……そして、北神カールマン。

 

その名を持つ、北神流の剣士であるならば──

 

 

「北神カールマンの血筋かい?」

 

 

北神カールマンは不死魔族の王と結婚したと言い伝えられている。

かなり昔の話だ。

 

そんなカールマンの血筋なのだろう。

子孫か、遠い親戚なのだろうと、レイダは考えた。

 

だが。

 

 

「はい、北神カールマン一世は、私の祖父になりますね」

 

 

想像以上に、血の繋がりが濃かった。

 

 

「……驚いたね。随分な大物だ」

 

 

レイダは警戒を強めた。

北神カールマンは英雄である。

だが、そんなカールマンの孫だからといって、まともな人間である保証はない。

 

 

「いえいえ、大物なんて……祖父も父も英雄でしたが、私は大した人間ではありませんよ」

 

「謙遜かい?」

 

「違いますよ。事実です。私は弟に勝てず、北神を継承出来ませんでしたから」

 

 

アルフレッドは少し落ち込んだような顔をした。

その言葉に嘘は無さそうだと、レイダは思った。

 

何よりその、自信なさげな情けなさそうな顔に毒気が抜かれた。

ため息を吐いて、警戒を解いた。

 

 

「そうかい……で?そんな英雄の孫が、うちに何のようだい?手合わせと言ったが、それが目的じゃないんだろう?」

 

 

レイダの言葉に、イゾルテは警戒を強めた。

この得体の知れない、英雄の孫を名乗る剣士は何者なのか。

何が目的なのか。

 

自分では力不足だとしても、それでも警戒は続けていた。

 

何より……祖母のような強者であるにも関わらず、自信なさげで卑屈な顔をするこの男が……どこか信用できなかったのだ。

 

そんなイゾルテの視線を感じてか、アルフレッドは身をすくめた。

 

 

「いえ、単純な話ですよ。水神流を習いたいと思いまして」

 

「はぁ?」

 

「え?」

 

 

北神流の開祖の血筋。

そんな男が口にした発言に、レイダとイゾルテは面を喰らった。

 

 

「私は弟に勝たねばならないんです。そのために、ご協力頂けたら、と」

 

 

屈託なく笑う男を見て、レイダは……呆れてため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

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