北神三世の兄-弟に勝つため本気出す- 作:ドゥンピドゥンピ
甲竜歴413年▲月◇日
短命な人間とは必要以上に仲良くなりたくない。
だって、寿命でいつか死に別れるからだ。
それはとても悲しいからだ。
だから、一歩引いた目で付き合っている。
必要以上に敬語を使っているのも、それが目的だからだ。
だというのに、それが気持ち悪いとイゾルテは言ってくる。
何とも理不尽だ。
別にイゾルテが嫌いな訳ではない。
しかし、あまり肩入れするべきではない。
そう思ってはいるが……同じ家で過ごしている以上、仕方のない事なのかも知れない。
嫌われるよりはマシである。
人攫い事件に関して、帰ってきたレイダによって収束された。
人攫いは処刑されたそうで……貴族に尻尾切りされたのだろう。
事件は解決したが真犯人は捕まっていない。
そんな気持ち悪さがあるのだが、仕方ないことらしい。
貴族を処罰するのは、それだけ難しいことだ。
レイダも、貴族が狙って孫娘を誘拐した訳ではないと知った為、実行犯の人攫いが処刑されたことで手打ちにしたそうだ。
そういうもんかね?
俺はあまり納得いかないが。
郷に入っては郷に従えという。
アスラ王国はそういうものなのだと、俺は飲み込む事にした。
次に、人攫いについて。
彼等は北神流だった。
しかも、聖級だ。
騎士達が彼等の身元を調査した結果、彼等の師匠は元々王竜王国出身の北王だったらしい。
さらに遡れば……我らがカールマンの北神道場から離反した剣士を源流に持つらしい。
開祖の名前に聞き覚えがあった。
アレクに嫌気がさして出ていった剣士だ。
つまり、この事件は同門の恥である。
そして俺は長の兄。
バレたら責任問題になるかもしれない。
黙っておく事にした。
そして、イゾルテについてだ。
事件以降、仲は改善したと思う。
しかし、何故嫌われていたかは謎である。
そんなに俺の敬語が気持ち悪かったのか?
でも、レイダやタントリスからは指摘されてないしな……分からん。
とにかく、仲は改善した。
というか、彼女から遠慮が無くなったと思う。
買い出しに付き合わされる事も増えた。
別に荷物持ちをすることに異論はない。
ただ、服やら何やら嗜好品の買い出しにも付き合わされるのはよくわからない。
いや、別に嫌ではないけど。
寧ろ、まぁ、楽しい。
イゾルテは妹みたいなものだと、俺は考えている。
必要以上に仲良くなりたくはなかったが、俺も人だ。
共に暮らして、同じ時間を過ごしている以上、情は湧く。
湧いてしまったものは仕方がない。
そう割り切りたくはなかったが、割り切るしかない。
甲竜歴414年▲月◇日
レイダに認められ、俺は水聖となった。
これでイゾルテに並んだ……と思ったが、イゾルテは水王へと昇格していた。
イゾルテは水神流の天才なのだろう。
いつまで経っても追い付けない。
彼女を見ているとアレクのことを思い出す。
いや、アレクに比べたら素直で可愛い女の子なのだが。
弟……妹という立場。
優れた才能……次代の流派を担う天才。
やはり、似ている。
心の奥底で、気を許してしまっている。
かもしれない。
甲竜歴415年▲月◇日
最近、イゾルテの料理が美味い。
水神流は王宮剣術でもある。
剣術だけではなく、教養も学ぶ。
そもそもカウンター主体の剣術だ。
話術やちょっとした仕草を利用して、相手の攻撃を誘う。
剣だけでは成り立たない。
イゾルテは話術だけではなく、料理や、化粧の勉強もしていた。
そのお陰か、彼女は年々、女性らしくなっていく。
いや、元々女性ではあるのだが。
そのことを褒めると、イゾルテは嬉しそうにする。
こんなことで喜んでくれるなら、何度でも褒めよう。
……と、褒めすぎたらイゾルテに「誰にでも言いそうですよね、アルフレッドさんは」と嫌味を言われてしまった。
うーん、女心とは難しい。
甲竜歴416年▲月◇日
北神流を扱う盗賊団が出たらしい。
アスラ王国の北東にあるフィットア領という場所に出たとのこと。
水神レイダとの世間話中に聞いた。
嘆かわしい話だ。
祖父の残した北神流を穢すとは。
俺は祖父に大した敬意を抱いている訳じゃない。
産まれた頃には死んでいた。
会ったことすらない人間を尊敬し辛い。
父に対しても、敬意はあまりない。
ただカールマン二世という剣士には、敬意を感じている。
プライベートでは、父はあまり良い父親ではなかったと思う。
しかし、剣士としての父は尊敬できた。
そんな父が……弟が、門下生の仲間達が、人生をかけて身を捧げてきた北神流。
それを穢すということは、許せない。
そう考えていたのだが……彼等の起源はどうやら、北神流の道場から離反した剣士達らしい。
魔王派だの、よく分からない派閥を名乗っているが……元々は身内の恥だ。
恥は、取り除かなくてはならない。
それは、身内の手で。
この頃には、俺も水神流の王級になっていた。
ただ、これ以上の成長は見込め無さそうだ。
帝級を目指せるであろうイゾルテと違い、俺には才能がない。
水神流は剣術だが、剣の技能だけが全てではない。
極めるには素養も必要だ。
それがイゾルテにはあり、俺にはない。
単純な話だ。
水神流の道場に居ても、大きな変化は無いだろう。
ここに居る意味はなくなった。
ただ、今、居座っているのはレイダやタントリス、イゾルテが居るからだ。
彼等との交流、穏やかな時間に……俺は執着しているのだろう。
あれだけ長命種以外とは仲良くならないと決意していたのだが、どうにも俺は決意が緩いらしい。
しかし、このまま居座っていれば、俺は彼女達に依存してしまうだろう。
そして、別れが辛くなるばかりだ。
ここから離れる理由が欲しかったのかもしれない。
甲竜歴416年▲月◇日
俺はレイダと話し、フィットア領へ向かう事にした。
カールマン二世の息子として、北神流を扱う盗賊達を止めねばならないと口にした。
本音ではある。
だが、本心の全てではない。
……これ以上、彼女達と共にいれば、心を重くおいてしまう。
それを見透かしてか、どうなのか。
レイダはただ「そうかい」と口にしていた。
フィットア領へ向かうために、準備を始める事とする。
甲竜歴416年▲月◇日
イゾルテにバレた。
彼女はめちゃくちゃ怒っていた。