霊能力女体化男子と言霊男体化女子 -亡霊より怖い生身の人間の言葉の呪い- 作:卯月らいな
<優奈>
私は校門の前に立ち、ポニーテールを揺らして深々とお辞儀をする。
行き交う生徒。無視をする者、訝しげな目で見つめてくるもの、優しい笑顔を向けて来る者。通る人々は多種多様だ。
「署名お願いします! 女子制服を可愛くしたいんです!」
私の名前は、優奈。平凡な公立に通う中学生だ。
私は、一大プロジェクトを企んでいた。
田舎の古いデザインの制服を一新しておしゃれにする!
そのために、ファッションデザインの勉強をめちゃくちゃ頑張ってきたんだから。
ファッション雑誌や衣装デザインのノウハウの本を買い漁り、お友達の知り合いのデザイナーさんにお願いして見てもらい、修正に修正を重ねてこだわりぬいたデザイン。
前から見ても後ろから見ても斜めから見ても、女子なら、きっと可愛いと思うようなそんなデザインを考え抜いた。
新聞部に協力してもらい、学校新聞に掲載してもらった。
そして、仕上げの署名だ。
「頑張ってね!優奈ちゃん!」
「ありがとう!応援してね」
署名178名! この学校の人数にしては、なかなかの上出来!
お昼休憩の時間に教頭先生にデザインと署名を提出する。
いきなりではなく、かなり前から根回しはしてある。
「ふむ。よくここまで頑張ったね。じゃあ、今度、全校投票してみよう。我が校の校則にあるとおり、全校の生徒の2/3が賛成したら、制服変更だ。これも、学生たちにとって民主主義の勉強になるいい機会だ」
「やったー!」
私は喜びに満ちていた。私も嬉しいしみんなも喜ぶ……はずだった。
なのに、どうしてこうなったの?
1週間後、制服変更投票のポスターを張りに隣のクラスに入りに行ったら鋭い視線で睨まれる。
「制服変更反対! 出ていけこの変態女!」
心無い罵声を浴びせられる。しくしく。
私がまごまごしていると、背後から野太い声が飛んでくる。
振り返ると、校則違反な長ランを着た角刈りの男子5人組が教室にずかずかと立ち入る。
「うるせえな!何が問題あるんだ。女は可愛い服を男はかっこいいふんどしを! それの何が悪いんだ! 男女平等だろうが!」
それに対して、韓国風のマッシュの髪型の男子が睨む。
「いくらなんでも制服が越中褌(えっちゅうふんどし)はないだろ! ふざけるな!」
私の頭上を不毛な口論が飛び交う。そうなのだ。
制服の全校投票が通知されたあの日、見知らぬ男子生徒が職員室に押し寄せたのだ。女子制服の変更と共に男子生徒の制服を越中褌にしろと主張し、私の変更案とセットで押し通そうとしはじめたのだ。
やめて⋯⋯。私はかわいい制服を着たかっただけなのに。どうして、自分の主張でもないものを背負わされて、男子に
私が何をしたって言うの?
「ちょっと待ったぁ!」
男女がユニゾンした声が聞こえた。
巫女装束の女子と私服男子が教室がやってきた。
聞いたことがある。女体化霊能男子と言霊男体化女子!
大人社会を渡り合い社会にはびこる悪霊を除霊する2人組がうちの学校に居るってことを。
「ここから、強い霊力がするわ。イデオロギー憑依霊の霊力が!」
「久々の活躍だからって張り切ってない?」
「うるさいわね。最近、あんたの活躍回が最近多すぎるのよ」
軽妙な軽口に余裕を感じる。助けに来てくれたんだ⋯⋯。私は胸をほっと撫で下ろし、期待感でいっぱいになる。
「祓い給え! 清め給え!」
巫女が除霊棒を振りかざす。控えめに言ってかっこいい。
越中褌の会の男子の背後から、紫色でつぶつぶの物体が飛び出す。まるで漫画に出てくる魂みたいな得体のしれない形。
こ、これが悪霊だって言うの?
5人組はフラフラと倒れると、保健委員の男女が駆け寄る。他のクラスメイトも協力し、保健室かどこかに連れて行った。
「うおおおお! そんな霊力で俺を倒せると思ったか! 貴様に取り憑いてやるー!」
紫は、巫女女子と私服男子の方に向かう。
「打ち合わせどおりいくわよ!」
「まかせて!」
二人は、指のポーズと声を合わせる。
「霊力と言霊! ふたり合わせれば千人力! 臨兵闘者皆陣列在前! 悪霊退散!」
すると、悪霊の声が、不協和音のように響き渡る。
「うががががが! 我が思想が負けるはずがー! ふんどし思想がー!」
そんな思想あるかっ!
「どこが思想よ。あんたの私利私欲じゃないの」
似たようなことを巫女少女が突っ込む。そりゃ、こんなツッコミどころ満載なこと言われたら、買い言葉も似通ってくる。でも、ちょっと恥ずかしい。
巫女が祓い棒を天にかざすと悪霊は消え去った。白黒映画のような色彩だった視界はカラフルさを取り戻し、教室は静まり返った。
「い、今のは……?」と私が聞くと巫女は答えた。
「イデオロギー憑依霊よ。崇高な理想を唱え、大衆に支持される人を見つけたら取り憑く悪霊。理想を乗っ取り、美しい言葉を盾にしつつ、私利私欲に基づいた別の思想にすげ替える現代の大悪霊。今、世界中ではびこっているの。私みたいな神道の祓い師だけじゃなく、世界中のエクソシストが祓いたくてもなかなか祓えなくて血眼になっている」
「な、なにそれ。怖い。テレビとかネットでこんなのみたことないんだけど⋯⋯」
「そりゃそうよ。まあ、普段は普通の人間のような顔をしているからね。時に、政治家に取り憑いたり、市民運動家に取り憑いたり、大学の先生に取り憑いたり。今日みたいに学校にも侵入することもある。一度、取り憑いたら、社会のルールを自分たちに都合よく変えるまで納得しない。本来、誰かによって人を幸せにするために掲げられた透明な理想を灰色の道具として使ってしまう」
この教室の中での小さな出来事でも怖いのにこんなのが、世界中がそんなことになっているって。今の社会どうなってるの?
現代社会の闇を見た気がした。
唖然とする私の前に、巫女は署名カードを差し出す。
「イデオロギー憑依霊は、数字に取り憑くの。思想を具体的に実現する手段として数字を持ち出した時、目的を手段をすげ替える形で取り憑く。お金、人気投票、SNSのインプレッション、企業の業務指標。官公庁にも棲み着いていると聞くわ。現代社会を渦巻くありとあらゆる数字に取り憑く。あなたも数字には気をつけたほうがいいわ。ハッ!」
気合を入れると、署名用紙から紫の魂が飛び出て消えていった。こんなところから憑着始めたんだ⋯⋯。
「数字に気をつけるって⋯⋯。投票しないと校則は変わらないし、いったいどうすればいいのよ」
「今の時代にできることは、理想を実現するタイミングで数字を使わなくてはいけなくなったら、悪霊が寄ってくるかもしれないから、監視して、ありのまま、本当の情報を広げるしかない。SNSがある時代だし。でも、それは、対処療法。でも、本当に対抗する方法は、まだ、人類は獲得できていない。霊媒師も限られているし、普通の人が対抗できる方法を発明しないといけない」
それだけ言うと、巫女は颯爽と去っていった。
後日、越中褌の会は解散した。彼らは普通の髪型に戻し、平穏な生活を送っている。本当に悪霊のせいだったんだね。
無事、女子制服は、可愛く変更することになった。男子制服もついでに研究し、デザインすることにした。
男女平等を盾に主張されたら、言い逃れできないからね。
<霊子>
夕暮れ、いつもの学校の屋上で二人たたずんでいた。
「ふんどしの制服でも良かったんだけど」なんて軽口を叩いてみる。
「あんたねえ。自分の今の性別が女だからって無責任なことを……」
「ごっめーん」なんて舌を出してみたりして。
私たちの冒険は続く。