北神三世の兄-弟に勝つため本気出す-   作:ドゥンピドゥンピ

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#9 日記④

甲竜歴416年▲月◇日

 

イゾルテとは和解した。

いや、そもそも喧嘩ではなかった。

俺の至らぬ点に、彼女が怒っていただけだ。

 

反省して、誠心誠意謝って、許してもらった。

それだけだ。

 

フィットア領に出るまでの準備を、イゾルテは手伝ってくれた。

食料品の買い出し、非常食への加工。

野宿道具の用意、移動経路の確認。

 

別れを惜しみながら、彼女は用意をしてくれた。

それでも悲しそうにしなかったのは、俺が戻ってくると口にしたからか。

 

そう、戻ってくる。

彼女に帰って来てほしいと言われたからだ。

 

元々、長命種ではない人間と関わる気はなかった。

別れが辛くなるからだ。

 

だけど、関わってしまった。

そして、愛着を感じてしまった。

 

この家での生活は、心地良かった。

母が居た頃の家を思い出していた。

 

ただ、安心して……ただ、健やかに。

穏やかな時間だった。

 

帰りたくなってしまった。

俺の決心は、弱い。

 

彼女が死に別れるまで。

せめて、側に居たい。

 

……まぁ、生死とは関係なく、別れる時が来るかもしれない。

例えば、彼女に夫が出来て俺が邪魔になったり、とか。

 

イゾルテは出会った頃より背が伸びた。

もうすぐ、大人の女性になるだろう。

その片鱗が彼女から見て取れる。

 

イゾルテは綺麗だ。

美人だ。

性格も良い。

 

もう少し歳を取れば、男達も黙っていられなくなるだろう。

引く手あまただ。

だから、結婚も秒読みに違いない。

 

その時は祝福しよう。

……しかし、碌でもない男なら、俺が斬ろう。

 

イゾルテは俺にとって、妹みたいなものだ。

彼女の未来を守る義務が、俺にはあるのだ。

うむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲竜歴416年▲月◇日

 

王都アルスを発った。

今日からまた、一人旅だ。

 

誰とも話さず、山を歩く日々。

獣を狩り、木の上や洞窟で寝る。

 

寂しい。

旅をしていたあの頃に比べて、強くなった筈なのに。

心は弱くなってしまったようだ。

 

目的地はフィットア領。

そこに北神流を扱う盗賊達が居るらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲竜歴416年▲月◇日

 

鬱蒼とした森を抜ければ、麦畑が見えて来た。

穏やかな風景だ。

 

ここがフィットア領らしい。

中々に穏やかな景色だ。

 

しかし、少し離れれば、また鬱蒼とした森が見えた。

森の奥には山も見える。

 

盗賊が隠れるにはうってつけだ。

しかしまぁ、とにかく、勝手が分からない。

 

現地の情報が欲しい。

人の多い街へ行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲竜歴416年▲月◇日

 

城塞都市ロアへ到着した。

領主も住んでいる都市で、フィットア領にて一番大きな都市らしい。

 

まぁ、王都アルスに比べれば規模は小さいが。

冒険者が多いらしい。

 

レイダが言っていた。

あそこは粗暴な奴らが集まる田舎で、どちらかというと俺達向けの街だと。

 

言いたかった事は、確かに分かった。

街には、剣や杖を持った奴が沢山いたのだ。

 

城壁を守る衛兵に止められたが、冒険者だとすぐに通して貰えたぐらいだ。

それだけ、荒くれ者が多いのだろう。

 

治安も悪そうだ。

気を付けよう。

 

……それにしても、上空にある赤い球体はなんだ?

誰も気にしていないように見えるが、どう考えても異常事態だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲竜歴416年▲月◇日

 

食料品の買い出しに出掛けると、ロアの町長が演説をしているのを見かけた。

線が細く、貴族らしい貴族という見た目の男だった。

だが、信念はありそうだ。

 

そんな事より、男の横に立っていた獣族の剣士が気になった。

褐色の肌を持つ筋肉質な女剣士だ。

半裸か、ってぐらい布面積が少ない。

凄い格好してるな。

 

この辺りの剣士の質は高いらしい。

盗賊団に対する警戒度を引き上げなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲竜歴416年▲月◇日

 

城塞都市ロアを発った。

 

冒険者ギルドでの情報収集が終わったからだ。

盗賊達の討伐依頼が出ていた。

元々、旅をしていた間の小銭稼ぎに冒険者をしていた。

盗賊狩りを継続するには資金も必要だと、依頼を受けていく事にした。

 

 

ロアを経つ前に、イゾルテに手紙を送った。

定期的に手紙を送って欲しいと言われていたからだ。

 

フィットア領に到着した旨、これから本格的に盗賊狩りをする旨……あとは近況か。

それらを書いて、送った。

 

一方通行の手紙だ。

こちらは住所不定だから、仕方がない。

 

 

さて、次の目的地はフィットア領の端にある山脈だ。

そこを盗賊達は拠点にしているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲竜歴416年▲月◇日

 

山にある自然な洞窟を改装して、盗賊団の拠点となっていた。

自然の城塞と言った所か。

 

北神流の剣士が用心棒として雇われていた。

しかも、北聖だ。

 

戦う術を持たない農民や、一般的な冒険者には荷が重いだろう。

他に、上級程度の北神流を扱う盗賊も居たし。

 

まぁ、大した事はない。

全員、斬り殺した。

 

改心を促したのだが、無意味だった。

俺の見た目が若く、威厳が無いからだろうか?

 

威厳ってどうやって出せば良いんだろう。

分からん。

 

とにかく、一つ、盗賊団を壊滅させた。

しかし、ここだけではなく幾つか盗賊団があるらしい。

 

まだまだ、盗賊狩りは続きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲竜歴416年▲月◇日

 

山の麓にある小さな村へ降りた。

食料を補給したかったからだ。

 

ブエナ村というらしい。

 

そこの猟師であるロールズという男の世話になった。

彼はエルフの血を引いており、長命種だった。

なので長命種族同士、話が盛り上がった。

 

この村にはもう一人、長命種が居たらしい。

なんでも、昔、家庭教師の魔術師としてミグルド族の女性が来ていたとか。

機会があれば会ってみたかったが……まぁ、仕方ない。

 

しかし、家庭教師で魔術師とは。

この村には相当な魔法の才能を持つ子供が居るのか。

そうロールズに問えば、その子供は数年前にロアへ働きに出たらしい。

 

娘のシルフィエットとは大層仲が良かったとか。

なんとも悲しい話だ。

 

そんなロールズの娘、シルフィエットは気が弱いらしい。

俺を見て怯えていた。

……あまりここに長居はしない方がいいだろう。

 

食料の補給が済み次第、また山に籠るとしよう。

 

ああ、そうだ。

その前に、イゾルテに手紙を送らねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲竜歴417年▲月◇日

 

また別の盗賊団を潰した。

今回は生き残りもいる。

 

前回の盗賊団狩りの結果、俺のことが噂になっているらしい

通称は『盗賊狩り』……なんというか規模の小さい渾名だ。

弟は『北神三世』なのに、俺はただの『盗賊狩り』だ。

しょーもない。

 

盗賊は抵抗しなかった。

そのままロアまで連れて行って、衛兵に引き渡した。

 

冒険者ギルドで換金するためだ。

 

貰った金を食料や消耗品に変えて、また盗賊狩りに出掛けるとしよう。

 

しかし、久々の街だ。

明日は美味い物でも食べるとしよう。

 

 

 

……あの赤い球体、また大きくなってないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲竜歴417年▲月◇日

 

町で領主の娘を見つけた。

赤毛の気を強そうな少女だ。

家庭教師である少年を殴っていた。

暴力的な女の子だ。

 

護衛として、あの獣人族の女剣士がいた。

興味深くてジロジロ見てしまっていたからか、睨まれてしまった。

 

争うつもりはないので、そそくさと立ち去ったが。

 

また、イゾルテに手紙を送ろう。

返信が返ってこないのは寂しいが、彼女の頼みだ。

 

冒険者ギルドに記載されている盗賊団も残り一つ。

それが終われば、王都アルスに帰れる。

 

そう手紙に書いておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲竜歴417年▲月◇日

 

最後の盗賊団を殲滅した。

用心棒をしていた北神流の剣士を討ったら、戦意を喪失していた。

前回と同様、連行してロアで換金しよう。

 

それが終われば、王都アルスに帰れる。

あんなに離れたがっていたが、いざ離れてみると辛いものだ。

 

結局のところ、俺は意志が弱い。

傷付きたくないからと、イゾルテ達と離れる決心をしていたのに……離れたら離れたで傷心している。

きっと、あのまま黙ってさよならしたとして、俺は耐えられたのだろうか。

 

孤独に耐えられず、しれっと戻ってそうだ。

そしてレイダに呆れられ、イゾルテに叱られ、タントリスに嗜められていたんじゃないか?

いや、帰る勇気もなくて、いじけながら旅をしていたかも。

 

自分に対する信用がない。

ナイーブな気持ちでいっぱいだ。

 

とにかく、帰ろう。

まずはロアへ。

そしてアルスへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲竜歴417年▲月◇日

 

ここはどこだ?

何も分からない。

取り敢えず、人を探そう。

 

 

 

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