霊能力女体化男子と言霊男体化女子  -亡霊より怖い生身の人間の言葉の呪い-   作:卯月らいな

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プレゼント交換アプリの悲劇

大学のビジネスサークルのメンバーが集まる中、私はQRコードパネルを部室の入口に展示する。

 

「インストールしてってね! お友達にも紹介してね!」

 

元気な声を作り、周辺にアピール。

 

「あんた、また新しいアプリ作ったの?」とお友だちの優子が興味津々からかい半分に声をかけてくる。

 

待ってましたとばかりに私は説明をはじめる。

 

「へへーん。とっておきのビジネスなんだ。その名もプレゼント交換アプリ!」

 

私の名前は英子。大学のビジネス学科に通っている。MBAという国際的に通用する経営者の資格に向けての勉強をしつつも、学内起業を企んでいる。

 

だから、起業意識の高い同級生を中心にサークルを組んでたりする。

 

私の回りには、教育コンテンツ動画をやってみたりとか、福祉系のNPO法人を立ち上げたいとかが多いかな。

 

私にはプログラミングという武器がある。兄がシステムエンジニアで、ITインフラからフロントエンド、バックエンドまでみっちり仕込んでくれた。

 

お陰様で、実現できるアイデアの幅が広くて願ったり叶ったり。

 

SNSアプリや動画アプリで世界が華やぐ時代、新しいサービスを作って、世界中の人に使ってもらう。それが私の夢だ。

 

小さくビジネスをはじめるのは現代の起業の鉄則。社員を雇わず、一人であれこれできないといけない。プログラミングは元より、法務から営業まで自分自身でやる。

 

技術や知識よりもアイデアが大事だ。私は何にわくわくして生きてきただろう。

 

小学生の頃のクリスマス会を思い出す。子ども会のメンバーが公民館に集まっていた。

 

プレゼント交換楽しかったんだよね。かわいいキャラクターものの文房具詰め合わせセットを持っていったら、手編みのマフラーが返ってきたりして。

 

あの頃の喜びをみんなで分かち合いたい。そう思ってサービスを開設したんだ。

 

サービスはクローズドなところからはじめた。

 

サークルと交流のある有名大学の子たちが、最初の会員だ。

 

コミュニティ機能で仲良くなった人同士、予算3000円、5000円、10,000円のコースで自分がいいと思ったモノを交換し合う。

 

「楽しいねこれ! サプライズがあっていいよ」

 

「でしょ! でしょ!」

 

有名洋楽ロックバンドのCDを手に優子は満面の笑み。

 

みんなが幸せになってみんなが喜んでくれる。そんな風に思っていた。

 

半年後。鏡に映る私の顔色は真っ青になっていた。

 

『段ボールの空箱プレゼントされたぞ!ふざけんな!』

 

『マツタケって書いてあったから開けたら、テーマパークの予約なし入場券がはいってたわ。待つだけってメモが……。ふざけないで!』

 

クレームのメールが殺到し、対応に追われている。

 

どうしてこんなことになったの? サービスの最初の1ヶ月はみんな喜んでくれてたのに! 

 

徐々に友達の輪を広げていき、会員を増やしてスケールアップしていった。

 

そろそろ、一般の人もメールアドレスで登録できるようにしようかな。

 

そんな風に思っていた。そんな頃合いだった。

 

学内にあるポスターに目を留める。

 

『霊能力女体化男子と言霊少年』

 

「あやしい。あやしいけど、わらにもすがりたい⋯⋯。悪霊に憑かれているのかも⋯⋯」

 

3割引キャンペーンとのことらしい。

 

こういうのって本当の原価を誤魔化しているんだよね。起業家だからわかる。

 

まあ、気分転換に呼んでみるか。

 

霊媒師を呼ぶことにした。

 

電話すると本当に巫女装束の女の子がメガネをかけた男の子を引き連れてやってきた。

 

かわいいけど、本当に男の子なの?

 

「祓い給え! 清め給え!」

 

祓い棒を振り終えると女の子は深々と一礼をする。

 

「除霊・・・・・・終わったの?」

 

私は質問する。

 

「一応、Webキャッシュサーバサービスに悪霊はついていたから除霊しといたけど、キャッシュサーバって、プレゼント交換サービスだけじゃなく、よそのWebサービスにも広く使われてるものだから、クレームが多い原因ではなさそうなんだよね」

 

結構、IT回りくわしい子だな。理屈がもっともらしい。

 

まあ、何にせよ、オカルト屋の方便にすぎない。

 

その理屈で言わんとしていることは『私は仕事を果たしたけど、責任は取れません』という免責のためのアピールだ。

 

はあ。雇って損しちゃった

 

でも、まあ、これも勉強料かな。

 

「ありがとう。じゃあ、これが報酬」

 

キャッシュレスで支払いを済ませる。

 

言霊少年が何か言いたそうな顔をしている。

 

「何?」と聞くと少年は語り始めた。

 

「僕、頭のいい人たちの世界のことはわかんないけど、来週のこの授業になんか、言霊が憑いているようにみえるんだよね」

 

と、言いながらシラバス(時間割表)を指さす。

 

あー。私のじゃないけど、誰か出しっぱなしにしてたか。

 

文学部のやつ、でも、彼が指さしたのは専門科目ではなく一般教養だった。

 

マクロ経済学か。

 

「これを受けろっていうの?」

 

「うん。何かこの授業に隠されてるように見える」

 

「はあ」

 

ため息を付く。

 

事前に登録した授業じゃないから受けても単位取れないんだよね。これ。

 

でも、授業と授業の合間の空き時間だから、試しに1回だけ受けてみようかなあ。

 

普段は部室、図書室、パソコン室なんかでぶらぶらしている時間帯だし。

 

マクロ経済学の授業は市場の失敗という回だった。

 

教授は説明する。

 

「1970年、アカロフというアメリカの経済学者は、市場の失敗というテーマの論文を書いた。どんなに善意で経営をはじめても必ず失敗してしまう、そんなビジネスのお話だ」

 

プロジェクターにはフォードの車が大写しになる。

 

「当時、中古車屋はトラブルが多かった。思ったように買い手がつかなくて売買が成立しなかった。それはなぜなのかを分析したんだ。車を売りたい人は、傷があったり、走り過ぎて燃費が悪いという車のマイナスの情報を隠したがる。だが、買い手はそれを知りようが無い」

 

プロジェクターには困った人間のイラストが大写しに。肩をすくめている。一方私の肩は震えていた。

 

「粗悪な車を買わされる経験を積んだ消費者は、中古車全部が信頼できないと思ってそっぽを向くようになった。信頼できる車が混じっていたとしてもだ。これを粗悪品市場っていうんだ」

 

息を飲む。すると、次に情報の非対称性という文字が大写しになる。

 

「参加者が増えるとそうなりやすい。売り手が持っている情報を買い手がすべて持っているわけじゃないからね。嘘つきが得をして、正直者が損をすることが増えるわけだ。そうなると、正直者からやる気をなくして、売り手にも買い手にもならなくなる。そして、嘘つきの割合が増える」

 

なるほどなあ。なるほどなあ。もういい。私ったら馬鹿だ。

 

いたたまれなくなって、授業から退出しようとするが、廊下でも教授の説明は聞こえる。

 

「人間を商品に見立てると怒られるかもしれないが、マッチングアプリも近年、同じ構造の問題を抱えている。市場の失敗は、法律で禁止されたりするほどじゃないけど、参加した人を不幸にするくらいのものだってことは、昔から学者たちはわかっていたんだ」

 

腑に落ちた。私のビジネス、そういうことだったんだなあ。

 

人間を幸せにしようと思っはじめたものでも、最後には不幸になる呪われた仕組み。

 

きっと、世の中、他にもそんなものいっぱいあるんだ。

 

空を見上げる。私、もっと勉強して、世の中のことを知って賢くならなきゃ。

 

ビジネスの歴史を知り、先人と同じ失敗を繰り返さない。

 

そう誓った。アプリ閉鎖の告知を出す。

 

閉鎖通知から1ヶ月はサービスは続くように利用規約に書いた。

 

後始末は大変だが、頑張るしかない。

 

これもいい経験だ。

 

次こそ、人間が欲望を追求しても幸せになるアプリ、作ってやるんだから。

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