霊能力女体化男子と言霊男体化女子 -亡霊より怖い生身の人間の言葉の呪い- 作:卯月らいな
私は霊子。女体化霊能力者だ。
JRの駅を出ると、他校の制服が次々と目に入る。
私は田舎の公立って感じの紺色のセーラー服だけど、さすがに、有名私立になると、おしゃれなブレザーになる。
私たちと違う世界に住んでるなあと羨望の眼差しで見つめる。
そんな彼女らも、私たちの噂話をはじめる。聞いてるってのに!
「あの霊媒師、女の子に見えるけど男なんだってさ」
「それは、どうでもいいけど、除霊は無理だよ。なにせ、霊の場所がわからないんだから」
「あとついでに、言霊少年っていうのも来てるんだってさ」
「それ、役に立たない人をバーター売りしてるだけでしょ?あっ。校門だ。言葉遣い気をつけないと。ごきげんよう。おほほ」
おしとやかな仕草に急変するので違和感。
なんだか、霊気は漂ってくるんだけど、それ以外も不穏だねぇ。
彼女たちの噂通り、私たちは私立高校に除霊の依頼を受けにやってきた。
学校の事務室に案内される。
「最近、自殺した生徒の霊を鎮めたいんだがよ。他の霊能力者にも頼んだものの、悪霊の霊気は感知できるが、居場所までは特定できないらしいんだ。だから、除霊できないなんて言われたもんで。あんたたち、同業者の人たちからみても、なかなかの凄腕なんだろう? どうにかできんかね?」
そんな話を用務員さんに聞かされる。
そこでふとふと疑問が湧く。
「なんで学校の理事とかじゃなく、用務員さんがそんな依頼をするんです?」
用務員さんはうなだれる。
「それが、悪霊がやってる悪さってのが、学校全体がカビやすくなっているんだよ」
虚空を見つめながら話を続ける。
「建物の資産価値は間違いなく落ちている。生徒の健康被害リスクもある。だけど、経理上は何も変わらないからとか言われて、なかなか学校側の協力は得にくいんだ。だいぶ、説得して除霊予算も出したが渋い額で⋯⋯。組織が目の前の数字ばかり追っていたら、大事な本質を見落として、いつか大きなしっぺ返しをもらう。今はそんな時代じゃないかと思うよ、私は」
用務員さんの言う事を肯定も否定もせず、情報収集のため、生徒に聞き込みを開始した。
まだ、登校時間中で、遅刻寸前の生徒が駆け足になるような時間帯ではない。
「あの子はCクラスだったから⋯⋯」
亡くなった生徒について、ある生徒は言った。私立あるあるだ。
学力で人間を格付けするのは社会の暗部。
だけど、コネや家柄で社会が回るよりかは、色んな人に登竜門があるということでやむなく学力の順位付けは残されてきた。それは、この学校だけが特別じゃない。世界のどこにでもある話だ。
と、思っていたら何か様子が少し変だ。
「おはようございます。今日はいい天気ですね」
「おはようございます。いいネクタイしてますね」
どの生徒も本題に入る前に、まるで営業マンみたいな会話の入り方をする。
普通の会話と言えば普通の会話だが学生らしくない。
ネクタイは褒めているようで嫌味にも見える。大人みたいな会話術。
真面目そうな男の子に話しかける。
「なんでそんな格式張った会話するんですか?」
「それは⋯⋯」
少し言い淀む。そんなに言いにくい事情があるのだろうか。
「この学校、コミュニケーション能力でクラス分けしているんだ。学内の至る所に設置されているスマートスピーカーで会話を要約したものを先生が採点、優秀な生徒は良い推薦を受けられる。だから、この学校には表面上はきれいな会話しか⋯⋯これ以上は。じゃあ」
彼なりに説明責任を果たした。そんな顔をして去っていく。
「なんか変なシステムだねぇ」
「こういうのは生徒を詰めるより、先生に聞いたほうがいいよ」
相棒の言霊少年のアドバイスになるほどと合点し、職員室に向かう。
若い先生はあくせくしていて捕まらないが、朝の会と1時間目の授業を持っていない教頭先生に話を聞くことができた。
「うちのシステムはどうでもいいからさっさと除霊を⋯⋯」
話の腰を折られる。学校側の非協力的なニュアンスは用務員さんからあらかじめ聞いていたが、思ってた以上に露骨だなあ。
私がどんな表情を浮かべていたかはわからないが、顔をちらりと見て、観念したような態度を取る。
「まあ、リーダーシップ人材不足が産業界から教育界に要望として強まっててね。数字で説明できる子がほしいんだ。我々だって評価される側で苦しいんだ!」
叫ぶようにフラストレーションをぶつけられる。
これ以上話を聞いても仕方ないか⋯⋯。
「現代の社会の病ってさ。たぶん、この学校だけを切り取ってわかったような気になったらダメなんだろうね。社会の中にある色んな人間同士の相互作用がおかしくなっている。時代と人間が摩擦を起こして、大人が大人の姿をまとっていられないでいる」
と、相棒はしんみり語るので私は切り返す。
「で、どうすんの? 評論より、幽霊の居場所が知りたいんだけど」
「亡くなった生徒と中の良かった子がいるはず。人間関係を洗い出そう」
生徒にヒアリングしていくと、一人の男の子を突き止める。
「あの子も不登校で引きこもってゲームばかりしてるから」
と、クラスメイトの女の子は言う。
手詰まりになって手がかりがないので、男の子の家を聞くと家庭訪問することにした。
今の時代、先生とか聞くと個人情報保護とか言って、教えてくれそうにないからね。
男の子の家に行くと、来客なのにも関わらず、ゲーム機を手放そうとしない。
「ゲーム楽しい?」
嫌味っぽく聞こえないよう配慮しつつ、中腰で、顔を覗き込むように聞く。
優しい女の子っぽい仕草ができた自分自身にちょっとときめく。
男の子は考え込んだ後、言った。
「楽しいわけじゃないけど、ボタン操作間違って穴に落ちたら、愉快な音楽が鳴ってステージの中間地点からやり直せる。敗因を楽しみながら学び成長できる。失敗してもチャレンジしたくなる。学校や社会はこうはいかないからね」
自分が不登校である理由を自分の言葉で語り、それをまともな大人が受け取ったときに、頭ごなしに説教しようとは思わない。そんな立ち振舞いができる賢い子だ。
こんな子でも不登校になるんだね。本題に入ることにした。
「友達の靖くんいつもどこにいたか知らない?」
「わかんないけど⋯⋯。でもあいつ、英単語暗記アプリ休み時間に熱中してた。あいつなりの現実逃避だったのかも」
なるほど。幽霊は、SSDのアプリ保存領域に隠れている。それであれば、なかなか見つからなくても不思議ではない。
男の子にお礼を言うと、私たちは再び学校に赴く。
タブレットを調べたいと申し出たが、セキュリティを理由に許可されなかった。
そりゃそうだ。自分が先生でもそう答える。アプローチミスしたな。
Cクラスの生徒にお願いして、こっそり持ってきてもらうが、パスワードがわからない。
そのとき、言霊少年の魂太は、ひらめいたような顔をする。
「タブレットに生きてた頃の言霊が残っている。パスワードはOtagaisama2103」
言われた通りのパスワードを入力すると、ロック解除。
悪霊が私たちに襲いかかる。
「祓い給え!清め給え!」
悪霊は消え去った。除霊完了。
「パスワードお互い様だったのか。2103は?」
「ともだちという言葉を表すポケベル数字だって」
魂太は、タブレットで手早く検索して答える。
「友達関係はお互い様⋯⋯。彼、学校のシステムの被害者だね」
しみじみとしていると魂太は語り始める。
「会話はうまくやるためのテクニックや心構えはある。でも、会話に点数や答えはない。答えがあるゲームのような会話を求め始めると昔ながらのお互い様の気持ちが切り落とされそれは穴になり、穴の中に賢い人間が裏技を作り込むようになる。裏技はたいてい人を傷つけたり心を空っぽにする。思いやりを裏技が取って代わる。やがて、コミュニケーションはWikiをながめて裏技攻略するソシャゲのようになる」
暗い気分になったから、気分転換するようなこと言いたくなっちゃった。
自分のスマホを起動する。
「ところで、心の性別を測定できるAIアプリあるんだけど」
「もうこりごりだよ」
私たちの冒険は続く。