EXCEED VENOM:リーサルプロテクター 作:嫉妬憤怒強欲
そして後半は何度見ても辛いです。セツナたん…(泣)
病院で意識を取り戻してから、数日が経った。
カーテンが風に揺れ、静かな波の音が室内に響く。
窓の外には穏やかな青空が広がっているが、俺の頭の中に立ち込めた霧は、未だに晴れる兆しを見せない。
それに対し身体の方は問題ない。
浜辺に打ち上げられたにしては、身体に目立った異常はなく、日常生活にも支障はないとのことだったため、医師から退院して問題ないと告げられている。
だが退院できるからといって、問題が解決したわけではない。
記憶が戻っていないため、帰る家が分からないのだ。
どうしたものかと考えながらベッドに座っていると、病室の扉がノックされた。
「失礼しまーす」
返事をするより早く、明るい声とともに扉が開く。
顔を覗かせたのは、以前にもここを訪れた二人の少女だった。
「こんにちはキョウヤさん」
「身体の調子どう?」
「ああ、もう問題ない。先生からも、退院していいって言われた」
「本当?よかったぁ!」
セツナのひまわりが咲いたような笑顔を浮かべる。
見てると癒されるな。
「それなら、もうすぐ退院できるんだね」
「ああ。あとは手続きさえ済ませれば、退院できるらしい」
「そっか……」
安心したように笑っていたシイナだったが、ふと表情を曇らせた。
「……それで、その。記憶の方は、どう?」
シイナからの質問に、俺は小さく首を振る。
「駄目だ。名前以外は相変わらずだよ」
そう答えると、二人は揃って黙り込んだ。
気を遣わせてしまったらしい。
「まあ、身体が元気になっただけでも十分だよ。記憶だって、いつか戻るかもしれないし」
そう自分に言い聞かせるように言う。
実際、いつ記憶が戻るのか、それとも一生戻らないのか、今の俺には分からない。
だからこそ、あまり悲観的になっても仕方がないと思っていた。
「……そうだね。焦っても仕方ないもんね」
セツナも、無理に明るく振る舞うことはせず、ゆっくりと頷いた。
しばらく他愛のない話をしたあと、シイナがふと思い出したように尋ねてきた。
「そういえばキョウヤ、退院したあとはどうするの?」
「あーそれなんだよなあ……」
ホント、どうすりゃいいんだか………
自分の家がどこにあるのかも、家族がいるのかも思い出せない。財布も身分証も持っていなかったようだし。
話しているうちに、改めて自分の置かれた状況を思い知らされる。
記憶を失い、名前も確かじゃない。
この島の人間じゃないということは本土の方に住んでいたのだろうが、向こう行くための船賃も、泊まるための金もない。
「……最悪、野宿するしかないのか」
「「それは駄目!」」
二人が揃って勢いよく声を上げた。
「君さ。夜に外をうろつくのが、どれだけ危ないか分かってるの?」
「いや、まだ詳しくは……」
「夜になると侵略種の活動が活発になるんだから!」
セツナはベッドの脇から立ち上がると、俺の前で両腕をいっぱいに広げた。
「それにね、すっごく大きいのも出るんだよ!こーんなに大きいの!」
小柄な身体で、精一杯背伸びしながら腕を広げる姿は、どこか微笑ましい。
「……そんなに大きいのか?」
「うん!人間よりずっと大きいんだから!もっと大きいのだっているんだよ!」
どうやら、まだまだ伝え足りないらしい。
「そんなのが夜に出てくるんだから、外で寝るなんて絶対駄目!」
「セツナの言うとおりだよ。あたしたちだって、夜に好き好んで外を歩いたりしないよ」
「マジか……」
「せっかく助かった命なんだから、無駄にしないでよね。助けた相手が食べられちゃいました、なんて寝覚めが悪いんだから」
「わ、わかった…」
野宿も駄目か。
「本当にどうしたもんか…」
身元も分からず、頼れる人間がいるかどうかさえ分からない。退院後の生活どころか、今日明日をどう過ごせばいいのかも定かではなかった。
考えれば考えるほど、自分の置かれた状況の深刻さが身に染みてくる。
退院できるのはありがたい。だが、その先の生活がまるで見えてこない。
「行くところがないならさ……」
「ん?」
すると、何かを思いついたらしいシイナは、探るように静かに話を切り出した。
「あたしたちの家に来ない?」
「……は?」
思わず聞き返してしまった。
シイナは真剣な表情で、もう一度口を開く。
「だから、記憶が戻るまでのしばらくの間、うちで暮らしていいって言ってるの」
「え、いや、でも……」
「それ、いいねしーちゃん!」
俺が返事に困っていると、セツナもすかさず賛成する。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんな簡単に決めていいことじゃないだろ?」
「どうして?」
「どうしてって……気持ちは嬉しいけど、迷惑をかけるわけには………」
見ず知らずの、それも素性もわからない人間を居候させるなんて、普通ならあり得ない。
ところが、二人はきょとんとした顔をした。
「けど、困ってるんでしょ?」
「それは……そうだけど」
「じゃあ、放っておけないよ」
あまりにもあっさりと言われて、返す言葉が見つからなかった。
「いい?今の君は一文無しで、帰る場所もない。おまけに夜は侵略種が出る。そんな状態で放り出せるわけないよ」
セツナも、うんうんと何度も頷いている。
「それに、ずっと住めって言ってるわけじゃないよ。まずは記憶が戻るまで。その間に、これからどうするか考えればいいんだからさ」
「……」
俺は二人を見つめた。
どうして、ここまで親切にしてくれるのだろう。
二人とは初対面だというのに……それなのに、二人は俺を助けようとしてくれている。
「……ありがとう」
気がつくと、そんな言葉が口から出ていた。
「けど、本当にいいのか?世話になる以上、いろいろと迷惑をかけると思う」
「いいって。細かいことは気にしない気にしない」
「困った時はお互い様、だよ」
「……そう、だな」
確かに、そのとおりだった。
今の俺には、自分一人で生活を始められるだけのものが何もない。
いつまでも誰かが助けてくれるのを待つわけにもいかないが、今は誰かの手を借りることも必要なのだろう。
「……分かった。しばらくお世話になります」
そう告げると、二人の表情がぱっと明るくなった。
「もちろん!」
「よーし、決まり!」
姉妹は嬉しそうに笑った。
その様子を見て、俺も自然と頬が緩んだ。
記憶を失ってから、ずっと心のどこかに不安があった。
自分が何者なのか分からない恐怖。
帰る場所すら分からない心細さ。
それが完全に消えたわけではない。
けれど病院を出た後、少なくとも今は頼れる人が二人いる。
ん?
病院を出た後?
「あっ」
「どうしたの?」
「ひょっとして、何か思い出した!?」
「いや………入院費とか、着る服とか考えてなかった」
「あー。あたしが払っておくよ。服もこっちで用意するし」
「な、なんかすまん」
♢
そしてきた退院の日。
二人が持って来てくれた着替えに袖を通し、病院を出る。
病院の自動ドアを抜けると、外から吹き込んできた潮風が頬を撫でた。
久しぶりに感じる外の空気に、俺は思わず足を止める。
「どうしたの?」
先を歩いていたシイナが振り返る。
「いや……外に出るのはなんか久しぶりな気がして」
「そっか。ずっと病院にいたもんね」
病院から少し歩くと、街の様子が見えてきた。
海沿いに建ち並ぶ住宅や商店。道路を走る車。遠くには港や防潮設備が見える。
一見すると普通の地方都市だ。
しかし、よく見ると違う。
建物の窓には防護シャッターが取り付けられ、公共施設の近くには避難誘導標識もあった。
「この辺りは結構賑やかなんだな」
「島の中心街だからね。病院も近いし、お店も多いよ」
「ちょっと離れると静かになるけどね」
ちなみに二人が住んでいる家は人の多い地域から少し離れた場所にあるらしい。
道を歩いていると道行く住民がシイナに声をかけてくる。
「おや、シイナちゃん。今日はお出かけかい?」
「あ、こんにちは。今日は退院した子を家まで案内してるの」
「そうかい。もう退院できたんだね。よかったよかった」
そんな会話を交わしながら、シイナは自然な笑顔で挨拶を返す。
また別の場所では、商店の店主が声をかけてくる。
「シイナ!この前の害獣の件、助かったよ!」
「いいのいいの。被害が出る前に対処できてよかったよ」
「今度、うちの畑にも出たら頼むよ」
それからも魚屋だったり八百屋だったり、シイナはかなりの人に声をかけられている。
オレはそんなやり取りを眺めていた。
「……知り合いが多いんだな」
「まあ、島の人とはよく顔を合わせるからね」
シイナは何でもないことのように答えると、セツナが得意げに口を挟んだ。
「しーちゃんは島一番の害獣ハンターなんだよ!」
「セツナ、そんな大げさに言わなくても」
「大げさじゃないよ! この前だって、畑に出た大きなやつをやっつけたじゃん!」
「それは仕事だからね」
「害獣ハンター……?」
「うん。しーちゃんは猟友会に所属してて、島の周辺に出没する侵略種を駆除しているの」
「へえ……」
高校生兼害獣駆除ハンター……。
学業に励みながら危険な仕事を請負っているのか。
なんかすごいな。
人当たりの良さも相まって人気なのかもしれない。
「この島では結構大事な仕事なんだよ。しーちゃん、すごく強いんだから!」
「もう、セツナったら」
自分のことのように誇らしげなセツナに、シイナは困ったように笑う。
けれど、その表情には少しだけ照れが混じっていた。
「さあ着いたよ! ここがあたしたちの家!」
しばらく進むと、二人の住む家に到着した。
ただ、視界に入ってきた家は想像していたものとは少し違った。
大きな門が開き、敷地内に入る。
思っていた以上に広い。
広い敷地を囲む金属製のフェンス。その上部には何重にも張られた有刺鉄線がある。
敷地の奥には一軒の住宅。脇には大型のコンテナがいくつも並び、その反対側には整然と区画された家庭菜園が広がっていた。
「どうぞ入って」
「お、お邪魔します……」
「はい、いらっしゃい」
開けられた玄関へ足を踏み入れた。
シイナに促され、靴を脱いで家に上がる。
家の中は綺麗に片付いていた。生活感はあるものの、必要なものがきちんと整理されている。
「結構広いんだな。ひょっとして二人はいいとこのお嬢様か?」
「違う違う。昔からこうなの。祖父ちゃんが遺してくれたのをそのまま使っているだけ」
遺してくれた?
「そういえば、他に人が見当たらないような……」
「あたしの両親は幼い時に亡くなって、祖父ちゃんに引き取ってくれたけど、13歳の時にね…」
二人で暮らしてるってそういうことだったのか。
「悪い。辛いことを思い出させて…」
「いいのいいの。もう昔のことだし、あたしにはセツナがいるからね」
シイナは気にしていないと言わんばかりに笑みを作る。
「さてと、まずは君の部屋と………」
シイナに案内されて廊下の奥へと進む。
「キョウヤが使う部屋はここね」
着いたのは客間として使われていたらしい一室だった。
広さも十分で、寝具や家具も一通り揃っている。
「しばらく使ってもらって構わないから。必要なものがあったら遠慮なく言ってね」
「ありがとう。本当に助かる」
「気にしないで。困ったときはお互い様だから」
「それじゃ改めて、しばらくお世話になります」
俺は二人に向き直り、頭を下げる。
すると、セツナが不思議そうに首を傾げた。
「ん? お世話になります?」
「え?」
「ここに住むんだから、お邪魔しますじゃなくて、ただいまじゃないの?」
「セツナ、それは少し違うんじゃ……」
シイナは苦笑するものの、すぐに俺へ向き直った。
「でも、そうだね。これから一緒に暮らすんだから、遠慮しなくていいよ。そんな他人行儀にならなくていいし」
「帰ってきたら、ただいまって言ってね」
ただいま…か。
「わかった。ただいま」
「うん!」
セツナが満面の笑みを浮かべる。シイナも優しく微笑んでいた。
「おかえりなさい」
その言葉を聞いたとき、胸の奥がほんの少しだけ温かくなった気がした。
映画ヴェノムの吹き替え版主題歌はウーバーさん達が歌ってましたね。個人的に好きな曲です。
話が変わりますが、魔法少女リリカルなのは本編に出てくる時空管理局って、スパイダーバースのスパイダーソサエティに似てる気がしますね
いくつもの次元の平和を維持するために動いているって……
まあ管理局上層部黒い部分があるから、クロスオーバーした場合ヴィランをモルモットにして取り返しのつかないことやらかしちゃいそうな