霊能力女体化男子と言霊男体化女子 -亡霊より怖い生身の人間の言葉の呪い- 作:卯月らいな
<笑平視点>
学校の体育館裏で、霊能力者のお姉ちゃんを見て僕は言った。
「きれいなお姉ちゃんだなあ」
だが、相棒の言霊お兄ちゃんは遮って言う。
「騙されるな。そいつは男だ」
「えっ!?こんなにかわいいのに」
なぜ、こんな摩訶不思議な二人組がやってきたのか。それは、僕が受けているいじめの原因が幽霊だったのだ。
僕の名前は、笑平。中学生だ。友達の落助にいじめられている。
「面白いことしろよ。そうだ!裸になって尻を突き上げろ!ギャハハ!」
トイレで無茶を言われる。
「こ、こう?」
さすがに、裸になったら大問題だから、着衣のまま、お尻を突き上げるポーズを取る。
「裸になれって言ってるだろうが!」
「だめだよ! 怒られちゃう!」
そのとき、チャイムが鳴り、落助が教室に戻る。
僕はホッとため息をつく。
こんなカッコ悪いこと親にも先生にも言えない。
つまらないことで心配をかけたくない。
☆ ☆ ☆
ある日、一人で帰ろうとしたら、校門の前に見知らぬ男女が僕の前に待ち伏せていた。
「私、心霊少女の霊子。よろしく。幽霊をやっつけることができるの」
か、かわいい。こんなかわいい子と握手していいのかな。差し出された手を僕は握る。
「僕は言霊少年の魂太。人間の言葉に宿った呪いを解くことができる。よろしく」
男の子も手を出すので握手。彼氏なんだろうか。こんなかわいい子とお付き合いするなんて嫉妬しちゃうな。
てか、言霊って何? 心霊の下位互換じゃ? 霊能力者のお姉ちゃんだけで事足りるんじゃ? ついてくる意味あるんだろうか?
「この学校から霊気がした。どうも、君の友達の落助って子が取り憑かれているらしい。詳しい話を聞かせて」
僕が、かくかくじかじかといじめの顛末を話すと少女は言う。
「関西人転校生の霊ね。話にオチを求めることがエスカレートしていじめに走るタイプの」
「それ、話聞くだけでも胃に穴が開くんだけど」
と、二人は軽口を叩くので僕は口に挟む。
「確かに、去年、関西から来た転校生が事故で亡くなったという噂は聞いていますけど⋯⋯。それ、もしかして、関係あるんですか? 悪霊になったんですか?」
「まあ、私たちに任せて」
僕は、サッカー部の部室に案内し、声をかけた。
「あ、あのー。落助くん。この2人が用事があるって」
「なんだよ。あと、10分で練習はじまるんだよ」
3人がかりで話しかけると、意外と素直なもので、いやいやながらも、生徒があまりいない桜の木の下にやってきた。
「あなたは幽霊に取り憑かれている。除霊させてもらうね」
少女は除霊のポーズを取る。
「祓え給え! 清め給え!」
落助の背後から、蒼い何か現れ、光り、そして、消えた。
「こ、これは⋯⋯」
僕も驚いたけど、落助の方もさすがに驚いたのか目をまるまるとさせていた。
☆ ☆ ☆
次の日のこと。階段の踊り場に落助に呼び出された。
「面白いことしろよ。一発ギャグ!」
そう言いながら、落助は蹴飛ばしてくる。
「いじめなくならないじゃないか! お姉ちゃんたちの嘘つき!」
☆ ☆ ☆
<霊子視点>
一方その頃、私と霊児は、自宅のリビングで、ゆっくりとお茶をしていた。
今日は学校の創立記念日でよその学校は通常通りだけど、うちの学校だけがお休みだ。
霊児は私に質問する。
「どう? いじめなくなると思う?」
「さあ、いじめの最初のきっかけの幽霊はとりあえず除霊したけど、それまでに固定化された人間関係がすぐ変わるというと⋯⋯」
「そっか……。なんでも除霊で解決ってわけにはいかなさそうだな」
「霊能力も万能じゃないからね」
ため息をつき、虚空を見つめる。そして、催してきたのでトイレに向かうと和室におばあちゃんの姿を発見する。
「あ、おばあちゃんまたテレビ見てる」
「ネットサブスクの時代なのに、お年寄りはテレビに馴染んできたからね」
どこからやってきたのか霊児も私の独り言にコメントをする。
「昔ながらの時代劇だねぇ。40分くらい城下町の人たちがいじめられて、最後の5分くらいで、悪人の屋敷に乗り込んでバッサバッサと
私たちの会話が耳に入っておばあちゃんも反応する。
「最近、テレビから、チャンバラ時代劇が減ったんだよねぇ。町娘がどんな悪代官にひどい目に遭わされてもスカッとするあの感じが懐かしい。最近は、ニュースが多いこと自体は悪くないんだけど⋯⋯」
そこまで言ったところで熱々のお茶をすすり、続ける。
「ニュースも悪者をやっつけてスカっとするような作りばかりでねぇ。そういうのはフィクションに求めるものであって、現実の人間にバッサバッサやっていいもんかねぇ。そりゃ、悪い政治家が恥をかくのはスカッとするけどさ。それで、今より良い政治になるかというと⋯⋯」
「それだ」
何かを思いついた魂太は家を飛び出した。
「ちょっとまってよ!」
必死で追いかけるが見失う。
「まったく。魂太ったら自由なんだから」
目的地ははっきりしている。笑平くんたちの学校に続くだったので、地図アプリを頼りに向かうことにした。
学校の正門前に魂太は居た。ちょうど、落助くんと笑平くんを呼び出したところのようだ。
魂太は落助くんに言い放った。
「君の人生、オチがなくてつまらないね」
「なにそれ? 何の話?」 と、突っ込もうと思ったが落助くんが顔面蒼白になる。
「お、俺の人生が面白くないだって⋯⋯」
魂太の言葉に落助は、膝から崩れ落ちて頭を抱えた。
「え? どういうこと?」と思った。
予想外だった。そんなどうでもいい言葉で傷つくなんて⋯⋯。
この子、僕にはとてもじゃないが予想がつかないことにこだわりをもっていたんだ。
魂太は言葉を続ける。
「君は勘違いしている。人生は物語ではない。面白くなんてなくていい」
その言葉にいじめっこは静かに震え、そして、涙を流した。
笑平くんによると、その日以来いじめはなくなったという。
☆ ☆ ☆
夕暮れ、学校の屋上で私は魂太と駄弁る。
景色を眺めつつ、歩きながら魂太は語る。
「人間関係に過緊張を強いられて生きてる人は開放感が欲しくなる。倒され役の人間を作ってやっつけられるのを見たくなる。やられ役を固定したくなる。でも、倒される人間がいる環境はますます過緊張になる」
その言葉を受け落助くんの顔を思い浮かべる。
言われてみれば、彼、強気な顔をしつつもどこか怯えているように見えたかな。
「人生には本当の意味でのオチがない。スッキリする日なんて、いつまで待っても来ない。でも、人間は、本当は存在もしないスッキリ体験を求める。偽りのひとときの解放を求めて、いじめはやめられない。それが、次の局面で、さらなる緊張の原因になるとわかっていても……」
「人間って弱いな」と、私は返す。
「まあ、出口のない環境に追い込まれたら、自分のことを心が強いと思ってる人間もそうなるかもしれない。そんなもんだよ」
しんみりしていると、魂太は突然、にやにやしはじめる。
「な、なに?」
「それにしても。男の体にしろとは言ったけど、あんたの男だった頃の体にしろとは言ってない。あんたナルシストなの?」
「能力にも制限があるんだ。仕方ないだろ。女に戻そうか?」
それは、嘘ではない。自分の顔の男なんて気持ち悪くて本当は横に置きたくない。
「仕方ないなあ。元男子のあんたを女役に立てつつ、私は男役でいられるし、この関係性、宝塚や歌舞伎みたいで楽しんだよね」
「なんだよそれ。俺達の関係もオチある物語ってか」
「山なし落ちなし意味なしかな。ふふふ」
私たちの倒錯した関係は続く。