霊能力女体化男子と言霊男体化女子  -亡霊より怖い生身の人間の言葉の呪い-   作:卯月らいな

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彼氏の本気

巫女衣装を着飾る女の子を見て彼氏は評論する。

 

「女体化男子霊媒師かあ。もし、芸能界に入ったらなかなかキャラが立っているし、独自の椅子に座れるかもなあ」

 

業界人ぶって分析して見せる。ちょっと私に頭のいいところ見せたいんだなあ。ふふっ。

 

「相棒の言霊男子は?」と、すかさず聞き役をこなしてみる。

 

「うーん。バラエティの1コーナーにはできるかもしれないけど、ネタが尽きたら⋯⋯」

 

なんて語っている姿をにまにま眺めていると、神棚の前に巫女少女は立つ。

 

「あ、除霊が始まる。黙っていよう」

 

お祓い棒を少女は振りかざす。

 

「祓い給え!清め給え!」

 

紫色の魂のようなものが蠢くように浮遊し、そして、暴れた後、消えた。

 

心霊現象なんて信じてなかったけど、本当に幽霊っているもんだねぇ。

 

「終わった……のか?」ときょとんとする彼に「はい」と巫女は片付けをはじめる。

 

「ありがとうございました」

 

と、芸人一同頭を下げる。

 

ここは若手芸人の登竜門となる劇場、自死した彼氏の元相方の除霊するために芸人仲間が集まっていた。

 

劇場長さんに除霊の話を持ちかけたときは、少し渋い顔をしていたが、今は私たちと一緒に安堵の表情を浮かべている。

 

芸人社会って成功する人は華やかだけど、その裏には無名の人々の屍が横たわっているんだよね。

 

元相方さんも、破天荒な昭和芸人にあこがれて、ギャンブルをしては借金を重ねていたと聞くし、因果な世界だ。

 

☆ ☆ ☆

 

私の名前は花絵。地方から上京し、丸の内で経理事務をやっている。

 

通勤の満員電車が嫌で嫌で、でも、完全に電車に乗らないという選択肢を取ると地価が高いところに住まなきゃいけなくて、妥協して新小岩の安アパートに住んでいる。

 

生活のことを考えると多少、建物が老朽化していておしゃれではないのは我慢しないといけない。

 

治安とかも気になるところだけど、生きるために仕方がない。

 

仕事を終えて、帰ると、彼氏がだらしなく横たわっていた。

 

「俺はもうだめだぁ……」とだらしなくゴロゴロと頭を抱える。

 

「そんなところで寝てたら風邪ひくよ」と毛布を被せつつ「お酒臭いよぉ」と呟いて見せる。

 

「先輩芸人との付き合いなんだよ……。人脈を広げないと、仕事を得られない」

 

しょうがない人だな。発破をかけてみる。

 

「ネタ作らないの?」

 

「頭の中に構想はあるんだけど、時間が……」

 

また、言い訳してる。かわいいけど、ちょっと情けないかな。

 

「それより、お金が足りないんだ。付き合いと仕事でクタクタでネタ書く時間ない。お小遣いちょうだい」

 

「しょうがないなあ」

 

私は、ノーブランドの長財布から、1万円札を取り出す。すると、彼は申し訳なさそうに受け取る。

 

「俺、お前がいなきゃだめで」

 

ひざに頭を置く。

 

「また、ひざまくらしてもらいたいの? もお、甘えちゃって」

 

震えているのがかわいい。保護欲がそそられるなあ。

 

芸人仲間に対しては強気で狂犬のように噂される彼が私だけに見せる濡れた子犬の顔。そんな彼に私は心を射抜かれていた。

 

そのとき、スマホがバイブする。お母さんの電話番号だ。

 

すかさず、アパートの外に出てから電話に出る。

 

「なに?」

 

「通帳見たけど、全く貯金ができていないじゃない。ちゃんとお給料もらってるんでしょ? このご時世、計画的に積み立てないと……。何に使ってるの? 変な男に捕まってないでしょうねぇ」

 

言ってることはわかる。彼に貢いでいるのは、もちろんあるんだけど、それ以外にもそもそもここは都心だから、生活費高いんだよね。

 

地方に住んでいる母親には、なかなかわからないと思うけどさ。説明したいけど……頭ごなしに反論されるのはわかっていた。

 

「うるさいなあ……」

 

「あ、こら! 話を聞きなさい」

 

ピッ。

 

私だって立派な大人なんだから、どんなお金の使い方をしても私の自由でしょ。口を出されたくない。

 

振り返ると彼がいびきをかいている。かわいいけど、このままではダメだ。こんな生活、後、少しで破綻する。そんな考えがよぎる。

 

これまで、わがままに育った私が優しい彼女の仮面を被ることは、非日常な感じで生活に潤いをもたらすけど、毎日かぶり続けると少し心にほこりが溜まる。

 

コンビニに向かうと、どこかで見た顔。霊媒師の横に居た言霊少年だ。噂によると、他人の心の呪いが見ることができ、説法を説くことがあるらしい。

 

彼は立ち止まる。私に何か言おうとしているようだ。

 

「な、なに? 私に何か文句あるの? 私がどう生きようと自由でしょ?」

 

先に回って言うことを封じてやるんだから。少年はおしゃれなハット型の防止をずらして語りかけてくる。

 

「あなた、子どもの頃に他人に迷惑をかけた時、お母さんから言われた一言が呪いになっていませんか?」

 

んん? 何の話だろう。

 

「 『人様の気持ちを考えなさい』ですよ」

 

「あ……」

 

そういえば、言われたことがある。お友達の女の子が嫌がっているのに毛虫を火バサミで拾って顔の近くに突きつけ、泣かせてしまった時……!

 

確かに、あの頃の私はおてんばで悪さばかりしていた。

 

でも、その後、反省してまともに生きたつもりだよ。むしろ、その言葉のおかげで真人間になれたんだ。

 

頭にきたので呼吸もせずに反論する。

 

「人の気持ちを考えることの何が悪いの? 世の中、自分勝手な人間ばかり! 私みたいな人間が犠牲にならないと社会が壊れてしまう!」

 

偉そうだとはわかっていても言わずにはいられなかった。

 

「その言葉、解釈の仕方が、きっと違うんだよ。相手の情緒や機微を読み取って歩調を合わせて、他人が自分で解決すべき矛盾のひずみを引き受けるような形で実践すると、他人の顔色をうかがって窮屈な生き方になる。後ろ向きに生きている人間の人生に巻き込まれる。そんな関係は、自分どころか相手も救われない」

 

どうやら彼との関係はお見通しみたい⋯⋯。言霊って恐ろしい。

 

「それがどうだって言うの? 別れろっていうの? 他人のプライベートに踏み込み過ぎだよ?」

 

「別れろとは言っていないよ。もっと、人間の心のメカニズムを読み取って他人を動かす道具としてその言葉を使うんだよ。彼の気持ちを考えて、呪いの言葉を救いの言葉に変えるんだ。あなたはとても頭のいい人のはずだ。経理の仕事やってるんでしょ?」

 

「ほっといて!」と言いつつ私はその場を去った。

 

まったく! なんなのよあいつ! 頼んでもいないアドバイスなんかして! ああいうのがいちばん虫唾が走る。他人の人生に責任なんて取らないくせに!

 

でも、一理はあると思った。

 

それ以来、私は、仕事の合間に彼のマネジメントの一部を引き受けることにした。単独ライブの計画を立て、集客をし、仲のいい芸人を呼ぶ。いわゆる背水の陣を敷く。これで、ネタ作りを頑張らない言い訳は立たなくなる。

 

ここまでやって奮い立たないようであれば、そこまでの仕事への本気度だったとして別れるしかない。

 

彼にとって試練だ。

 

すると、奮い立って本気でネタを書き始めた。

 

本当に仕事でクタクタでネタを書く時間がなかっただけだったのだ。

 

ファミレスに入り浸り、新ネタを練ってライブ用と劇場用のネタを書き溜める。

 

単独ライブは、客入りは微妙だったが、数少ない客にウケにウケ、名声を稼いだ。

 

ライブ用に書いたネタが劇場で受け、営業の仕事が入り始めている。

 

私たちは結婚した。

 

恋人としてだけでなくビジネスパートナーとして、対等の関係になれた。

 

「私のこと捨てたら許さないからね」

 

「俺とお前は運命共同体だろ。新しい相方もできたけど、お前もソウルメイトだよ」

 

私、幸せです。

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