霊能力女体化男子と言霊男体化女子 -亡霊より怖い生身の人間の言葉の呪い- 作:卯月らいな
<霊子>
日曜日の午後、魂太の家で私たちはいた。
当初、除霊の依頼人が来る予定だったが、土壇場でキャンセルになったのだ。
立場の弱いフリーランスにはよくある話。めげないで、気晴らしに遊ぶことにした。
「ゴール! 1位! まあ、俺のドリフトさばきならこんなものだね」
「5位かあ。さっきより順位あがったけどさ。魂太ははやいなあ」
私たちは家庭用ゲーム機でレースゲームをしていた。
魂太ったら、すごいなあ。ゲーム歴はそんなに長くないと聞いているけど、コツを掴むとみるみる上達していく。
日々、色んな人間の呪いの声を聞きながら、人間社会の経験値を蓄積していくから、やったことがないものでも、勘所を捉えるのがきっとうまいんだよね。
かっこいいなあ。ふふ。ちょっと、頬がゆるみそう。
「へたくそ」
むむっ。ちょっと、微笑ましく思っていたら、生意気なこと言い出すので、言い返すことにした。
「む。でも、私も負けてないわよ。実績解除がこれだけあるんだから!」
ゲーム機に溜め込んだトロフィーを見せびらかす。コンピュータゲームの世界では、トロフィーは、色んな行動を試すことで得られる。
敵を100体倒すのような数を求められるものもあるし、ゲームをクリアしたとき、逆に、ゲームオーバーになったときなど、もらえるタイミングは様々だ。
とにかく、コツコツした数字の積み重ねの努力だけでなく、ポジティブな結果が出た、ネガティブな結果が出たなど、様々な行動の節目に対して、それぞれ、価値あるものだとプレイヤーを褒めてくれる。
そんなシステムが、最近はゲームに搭載されていることが多い。
「話がずれてるよ。レースゲームなんだから、ハイスコア、短時間でゴールした方が偉いに決まってるだろ」
「むー⋯⋯くやしい」
「へへーんだ」
こんな会話で彼氏といちゃつく休日。会話でちょっと負け役になって一歩引いてあげる優越感も含めて私にとって心のオアシスだ。ちょっと反論しつつ、彼を立ててあげられたのうれしい。
男女のカップルがいて、女の子側のポジションを体験できているみたいでときめいちゃう。女の子になってよかったあ。
「なににやにやしてるの?」
「なんでもない」
頬に力をこめ顔をそむけて真顔になってみる。こういうのは、相手に悟られず、自分の中で喜びを噛み締めなきゃ意味がないの。
「人生って長距離走だから、意外と実績解除型の方がいいかもしれないよ?」
「パパ!」
魂太くんのパパが、ノートパソコンを片手にリビングにやってきて、声をかけてくる。
ゴルフに行くようなポロシャツに丸メガネ。仕事バリバリやってそうな雰囲気を醸し出している。
「今の時代の社会の仕組みだとハイスコア型の努力をした方が出世しやすいし、若い頃は経済的に成功をおさめやすい。結婚とかもしやすいかもしれない。でも、いざ実力を求められるときって、意外とものを言うのは、ゲームオーバー的な体験も含めて、実績解除的な挑戦を増やそうとしたときに得られたことなんだよ。まあ、出世コースに乗る人は、いろんな部署や海外を回されるけど、それでも、解除される実績は意外と偏っていたりして」
と、仕事で得た実感らしきものを語りだす。
「へー。じゃあ、スコアなんて無視して、いろいろ経験した方がいいってことですか?」
と、聞き返すと腕組みと頬杖で考え込みはじめる。
しばらくすると、考えがまとまったのか話し出す。
「世の中の人物評価はハイスコア型で動いている。だから、表では、ほどほどにスコアレースから脱落していないふりをした方がいいかもしれない。低スコアすぎると、いくら能力が高くても、能力が低いというみなされて、実績解除するチャンスが与えられなくなってしまうことがあるからね。だから、スコアを程々に稼ぎつつ、裏ではしっかりと実績解除型の動きをする。今はそんな感じで社会の矛盾の海を泳ぎ切る時代かもしれないかな」
「ふーん」
わかったようなわからないような。
もやもやを抱え、次の日、学校に向かった。
「霊子ちゃん。次の時間、英語じゃないよ。文化祭の出し物の話するって先生言ってたじゃん」
英語のテキストを出そうとしたら、隣の席の女子に制止される。
そっか、ちょっとぼんやりしてて聞き逃していたなあ。
出し物を決める前に、誰がうちのクラスのリーダーになるかを決めることにした。
「リーダーに立候補したい人は?」と先生。
「俺にチャンスをくれ!」
挙手をしたのは、
おばけ屋敷やることになったはいいけど、てんやわんやと仲間割れ。
ドライアイスで冷気を出すなんてアイデアを採用。ドライアイスの冷気は値段が高い割にすぐなくなる。
理科の授業を真剣に受けてなくても、わかりそうなことだけど、やってしまったのだ。
「お前なんかにやらせるわけないだろ」と野次。
「頼む! もう一回チャンスを!」
私は魂太に目線と飛ばすが首を横に振る。特に言霊に憑かれていないようだ。悪霊にも憑かれていない。
「そんなこと言ったってなあ。2組の
反対意見は上がったが、他に立候補者がいないので、戸馬くんがリーダーを務めることに。みんな呆れた顔をする。
隣のクラスに行くと槍手くんがいた。魂太が鋭い視線を向ける。
「あいつ、言霊に呪われている」と言うので
「どういうこと?」と聞き返す。
「親からの圧力による推薦進学の呪いにとらわれている。槍手にとって、学園祭委員長はあくまで踏み台。そこまで真剣に取り組む気はない」と魂太は言う。
そんなのを知ってか知らずは周囲はこれみよがしと噂をする。
「いいよなあ。2組は槍手で。うちのクラス3組なんて戸馬だぜ」なんて噂が耳に入る。
学園祭当日を迎えた。我らが3組の出し物は異世界三国志。
人気のライトノベルが原作で、ピーチパラダイスに主要キャラが3名が集い、軽妙なジョークを交わし、義兄弟の誓いを交わす場面。
戸馬の支持に従い、大道具役がライトを当て、それぞれがセリフを言う。
中国の三国志演技では、男三人が登場するわけだが、ここは、日本人がアレンジしたラノベらしく、そのうち、劉備という歴史上の人物に相当する役が女に置き換わっていたりする。
舞台役者のような大袈裟な演技。学生席は息を呑む。
将来は、声優志望の女子が大げさなジェスチャーで演じる。
「私たち三人は、生まれた日は違うが、志は同じ姉弟よ。天下泰平のため戦うぞ!」
「おー!」
あまりの迫力に客席からは、拍手喝采。
戸馬くんからすれば、彼女の演技力を魅せるために演目を選んだようなところもあるのだろう。
裏方から役者から演技指導まで、戸馬は完璧な段取りをした。
一方の2組は散々だった。ライトはあたってないは、マイクは消音だわ、演技もやる気ないわ。
「なんだよ! 槍手、全然ダメじゃないか!」
誰かの叫びが舞台に響き渡る。
明暗がきれいに別れた。
いつもの学校の屋上に戸馬くんを呼び出し、話を聞いた。
「俺、去年の失敗が悔しくてさ。失敗したポイントをメモして、同じことを繰り返さないシミュレーションをしたの。なんつーか。中学生のうちにプロジェクトの空中分解経験できて良かったよ。大人になってからだと大変なことになるからさ」
なんて話していると、槍手くんもどこからかやってくる。
「俺も今回、いい経験積ませてもらったよ。戸馬、大人になったら、どこかで会おう。お互い、立派な大人になっていることを誓って」
「ああ!」
三国志の桃源の誓いのような友情を眺めた。
魂太含め、男子3人の青春を遠巻きに眺めている女子が私。
すごく青春できているなあ。
私たちはいつものように二人きりになる。
「男と女の経験、こうして、両方積むのも悪くないかも」
「そのうち女の子側の経験の方が豊富になるかもよ?」
「こらっ!」
私たちの冒険は続く。