霊能力女体化男子と言霊男体化女子 -亡霊より怖い生身の人間の言葉の呪い- 作:卯月らいな
<秘書田中視点>
慰霊碑の前に巫女衣装をまとった少女が立ち、お祓い棒を振るう。
いわゆる、工事前に神道式に安全を祈る地鎮祭というやつだ。
税金を投じるのは政教分離の原則に反するということで、過去、裁判になったこともあるものだが、今も大きな公共事業においては、税金から支払われるのが慣習だ。
建築会社の関係者が噂をする。
「あれが、噂の中学生霊媒師か」
「女に見えるがじつは男らしいぞ」
「まじで!」
巫女が男だろうと女だろうとどうでもいいし、なんなら幽霊なんかも信じちゃいない。ただ、
俺の名前は田中。仕事は国会議員の秘書だ。
先生の尽力で駅前の土地開発の予算が降りたかと思えば心霊騒ぎ。
戦前の空襲のとき人が埋められた土地だ。地元でも少し開発反対運動が起きた。
まあ、心霊騒ぎも反対運動の連中がでっちあげたものだろう。
だが、霊などいないと論破するのは得策ではない。
孫子の兵法にもこう書いてある。
「百戦百勝は善の善なる者に非ず」
大人社会は、戦う必要があるときは戦って勝った方がいいが、戦わなくていいところまで戦線を拡大する必要はない。
霊がいないと主張するよりかは、いるものとみなして除霊の儀式を小金でさっさとこなせば連中は黙るのだ。地鎮祭の料金もリスク料にすぎない。
いずれにせよ、もう、21世紀だ。いつまでも昔のことこだわらず前に進んだ方がいい。
「払い給え!清め給え!」
除霊は終わったようだ。
「これで大丈夫です」
「ありがとうございます。報酬は後ほど口座へと」
内心では怪しい2人組と思っているが、とにかく、地域社会に信用されているのは助かる。信用をお金で買えるなら安いものだ。
先生のところに戻ろうとするがマスコミが遮る。
「週刊赤月です。田中秘書!鈴木議員の横領についてご存知ですよね?」
「初耳です。記憶にございません」
なんてことだ。目ざといやつらだ。無視して逃げることにした。
駅前のホテルに着くと先生に電話することにした。
「先生。週刊誌の連中が横領について⋯⋯」
「そんなことより、除霊費用、値切れないか? ほら、男女のペアで除霊に来たと言うではないか。女の方は霊能力者らしいが、男は自称、言霊遣いの無能力者とか。それを口実に半額に値切れ」
まあ、週刊誌のリスクはとりあえず報告完了っと。後は他の秘書たちがうまく立ち回ってくれるだろう。
しかし、値切り役を押し付けられるとは⋯⋯。汚れ役をこなすのも楽ではない。悔しいが、今は我慢するタイミングだ。いつか、力をつけて、政界に打って出てやる。
☆ ☆ ☆
少年少女をホテル呼び出すことにした。
「と、いうわけで半額しか払うことができない。すまないな。大人社会は昔からそういうルールで回っているんだ」
説得は、意外とあっさりとうまくいった。いくら、有能と言っても、所詮は、子どもだ。
手前勝手なローカルルールでも、昔からのルールと言ってしまえば、黙り込んでしまう。彼らは人生経験が不足していて、昔の社会を見ていないから、ただ、言われたことを信じるだけだ。
少女はとぼとぼと出ていくが少年は、こちらをじっと見ていた。
生意気なやつだ。紳士的に振る舞いたいが、少し凄んだ方がいいかもしれない。
「どうしたんだ?不服か?」
こちらの質問には答えず、こちらを睨むような顔をして立ち止まっていた。
どう言ってやろうか。下手なことは言えないし。頭の中でシミュレーションをしていると、しばらくして、出ていった。
「まったく。最近のガキといったら⋯⋯」
「大変そうね」
声がしたので背後を振り返る。
山田秘書がいた。優しく微笑んでいる。
山田秘書は、鈴木先生の広報担当だ。大学のミス大会で優勝。さすがに美人だな。
お父さんが財務官僚だとかで、恋仲にはではなれたら理想だが、そこまでいけなくても、とにかく、ビジネスライクに仲良くはなれたほうがいい。
バーに誘われる。
地方だからと油断していたが、意外とおしゃれな店はあるようだ。
普段は、動きやすいチノパンとスニーカーで走り回っているのに今日は珍しくミニスカートとヒールだ。
女らしさを意識した衣装。普段とのギャップにドキドキする。
「私、あなたのことが、前から好きだったの。愛しているの」
その言葉を頭の中で反芻すると、沸騰しそうになる。
「お、おい。何を急に言い出すんだ。そ、そりゃあ、俺もまんざらでもないけど」
すると、彼女は、分厚い封筒を俺に差し出した。
「そう。私のことが好きだったら、新橋の◯✕ビルの9Fにこの書類を持っていって。中身は開けたらだめよ。お願い」
ゆめうつつの中、俺は新幹線に乗り、東京へと戻った。
言われたビルに行ったが、ほとんど廃ビルじゃないか。テナントは1階のコンビニだけ。真っ暗だし。
エレベーターすら動いていないので、非常用の階段を登る。本当にこのビルで合ってるのかな?都会は、慣れても迷いやすい。
「手を上げろ」
低くてドスのきいた声がしたかと思うと、背後から何者かに固いものを突きつけられる。
カチャっという音が聞こえて、それが拳銃の音であるという現実が襲いかかる。
月並みだが「なにものだ?」と返事する。それを聞くことで状況が好転する答えは返ってきそうにないが、ひとまず、話は進めるしかない。
「そこには、貴様の筆跡を真似た遺書と経理の書類が入っている。横領は全部お前がやったことにするんだ。そして、このビルの窓から飛び降りてもらう」
何者であるかとは言わなかったが、なるほど、鈴木先生⋯⋯いや、鈴木の手のものに違いない。
「言われた通りにするとでも思ったか!」
鉄の塊の圧が緩んだ瞬間、そう言って振り向いたが、黒服の男が5人。太刀打ちできる人数ではない。
「くっ⋯⋯!」
そして、傍らに山田秘書が立っていた。
「なるほど。ハニートラップってわけか。愛しているなんて言葉を信じた俺が馬鹿だった」
「さよなら」
山田秘書は涙声だった。泣いているのか? 俺のことなんて何も思っていないくせに。だけど、こんな土壇場で、泣き演技をするのも意味がわからなかった。
「つまり振られたわけだ。くたばりな」
黒服たちが俺を窓にじりじりと追い詰める。
万事休す⋯⋯!
と、思ったそのときだった。
「警視庁だ! 脅迫の疑いで現行犯逮捕する! 余罪は留置所で追求してやる!」
警官隊がなだれ込み、俺は一命をとりとめた。
黒服も山田秘書もまとめて取り押さえられた。
俺は、刑事らしきスーツを着た中年のがたいのいい男性に質問をする。
「ありがとうございます。どうして、警察がこの企みを⋯⋯」
「言霊少年が通報してくれた。彼には霊能力はないが、生身の人間がかけた呪いの言葉は聞こえるらしい」
☆ ☆ ☆
<心霊少女視点>
夕暮れ、いつもの学校の屋上に私と相棒はいた。
「あのとき、どうしてホテルで立ち止まってたの?」
私は疑問を相棒の言霊少年、魂太に投げかけた。
「山田秘書の悲痛な心の声が言霊になった」
『このままでは愛する男性を手にかけなければいけない。私にはどうすることもできない。お願いだから止めて⋯⋯。あなたに呪いの言葉が本当に聞こえるのなら、彼がこのまま、殺される前に通報して私たちを逮捕してほしい』
「ずいぶんと重たくて歪んだ愛ね」
そういうと、魂太はにやにやしはじめた。
「あなたこそ。本当は男なのに女の子に変身して、元女の私との男女逆転の恋愛満喫してるでしょ。髪型も中身もめちゃくちゃ重たい女よね」
「なっ⋯⋯!お、俺は!」
「そういうときだけ男に戻ろうとする。女の子ポジションお似合い」
「やーめーろー」
倒錯した関係は続く。