おっ久しぶりでーす!
大変お待たせして悪いのに、さらに悪いことに本編の続きではないというこの始末……。サブタイ通りです。
流れ自体はn番煎じです。何の原作かは読めば分かります!
ではではどうぞー
書きたくなったから書いた。後悔はしていない。
上を見上げると、快晴の青天井だった。
すぐ側の大瀑布が造りだす清涼な空気を感じながら、宮永咲は虹を見ながらふっと呟いた。
「そう思えば、いくら異世界とはいえ虹は基本七色なんだね。流石に太陽神がいる世界でも、そこは変わらないか」
その虹は一生に一度拝めるかどうかと云えるほどに巨大で神秘的なのだが、出てきた感想は冷静、というより冷めきっていた。余程興味がないらしい。
本拠から出て思う気ままに旅をしていた彼女ではあったが、これがどうにも興が乗らない。
壮大な景色を眺めるのはもちろん好きだが、箱庭の世界での一番の醍醐味はやはりギフトゲームであろう。それも、対魔王戦であることが好ましい。
「……あー、暇だなー。すごく暇だなー。ホント暇だよー」
しかし最近はそれもご無沙汰であり、咲は盛大に暇を持ち合わせていた。
「……なーんか面白いことないかなー?」
果報は寝て待てと言うし、このまま日向ぼっこでもしようかと思案する。昼寝にはぴったりな気温に湿度である。さぞ心地よいものであることは予想できた。
真面目に検討しようかと考え、溜め息一つ吐いてやっぱりやめることにした。
長年の経験から察するに、面白いことは自分から探さないとやっては来ないのだ。
「……うぅ〜ん……」
せっかく何の変哲もない元の世界からこの箱庭の世界にやって来たというのに、これでは勿体無いことこの上ない。
別に戦闘や謎解きだけが箱庭の全てではないのだ。他に面白いことなど無数にあるはずである。
さて、何をしようかと一考する。
(……ん? 元の世界に箱庭の世界……立体交差並行世界論……閃いた!)
このままこの付近を探索してもいいが、それでは芸がないしつまらない。というより、それに飽きたから今こうして手持ち無沙汰になっているのだ。
それよりも手っ取り早く、且つ最高にユーモアがある方法があるではないか。
高揚してくる心を隠すことなく、咲は悪巧みをする前の如く笑みを浮かべた。
(面白いことがしたいなら、面白い世界に行けばいいじゃん!)
単純明快。
これが真理である。
(正直試したことないけど、今の私のギフトなら行ける気がする!)
絶対の信頼を置くあのギフトは、咲が可能だと思ったら何でも実現できるのだ。現段階のコンディションとテンションなら、不可能を可能にするくらい造作もない。
思い立ったが吉日。
精神を研ぎ澄ませ、愉悦に満ちた表情で咲は告げた。
「面白い世界へ、プラマイゼロッ!」
*
太陽の光の一切が届かない深夜。
極東日本の地方都市、冬木市に建つ趣ある屋敷の地下にて、ある儀式が行われていた。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」
詠唱しているのは、頰が痩けた痩身の男性。まだ年若いはずなのに、その髪は全て真っ白に染まっている。
「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
言葉を発するだけでも辛いのか、偶に咳き込み、酷い時には吐血までする始末。加えて、その血には嫌悪感しか抱かない気持ちの悪い蟲が混ざっていた。
「
彼の目の前に描かれた魔法陣が強く光を放ち始める。魔法陣に置かれた聖遺物を中心に、魔力が集束していく。
「告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善となる者、我は常世総ての悪を敷く者」
順調に進む詠唱を見て、男性の後ろにいた蟲の化け物は嗤っている。一応老人の形をしているが、見る者が見れば一眼で判断できるほどに
「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者」
もう既に立つことすらできないのか、青年は床に膝を付いている。
口から血を吐き、死の寸前といった様子の彼。
それでも、詠唱を唱え続けた。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よーー!」
最後の叫びと共に、暴風が吹き荒れた。
詠唱の終わりと同時に膨大な魔力が風となって吹き荒れ、一際眩い光を放ったのだ。恐らく、召喚が成功したのだろう。
その光景を見て、息絶える寸前まで力を使い果たした青年ーー間胴雁夜は、亀裂のような深い笑みを浮かべていた。
「成功……したッ!」
「……ほぅ」
後ろから様子を伺っていた老人ーー間胴臓硯も満足気に笑みを刻んでいる。
魔術師としては三流もいいところの雁夜であったが、無事召喚には成功したのだ。
これで僅かな望みではあるが、臓硯の夢を叶えられる可能性がでてきた。笑みも浮かんでくるというものである。
雁夜が呼び出した英霊は
未だ姿を確認することはできていないが、それだけは間違いない。意図的にバーサーカーが呼び出せるよう、普通の詠唱に特別の二節加えたのだから。
その確信があったからこそ、二人は眼を見開いて驚きを露わにした。
「お、……女の子⁉︎」
何故ならそれは、魔法陣から溢れる光が収まりその場に立っていたのが、禍々しいバーサーカーとは到底思えない人畜無害そうな少女だったから。
召喚には成功したはず。それは絶対であった。
今の儀式にミスなどは一つもなく、雁夜の詠唱も魔力も完璧であった。
なのに、現れたのは英霊とは思えない極々普通の少女なのだ。落胆するなという方が酷というものだった。
(……終わった……)
雁夜は崩れ落ちた。
この一年無理に無理を重ねてやっと聖杯に選ばれたというのに、この結末はあんまりであった。
せめて背後の化け物に無様を晒さないよう、涙を堪えるのが限界であった。
(……ごめん、桜ちゃん。約束は守れなかったよ)
哀しみに暮れる雁夜。背後にいる臓硯にまだ動きはないが、用済みとして処分されるのは目に見えていた。
自身の最期と、守りたかった少女を守れなかった自分の無力さに吐き気がする。
このままでは死ぬに死ねない。終われない。
せめて一矢報いようと、気力を振り絞って首だけ振り向いたそのとき、抑揚はないが鈴の音のように涼やかで静謐な少女の声が聞こえた。
「ーーッ!!?」
その殺気に満ちた声音と内容に、雁夜は金縛りにあったように動けなくなる。感じたのだ。首筋に死神の鎌を添えられたのかと思う程の恐怖を。
ここで死ぬのかもしれない。雁夜は疑うことなくそう思った。
少女はこう言っていたのだ。
消え失せろ、と。
*
(……さて、これは一体どういうことなんだろう?)
確かに彼女は、面白い世界へ飛んでいくつもりは十分以上にあった。
感覚的に飛べた確証も持っていた。
誰とも知れず、勝った、とも思っていた。
だがしかし、魔法陣の上に召喚される覚えは彼女ーー宮永咲には存在しなかった。
端的言おう、意味が分からない。
(とりあえず、状況整理かな?)
目の前には人間が二人。
一人は痩せこけ、今にも死にそうな感じの若い白髪の男性。専門的な知識など持ち合わせていないが、見ただけで不治の病に侵されているのだろうかとも思えるほどに衰弱しているのが判る。敵だとしても指一本で倒せそうであるため、今の段階では放置することに決定した。
対してもう一人は年老いた見た目の老人。滲み出る不快な気配から、咲は顔をやや顰める。そして、それが本質でないことは一瞬で見極められた。
此奴はもっと、根本的に終わっている。
(……何、この気持ち悪い蟲は?)
正直なところ、視界に入れるだけでも怖気が走る。老害というのはこういうのを言うのかと、咲は初めて確信した。心情的には今すぐにでも消し飛ばしたいところだが、一旦は様子見に徹することにする。
目に映る光景から確認できるのは二人だけ。ここはかなりの空間を持った地下室のようで、周りに窓はなく、巨大な階段が上へと続いているだけのようだ。
他にも色々と情報が欲しかった咲は、ここら一帯を確かめるために千里眼を用いることに。
何があるかな程度の気持ちだったのだが、千里眼を使ったことを即座に後悔した。
(この屋敷気ッ持ち悪ッ!!? ゴキブリ以上にヤバいのが何万匹もいるとかあり得ないでしょ!!?)
所狭しと積み重なっているのは、先に見た老人を構成しているであろう蟲の大群。一匹だけでも十分気持ち悪いのに、これだけの数は見たくもなかった。女子でなくとも生理的に無理なレベルである。
咲は久しぶりに鳥肌が立った。箱庭である程度の時間を過ごした咲だが、このような思いを抱いたことはない。
咲の思いを表すならならそう。それは、純粋な嫌悪だった。
咲の瞳が、深淵の底のように暗く冷たく変化していく。
その目はまるで、人殺しの目だった。幼い子どもが蟻を踏み潰すのとはわけが違う、正真正銘、殺意を持った人の目。
付き合いのある友人なら、この後の展開が容易に想像できただろう。きっと野蛮で粗野で快楽主義の三拍子が揃った彼でもこう言ったはずだ。
逃げろ、と。
咲は老害を睨み付けて思う。
何故ピンポイントでこんな場所に出たのかは知らない。
目の前の二人が自分とどう関係するかも全く知らない。
しかし、そんなものは全てどうでもいい。
咲を不愉快にさせた。それだけで、万死に値する。
決断を下すのは早かった。
「ーー消え失せろ」
空間を覆い尽くすように出現したのは、炎で構成された刃を持つ武具という武具。ここから目に映らない範囲にも、一匹でも蟲がいればその炎の刃の標的になっているだろう。
驚愕する反応も、逃げる余裕も与えない。
咲は息をするかのような感覚で屋敷に潜む全ての蟲に対し、炎の刃を突き立てた。
「ぐぎゃぁああああああああッ!!?」
「なっ……⁉︎」
目の前の老人も例外ではなく、刀や斧、槍といったありとあらゆる武器が突き刺さっていた。
老人の身体は煉獄に包まれ、のたうち回り、耳に障る断末魔の絶叫をあげている。
『熱イ熱イ熱イッ⁉︎ 嫌ジャ嫌ジャ死ニタクナイ! ワシハ永遠ノ命ヲッ!?』
咲の瞳には何も映らない。漆黒のその瞳に反射するのは、侮蔑の対象でしかない醜悪な蟲。
その汚い叫びも、穢らわしい醜い姿も、人の形をして生きているということだけでも咲にとっては不愉快だった。
『聖杯ヲッ! ワシノ永遠ノ命ヲッ!!?』
「……
咲は灼熱に焼かれているその身体ごと障壁で包み込む。中身を見通せないプリズムのようなものが空中に上がっていく。
これで雑音も聞こえなくなった。加えて、後始末が楽になった。
「バイバイ」
掲げた右手の手の平を握り込む。その動きに連動したかのように、プリズムが一気に収縮した。もう、人の姿を保つのは不可能な程に。
咲がギフトを解除すると、赤色ような緑色のような青色のような液体が溢れ出る。死んでも尚気持ちの悪い。気分は最悪だった。
「ーーさて、と」
もう有象無象は全て焼け爛れた頃だろう。
何となくであるが、一年の締めである大掃除を終わらせたような感じだった。まだ体液が撒き散らされているが、ギフトを使えば跡形もなく消せる。不愉快なものはこれで片付いただろう。
咲は大きく伸びをする。
一仕事終えた後は冷たい飲み物と相場は決まっている。だが、今の咲にはそれよりも先に優先事項があった。
尻餅付いて此方を怯えた瞳で見上げる男性。どうやら、第一印象は最悪だったらしい。
それも仕方がない。灼熱地獄を創りだし、現に一人殺ったのだから恐怖を抱くなという方が無理がある。もしかしたら次は自分の番とでも思っているのかもしれない。もちろん、そんなことをする気は今のところはない。相手の態度次第である。
深く考えるのも面倒になった咲は、第二印象から改善していけばいいのだというポジティブシンキングを発揮。
気に入らないものは叩き潰すが、害がなければまず手は出さない。
それに、今は情報の方が大事なのだ。転がっている情報源をやすやすと消滅させたりはしない。流石にその程度の分別はある。
咲はにっこり笑顔を浮かべた。それにすら警戒心剥き出しの青年だった。というより、必死な様子で距離を取ろうとしてる。少しムカついた。
それでも、若干の苛立ちを隠し、なるべく優しい女性を意識して、咲は男性にこう尋ねるのであった。
「ここは何処ですか?」
続かない(人気次第)。