北神三世の兄-弟に勝つため本気出す- 作:ドゥンピドゥンピ
甲竜歴413年▲月◇日
アスラ王国にて、水神レイダの弟子になることに成功した。
水神流の技は俺に取って目新しいものばかりだった。
特に、水神レイダの扱う剣技は素晴らしいものだった。
技術だけならば、北神アレクサンダーにも勝るだろう。
まぁ、アレクには不死魔族譲りの肉体と、王竜剣カジャクトがあり、水神レイダでは勝てないだろうが。
人の身でありながら、アレクに勝る剣技を持つレイダを尊敬に値する。
そうして、水神流の門下生となった訳だが……道場近くにあるレイダの家に住まわせて貰える事となった。
宿無し金無しの俺からすれば、ありがたい話である。
レイダの家には、孫息子と孫娘が居た。
孫息子……兄のタントリスは剣の腕こそ平凡だが、気のいい礼儀正しい男だ。
孫娘のイゾルテだが……イゾルテは、才能溢れる少女であった。
兄より優れた妹、という訳だ。
……なんとも、ウチの家に似た家族だと思う。
平凡な兄と、優れた弟……こちらは妹か。
英雄である父、祖母……。
何となく、兄のタントリスとは仲良く出来そうだ。
しかし、問題は妹のイゾルテである。
歳は十と聞いた。
気の難しい年頃だ。
だからなのか、俺に対して当たりがキツい。
真正面から悪口を言ったりする訳ではないが、心を許されていないのだと態度の節々から感じる。
住まわせて貰っている身。
同居人とは仲良くしたいのだが……いや、仲良くする必要はないか。
この身は不死魔族である。
寿命は彼等よりはるかに長い。
事実、老婆である水神レイダより俺の方が歳上なぐらいだ。
であれば、仲良くなれば……別れが悲しくなるだけだ。
必要以上に仲良くなるべきではないだろう。
うむ。
かといって、嫌われたい訳ではないのだが。
困ったものだ。
甲竜歴413年▲月◇日
道場の剣士達から見れば、俺は外様である。
侮るような目で見られる事も多い。
北神二世の息子であると言えば、敬ってくれるのかも知れないが……父の威光で威張るような真似はしたくない。
まぁ、侮られた所で実害はない。
見て見ぬフリをしよう。
最近は水神レイダの指示により、イゾルテと手合わせをする事が多い。
かといって、そのまま戦えば、俺とイゾルテでは腕の差があり過ぎる。
それでは鍛錬にはならない。
よって、俺は水神流の剣技のみで戦うようにレイダに言われた。
縛りプレイという奴だ。
となると、イゾルテに一日の長がある。
良い勝負……どころか、俺の方が負け越している。
俺が勝った試合は水神流の練度が原因ではなく、ただ身体能力で勝っただけの試合だ。
実質的な敗北である。
道は遠い。
そして、試合の様子を門下生達は見ている。
俺がぎこちない水神流を扱っている事からも、彼等は侮っているのだろう。
北神流の道場でも思ったが、剣士というのは初心者に厳しい奴が多い。
格下認定した相手にはどんな態度を取っても良いと考えている。
腹が立たないといえば嘘になる。
しかし、こちらは教わっている身だ。
大人しく受け入れて、鍛錬を続ける。
しかし、イゾルテは不快そうだ。
彼女はいつも笑顔を浮かべているが、俺と相対している時は内心イラついているように見える。
何が彼女を苛立たせているのか。
俺には分からない。
甲竜歴413年▲月◇日
イゾルテはミリス教徒である。
休みの日は教会に行く事もある。
俺は行かない。
だって、不死魔族の血を引いているし。
ミリス教は昔、魔族排斥主義が主流だった。
今は魔族迎合派もいるらしいが、不死魔族の血を引いているというだけでトラブルの種だ。
まぁ、俺の見た目は人間そのものなのだが。
しかし、イゾルテが俺に厳しいのもミリス教徒だからか?
彼女は魔族排斥主義者なのだろうか?
そう思って一度聞いてみたが──
「何を聞きたいのですか?私は別に魔族排斥派ではありませんよ」
と返されてしまった。
つまるところ、彼女が俺を嫌う理由は教義ではなく、俺自身に対する嫌悪感かららしい。
ううむ。
必要以上に仲良くしたいとは思わないのだが、こうも嫌われていては息が詰まる。
何か悪いのだろうか?
直せるのなら直したいが、どう直せば良いか分からない。
こんな事なら、父から女の侍らせ方を教えて貰うべきだったか。
実際、父は妻を沢山娶っていた。
対して俺は女性経験が無い。
女性に対するコミュニケーションは上級どころか、低級だろう。
ああ、父は今、何処にいるのだろうか。
あの鬱陶しさが懐かしい。
甲竜歴413年▲月◇日
道場に来て三ヶ月。
水神流についての理解も深まってきた。
完璧ではないだろうが、『流』も使えるようになってきた。
水神レイダからも、水神流上級剣士を名乗っても良いとお墨付きを頂いた。
イゾルテとの鍛錬も気合が入るというもの。
しかして、イゾルテとの稽古の勝率は大して向上していなかった。
それは何故か?
単純な話だ。
イゾルテも強くなっているからだ。
俺が強くなると同時に、彼女も強くなる。
だとすれば、力の差は埋まらない。
良い稽古相手だ。
この道場にはイゾルテ以上の剣士は居る。
水帝や水王級の剣士達だ。
だがそれでも、レイダは孫娘であるイゾルテと打ち合わせるよう指示してくる。
きっと、俺の存在がイゾルテの良い鍛錬になると思われているのだろう。
利用されている。
そうは思うが、不快ではない。
互いに身になっているのだ。
不平不満などある訳がない。
甲竜歴413年▲月◇日
イゾルテが帰って来ない。
レイダは不在だ。
タントリスに頼まれ、探しに行く事とする。