個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
ミルコの職場体験は大変有意義なものにござる。
朝起きて戦闘、昼休憩と昼食を挟んで戦闘、夕飯を食べて軽い戦闘。で寝る。
以上にござる。
「私が言うのもなんだけどよ。一応は職場体験っつう建前で来てんのにいいのか?」
「儂様が目指すモノは今のヒーローとは合わないでござる。ここを選んだのも話した通り、戦闘経験を積むためでござるよ」
体中痣だらけで、痛いでござる。
しかし、ミルコとの戦闘は儂様の純粋な戦闘能力を底上げしてくれたでござるよ。
組み手でも有効打を与えることも何回かできたでござるし、成長を実感して儂様大満足にござる。
「ふーん。お前変わってんな」
「バニーでエチチなミルコに言われるのは癪にござる」
正直ですね、小さなお子さんの性癖を捻じ曲げようとしてるんじゃないかって、儂様すっごい心配。
儂様? NARUTOで好みの女性は綱手様に水影様にござるが、なにか?
大人? お姉さん? に憧れるのは男児の常でござる。
「しゃあねえ。今日ぐらいは職場体験らしいことしてやっか!」
「要らぬでござる。戦いたいでござる」
「戦闘狂じゃねえのに私みてーなこと言うなよ。ほーらミルコお姉さんがやさーしく手ほどきしてやっからよ」
「ぬわー。これが性癖破壊攻撃でござるか~」
うーむ。役得なのではござるが。
儂様今日までずーっとボッコボコにされてるでござるよ。
正直ね、体が怯えてるでござるよ。
震えが、止まらねえでござるよ。
「大人ぶってんじゃねえぞ! 体は正直じゃねえかよ! ほれほれ!」
ほんと、正直に恐怖に慄いているでござる。
儂様の息子様が縮み過ぎて女の子みたいになってるでござるよ。
はっ。これが女にされるということにござるか?
「しかしでござるよ。ミルコ」
「んあ?」
「他のヒーロー事務所は拠点を持ち、コミュニティとネットワークを駆使して、迅速に事に当たると聞き及んでいるでござる。しかし、ミルコは事務所を持たない根無し草ロールプレイヤーにござる」
「おう! 気楽でいいぞ!」
「つまり、職場体験といったところで、なにもすることがないと儂様は考えているでござる」
「バッカだなーオメー」
え、うそ。すっごいまともな理論だったでござるのに、馬鹿にされたでござる。
変態エチチバニーに? へ? なんで? キレそう。
「しゃーねーなー! 私がそこんとこ含めて教えてやるよ!」
わーすっごい笑顔。
☆
「うっし。多分ここだ!」
「え、儂様困惑にござる」
いつもの戦闘訓練をしている場所から少し離れた都心。
土地勘があるのか、迷いなく進むミルコに連れられて向かうと、なぜか都市が火に包まれたでござる。
「ミルコ、自首するなら早い方がいいでござる。酌量の余地でござるよ」
「私じゃねえよ。こういう時はな、勘で歩きゃヴィランに会えんだよ」
否定したいでござる。
しかし、現に目の前で事件が起きてるでござる。
ござるぅ……。
「そんでこうすんだよ!」
えぇ。いつの間にかミルコが不審人物を取り押さえてるでござる。
というかこいつは、
「ミルコ、それは脳無でござる。USJで儂様達を襲ったヴィランでござるよ。少しばかり毛色が違うでござるが」
色は黒、でもなんか全体的に細いでござるよ。
むむ、携帯のグループラインに通知にござる。
「ふーむ。位置情報だけにござる。緑谷らしくもないでござるよっと」
返信するが、緑谷の既読はつかないでござる。
「おい。それって緊急事態で位置情報だけ送って来たんじゃねえのか? 場所もちけーし」
「なんと。ミルコの頭は筋肉ばかりかと思っていたでござるが、意外にござる」
「お前、私のこと馬鹿にし過ぎだろ。あとでボコってやっから、さっさと助けに行って来いよ」
「ミルコは来ないのでござるか?」
「私はコイツを抑えなきゃいけねえだろ。警察に引き渡してくっから、その位置情報を私にも送れ」
なるほど。となれば儂様の出番でござろう。
「影分身の術!」
出した分身は3体。
1体をミルコの傍に付け、封印巻物からイヤホン型の通信機を出してミルコに渡す。
「儂様のコスチュームには小型通信機が付いているでござる。ミルコに渡したのは同じ物にござる」
影分身は身に着けている物も含めてコピーするでござる。つまり、無線機も一緒に分身するでござる。
USJ事件の時に、影分身を消さないと情報をキャッチできなかった反省を踏まえて、追加で付けてもらったでござる。
とは言え、ミルコに渡したのはスペアでござるに、あくまで分身同士で使うのが前提でござる。
「で、この影分身は?」
「通信が行えなくなった場合、この分身体が消えれば儂様が感知できるでござるよ。そうすればここに戻ってくるでござる」
「おめーな、準備が過ぎるぞ。もっとぱーっと思い切っていけ!」
「必要なら儂様準備は怠らないでござるよ」
不測の事態を予測してこそでござる。
封印巻物によって儂様はいくら物を増やしても嵩張らない。この利点を使わない手はないでござるよ。
「じゃ、儂様を背負っていくでござる。一人は前方で索敵警戒、儂様は使ったチャクラを回復させるでござるよ」
封印巻物からチューブ状の栄養剤を補給する。
チャクラの生成にはカロリーを消費するでござるからな、封印巻物にストックしているでござる。
分身体の背中によっこらしょ。安定性が悪い、つかまる必要がある故に集中がしにくい、ここも改善にござるな。
「おーし行ってこい! 私以外にボコられんなよ! お前をボコるのは私の役目だからな!」
「ぎょ、御意にござる」
激励してるんだよね?
いじめ宣言じゃないでござるよね?
☆
緑谷と飯田は苦境に立たされていた。
巷で騒がれていたヒーロー殺し。飯田の兄を襲い、ヒーロー生命を終わらせた元凶。
飯田は復讐に身を焦がしていた。
しかし、兄に勝ったヒーロー殺しは強く、謎の個性によって自身どころか駆け付けてくれた友人まで、ヒーロー殺しの凶刃に傷付けられてしまった。
「ござるござる! 護影参上にござる!」
緑谷も動けなくなり、万事休すの状況に響いたのは場の空気に似合わない、活発な声。
聞き覚えのある言葉遣いと共に、ヒーロー殺しと緑谷達の間に立つのは深緑を基調としたヒーローコスチュームを着た、忍堂だった。
「ハァ……粛清対象が増えたか」
「ござる。状況はまずいようでござるな! 緑谷、飯田! 口が動くなら状況報告にござる!」
苦無を両手に構え、ヒーロー殺しから視線を外さない。
「に、忍堂君! そいつはヒーロー殺しだ! 個性で僕たちの動きを止めてる! 多分血の経口摂取!」
「なんでここに来たんだ! 早く逃げるんだ忍堂君!」
「ござるござる。このエセ忍者がヒーロー殺し、ステインにござるか」
「ふっ……!」
ステインは無言でナイフを忍堂目がけてなげるが、余裕を持ってキャッチ。
「なんとも手入れのされてない忍具。忍者失格でござるよ」
投げ返す。チャクラコントロールによる身体強化を伴った投擲は、ステインのソレよりも鋭く飛ぶ。
「ちっ……」
別の武器で打ち上げ、キャッチする。
「ふむ。身体能力は高そうでござるが、個性によるものではないでござるね。」
「お前も、贋作だ……」
「え、こわ。いきなり悪口言ってきたでござるよ。流石ヴィラン、油断も隙もないでござるな」
忍堂一人であれば戦闘に入ってもいい。
しかし、背後には動けない負傷者が3名。殺害が目的なら忍堂の動きは制限されてしまう。
「ならば! 多重影分身の術!」
いくつもの白煙が上がる。その数100体。
もはや緑谷達すら背に隠せる量を出した忍堂の姿に、ステインの目が見開かれる。
「掛かってくるがいいでござるエセ忍者。儂様の名声のため、ひっ捕らえるでござるよ!」
「貴様も、粛清の対象ダァ……ッ!」
1対100。普通に考えれば忍堂が圧倒的有利。
チャクラコントロールを伴う身体強化を行っているともなれば、一方的なものになるはずだった。
しかし。
「なんと!?」
「やられたでござるぅ~!」
「ぴぎゃーでござる!?」
戦闘はステインの一方的なものとなっていた。
「俺に攻撃を当てようと躍起になっているな。数は多いが集中すれば捌けんことはない……」
無謀な突撃。
それゆえにステインは目の前の忍堂に集中せざるを得ないが、着実に捌いていく。忍堂はそれでもかまわず突撃を続ける。
90が80、80が60、数が減ればステインの集中するべき忍堂の数が減り、殲滅速度が高くなる。
しかし、数が減れば減るほど、忍堂は激しい突撃を続けた。
戦闘経験が豊富なステインが、忍堂の目的に気付く。
「なるほど。逃がす時間を稼ぐつもりか」
そうと分かれば、ステインはビルを駆け大きく飛び上がった。
開けた視界に映るのは、3人の忍堂が負傷者を運ぶ姿。
「そこだァ!」
ナイフが飛ぶ。
しかし、間に忍堂の分身体が割って入り防ぐ。
「ハハァ……! そうくるよなァ!」
意識がナイフに向いている隙をついて駆け、追いつく。
「ちぃ! 早いでござるな!」
「儂様が行くでござる!」
護衛にいた一体が飛び出す。
無茶な突撃はしない。武術による防御に徹した対応にステインは攻めあぐねてしまう。
「なるほど。高い戦闘能力、負傷者さえいなければ俺が負けていた可能性もあっただろう。だが……」
体中に隠した武器を足蹴にして飛ばす。
まさかの攻撃に忍堂の反応が遅れ、ナイフが飯田を運ぶ忍堂に刺さり、分身体が消える。
支えを失い、地面に転がった飯田に忍堂達の注意が向き、
「だから、貴様らは贋作なのだ……」
高速で移動したステインが、飯田にナイフを振り下ろす。
止める者はいない。
「やめるでござるうううううう!」
ステインのナイフが、飯田の胸を突き刺す。
ボフン、と白煙が上がった。
「なん、だと……っ!?」
「今だ! 掛かれー!」
呆然とするステインに、忍堂の分身体が群がっていった。
☆
ステインが忍堂達と戦っているその時間、緑谷達はというと。
「えっほ、えっほ、伝えなきゃ」
「飯田たちが危険だって伝えなきゃ」
「えっほ、えっほ」
緑谷、飯田、プロヒーローは担架で運ばれていた。
「あ、あの忍堂君。逃がしてくれるのはありがたいんだけど、その歌は?」
「いやー。空気が重かったので、儂様なりに楽しませようかとおもったのでござる」
「そ、そうなんだ。あと、この担架はどこから?」
「儂様は物持ちがいいのでござる」
暗に教えるつもりはない。
USJバスでの忍堂の言動を思い出した緑谷は、思考を切って飯田の様子を窺った。
「忍堂君、放してくれ。俺はあいつを! 兄さんの仇を!」
「飯田君……」
「んー。儂様話が見えてこないでござる。クソ真面目飯田がどうしてこれほど乱心してるでござるか?」
首を傾げる忍堂に、緑谷はこれまでのことを話した。
飯田の兄がヒーロー殺しに襲われ、ヒーロー生命を絶たれたこと、飯田がヒーロー殺しを狙って潜伏しているであろう近くに職場体験としてきたこと。
そして、ステインを追い、戦ったこと。
「なるほどにござる。それなら早く言ってほしかったでござるよ」
「ごめんね。忍堂君。だから忍堂君も飯田君を」
「それなら早く戻るでござる! 飯田に仇を取らせてやるでござるよ!」
「へあっ!?」
「いいのか、忍堂君……!」
信じられないと飯田は忍堂を見る。
「だって、殺したいのでござろう? 家族の仇を取りたいのでござろう?」
「あ、あぁ。そうだが……」
「なら殺せばいいでござるよ、大切な家族をやられて黙っているなんて人ではないでござる。ヒーロー殺しは10人以上も殺している殺人鬼でござる、状況もここまで追い詰められてたら正当防衛になるでござるよ」
「なに、いってんだよ……」
緑谷は震える声で忍堂に手を伸ばす。
「あ、分かったでござる。死体の処理に困るでござるなら、儂様が隠してやるでござる。ござるござる、絶対に見つからない隠し方を知ってるでござるから、知らぬ存ぜぬすれば捕まることはないでござるよ。みんなで転んだとかなんとか言い訳するでござる」
「なに言ってんだよッ!! 忍堂君!!」
胸倉を掴み、至近距離で忍堂を睨みつける。
しかし、忍堂の顔はあっけらかんとしていた。
「なにって、復讐でござるよ」
「ダメに決まってんだろ! 人の命だぞ! 簡単に殺すとか言うなよっ!」
「これは異なことを。命を慮るなら、ステインは殺すべきでござろう」
「は?」
「あいつを今見逃せば、あと何人殺されるでござる。何人死ねば止まるでござる。これから先、被害にあう人になんて言うでござる。ごめん、ステインの命も大事なんだ。でござるか?」
忍堂が、緑谷の瞳を真っ直ぐに見る。
「緑谷、命を何だと思っているでござる」
何を言っているのか分からない。
緑谷の目に映る忍堂が、得体の知れないモノに見えた。
「お、体が動いているでござるな」
「え、あ。本当だ・・・・・・」
「よかった緑谷君。俺はまだ動けないようだ」
「血の摂取量。いや、飯田君の方がまだ治ってないから、別の要因があるはずだ・・・・・・」
「よし。それでは緑谷は早くこの場を離れるでござるよ。儂様は飯田と一緒にステインのところに」
いざ、と行動を開始しするが、第三者の声が掛かる。
「お前等、こんなところにいたのか」