個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
「かっちゃんが、いない……!?」
合流した麗日、蛙吹に指摘され、障子に背負われた緑谷の言葉に、場の空気が停止した。
緑谷、轟、障子は保護したはずの爆豪が消えたこともそうだが、タイミングが問題だった。
「常闇も忍堂もいないぞ!」
油断なんてしてなかった。
分身体で合流してきた忍堂の案で、八百万に作ってもらった布で頭を隠しての移動。
隠れることに暴れて抵抗した爆豪を忍堂が木の裏に連れて行き、何かしらの交渉をすることでどうにか全員の特徴を隠したはずだった。
忍堂、常闇、爆豪、轟、障子の並びでいたはずなのに、気が付けば三人も消えていた。
「布を被せたのは大変グッド。だが甘いねー。人間、大切なものは一番安全な場所に置きたいものだし。人間の性格ってのは普段の立ち居振る舞いに現れるものだ」
木の上から声が聞こえた。
仮面を付けたマジシャンが、三つの玉を見せる。
「分かりやすくて助かったよ。足を広げた太々しい足取り、品行方正な雄英生徒のなかでも異端だ。やはり、彼はこちら側の人間だぜ?」
「返せよ! 3人を!」
「おいおいおい。人を物扱いすんなよ?」
突然現れたヴィランは、取り付く島もなく轟の氷結を回避して逃げていく。
分身体とはいえ、A組においてトップの戦闘能力を持つ忍堂が音もなくやられたのだ、追いかける緑谷達だが一向に追いつく気配はなかった。
「麗日さん!」
届かないなら届くやり方をすればいい。
他者の個性に深く憧れ、自分ならどう使うのか日々妄想していた緑谷は、即座にチームの個性の長所を生かす。
麗日が軽くし、蛙吹の舌で投げ飛ばす。
それによって、逃げるヴィランに追いついた。
追いついたはずだった……。
「ちっ、俺のショーが台無しだぜ」
上手く行っていたはずだった。
3人のうち、常闇を救い出した。忍堂は分身体ということもあり、解放されても消えていた。
だから、あとは爆豪を助ければ完全勝利。なのに、
「くんじゃ、ねえ……!」
状況も分からず、しかし自分が捕まっていることを即座に理解した爆豪が、屈辱的な事態に顔を歪め。
ワープゲートの向こうに連れていかれてしまった。
緑谷は、それからのことをあまり覚えていなかった。
☆
敵連合による2度目の襲撃。
万全を期したはずの雄英高校の被害は大きかった。
意識不明者、重軽傷者が多く、あまつさえ行方不明者を2名も出した。
「え、忍堂君が……?」
「はい……」
沈痛な面持ちで答えたのは、事件の渦中において忍堂と共に全体のサポートに回っていた八百万だった。
実際、八百万と忍堂による物資と人海戦術によって、多くの者が救われた。
なぜか爆豪達のところには1体しか来なかったが、マンダレイ達の下に現れた忍堂達は高い戦闘能力でスピナーを戦闘不能に、マグネと戦っていた虎を援護。
さらに単独で脳無に襲われて倒れたラグドールの救助。
ヴィランのガスに対抗するガスマスクの配布と倒れた生徒の保護、マスタードなるヴィランの捕縛。
宿所に配置された分身体が、再び襲撃してきた青い炎を使う男と、女のヴィランをブラドと共に撃退。こちらは泥になって消えたため、捕縛はできなかったが安全確保に尽力した。
だが、忍堂は行方不明になった。
八百万の隣にいたはずなのに。
「突然、意識を失ってしまい。気が付いた時は宿所の近くで倒れていましたの……」
「で、でもあの忍堂君だよ? 本体は表に絶対出ないで、安全を確保して分身体を使った戦術を使ってたはずなのに」
「わかりませんわ。確かに、あの時の忍堂さんは分身体を多数周囲に配置して、警戒を厳にしておりましたの。そのはずなのですが……」
「僕が馬鹿だった……」
考えれば簡単なことだった。
ヴィランの目的が、たった一つだけだなんて誰が言った。
あれだけ用意周到に事を起こしたヴィランが、爆豪一人だけを狙うには釣り合わないはずだ。
「緑谷起きてっか? 八百万も一緒か」
ヴィラン襲撃にあった生徒たちは、皆病院で検査と治療を受けていた。
傷がなくても、目に見えないダメージがないか等を含め、安全もかねて集められていた。
そして、だからこそ自然と皆が集まった。
襲われ、傷付けられ、奪われた痛みと悲しみを一人で抱え込めるはずがなかった。
「あの二人がいねえと、えらい静かだよな……」
「爆豪は死ね死ねうるさいし、忍堂はござるござるうるさいけどさ。俺、意外と気に入ってたみたいだわぶっちゃけ」
いつもは元気な切島と上鳴が、静かにつぶやくと、八百万が思いつめた顔で頭を下げた。
「皆さん……申し訳ございません。忍堂さんと一緒にいたはずなのに、私はなにも、なにもできませんでした」
頭を下げ続ける八百万の肩を持ち、体を起こさせたのは飯田だった。
「そんなことはない、八百万君。忍堂君はA組で最も強い男だ。そんな彼が後れを取ってしまった相手、たとえA組の誰がいても結果は変わらなかっただろう。それよりも、俺は君が無事で嬉しい」
慰めるつもりはなかった。
ただ、事実を冷静に受け止めた結果の言葉だった。
だが、八百万は目に涙を浮かべ、違うと首を横に振った。
「もっと、万全を期すべきでしたの。陣を敷くのなら、センサーを含めありとあらゆる警戒を怠るべきではなかったのです。私は甘えてしまったのです、忍堂さんが警戒するなら任せれば大丈夫だと。何も考えず、ただ漠然と……」
「なあ、緑谷。爆豪と忍堂を、俺達で助けようぜ」
場違い、とまではいかないが。襲撃を受けて傷を癒している現時点において、取れる手段なんてものは考えられなかった。
切島の提案は、できることなら皆がやりたいはず。その手段もなければ力もないのだ。
だが、と切島は何かに駆られた瞳で続けた。
「葉隠がさ、ラグドールの病室で途中からだけど話を聞いたんだってよ」
なにも、雄英高校の生徒だけが傷を負い、この病院にいるわけではない。
プッシーキャッツのマンダレイ、ピクシーボブ、虎、そしてラグドールもこの病院で治療を受けている。
なぜなら、現時点においてここが最も安全だから。
「ラグドールの個性って見た対象の情報を知ることができる、そんでもって」
対象の位置情報が分かる。
ラグドールがオールマイトに、脳無のいる場所を教えていた。
☆
2度目になるヴィランによる雄英生襲撃、そして特定の生徒にとっては4度目となるヴィランとの接触。
この事態に雄英高校の教師陣は事態の重さに頭を悩ませていた。
自分たちの見解の甘さ、雄英高校に対する非難や問い合わせの対応、連れ去られたであろう2名の生徒、そして裏切り者の有無。
「では、今後の対応を考える上で重要となる人物に会っていただきたい」
重たい空気の中、相澤の声に視線が集まる。
今回の事件で外部から最も非難を浴びるであろう相澤、ブラドもそれは変わらないが、自分の生徒という面で相澤に向けられる針は多い。
「チッ……」
「儂様! 参上にござる!」
「「「えええええええええええっ!!!???」」」
だからこそ、連れ去られたはずの爆豪と忍堂が会議室に入って来たことに、教師陣全員の顎が外れた。
「オメーラ! なんでここにいやがる! 敵連合に捕まっちまったんじゃねえのか!?」
プレゼントマイクが忍堂と爆豪の顔を引っ張り、本物か確かめ始める。
「根津校長、ブラド、オールマイトには事前に報告済みですが、今回の事件は忍堂の機転に助けられました。最悪な状況には変わり有りませんが、生徒の身柄はこちらにあります」
「おいおいおいおい! それならさっさとクソうるせーメディア共を黙らせようぜ!」
「だめだ。爆豪と忍堂が無事な事実はここだけに留める。心苦しいが生徒達にも伏せている状況だ」
なぜ。
その疑問に皆が首をひねる中、オールマイトの携帯が鳴る。
マナーで考えれば外に出る必要があるが、オールマイトはこの場で出る。
「うん、ありがとう。すぐに向かう」
「オールマイト、ラグドールが目覚めましたか?」
「ああ、そして忍堂君の言っていた通り、サーチで脳無の居場所が分かったらしい」
その言葉がなにを意味するのか。
生徒の身柄が雄英側にあり、USJ以来出没する脳無の居場所が判明した。
つまり、後手後手だった雄英が初めて、後顧の憂いなく先手を取れるということ。
「今、忍堂と爆豪の両名がこちらにいることがバレれば、先手は取れなくなる。メディアに伝える情報も操作します」
やっと来た攻勢の時。
雲のようにつかめなかったヴィランののど元に、手を伸ばせる。
ヒーロー達の意識が天元を突破した。
「ん? だけどよイレイザー。ここに本体がいるってなると、捕まったのは何なんだ?」
「儂様の分身体でござるよ。今頃仲良くお話タイムにござる」
☆
(爆豪のフリは疲れるでござるなー)
爆豪に変化して捕まっている分身体が、爆豪の口調をマネながらも辟易していた。
敵連合と名乗る者達のアジトは、想像していた以上におしゃれな場所だった。
しかし、そこにいるのはクラシックな空間をぶち壊す異物たち。
「変わんねえよ。オールマイトに憧れて俺ア雄英に来たんだ。そこんとこが変わることはねえ!」
「はーあ、だからオールマイトの時代は終わんだよ。それに、そのオールマイトは助けに来てくれてないじゃん。つまり、お前らは見捨てられてんだよ」
粗暴な言動で傍から見れば不良にしか見えない爆豪だが、そんな存在が雄英に受かるはずがない。
多少関わりを持つ忍堂ですら分かるのだ。良くも悪くも多様な人間と向き合うヒーローが見れば、すぐにわかる話だ。
そんな実は光の子爆豪を演じていると、顔に手を張り付けた男。死柄木の意識が、通常の分身体に向く。
「お前はどうなんだよ、さっきからだんまりか? 黒霧がわざわざ連れて来たんだ、何か言えよ」
「え、そんな入学一年目が受ける、体育会系部活の洗礼みたいな振り方マジでござるか?」
現時点における最重要項目はたった一つ。自分たちが分身体であることがバレないこと。
爆豪の根本を理解していない者達なら、変化がバレることはない。
あるとしたら攻撃による分身体の破壊。
「てか黒霧。どうしてこいつを連れて来たんだよ」
「ラグドール捕獲時の交渉。彼が研ぎ澄まされた殺意を私に向けたからです。アレは、ヒーローが放つにはあまりに鋭いものでしたので」
不満そうだった死柄木の顔が歪に歪む。
「へぇ。君、どうしてヒーローに成ろうとしたの?」
「憧れにござるよ。儂様の憧れる生き様と死に様のためにござる」
だが、忍堂の答えに表情を消す。
「お前、知ってるぞ。ステインを貶めたエセ忍者」
「黙れ三下。次儂様をエセ忍者と言ったら消すぞ」
空気が張りつめた。
あまりに唐突に向けられた白銀の刃を思わせる殺気。
「な……っ!?」
ステインを信奉するスピナーは続く言葉が出なかった。
全身から脂汗が噴き出し、気が付けば足が一歩下がっていた。
「ははぁ……。いい殺気じゃないかぁ」
忍堂は怒りで殺気を向けたわけではない。
敵連合の目的が本当に勧誘なのだとしたら、その気を見せれば無下には扱わないはずと踏んでである。
先の短い言葉に含まれている本音は”三下”のみだった。
「それで、そこの黒霧があの方とか言っていたでござるが、お前が頭目ではないのでござるか?」
「いいや。敵連合は俺が作った組織さ、パトロンがいるだけだぜ」
怪しまれない程度に情報収集をしながら、忍堂は目の前のヴィラン達を見定めていた。
「なんですか。いやらしい目で見ないでください」
「お前何見てんだ! こっち見ろ! 見んじゃねえ!」
「自分の立場が分かっていないようね」
女子高生、全身タイツ、おかま。それぞれに殺気を向けられながらも、忍堂は表情を崩さない。
「いや、A組もこの爆豪みたいに個性が強かったでござるが」
「アァ!? テメエぶっ殺すぞ!!!」
「敵連合もまあ個性的な面子にござるな。一個聞きたいでござるよ、どうして犯罪者になったでござるか?」
「なんでお前に話さねえといけねえんだよ。話すわけねえだろ! いいぜ、全部さらけ出そうぜ!」
「これは勧誘にござろう? なら、勧誘先が儂様の肌に合うかは重要にござるよ。儂様、快楽殺人鬼とか大っ嫌いでござるし、意志も意義もない浅い奴と一緒にいると儂様まで浅くなるでござるよ」
わざわざ敵連合と名乗り、雄英生徒を勧誘しようとする遠回りなやり方。しかし、最初のUSJでは殺そうとしてきたアンバランス。
敵連合には明確な目的はあるが、手段が定まっていない。そんなところだろうとあたりを付ける。
今更手段を聞いたところで気が変わればそこまで、なら今知るべきは目的だ。
つまるところ動機。これがヒーローだけに向けられるなら、雄英生徒に矛先は向かないかもしれないからだ。
「俺達の目的はヒーロー社会を終わらせること。個性を自由に使って、救えなかった者のことなんてなかった振りして、正義だなんだの言って、歪な平和に酔ってる奴らに現実を叩きつけたい。だって不平等だろ? あいつらは良くて、俺達はダメだなんてさ」
「ござる。ここにいる者全員の総意にござるか? 全員のやりたいことがこれにござるか?」
見回して聞いてくが、答える素振りは見せない。
「答えてくれないのは悲しいでござるな。であれば、儂様が語って進ぜよう」
「なんでだよ」
うーん、多分次話あたりの投稿が怖いですねぇ……