咲-Saki-も異世界から来るそうですよ?   作:サイレン

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咲がもし覚醒したらのオマケでやっていたもの。
続きが見たいと言って下さった方がいたので、思い切って連載しました!

性格大分変わっているので、そういうのが苦手な方はバックして下さい。


原作1巻
すごいよ、箱庭の世界!強そうな人たちがいっぱいいっぱいいて、ワクワクするよ!


春の陽気漂う、四月頃だった。

小川のほとりにある木陰で一人、宮永咲は本を読んでいた。

 

「んん〜とっ」

 

キリが良いところまで読み終えたため、固まった身体を伸ばす。随分と長い間座ったままの姿勢でいたせいか、思いの外それは気持ち良く、身体のコリが解れていくのを感じる。

 

「ふぅ。さて、何しようかな?」

 

咲は暇を持て余していた。

特にやりたいこともないまま高校へ進学。今も一応制服で身を包んではいるが、高校に行ってもどうせ得られるものなど何もないのは分かっている。それでは行く気などさらさら起きないのは自明であり、最近は本を読むことしか楽しみがない。

とりあえず帰るかと思い、読んでいた本を閉じようとしたが、それと同時に横薙ぎの強風が吹く。

 

「……ん?」

 

そして、その風と共に舞った一枚の封書が、不自然な軌道を描き、咲の持っている本へと栞のように挟まれた。

 

「…………なんだろう?」

 

余りにも不可解な現象だったが、それ以上に封書の方に興味が湧いた咲はそれを手に取る。

封書にはこう書かれていた。『宮永咲殿へ』と。

それ以外には何も書かれていない。

差出人の名前すらない。

 

風に乗ってやって来たその封書は、退屈し過ぎていた咲にとってそれなりに魅力的なものに見えた。

 

「……。暇潰しにはなるかな?」

 

やることもやるべきこともやりたいこともなかった咲は、迷うこともなく封を切ることにした。

 

 

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、

己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

我らの“箱庭”に来られたし』

 

 

 

 

ーーそれは突然のことだった。

 

先ほどまで座っていた地面は瓦解するように消滅し、そして、咲の視界が一斉に開かれる。

 

「えっ⁉︎」

「はっ?」

「わっ」

「きゃ!」

 

手紙の文章を読み終わった、と思った次の瞬間には、咲は上空4000mほどの位置に投げ出されていたのだ。

 

しかし、それは咲だけではなかったらしい。同じように投げ出されたであろう人物が、他に三人いることを視界の隅で捉える。あと猫もいた。

急転直下している割には冷静な自分に、咲は苦笑いを浮かべるが、今そんなことは茶飯事なため気にしない。

より情報を集めるため周りを見渡す。

 

広がる風景は今まで見たことのない壮大なものだった。

この世界の中心だろう場所に聳え立つ、天をも貫く光の柱。

その柱から円心状に建てられているのは、縮尺を見間違うほどの、巨大な天幕で覆われた数多の都市。

遥か遠くに見える地平線は、世界の果てとでも言えるような断崖絶壁。

眼下には、緑豊かな森林に川や滝、湖などの大自然。

 

明らかに、咲が元いた世界とは別世界の、完全無欠な異世界であった。

 

(……………………ここ何処?)

 

下から叩きつけるように襲ってくる空気抵抗の中、咲は冷静ではあったが状況がよく分かっていない。

手紙を読んだらあら異世界。

タチの悪い冗談でも、もう少しマシなのではないだろうか。

なんて考えてもいたが、とりあえず自分を含めた四人(+a)がピンチだということは理解出来た。このまま自由落下していくと、眼下にある湖に直撃。はっきり言ってこの高さから落ちたら、いくら水面とはいえ身体がバラバラになるのは確実だろう。

実は落下地点である湖上空に、緩衝材らしき水膜が用意されていたのだが、咲はそんな事情は知らない。まぁ、知っていたとしても大人しく水濡れになる選択肢もあり得なかったのだが。

 

咲は素早く言霊を呟く。

 

「上空にいる私たち四人と猫の“距離”をプラマイゼロに」

「はっ?」

「わっ」

「えっ?」

 

すると、先ほどまでそれなりの距離、離れていた四人と一匹が一瞬で一ヶ所に集まっていた。

その理解不能な事態に戸惑う咲以外の面々だったが、詳しく説明する時間がない。

咲は素早く、三人が触れられるように手を出す。

 

「手を出して」

 

咲のその言葉にやや訝しんでいた三人だったが、このままだと水濡れの未来になるのも理解していたようだ。咲の言葉に従い、四人の手が触れ合う(因みに猫はショートカットの女の子の頭にしがみ付いていた)。

 

上空1000m。

 

咲は一度だけ眼下を伺う。湖はそれなりに大きいが、比較的近くに陸地も見えた。

咲は手が触れていることを確かめ、再び呟く。

 

「“運動エネルギー”をプラマイゼロに」

 

上空で咲たちの身体が、慣性の法則を無視したかのように、しかも身体に負荷を掛けることなくピタリと止まる。しかし、まだ上空。数瞬後にはまた落下し始めるだろう。

 

咲は続けて呟く。

 

「“陸地との距離”をプラマイゼロに」

 

そうして、咲たち四人は無事、地へと脚を踏みしめるのであった。

 

 

 

 

水落危機一髪だったが、咲のおかげで全員無事、濡れることもなく地上へ降り立てた。

 

「大丈夫ですか?」

「えぇ、何が起きたのかよく分かってはいないけれど、貴方のおかげで助かったわ。それにしても信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

「全くだ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

だが、それでも不満はタラタラだったようで、呼びつけただろう誰かさんへの罵詈雑言を吐き捨てていた。

 

「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前たちにも変な手紙が?」

「そうだけど、まずは“オマエ”って呼び方を訂正して。わたしは久遠飛鳥よ。以後は気をつけて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴方は?」

「…………春日部耀。以下同文」

「そう。よろしく春日部さん。それで私たちを助けてくれた貴方は?」

「私は咲、宮永咲です。とりあえずよろしくお願いします?」

「そこはとりあえずなのね。まぁ、いいわ。よろしくね宮永さん。それで最後に、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

「そう。取扱説明書をくれたら考えといてあげるわ、十六夜君」

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

なんやかんやで、自己紹介が終わっていた。

そしたらもうやることがなく、手持ち無沙汰になってしまったのだが、暫く様子を伺っていても誰も出てこない。

 

「で、呼び出されたのはいいけど、なんで誰もいねぇんだよ」

「そうね、なんの説明もないままでは動きようがないもの」

「それじゃ、そこに隠れてる変なコスプレした人にでも聞く?」

 

咲のその台詞に、ギクッというリアクションが木の陰から聞こえた気がした。

 

「お前、気づいてたのか?というよりコスプレしてるって、お前、もしかして見えてるのか?」

「まぁ、ちょっとした手品みたいなものなのかな?」

 

そう言って咲は、顔の前に一瞬だけ手を翳し、それをどける。

そこには元のブラウンの瞳はなく、左右異色の、右の瞳が碧眼、左の瞳が灼眼へと変化した咲の姿があった。

 

「気にするほどのものでもないよ」

「……へぇ、面白いなお前」

 

十六夜は楽しそうに笑うが、目は笑っていない。好戦的な態度だ。

 

「えーと、逆廻くんも気付いてたんでしょ?」

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?てか俺のことは十六夜でいい。そっちの二人も気づいてたんだろ?」

「当たり前じゃない」

「風上に立たれたら嫌でも分かる」

 

四人が四人とも、その人物が裏に隠れているだろう木を見つめる。やがて、何かを諦めたのだろう。超絶苦笑いを浮かべたヒトっぽい、ウサ耳を生やしたナニカが出て来た。

 

「や、やだなぁ御四人様。そんな狼みたいにーー」

「面白いこと考えた!」

「へっ?」

 

まさか、自身の台詞を遮られるとは思っていなかったのだろう。そのウサ耳の少女、黒ウサギは間抜けな声を発していた。

 

「なんだよ、宮永。面白いことって」

「うん、ちょっと皆耳貸して。あと私のことは咲でいいよ」

 

そう言って四人は内緒話をする。

黒ウサギに聞こえないように小声で話しているが、そのウサ耳は伊達ではない。聴力は人間を遥かに上回っているから、何を話しているか問題なく聞こえる。

 

「とりあえず囲もう。私に任せて」

 

(随分物騒なことを言いますね。あの御方、大人しそうに見えるのですが、とんだ問題児のようです。まぁ、他の方も大して変わりないでしょうが)

 

黒ウサギは冷静に判断を下す。

それに黒ウサギもそんな易々と捕まる気は毛頭ない。ここで主導権を握っておかないと、後々厄介なことになるのは間違いないからだ。

そのため、何が起きても対処出来るように、バレないくらいに身構えていたのだが、それは徒労となった。

 

「私たち四人と“あのウサギとの距離”をプラマイゼロに」

「……へっ⁉︎」

 

一瞬だった。

一瞬で黒ウサギは四方を囲まれていた。それも黒ウサギが四人の真ん中へと移動しているらしい。しかも何故か正座した状態で。

作戦が成功した四人だったが、その表情には喜びや嬉しさなどの正の感情は欠片もない。そこには理不尽な招集を諮った黒ウサギへの、殺気が籠もった冷ややかな視線しか存在しなかった。

 

「なんだコイツ?」

「ウサギ人間?」

「とりあえずこのウサギが犯人でしょ?」

 

さて、どうする?というアイコンタクトを交わす十六夜、飛鳥、咲の三人。その中でも耀だけは、黒ウサギに一歩近づきそして、

 

「えぃっ」

「フギャッ⁉︎」

 

そのウサ耳を鷲掴みした。

 

「ちょっ⁉︎いきなり黒ウサギの素敵耳を鷲掴みとは、一体どういう了見ですか⁉︎」

「好奇心の為せる技」

「えっ?これコスプレじゃなくて本物なの?」

「そうらしいな」

「……。じゃあ私も」

「それじゃあ俺も」

「ちょっ⁉︎お待ちを⁉︎」

「折角だから男子vs女子で綱引きならぬ耳引き勝負はどう?」

『乗った!』

「ちょっ!!??冗談でーー」

『せーのっ!』

 

声にならない黒ウサギの絶叫が、辺り一帯に木霊した。





ギフト説明
プラマイゼロ…咲の能力が由来
千里眼…風越部長の能力が由来
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