個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
「ア゛ア゛! どこ中だテメエ!」
儂様困惑。
雄英高校入学初日。そうそうにここが本当にヒーロー科のA組なのか、A組と書かれたプレートを何度も見返しても仕方がないと思う。
あ、でござる。
ちなみに、儂様だけだと個性がないなということで、語尾にござるを付けた。
ま、一種の切り替えでござるよ。こうして表の顔を作ることで、普段から自分の表面的な部分を覆うのだ。理由? なんか忍者っぽいから。
「かっちゃん……」
ドアで立ち止まってたらボサボサヘアー君の道を塞いでしまっていたらしい。
そそくさと自分の席に向かう。ござる。
で、詳細は省くが、寝袋に入った相澤消太と名乗った先生によって、入学式とかを全てすっ飛ばして個性把握テストを受けることになったでござる。
ものは試しとばかりに個性を使ってソフトボール投げをやらされ、チャクラで身体強化した結果200mちょいだったでござるよ。
なお、その時に儂様が実技で歴代でもぶっちぎりトップと話されて、朝の不良少年。話すようになった緑谷曰くかっちゃんとかに睨まれたり。成績最下位は除籍になることが決まったでござる。
……なんで?
ふっふっふ。ここで儂様の忍術を使ってとも思ったんだけど、まー使えそうな種目がなくて残念でござった。
それでもチャクラ強化で上位には入ったので良しとしよう。
かっちゃんに鼻で笑われてイラっとしたけど良しとしよう。
あ、それと八百万さんと蛙吹さんにビンタされたでござる。ご褒美でござるな。
☆
ヒーローとは個性の塊である。
個性的なコスチューム、個性的な言動、個性的な個性。ヒーローに憧れる一点を除けば十人十色なのがヒーロー科だった。
そんな個性が集まるA組。その中でも、注目を最も集めたのは忍堂守と名乗った男子生徒だった。
実技試験200点オーバー。雄英高校創設から今日までの全受験生の中でもぶっちぎりのトップで合格した。
相澤先生のその言葉に、A組全員の視線が忍堂に集まる。
「ふむ、どうもトップの儂様です」
(((儂様?)))
「ま、儂様に掛かれば当然にござる」
(((ござる?)))
「ソフトボール投げ。中学んときもやっただろ、それを個性を使ってできるだけ遠くに飛ばしてみろ」
「御意」
(((御意?)))
学生らしい、というか普通とは違う物言いをする忍堂は、そんなことは気にせずソフトボールを投げる態勢に入る。
「忍法! チャクラ強化の術!」
(((忍法?)))
特別なエフェクトは発生しなかったが、思いっきり投げたボールは常人では考えられない速度で吹っ飛んでいく。
200メートルと表示された記録と、個性を使えることに湧いた結果、最下位が除籍というルールが追加されたが、テストは進んだ。
「それにしても忍堂、オメエの一人称と語尾と語彙はどうしたんだよ」
「儂様のこれはキャラ付けにござる」
「なるほど!」
質問の回答に困惑する峰田だったが、緑谷は合点がいったとばかりに頷く。
「ヒーローが数多くいるヒーロー業界で、成績以外にアピールできるポイントがあるとすれば、コスチュームとか個性の技に目が向きがちだけど。オールマイトのアメリカンなスタイルも人気の一つになってる。つまり、普段の立ち居振る舞いからヒーローとしての個性を確立しようってことだね!」
「緑谷の言いたいことはなんとなくわかってるけどよ。それよりもテストの方はどうなんだよ、大丈夫なのか?」
「あぁあああああ……! そうだったぁああああぁ……!」
膝から崩れ落ちる緑谷。
忍堂と峰田は哀れに思いながらも、それどころではないとある一点を見る。
「どう思うよ」
「愚問にござる。トップは八百万、次点で芦戸だな」
「ふ。オイラの目に狂いはなかったぜ」
「だが、蛙吹もなかなか捨てがたい」
「あれはニッチなジャンル向きかもな」
二人の見る先では、丁度50m走に挑む八百万がいた。
「うむ。大変良きかな」
「オイラ、雄英に入れて最高にハッピーだぜ」
「アンタ等さ。それ普通にセクハラだからやめなよ」
イヤホンジャックの個性を持ち、常人よりも優れた聴覚を持つ耳郎響香が嫌悪感を隠さずに睨む。
「これは異なことを。個性を褒めてるだけではないか」
「そうだぜ。オイラ達は純粋に八百万たちをライバルとして見守っているだけだ」
「ちなみに、さっきの会話他の子にもばっちり聞かれてるけど」
ちらっと見れば、走り終えた八百万と背後に控える芦戸と蛙吹がいた。
峰田は親指をグッ! として殴り飛ばされた。
「辞世の句はいいかしら?」
蛙吹がじりじりと迫る中、忍堂は堂々としていた。
それもそのはず、忍堂はこれっぽっちも悪いと本気で思っていなかったのだ!
「儂様は純粋に良いところを褒めているだけのこと。八百万たちの素晴らしい発育を褒めて何が悪いのでござるか!」
「悪いわ!」
「ふざけるな! 儂様は肉付きの良い女子が大好きでござる!」
「流石に引くわ。ケロッ!」
峰田同様、蛙吹のベロが忍堂を強打する。
だが、忍堂は耐えた!
「ふんっ!!! ゆえに、儂様は八百万が大変好みでござる! すっごい抱き心地(Not下ネタ)がよさそうにござる!」
「お黙りなさい!」
顔を真っ赤にした八百万が、個性で作った巨大ハンマーで忍堂をぶっ飛ばした。
「あいつ。男だぜ」
「違うぞ、アレは最低な馬鹿って言うんだ」
グッと拳を握った切島に、瀬呂が苦笑いを浮かべた。
☆
「八百万、先日は申し訳なかった。儂様すっごい反省したでござるよ」
「忍堂さん。謝罪は受け取りますが、今後はお止めになってください」
後日、儂様は自身の非礼を八百万に謝ることにしたでござる。
確かに、あの言い方は誤解を生んでしまう故。
「抱き心地というのは何も性的な意味ではござらん、英語で言えばハグでござる。八百万は肉付きバランスが黄金比ゆえ、儂様としてはそれを賛美せずにはいられなかったのでござる」
「ですからそういうのを止めて頂きたいのです!」
「なぜでござる!? 儂様悪口なんて言ってないでござるよ、むしろこれ以上ないほどに褒めたたえているでござる!!」
「なぜ忍堂さんが怒るんですの!? わ、私が間違っていたということですか……?」
ようやく納得してもらえそうでござる。と思っていたら、すっと耳郎がやってきた。
「アンタが間違ってるに決まってるでしょ!」
「いたい! 頭を叩くのは反則でござる! 暴力にござるよ!!」
「今時そういうセクハラは本当に厳しいんだかんね! それに、本人が嫌がってるんだから白昼堂々なにやってんのよ!」
な、なんだと……!? 褒められて、嫌だったというのか。
「や、八百万。つかぬこと伺うが、儂様純粋に褒めていたわけでござるが、嫌でござったか?」
「そ、それはその、嫌といいますか。恥ずかしいと申しますか……」
「申し訳なかったでござる。それほどまでに嫌だったとは。儂様褒めて嫌がられるなんて思っていなかったでござる、今後は気を付けるでござる」
そうかあ。世の中色々な人がいるんだなー。
「い、いえ。その、時と場所さえ心得て頂ければと」
時と場所とはなんでござろうか。校舎裏に呼び出して褒めればよいでござるか?
なんと面倒な。
「わーたーしーがぁああああ! ドアから普通に来たア!」
おっと、次の授業は儂様の目標でもあるオールマイトの授業か。
いったんこの疑問は片隅に置いておくとしよう。
「八百万、大丈夫?」
「はい、その。私、男性に面と向かって褒められたことがあまりなく、お恥ずかしい話、どのように反応してよいやら」
「うーん。ウチから見た感じだけど、いやらしい感じの雰囲気じゃなかったかな。本当に純粋に良いと思ったところを褒めてるって感じ? 言い方とかもろもろ擁護できないけど」
「そう、ですわね。私も嫌な気持ちだったわけではなく、羞恥心が強くなってしまい。頭が混乱してしまいました」
☆
オールマイトの授業は個性を使った対人戦闘訓練であり、生徒たちは各々事前に提出していたヒーローコスチュームを身にまとい、指定された場所に集まっていた。
各々が互いのヒーローコスチュームを褒めあっていると、オールマイトから授業の詳細が語られた。
「ヴィランチームとヒーローチームに分かれ、制限時間内に互いの目標の達成を目指してもらう! ヴィランが核兵器を手にビルに立てこもっている設定だ!」
提示された目標はそれぞれ簡単なもので、ヴィランチームは制限時間いっぱいの核兵器の守護と、生存。
ヒーローチームは制限時間内に核兵器の確保、もしくはヴィランチーム全員の捕獲。
「なんて野蛮な……」
個性を他人に向けて扱う初めての瞬間。
注目の第一戦闘では緑谷と爆豪の度を越えた戦闘に、思わず八百万が言葉を漏らしてしまうほどだった。
結果、緑谷は同級生が引くほど負傷したこと以外は滞りなく進み、忍堂の番が回ってきた。
対戦表はヴィランチームに砂藤と口田、ヒーローチームに芦戸と忍堂。
試合開始の前の移動中、忍堂と芦戸はお互いに認識のすり合わせを行うのだった。
「それで、変態の忍堂はどんな個性を持ってるの」
わざとらしく自身の体を抱いて距離を取る芦戸だが、忍堂の雰囲気が変わったことに気づく。
「儂様の個性の詳細を教えるつもりはない。だが、索敵から制圧まで儂様に任せてもらうでござる」
言動に変わりはない。
しかし、言葉に乗る見えない圧力だけが芦戸の言葉を止めた。
試合開始の合図が入り、入り口に立った忍堂はポケットから白い球を地面に放り、指で刀を作り交差させる。
「煙幕の術」
☆
砂藤達ヴィランチームが選んだ核兵器の配置場所はビルの屋上。
理由は簡単で、上からの奇襲を気にせず、下からの階段のみを守ればいいからだ。
シュガードープの個性によって、純粋な近接パワータイプの砂藤。
個性把握テストで芦戸は酸、忍堂は砂藤にちかいパワータイプということを考えれば、奇襲を封じつつも自身の戦いやすい土俵と言えた。
「なるほど屋上でござったか」
「よーし! 突撃ィ!」
いままでの戦闘を見れば、からめ手の一つでもと警戒していたが、意外にも忍堂たちは階段から真っ直ぐやって来た。
忍堂が手裏剣を天井に投げる。天井に刺さった手裏剣に視線が集まり、忍堂が口を開く。
「ヴィランに告げるでござる。投降しない場合、実力を持って制圧するでござるゆえ、降伏をお勧めするでござるよ」
「ヴィランがはいそうですかって、降伏するもんかよ!」
強気な笑みを浮かべる砂藤だが、頭では不可解な状況に困惑していた。
(ここに来るのが早い! 試合開始からまだほとんど時間が経ってないはずだぞ!)
まるで無警戒でビルの屋上まで駆け抜けてきた、としか思えない展開。
しかし、砂藤は素早く砂糖を飲んで個性を発動させる。
「シュガーナックル!」
単純にして強力な技を、同じパワータイプの忍堂に向けて放つ。
(回避、ガード、流し、迎撃。何が来ても関係ねえ!)
否。忍堂は無抵抗で強打を受けてしまう。
驚くよりも早く、忍堂の体がボフっと音と共に消えてしまう。
「個性か! どこに逃げた!」
「おらー! 忍堂の仇ー!」
忍堂を探す間もなく、突っ込んできた芦戸を迎撃。
回避して投げ飛ばすと、先ほどの忍堂と同様にボフという煙と共に消えてしまう。
「ど、どういうことだ!? 口田、なにがおきたか分かるか!」
直截な戦闘向けではなかったため、後ろで核を守っていた口田に問いかけるが、分からないと首を振られる。
いつ攻撃が来てもいいよう、二人は最大限の警戒をするが、それから数分。忍堂達の追撃はなく、眠気に襲われながらも定期的に砂糖を取り続けるしかなかった。
試合終了まであと数分。
戦況はお互いに被害はなく五分と五分、
「くっそ……あたまが、ねみぃ……!」
ではなかった。
シュガードープの個性の反動によって、急激な疲労感と脳機能の低下により、砂藤は戦ってもいないのに限界を迎えていた。
おろおろとする口田と、まともに動けなくなり始めている砂藤。
二人を飲み込むように突如白煙が部屋を覆う。
何が何だか分からず。しかし、何かが起きていた。
足音と共に二人は突如押し倒され、手首にテープが巻かれてしまう。
『試合終了! ヒーローチームの勝利!』
鳴り響くブザーと共に、徐々に白煙が四散していく。
煙が晴れた部屋には、地面に拘束されるヴィランチームと拘束するヒーローチーム、そして核兵器が消えていた。
困惑するヴィランチームと、なぜか首を傾げる芦戸を引き連れて観戦ルームに向かう。
砂藤たちはモニターで色々見ていたであろう他の人に、何が起きたのかを聞こうとするが、観戦ルームは静まり返っていた。
「忍堂さん、いくつか伺いたいことがございます。どうして、芦戸さんと忍堂さんがもう二人いたのですか。そして、消えた核兵器はどうしたのでしょうか」
神妙な面持ちで聞いてきたのは八百万。
忍堂は笑顔を浮かべて答えた。
「嫌でござる」