咲-Saki-も異世界から来るそうですよ?   作:サイレン

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とりあえず書き溜め連続投稿。
話が飛び飛びです。書きたいシーンだけ書く形にしました。
最低でもアニメ見てないと厳しいかもです。


蹂躙って楽しいよね!

召喚後、いきなり問題事を起こした飛鳥と耀。

"フォレス・ガロ"という外道なコミュニティに喧嘩を売って、この世界、箱庭の世界で、法とも言える『ギフトゲーム』をすることになった。

参加資格のない咲と十六夜、それに黒ウサギは、敵の本拠の門前で待ちぼうけをくらっていたが、今しがたゲームが終わったらしい。

その証拠に、部外者を阻むように存在していた"鬼化"された木々が一斉に霧散していった。

 

「耀さん!」

「おい待て、黒ウサギ」

 

そして、硬く閉ざされた門が開いたと同時に、黒ウサギは一目散に駆け出していく。

黒ウサギの話によるとゲームの最中、耀が負傷したとのことだ。逸る気持ちも当然だろう。

 

「確かに気持ちは分かるけど、ちょっと冷静さが足りないかな?」

「そう言うなよ咲。それだけ仲間思いだってことだろ」

 

ヤハハと、愉快そうに笑う十六夜。

ここで、全く急ぐ気のないこの二人は仲間思いではないのか、という疑問が浮かぶかもしれないが、決してそういうわけではない。

二人からすると、というより、咲からすると走って急ぐ必要がないのだ。

 

「じゃあ、十六夜くん。手を出して」

「あぁ」

 

咲の言葉に迷わず従い、手を出す十六夜。

咲はその手を取り、直さま呟く。

 

「“耀ちゃんとの距離”をプラマイゼロに」

「ッ⁉︎咲さんに十六夜さん!大変なんです!耀さんが!」

 

突如として耀の側に現れた咲と十六夜の姿に、若干驚いた様子のジンではあったが、仲間の危機的状況に対しては冷静でいられたようだ。隣にいた飛鳥も、心配そうに耀の顔を覗き込んでいる。

倒れている耀を見て、咲は皆を安心させるように笑顔を浮かべる。

 

「大丈夫。私に任せて」

 

片膝をついて、耀の身体に触れる咲。

 

「耀ちゃんの“傷”をプラマイゼロに」

「えっ⁉︎」

「嘘……」

「ハッ。咲のそれは何でもありだな」

 

先ほどまで大量の血を垂れ流しにしていた耀の右腕の傷は、咲の能力によって既に塞がっていた。まだ血の気が戻ったとは言えないが、顔色も少し楽になったように見られる。

 

「耀さん!…って十六夜さんに咲さん⁉︎どうして黒ウサギより早く⁉︎」

「ホントこのウサギはアホウサギだね」

「全くだな」

「いきなり罵倒されました⁉︎」

 

緊張感のない咲と十六夜。

その態度を流石の黒ウサギも咎めようかと思ったのだが、耀の様子を見てこれまた驚愕していた。

 

「耀さん!ご無事だったんですか?」

「いえ、今咲さんが治してくれたのよ」

「一応傷はね。でも、失った血液までは私でも戻せないから、そこは耀ちゃんに頑張ってもらうしかないかな」

「そうなのか?意外だな。てっきり元通りなのかと思ってたぜ?」

「うーん、そこらへんは私でも良く分かってないんだよね」

 

このプラマイゼロの能力は、咲が出来ると思ったものは大体可能だ。

しかし元の世界では、滅多に能力を使う機会がなかったため、能力の限度や練度がまだまだ低い。それは一々、“対象”をプラマイゼロに、と言っている点からも分かるだろう。

経験を踏めば完璧な治癒も出来るかもしれないが、今は不可能というのが現状だった。

 

「それじゃ、やることやって本拠に戻るか」

「それは十六夜くんとジンくんに任せても大丈夫かな?」

「あぁ、問題ないぜ」

「じゃあ私は、先に耀ちゃんを連れて戻っちゃうね。飛鳥ちゃんはどうする?」

「私は残っているわ。十六夜君の悪巧みに少し興味があるもの」

「では、黒ウサギは咲さんと同行します!」

「分かった。じゃあまた後でね」

 

伏せている耀を黒ウサギが抱きかかえ、咲は耀の手をとり、「“"ノーネーム"本拠までの距離”をプラマイゼロに」と言って、咲たちはその場から消えてしまった。

その現象を改めて見たジンは、目を大きく見開いて驚いており、十六夜も咲のその能力に興味が絶えない様子だ。

 

「あいつのあの能力、汎用性高過ぎだろ」

 

飛鳥とジンは同時に頷くのだった。

 

 

 

 

「春日部の様子はどうなんだ?」

「出血が激しかったので増血を施しましたが、それ以外は問題なさそうです♪これも全部、咲さんの早期の治療のお陰です」

「それはどうしたしまして」

 

その日の夜、本拠で集合した十六夜、黒ウサギ、それに咲は談話室で春日部の容態について話していた。

傷自体は咲の能力で塞がっていたが、咲が自身で言ったように血を失い過ぎていたようだ。しかし不幸中の幸いというのか、1日程度は目を覚まさないらしいが、後遺症もなく済みそうだった。

 

「それで十六夜さん!ジン坊っちゃんから聞きましたよ!私たちの仲間を取り戻すゲームに、十六夜さんが参加してくれるって!」

「あぁ、御チビと約束したからな」

「何それ初耳」

 

現在"ノーネーム"には圧倒的に仲間が足りない。

人数自体はいるにはいるが、その殆どが年端もいかない子供たち。リーダーであるジンですら齢十一である。

そのため仲間の、それも『ギフトゲーム』を行えるような中核を成す仲間の確保は急務であるのだ。

 

「御チビから聞いた話だと、元魔王様っなんだってな。どんな奴なんだ?」

「とっっても素敵な方ですよ♪名前はレティシア様。一言で言えば、スーパープラチナブロンドの超美人さんです」

「へぇ。……ところでーー」

 

咲の瞳が、碧眼と灼眼に変わっていた。

 

「さっきからこの部屋を覗いている、スーパープラチナブロンドの超()()()さんは一体誰なのかな?」

「何?」

 

はっとした様子で窓の外を見る十六夜と黒ウサギ。

 

「ーーほう、これは驚いた」

 

その声を聞き、真っ先に黒ウサギが窓を開け放つ。

そこには長い金髪を靡かせた少女の姿があった。

 

「レ、レティシア様⁉︎」

 

レティシア。

彼女こそ、先ほどまで話していた件の元魔王にして、"ノーネーム"の仲間の一人だった少女だ。

 

「へぇ、これが。確かに前評判通りの美人……いや美少女だな」

「あれ?この娘がレティシアちゃんなの?」

 

黒ウサギが言うには美人、それも元魔王と聞いていたからか、こんなに幼い見た目だと十六夜は思っていなかった。

その点は咲も同感だったようで、まさかレティシア本人だとは気付いていなかったようだ。

 

「こんな場所からの入室で済まない。ジンには見つからずに黒ウサギと会いたかったんだ」

「それはあの"鬼化"された木々が関係してるのかな?」

「察しがいいな。君は?」

「私は宮永咲。私のことは咲でいいよ」

「そうか。咲の言う通り、あれをやったのは私だ。その点でジンには合わせる顔がない。お前たちの仲間を傷付ける結果になってしまったからな」

 

昼間のゲーム会場を覆っていた木々は、どうやらレティシアの仕業だったらしい。

 

「どうしてそのようなことを?」

「あぁ、実はな、黒ウサギが"ノーネーム"を再建しようとしてると聞いてな。最初はなんと愚かな事を、と思ったよ。それがどれだけ茨の道か、お前が分かっていないはずがない」

 

名も旗もない"ノーネーム"。

事実的にはもう解散しててもおかしくないのだ。それをもう一度立て直すなど、不可能を通り越して無謀とさえいえる。

 

「私はコミュニティを解散させるよう説得しようと思った。……でもその後、更に看過できぬ話を聞いたのだ。神格級のギフト保持者が、黒ウサギの同士としてコミュニティに加わった、と」

「多分十六夜さんのことですね」

「あぁ、白夜叉からそう伺っている。そこで一つ、試してみたくなった。その新人達がコミュニティを救えるだけの力を秘めているのかと」

「結果は?」

 

真剣な顔をして黒ウサギは聞くが、それに対してレティシアは苦笑を浮かべた。

 

「生憎、ガルド程度では当て馬にもならなかったよ。ゲームに参加した彼女たちはまだ青い果実過ぎて判断に困る。せめて君たち二人の実力が分かればよかったのだが」

 

十六夜と咲を見て、またしても苦笑するレティシア。

しかし、十六夜は違った。対照的に楽しそうな笑みを顔に張り付けている。

 

「なんだ、そんなことか。それなら話は簡単だ」

「何?」

「俺の力が知りたいんだろ?ならその身で確かめればいい。ーーどうだい、元魔王様?」

 

暫しの間固まっていたレティシアだが、十六夜の発言の意図を正しく理解し、哄笑を上げた。

 

「ふふっ、其の手があったか。なるほど、実に分かりやすい。いいだろう。受けて立つぞ、その決闘」

「ちょ!御二人様⁉︎」

 

慌てた様子の黒ウサギが止める暇もなく、十六夜とレティシアの二人は窓から外の中庭へと飛び出す。

それを同じように追いかける黒ウサギと、能力を使い移動する咲。

 

「ルールはどうする?」

「どうせ力試しだ。双方一撃ずつ撃ち合い、立っていた者が勝者だ」

「いいな。乗った」

 

合意の後、レティシアは黒い羽を背から伸ばし、空へと飛翔する。

そして、レティシアはギフトカードから鈍く光るランスを取り出した。

 

「レティシア様⁉︎」

「下がれ黒ウサギ。これは決闘だ」

「し、しかし!咲さんからも何か言ってください!」

「やっちゃえレティシアちゃん!」

「どうしてここでレティシア様の応援なんですか⁉︎」

「だって、十六夜くん応援しても面白くなさそう」

「咲さんは物事を面白いか面白くないかだけで判断してるのですか⁉︎」

「えっ?当たり前じゃん」

 

ガクリと、前のめりに膝をつく黒ウサギ。どうやらこの場に黒ウサギの味方はいないようだ。

 

「では、先手は譲ってもらうぞ」

「好きにしろ」

 

全身の力を右腕一点に集約し、空中で姿勢を変える。そして、

 

「ハァア!!」

 

怒号と共に投擲した。

その様は、摩擦により赤く輝き、まるで一筋の流星かのよう。

弾丸を遥かに凌ぐ速さに迫るそれを十六夜は、

 

「ーーしゃらくせぇ!」

 

殴りつけた。

 

「「ーーはっ……⁉︎」」

「わーお、十六夜くん豪快」

 

咲だけはのんびりとした声を出していたが、それ以外の二人は素っ頓狂な声を上げていた。

対応の仕方もさることながら、驚くべきはその拳の破壊力。投擲されたランスだったものは、今ではただの鉄塊と成れ果てている。

 

(こ、これほどまでとは……)

 

自身に迫るその隕石に対して、レティシアは躱す素振りを見せない。正確に言うと、躱せない。今のレティシアの反応速度では間に合わない。

 

(これなら、もしかしたら……)

 

安堵したかのような、全てを諦めたかのような複雑な表情をするレティシア。

このまま決闘の敗北を彩るような、血みどろになる覚悟を決めたが、

 

「絶対安全圏」

 

咲のその言葉が、レティシアを救った。

 

衝撃と共に鳴り響く轟音。

身体の芯にまで響きそうな程の音量。真面にぶつかっていたら唯では済まないことが察せられる。

 

「レティシア様⁉︎」

 

黒ウサギが切羽詰まった声で名を呼び掛ける。顔を真っ青にして震え上がっていた黒ウサギだったが、その心配は無用に終わった。

晴れた視界の先には、先程までなかったものが存在していたからだ。

それは障壁。

目を凝らしてよく見てみれば、一つ一つが手の平大の六角形を模した、クリスタルのようなものだった。それが幾つも集まり、レティシアの前方を守るように覆っているのだ。

 

「これは一体……?」

「レティシア様⁉︎ご無事でしたか?」

「……あぁ、私は問題ない」

 

レティシアはそのまま地に降り立つ。

しかし、何が起こったのか理解出来ていないためか、若干放心状態だ。

 

「おい、咲。あれもお前の能力か?」

「ピンポーン。邪魔してごめんね十六夜くん。なんか危なそうだったから」

「それはいい。……いいや、よくはないか。おい黒ウサギ。元魔王様ってのはこの程度なのか?」

 

十六夜のその疑問に暗い顔をしたのはレティシアだった。

 

「いえ、そのようなはずはございません。本来のレティシア様なら避けられるものでした。……恐らくは」

 

問い詰めるような視線を向ける黒ウサギ。それでも、レティシアは口を閉ざしたままだった。

 

「……はぁ、まぁいい。とりあえず屋敷に戻って詳しくな」

「そうだね。何時までもこんなところじゃなんだし。行こっ、二人とも」

「……あぁ」

「了解、しました」

 

 

 

 

屋敷に戻ろうとする四人。異変が起きたのはその時だった。

遠方からこちらに向かって降り注ぐ、褐色の光が襲いかかってきたのだ。

 

「あの光……ゴーゴンの威光⁉︎」

「皆様!避けてください!」

 

黒ウサギの声を聞き、十六夜は跳躍して避ける。黒ウサギも同様に避けていたのだが、咲だけは身動き一つしていない。

この状態の咲は普通の人間なのだ。十六夜や黒ウサギのような、超人的な身体能力は持っていない。

 

「咲ッ!」

 

それを見てレティシアが咲を突き飛ばそうとするが、間に合わない。

 

ーー絶対安全圏

 

咲の身体が光に覆われた。

 

「咲さんッ!……よくも、我々の同士をッ‼︎」

 

光の差し込んできた方角を睨み付ける黒ウサギ。

その方角には、翼の生えた靴を装着した騎士風の男たちが総勢十二名、空中に佇んでいた。状況から判断して、彼らが犯人であることは間違いない。

無礼なその輩に対する怒りからか、黒ウサギの髪は緋色へと変幻していき、今にも飛び掛かろうかというほどその眼には激情が宿っている。

 

「ーー私に対してこの所業、余程死にたいらしいね」

 

ーーそんな彼女を止めたのは、光の中から聞こえる、殺気の混ざった威圧感と恐怖を憶える声だった。

 

消えた光の中から、先程と同じ障壁がドーム状となって現れる。

 

「……咲、さん?」

 

まだ一日程度の付き合いしかない黒ウサギだったが、普段温厚な咲が出したと思われるその声音には震えが走った。それ程までに、そこに込められた殺意の質が信じられないものだったのだ。

障壁も消え、そこに平然と立つ咲は、相手を射殺さんとばかりに上空を睥睨している。

その視線と殺気をもろに浴びている男たちも一瞬怯えた様子を見せたが、相手は所詮"ノーネーム"の構成員と思い直したのだろう。直ぐさま尊大な態度を取り戻す。

 

「吸血鬼は見つけた。今すぐ捕獲しろ」

「そこにいる"ノーネーム"はどうする⁉︎」

「邪魔するようなら斬り捨てろ!」

 

一人が咲目掛けて襲い掛かって来た。手には鎌を持ち、完璧に戦闘態勢であることが分かる。

だからこそ咲は凄絶な笑みを浮かべた。これで正当防衛という大義名分を掲げられるのだから。

両者の衝突まで、あと僅か。

 

「ハアァァッ‼︎」

「ーー先負」

 

大振りのその攻撃は、見事空振りに終わる。

 

「き、消えた⁉︎」

「ーー先んずれば即ち負ける」

 

勢いそのままに突っ込んできたため、大いに体制を崩した相手。そんなガラ空きの背中を咲が見逃すはずがない。

背後から咲の声。そしてその右手は風を纏い、小さな台風のように渦巻いている。

 

「沈め」

 

咲はその背に、構えていた拳を叩きつけた。

 

「ガッ……ハッ……⁉︎」

 

地盤が割れる程の衝撃。

真面にそれをくらったその相手の身体は地面にめり込み、たった一撃で戦闘不能に陥っていた。

 

(あれ?大分手加減したとはいえ、背骨の一本は持っていくつもりだったのに)

 

思わぬ頑丈さに密かに驚く咲。

 

(流石は箱庭の世界ってところかな)

 

一人片付けたところで空を振り仰ぐ。

その先には、仲間が瞬殺されたのに驚愕している様子の男たちの姿。

咲の背後では、「あ゛ぁぁぁ」と呻きながら頭を抱える黒ウサギの姿。

咲はそのことが分かっていたが、面倒そうなので一切振り向かない。

 

「たかが"名無し"如きが、我ら"ペルセウス"に楯突こうというのかッ‼︎」

「身の程を知れッ‼︎」

「我らが御旗の下に成敗してやるわ‼︎」

 

一人がやられたことで、相手も本格的にこちらを敵と定めたようだ。

陣形を取るように広がり、咲を包囲する。

それを見て、咲はレティシアに話し掛けた。

 

「レティシアちゃん。私の実力が知りたいんだよね?」

「あ、あぁ、確かにそうは言ったんだが……」

「じゃあ、少しだけ見せてあげる」

 

("ペルセウス"に喧嘩を売れとは言ってない……)

 

レティシアのその言葉は出なかった。

 

「十六夜くんは手出し無用だよ」

「チッ、分かったよ」

 

それを聞き、咲は足元にいる倒した相手の頭を踏み付ける。

 

「あっ、ごめんなさい。脚が滑りました」

「貴様ぁぁぁぁぁぁッ‼︎」

 

見事に咲の挑発に乗る男たち。我先にと襲い掛かって来た。

 

(この人数に、この状態じゃ厳しいか)

 

そう判断した咲は目を瞑る。

 

「ーー九面」

 

咲の身に、神が降りる。

今の咲はもう、ただの人間ではない。一般に現人神と呼ばれる類の、人として最高のランクに変幻した存在だ。

 

「し、神格⁉︎今の咲さんには神格が宿っています‼︎」

「信じられん……」

「おいおいおいおい、とことん何でも在りだなあいつ」

 

これには黒ウサギたちも驚きを隠せない。

そもそもとして、咲が持っているギフトの量が異常なのだ。今まで確認したのでも、プラマイゼロ、千里眼、絶対安全圏、先負、風を纏う右手、そして神降ろし。

それなのに、ギフトカードに示されていたギフトネームは"咲-Saki-"の一つだけ。十六夜の"正体不明(コード・アンノウン)"並みの意味不明さである。

考察しようにも、とにかく情報がない。十六夜はそれについてはきっぱり諦めて、咲の戦いを観察することにした。

咲も十六夜と同じく平和な世の中で生きてきたためか、武術の心得などは感じられない。

ただ相手が弱過ぎるのか、十人近い相手を手玉にとっているのが分かる。それでも全力には程遠いのだろう。あれではもうお遊びの領域だ。

 

「ガッ⁉︎」

 

咲の回し蹴りにより、一人が文字通り吹っ飛ぶ。これで最初の一人を含めて五人が戦闘不能に。残り七人。

 

「調子に乗るよな"名無し"風情がッ‼︎」

 

激情と共に一人が突っ込んでくる。

咲はそれを同じように往なしていたが、ここでおかしなことに気付いた。

 

(あれ?六人が消えた?)

 

先程まで見えていた男たちが消えていた。それを訝しみながらも、とりあえず目の前の男を蹴り上げ吹き飛ばす。

 

「うっ……⁉︎」

 

それと同時に、不可視の一撃を脇腹にもらった。

咲が油断していたわけではない。咲には本当に見えなかったのだ。

 

(……なるほどね。"ペルセウス"って言ってたもんね。これが伝説?の透明になれる兜ってわけか)

 

自身が持つ知識から答えを導き出す。

 

(それなら……)

 

「ーー無極点」

 

咲の瞳が菫色に変色し、更に鮮やかに輝くリングが浮かぶ。

 

咲の言う無極点とは、一般的にはスポーツの世界でゾーンと呼ばれる、極度の集中状態のことだ。本来であればこのゾーンに入るのは並大抵のことではない。天才鬼才が集まる頂点でも、ゾーンに入れるのは一握り。

だが咲は、その関門をいとも容易く突破する。

 

無極点状態になることによるメリットは二つ。

一つ目は五感が研ぎ澄まされることにより、相手の体温や呼吸、鼓動や筋肉の動きすらも感じ取れること。

つまり今の咲はサーモグラフィーのように相手を感知出来る。

 

(さっき私を攻撃したのは彼奴か)

 

体制を整えた咲は全力で踏み込み移動、そして何も見えない空間を蹴り抜く。

 

「グハッ⁉︎」

 

(例え不可視でも存在が消えた訳じゃない。それなら対処は簡単)

 

声と共に姿が現れる男。どうやらダメージを食らって、兜が壊れたようだ。

 

(これ以上はもういいかな?)

 

咲は地に両手を付ける。

 

「ーー友引」

『なっ……⁉︎』

 

辺り一帯を超重圧が襲った。

敵も味方も関係ない。事実、影響下にある黒ウサギとレティシアは片膝をついている。あの十六夜ですら、一瞬膝が折れる程の超重圧。

 

無極点の二つ目のメリット。それは能力の複数個の併用が可能になることだ。

通常の状態では二つ程度なら可能だが、それ以上となると今の咲ではまず不可能。だが、無極点状態ならその制約もある程度軽減される。

 

(ただこの状態、物凄く疲れるんだよね〜)

 

長時間戦闘は不可能なので、この点も今後鍛える必要があるだろう。

 

「さってと」

 

咲は透明となった男たちの、一人一人頭があるだろう位置を蹴っ飛ばす。兜が外れるように蹴っているためダメージ自体は少ないだろうが、身動き出来ずにゴミのように扱われているのはさぞ屈辱だろう。

 

「お…のれ!我ら"ペルセウス"に、歯向か…って、ただで…済むとーー」

五月蝿(うるさ)い」

 

御託を並べたその男は踏み付けて黙らせる。

それ以外はこの超重圧に耐え切れずに気絶してしまったようだ。

 

「はい、終わり」

 

咲は全能力を解除。

 

そして黒ウサギの元に移動して、考え付いた言い訳を言ってみた。

 

「腹が立ったから後先考えずに蹂躙した。反省はしていない」

「このお馬鹿様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

思いっきり叩かれたのは言うまでもなかった。

 





ギフト説明
絶対安全圏…淡の能力が由来。防御だけでなく形態変化して攻撃用にも出来る。
先負…豊音の能力が由来。相手の先制攻撃を無条件で躱し、相手の背後に瞬間移動する。
風を纏う右手…照の能力が由来。同じ相手なら使う毎に威力増大。
無極点…竜華(千里山の部長)の能力が由来。
九面…神代小蒔の能力が由来。
友引…豊音の能力が由来。重力、引力操作能力。地面に触れると重力増加。何か対象に触れるとそれ中心に引力発生。
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