個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
「本当にごめん! 思わず叩いちゃった!」
頭を下げてくる麗日に大丈夫と手を振るでござる。
「儂様こそ申し訳なかったでござるよ。儂様の変化の術は対象物を再現する都合、変化先の形状や見た目を観察する必要があるでござる」
ステインとの戦闘時、飯田たちに変化可能だったのは男同士ということもあり、変化対象として普段から観察していたからでござる。
あと、ステインにとっては初対面でござるし、細部が違っても問題なかったにござる。
「今回の相手はヒーローであり、教師。麗日に変化したとしても、細部が荒ければバレてしまうでござるよ」
「なるほど」
「しかし、男ならともかく。女生徒を観察するのはモラルもそうでござるし、あらぬ誤解を生みかねない。そのための確認でござったが、先の反応を見る限りこの案は無しでござるな」
「い、いやいやいや! ウチにそんな人いないし! 全然! 変化しちゃっていいよ!」
「あの反応でいないは嘘でござるよ。大丈夫にござる、変化しないならしないなりのやり方があるでござるよ」
そして、いくつか作戦を練るためにも、モニタールームで先生たちがどんな戦い方をするのか。
試験ならば何かしらの方向性があるはずだということになり、モニタールームに向かったでござる。
「麗日さん達も来たんだ!」
「え、あ、で、デク君! も?」
おう、意味なく緑谷の名前で声が張り上がったでござる。
顔も赤い、緊張から汗も出ている……。
「なるほどにござる」
「ちょちょ、忍堂君!? なにがなるほどなの!?」
「ござるござる。情報は力にござる、常日頃から情報収集には気を配っているでござるよ」
「ちゃう! その情報は誤報だから! ホントに誤報だから!」
慌てふためく麗日とは対照的に、緑谷は頭にはてなを浮かべる鈍感っぷり。
ナルト然り。こいつ、主人公属性を持っているでござるな。
「麗日。一つ助言にござる、この手合いは気づいてもらおうと考えた時点で負けでござるよ」
気づく気付かないではないでござる。
やるなら攻めの一手。曲解のしようもないドストレートが最適解にござる。
「んー! んー!!」
「わははは。イタイ、結構本当に痛いでござる」
「えっと、なんで忍堂君は麗日さんにエビぞり固めされてるの?」
「緑谷よ、女子というのは大変力強い生き物にござる。なめてかかると痛い目見るでござるよ」
「現在進行形だけど!?」
そんなひと悶着もありつつ。リカバリーガールの一喝で儂様達はモニターの映像を見ることになったでござる。
切島砂藤の近接パワー型チームによる、注目の1回目が開始されたでござる。
舞台は都市、試合開始して数分でセメントスと切島たちがかち合う。
「ふむ。一方的でござるな」
「セメントス先生の戦い方が上手い。近接パワータイプの弱点を難なく突いてる」
結果から言えば一方的な戦いでござった。
砂藤のシュガードープ、切島の硬化。この二つの弱点は長期戦闘に不向きだということ。
対するセメントスは、個性による地形全てが武器。個性を使うのにそれほど労力を掛けず、余裕を持って二人を圧倒した。
「やれやれ、早速仕事さね」
個性が切れれば二人はコンクリートの波に飲まれていった。
リカバリーガールが去った後のモニタールームに沈黙が訪れる。
「すごかったね……」
麗日の言葉に緑谷が頷く。
「考えが甘かった。ハンデがあるからとか、そういう次元じゃない。これがプロヒーローの本当の力なんだ」
いかに自身の有利を押し付けるか。
セメントスの言葉の意味、モニターの光景を見れば嫌でも思い知らされた。
「ど、どうする忍堂君。私たちの対戦相手って13号先生だよね、私の個性は相性最悪だよ」
「正直な話、儂様一人でどうにでもなるでござる。13号はもとより個性はともかく戦闘能力が高いわけではござらぬ。USJでも不意を突かれてダウンしたと聞いたでござるよ」
むしろ、あの強すぎる個性によって戦闘を避けているとも受け取れるでござるが。
「しかし、これでは麗日の成績に影響を与えてしまうでござるよ。ゆえに、作戦は逃げの一択。儂様と麗日の個性を合わせたパーペキな逃げを見せるでござるよ」
「戦わないの? 忍堂君なら物に化けて後ろから奇襲とか、できると思うけど」
「緑谷、真面目に考えるでござる。ブラックホールなんて個性を相手に、無力化を考えるのならば、儂様達が取れる手段は残酷なものになるでござる」
残酷という言葉に麗日がどうするのかと不安げに聞いてくる。
「個性の発動起点を潰すにござる。USJでは指から個性を発動させていたとか」
「もしかして腕を?」
「さようにござるよ緑谷。拘束したとしても、ブラックホールを使われれば意味を成さず。本物のヴィランであれば、周囲もろとも吸い込んでしまえばいいでござる」
個人的にはよくぞヴィランではなくヒーローになったでござるよ。
13号の個性出力によって話は変わるでござるが、都合の良い考えは捨てるでござる。
「個性の出力次第で、オールマイトすら完封可能な個性だと儂様は考えているでござる」
まさしく、近距離系個性にとっては天敵にござる。
腕を落とすといった手段が取れない以上、儂様達にできるのは逃げの一手でござる。
「確かに、13号先生の個性は近づけば近づくほど強力になる。ヒーローだからありえないけど、凶悪なヴィランがもし似た個性を持っていたとなれば、対応できるヒーローは限られるはず。対応するには、ブラックホールの吸引の影響を受けない個性。投擲とか火は吸い込まれて無理、でもショック吸収みたいに上限があるなら? 一度にブラックホールが吸い込める物量が把握できれば……」
「おぅ。詠唱に入ったでござるよ」
「デク君個性の話になるとこうだよね~」
うむ。一旦緑谷は置いて作戦会議を続けるでござるか。
「でもさ、忍堂君。できればその、13号先生と初めから戦わないって言うのはちょっと……」
「ござる……」
それから麗日とは13号がどこで待ち構えるかや、行動パターン、いくつかのプランを用意することになったでござる。
作戦会議は思いのほか時間が掛かり、儂様達の番が回ってくる直前まで緑谷を含めて、話し合いは続いたでござる。
「うち等の番だね!」
「うむ、会場はUSJにござるか。麗日のブラックホール射程外突破は封じられたでござるか」
儂様にとって不利な環境ではないが、麗日にとってはデバフでござろう。
「よっし。じゃあ空中突破はなしだね、別のプランで行こう!」
「環境は把握したでござるから、次は13号の配置でござる」
儂様は出せるだけの影分身を出して偵察に向かわせる。
偵察用なため、同時に出せる最大の50体以上にござるが、チャクラは残りかすに等しいでござる。
十中八九ゴール地点にござろうが。
「しばしチャクラを練るでござる。いくつかは巡回させるでござるから、麗日も警戒を頼むでござる」
「まっかせて!」
行動しながらでもチャクラは練れるでござるが、効率という面で見れば動かず集中が最適にござる。
しばらくして、脱出ゲートに立つ13号を見つけたと連絡が入ったでござる。
☆
モニタールームにいた緑谷は、忍堂達が走り出す映像を緊張の面持ちで見守っていた。
「話には聞いていたが、まるでエクトプラズムに似た個性の使い方だね」
リカバリーガールの感心した声色は、今までの生徒とは違う走り出しに向けられたものだ。
「ヒーロー科の子は良くも悪くも素直な子が多い。だからこそ、この手の試験になればヒーローが先手を取る結果になるんだけど」
索敵に向いている個性というのがそもそも少ない。
だからこそ、ヒーローに求められる対応力の指標は強く見られる。
「忍堂君は索敵から戦闘、救助も一人で対応できますから。すごく強力な個性です。忍堂君自身の戦闘能力もクラスで一番高いです」
「なるほどねぇ」
値踏みするように、まるで危ういものを見ているような、いっそ警戒しているとさえ言える様子で、リカバリーガールはモニターに映る忍堂を観察する。
「ま、13号相手にどこまでやれるか、見ものさね」
☆
忍堂達が13号と接敵するや否や、問答無用とばかりに13号が個性を発動。
ブラックホールの強力な引力が周囲の物を飲み込んでいく。
「ござるござる。この距離なら引力も耐えられるでござるな」
「でも、これ以上は近づけないよ。どうするの?」
「まずは小手調べにござる。水遁! 水鉄砲の術!」
忍堂が口から高水圧を射出。
13号は狙わず、足元を狙って放たれた水だが、ブラックホールの引力に負けて地面に到達する間もなく吸い取られていく。
「やはり飛び道具の類は悪手にござるな」
「なら次は質量!」
麗日が人の大きさ程もある巨岩を持ち上げ、重さを感じさせないフォームで投げる。
「解除っ!」
「僕が普段相手にしているのはその手合いでしてね。僕に向けるには少々小さいですよ」
質量を伴った巨岩だったが、13号は余裕を持ってブラックホールで飲み込んでしまう。
「遠距離もだめ、質量もだめ。やっぱり私達じゃ攻略は難しいね」
「想定通りにござる」
しかし、それは二人も同じ。
攻撃を完璧に対処されても焦りは見せない。
「何か作戦があるようですね。ですが、僕もヴィランと戦っていないわけじゃありませんよ」
ブラックホールの出力を上げるが、忍堂達は安全を持って距離を離す。
「さあ、どうします? このまま制限時間いっぱいまで、僕はブラックホールを維持できますよ」
対処するにも近づけず、出口は13号の背後。
詰みの言葉が浮かび上がる状況だが、二人は確信を持って13号と向き合った。
☆
「あの忍者野郎、まだやってんのか」
モニタールームに響いた声に、緑谷は普段以上に体を震わせた。
見れば不機嫌さを隠さない爆豪がモニターを睨みつけていた。
「か、かっちゃん……」
「黙ってろ。俺ァ忍者野郎を見に来ただけだ」
普段以上に落ち着いた言葉だが、付き合いの長い緑谷から見れば全くの真逆。
噴火直前の火山が静かなように、地面を揺るがす力を地球のプレートがゆっくり蓄えるように、今の爆豪は爆破寸前の火薬庫にしか見えなかった。
「忍者野郎は俺がぶちのめす。半分野郎も、テメエも……全部俺がぶっ殺す」
静かに。自身に言い聞かせるように、爆豪は静かに闘志を燃やしていた。
「まったく、ヒーロー科ってのはつくづく負けず嫌いが多いね」
リカバリーガールは二人の様子にため息を吐くと、モニターに視線を戻す。
戦況が変わり始めていた。
☆
「二手に分かれてきましたか」
脱出ゲートに居座る13号を中心として、忍堂と麗日が大きく円を描く。
13号の個性は手から打ち出される。ならば、有効な手段も単純。
「影分身の術!」
迂回しながらも忍堂は分身体を生み出し、13号を中心にした半円を形成する。
「なるほど。僕の個性が手からしか出せないから、文字通り手数を増やしましたか」
円の端に立つ忍堂と麗日を一瞥する。
「影分身で僕を無力化するもよし、影分身に隙を作らせて脱出するもよし。考えましたね」
ですが、と13号は両手の指に取り付けられた蓋を全てはずし、指を限界まで開く。
「僕がよく相手にするのは災害。島国の日本で発生する災害には水害も多いです、この程度の物量は何度も対処してきましたよ!」
10本の指による半円状のブラックホール吸引。
腕は2本でも指なら10の線を引ける。
「さあ、どこからでもかかって来なさい!」
「ござるござる。流石にそう上手くは行かないでござるが、吸引の指向性を分散させればそのぶんブラックホールの引力は下がるでござるよ」
分身体の忍堂が手ごろな石を持ち、全力で投球する。
術を使えるほどのチャクラは配分できないが、チャクラコントロールをする程度なら可能。
二百メートルを超える投擲力は、時速160㎞を大きく超え引力の影響を受けながらも、13号の近くに着弾。
「ブラックホール破れたり! 秘儀、儂様オールスターズ! 全力投擲合戦の術にござる!」
有効となれば話は簡単。
分身体の忍堂達が一斉に投擲を開始。
流石に13号本体に向けられれば、ブラックホールに飲まれてしまうが、至近弾が
13号の足元や背後に到達する。
「くっ……! しかし、僕にダメージを与えるにはもう少し速度が必要ですね!」
「ならばあたる距離まで近づくまでにござる! 行け! 儂様達!」
「「「これが本当の人海戦術にござる!」」」
円の端にいる忍堂と麗日を除く忍堂達が駆けだす。
手に持った石やら瓦礫を投げながら、迫りくる忍堂の波に13号の足が一歩下がる。
「舐めないでください!」
しかし、その一歩は踏ん張るための一歩。
個性の出力を上げ、迫りくる忍堂の分身体を吸い込んでいく。
目の前の忍堂達を飲み込みながらも、視界の両端にいる麗日たちへの注意は外さない。
「どうやら、打ち止めのようですね……」
軽く肩で呼吸をしながらも、13号は忍堂の影分身の波を乗り切った。
忍堂にとって影分身がチャクラ負担の多いことは知っている、時間を与えればチャクラを回復してまた同じ手が使えることも。
しかし、それは今ではない。
むしろ、チャクラを消費した今の忍堂にとれる手段は少ないはず。
多少疲れたが、13号はまだ残りの時間いっぱい個性を使える程度の消耗だと戦況を分析した。
「くぅ。隙がないでござる」
「忍堂君! 別のプランにしよう!」
「御意にござる」
「敵の前で作戦会議ですか。筒抜けな作戦に意味はありませんよ」
忍堂と麗日は合流し、再び13号と距離を離す。
戦況が振り出しに戻ったと、誰もが思った。
「さあ、次の手はなんですか!」
「13号、儂様の影分身の特性は存じているでござろう?」
作戦会議を始めるのか、逃げか攻めか。
忍堂の選択は会話だった。
「えぇ、知ってますよ。ダメージを受けたら分身体は解除される。分身体の数が少なければ、先の水を使った技も使える。USJの時は先輩の援護と幅広い運用が可能」
「その通りにござる。つまり、」
忍堂は苦無で自身の腕を傷つける。
「な、なにをっ!」
少なくない量の血が、忍堂の腕から流れる。
意味の分からない自傷を前に、流石の13号も慌てた。
傷もそうだが、隣にいる麗日ですら慌てた様子を見せたからだ。
破格の力を持つ個性を生徒に向けた直後のストレス、作戦とは全く関係のない理解不能な行動、生徒の怪我。
他にもいくつかの小さな要因が積み重なり、13号の正常な思考を一瞬奪った。
「血が流れるということは、儂様は本体にござるよ」
そのセリフと、背後でポフンと特徴的な音が聞こえたのは同時だった。
忍堂が使える術に、この状況を説明できるものは揃っていた。
「変化!? いつのまにっ!」
背後にいるものは誰であろうと影分身に変わりはない。
完全に隙を突かれた、しかし、まだ対応できる範囲。
13号は即座に背後を向き、飛びかかって来た忍堂の分身体を吸い込もうとして、
「隙を、ようやく見せたでござるよ」
背後から伸びてきた腕が、13号の両腕をからめとる。
「距離があったはず!? どうやって!?」
「無重力に儂様の脚力が合わされば即席人間砲弾でござる」
両手は前ではなく頭上に向けられ、常人とは思えない力で固定されてしまう。
そして真正面から飛び込んできた、今しがた吸い込もうとした分身体が足を体全体で抑え付ける。
「麗日! 今のうちに手錠を掛けるでござる!」
遠くから走って来た麗日が13号に確保用の手錠を取り付けようとして。
「ちょ、先生背高すぎ! 届かない!?」
見た目のわりに長身な13号が両手を頭上に挙げていれば、麗日の手は絶妙なところで届いていなかった。
「なら寝かせるでござるよ」
「わっ!?」
両手の拘束を片手で行い、抵抗されないよう脇と脇を通すように腕を回す。
背中から倒れて小さくない衝撃を背中に感じながら、逃がさないよう全身を密着させて拘束。
素っ頓狂な声を挙げた13号に忍堂は首を傾げた。
「13号先生、意外と軽いでござるな。それに、服からでは分かりにくいでござるが、鍛えている感じではないでござる。先生は長身でござるし、筋肉を付けることをお勧めするでござる」
「そ、そそ、そうですね……」
「ささ、麗日。13号に手錠を。て、なぜそうも微妙な顔をするでござる?」
「うん。そうだね、なんでもないよ。ほんと、13号先生、他意はないんです。ごめんなさい、ほんと忍堂君がごめんなさい」
分からぬでござるな。
作戦は最初から最後まで綺麗に決まったでござるのに。
「え、ええ。大丈夫、大丈夫ですよ」
「はい、手錠掛けたから、忍堂君はさっさと13号先生から離れる!」
「儂様結構頑張ったと思うでござるよ。酷いでござる」
まるで13号から儂様を離したいみたいに……。
あーなるほどね。理解したでござる。
「麗日は顔ファンという奴でござるね、13号のヘルメット中は相当美形でござるか? 人気商売なヒーロー稼業にござるのに、勿体ないでござるな」
ヘルメットの中を見てみたいでござるが、麗日に止められてしまったでござる。
「早くリカバリーガールのところに行こうよ。傷も治してもらわないと」
「問題ないでござる、これは血のりでござるよ」
血の部分を擦って無傷な腕を見せ、ついでに小道具ナイフから血のりを流せば、二人は驚いた顔をしたでござる。
「儂様、緑谷みたいに自傷大好き性癖マンではござらぬよ」