霊能力女体化男子と言霊男体化女子 -亡霊より怖い生身の人間の言葉の呪い- 作:卯月らいな
「わあああ!大変だ!化け物が出たぞー!」
屏風に描かれた女性の首が伸びて実体化し、ろくろ首のように首が伸びた姿で私たちの目前に現れた。
「やっぱり、没落華族の呪いは本当だったんだ!」
ここは、明治時代に建てられた洋館。長らく空き家だったが、IT起業家が趣味が講じて、内装工事だけ済ませて、家族と住んでいた。
しかし、幽霊が出たということで、霊能力者である私に依頼が来たのだが、来てみればこの有り様である。
まったく、今回の悪霊はなかなかの霊力で骨が折れそうね。
紺のセーラースカートと肩まで伸びた髪をたなびかせ、呪文を唱えると、私の体は怪しく光る。
「祓え給え!清め給え!」
「おのれー! この館は私のものだ―! 口惜しやー!」
断末魔を上げ、幽体は光り輝き、そして、姿を消した。
「ありがとうございます。報酬の500万です」
「儲かってる割にケチな額ね。まあいいわ。屏風もついでにもらっていくわ。中国は明の時代の美人画。なかなかの値段になりそう」
ふわりとテレキネシスで屏風を空中に浮かべ持って変えることにした。
「あんた⋯⋯いったいなんなんだ」
「どこにでもいる天才霊能力者女子中学生ってところかな? ふふっ」
不敵な笑みを浮かべてその場を去るがしばらくして、我に返る。
「あ、霊力使いすぎたら元の姿に戻っちゃうかも。やっぱり、手で持って帰った方が⋯⋯」
私の名前は、
心霊現象が見え、超能力を操れたりするので、悪用して女子に擬態して生活している。
だって、男の子と恋愛してみたいんだもん。まあ、男の頃にモテなかったんだから、女の子になったところでモテないけどさ。とほほ。
☆ ☆ ☆
ある日、学校に転校生がやってきた。
白髪で赤目の女の子。外国人というわけではなさそうだが、エキセントリックな見た目だ。
「自己紹介を」と教室の黒板の前で先生が促す。
「私、
ふうん。面白いこと言ってくれるなあ。試しに霊能センサーをピンと張ってみる。反応がない。つまり、霊能力皆無だ。
ただの嘘つきだね。まあ、魅力がなくて、構ってもらいたがりの女はよく虚言するものだ。過去にそんな女は何人か見てきた。珍しいタイプじゃない。
魂子は自席に向かう途中で止まると私の方に振り向き、何かを見透かしたような視線を向けた。握手を迫る。
まあ、露骨に敵対的な態度をとることもないだろう。向けられた手を握る。
「私、霊子。よろしく」
「ふふふ。あなたはいろいろ闇深そうね」
ゾクッとした。霊力ではない何かもっと人間的な直感がこの女はやばいと言っていた。
とにかく、霊能力がないのに私の正体がわかるはずがない。あまり考えすぎないことだ。
☆ ☆ ☆
転校初日、理科室をポルターガイストが襲う。
標本の骸骨に悪霊が取り付いたのだ。
学校は戦前に立てられた建物を使っている。
空襲のときには、野戦病院に使われた。亡霊が出てくるのはそう珍しい話ではない。
自分の力で除霊しても良いのだが、ここは言霊少女とやらのお手並みを拝見したいところ。
「きゃあっ!助けて!」
だが、魂子は、まるで、幽霊をはじめて見たかのようにひたすら恐れるばかり。
腰を抜かして、私の方に助けを求める。
だめじゃん。拍子抜けだなあ。
私が、お祓いのポーズを取ると、霊力が髪の毛を逆立たせる。これ、後でヘアケア大変なんだから。女の生活って楽しいけど面倒。
「祓え給え!清め給え!」
骸骨から、蒼い魂が抜け出て、そして、光り、消えた。
除霊完了っと。
「ありがとう」
半泣きの顔で魂子は私に握手を迫る。しょうがない子だなあ。
「まあ、これに懲りたら、言霊だなんて変な見栄はらないことね」
その言葉に対して彼女は目を光らせる。
「あなたもね」
な、なんだこいつ。助けてやったのに何のつもりだ。きっと、売り言葉に買い言葉でこちらを言い負かせようとしているだけだ。
そうに違いない。
☆ ☆ ☆
魂子がやってきて1ヶ月が過ぎようとしていた。
工場へ校外学習に向かうと高速道路のサービスエリアに謎の男が乗り込み、バスガイドに刃を向けた。
「やい!手を上げろ!言うことを聞かないと一人ずつ葬るぞ!」
日本刀を振り回している。これはまずい。
もし、薬物でもやっていたら、説得のしようがない。
とりあえず、落ち着いて霊力アンテナを張る。霊で解決できる問題だったら、解決したい。
この近くのトンネルは心霊スポットなのだ。きっと、悪霊が悪さをしているかもしれない。探知してみると確かに少し霊気がする。
霊が原因なら、簡単だ。いつものポーズを取る。
「除霊するわよ!祓え給え 清め給え!」
霊気は確かに消えたはずだった。だが、男は日本刀を振り回すのをやめない。
おかしい。霊は取り除いたはずだ。こんなことがあるはずがない。もっと、他の幽霊でも隠れているのか?
そんな中、横を誰かがよぎる。
魂子だ!
魂子は単身で男の方に向かう。
「やめなよ! 霊能力のないあんたにできることはない」
だが、魂子はその言葉に首を振る。
「私なりのやり方があるの。任せて」
その背中は、霊気はしないが不思議なオーラが漂っていた。
「この小娘!刀の錆になりてぇか!」
男は乱心するが、魂子は微動だにしない。
そして、透き通ったソプラノボイスで語りかける。
「あなたを苦しめているそのつまらない女、人生を狂わせるほどのものかしら」
何の話だ? いきなり関係のない話をしている。こんなわけのわからない言葉で説得できるわけが⋯⋯。
だが、その言葉に男は動揺した。刀を魂子の目前に突きつける。
やめて。無茶をしてはいけない。
「な、何を言ってるんだ。俺が周囲から何を言われたか知ってるのか?」
吃音と足の震え。理由はわからないが、男は動揺している。
しかし、霊力反応はない。何が起きているんだ。
魂子は続けた。
「あなたは男らしさを母親に、そして、恋人に求められて生きてきた。ずっと、男らしさに縛られて。でも、その人達はあなたに、結局、何も与えなかった。あなたを操るための方便として男らしさという言葉を利用してきただけ。何も怖くないの。あなたは自由よ」
男は膝から崩れ落ちると刀を納めた。
運転手と先生が協力して床に取り押さえたが抵抗する様子はない。完全に観念したようだ。
男は警察が署に連れて行った。
夕方のニュースは言っていた。男が母親と恋人の命を奪った後、やけっぱちの気持ちでバスジャックをしたと。
本当に魂子の言った通りの動機で事件を起こしたんだ……。
私は唖然とした顔をしつつも魂子の実力を認めざるを得なかった。
☆ ☆ ☆
翌日の放課後、夕焼けを眺めながら、魂子とふたりで学校の屋上で語り合う。
「言霊を発するのは幽霊じゃないの。人間が人間に対して、呪いの言葉をかけ、つまらない人間のつまらない言葉に縛られて多くの人は生きていく。長女でしょ。モテないだろ。小学生にでもできるでしょ。本当の呪いの言葉には霊力なんてこもっていない」
真の呪いは、生身の人間の言葉……。
霊能力でなんでも解決できると信じて今までやってきた私は信念を揺るがされた。
幽霊よりも人間のほうが怖いとは陳腐化したセリフだが、眼の前にいるライバルはそれを体現したかのような存在だ。
魂子はこちらを向く。
「あなた男でしょ」
「なっ!!」
心臓がバクバクする。どこまで見抜いているんだ!?
「あなたもバスジャックと同じ。男らしさの呪縛から解放されるために女として生きている。違う?」
「だ、だから何だと言うんだ。みんなに言うつもりか」
息を整える。バレたら学校生活が終わる。そうならないために張れる予防線はないか。
そんなことで頭を巡らせていると、魂子は思いもよらぬ提案をする。
「私を男の体にしてほしい。そして、あなたのパートナーになりたいな。恋愛面そして、ビジネスパートナーとしても」
なんだって!? 迷コンビ結成。これでいいのか?