個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
相手の警戒を解く方法。いくつかあるが、簡単なのは自分語り。
それも、相手に共感できる言葉が含まれているもの。
自分と同じところに安心感を与える方法。
そのためには、まずは第一印象を決めること。要は話し始めのインパクト。
「儂様にとって、ヒーローは道化にござるよ」
だからこそ、彼らが嫌うヒーロー像を否定する。
そうすれば、面白いと視線が集まる。
「ビルボードチャートなるランク付け、ヒーローという役職、人気”商売”などと言われるヒーローは本来のヒーローとは似て非なるものにござる。ゲームに出てくる勇者、アレは強いから勇者ではござらぬ。勇気ある者だから勇者なのでござれば、そこに力の強さは含まれていないでござるよ」
人間否定されてなくても、自分と反対の意見を聞けば否定されたと感じてしまう。
ましてや、社会から爪はじきにされてドロップアウトしたものなら、なおさら。
逆に真っ向から肯定されるのも警戒される。どちらもレトリックなやり方だからだ。
故に自分の考えを間接的に肯定されることが、一番素直に受け入れやすい。
今回で言えば、自分はヒーローを認めていない。そう受け取らせればいい。
「へぇ。じゃあなんで道化のヒーローを作る雄英なんかに?」
焼けた顔が特徴的な男の声の高さが、声量ともに先ほどよりも半分高くなる。
「言ったでござろう。目的のためにござるよ、儂様が名乗るヒーロー名は守護の護に、影と書いて護影にござる」
「えらく謙虚な名前じゃないか」
「ステインを貶めたお前には過ぎた名前だ」
「儂様は承認を求めず、見返りを求めず、光を求めず。ただ影となり、護る。そこにお前らの評価も、世間の意見も求めてないでござる」
「おまえ、それはステインの……」
「一緒にするなでござる。あいつは自分が理想とするヒーローに成れなかった落ち武者にござる。自分を変えられないから、他を変えようとした。自分すら変えられないのに、他者をどうにかしようなどと不可能にござる」
手足は拘束されているから顎で指す。
「その証明がお前等にござるよ。自身を変えられるのなら、お前たちがここにいるわけがないでござる。お前達と儂様のやっていることは変わらないエゴイズムにござるが、自他のどちらに目を向けるか。ここにおいて大きく違うでござる」
話していて疑問に思った。思わず口に出てしまっていた。
「どうして、そこまで他者にこだわるでござる? 自分に目を向けていたら、そんな余裕はないでござるのに」
自分がそうだったから。
他人の視線や評価なんてどうでもいいと本気で思っていたから、自分のやりたいことができればそれでいい。ただそれだけでここにいる自分には、他者に目を向ける敵連合が理解できなくなり始めていた。
そしてなにより、A組がそうだったから。
可笑しな話だが、A組の生徒が抱える理想は利他的である。しかししてソレは結果的にである。
緑谷が良い例である。あの異常者達は他者に求められたからでヒーローを目指しているのではない、"自分が守りたいから"ヒーローを目指している。
奴が自壊するほどの力を発揮するのは決まって他者のため、少なくとも忍堂の見た緑谷の姿はソレだけだ。
そこに他者の意思は介在しない。彼らの根本は我慢できないほどの押しつけがましい、聖水の如きエゴイズムなのだ。
「まぁ、まて……」
黙って聞いていた敵連合達の手が、儂様に伸びていた。
それを、死柄木が制止した。
「恵まれてるお前がどんなヒーローに成りたいのかは分かった。俺個人としては、他のヒーローなんかよりよっぽどご立派な思想に思えるね。でもさ」
死柄木がテレビをつける。そこには敵連合の襲撃と雄英高校の対処についての記者会見が行われていた。
「こいつらはさ、お前らが捕まっても助けにくるどころか、ヒーローは言い訳のため。世間は雄英を攻撃できるネタに躍起になってる。だーれもお前達のことなんか気にしてないんだよ。さっきの御高説、本当にそうならキモいぐらい聖人だけどさ」
普段表に出ることを嫌う相澤が、スーツ姿で頭を下げる。
「ここにいる奴ら、全員。社会のルールや法律に縛られて、不幸な目にあってきた。そしてお前達もヒーローになれば、一個の失敗で今まで称賛していた連中が手のひらを返して、言いたい放題に糾弾する。いつもは守ってもらっているのにだ」
「あ、なるほど。分かったでござるよ、すごくシンプルにござったか」
「アァ?」
忍堂は人の気持ちに鈍感なわけではない。興味がないのだ。
忍堂が考える戦術にはヴィランの思想を読んだものが含まれている、そうしないと予測がつかないからだ。
できないのではない、しないだけ。だから今回はしてみた。そしたら分かった。
ただそれだけ。
「お前達もヒーローに助けてほしかったでござるな、見てほしかったのでござるな。でも助けてくれなかったから、自分じゃない他の奴を助けたから憎い。助けられたくせに、ヒーローをしたり顔で評価する連中が憎い、助けてくれないのに評価されるヒーローが憎い。道理で、一度は殺そうとした、ヒーロー志望の儂様や爆豪を勧誘したわけでござる。お前たちにとってはまだ復讐の対象ではござらぬから! 理由が薄いから! 大人じゃないからにござる!」
捕まり、拘束され、囲まれている。
そんな状況で、忍堂は分身体だからとか関係なく笑った。
ゲラゲラと、長年苦しめられた問題が小石一つで解決したように、あまりのあっけなさにおかしさがこみ上げてきたのだ。
バンバンと床を両足で叩く。印を結べないよう拘束された手を上下にぶん回す。
「こいつ、いかれてんのか……?」
「あ、いったん拘束を解いて欲しいでござるよ。儂様に敵意はないでござれば、この状態は話しにくいでござる」
異常者。そうとしか言えない感情の乱高下。
トゥワイスがどうするんだと死柄木の顔色を窺う。
「……外してやれ、二人ともだ」
トゥワイスに拘束を解かれた忍堂が、感謝と共に握手をする。
「儂様にとって、護る対象は今のところは国と国民にござる。なぜなら、儂様が生きる場所にござるしコミュニティにござる。だからこそ、ただ人を殺したいだけの殺人鬼であれば、邪魔なだけでござるし死んでもしゃーなしな精神にござる」
書き終えた紙をピッと差し出す。
書かれていたのは11桁の番号。
「犯罪者になると生きにくいでござるから、お前らの仲間にはならんでござる。というか、儂様生きにくさとか狭さとか感じてないでござるよ。強いて言うなら、儂様の守りたいモノを狙うのならヒーローだろうが敵であろうが、片付けるだけにござる」
「はぁ? おい、先生。なんなんだよコイツ」
背後に置かれたモニター。そこからこの状況を見ているであろう存在に、死柄木は視線を向けた。
暗い穴の底から聞こえて来たのかと錯覚する声が、スピーカーから流れる。
「社会に適合できる異端者だよ弔。僕達とも、ヒーローとも違う。どちらにでもなびく、どちらにもなびかない。言うなれば時代を楽しむ者だ」
クククと、笑う存在に死柄木の眉間にシワが寄る。
「友になると良い。敵でも味方でもない者と関わるのは君の成長に繋がるだろう」
「やだね、こんな異常者。さっきまでの話だって何が本当か分からねえ」
「いいや。君はきっと彼と友になる。僕には分かる、だって彼はウソをついていない。ヒーローを本心から道化だと思っている」
懐かしい青春の日々を思い出している。そんな死柄木からすれば吐き気すら感じる声色に、再び笑顔を浮かべる忍堂を見た。
「なんと、人の心が分かるでござるか?」
「いいや。僕に嘘が通じないだけさ。だから君がさっき言った弔に敵意がないことが、本当だってことも分かっているよ」
まるで世間話にも見える問答と、自らの師との会話。
舌打ちをして、紙を受け取った。
「ま、儂様の守護するモノ以外だとしても、目の前で襲うなら基本的には捕まえるし最悪殺すかもでござるが、手を出した方が悪でござるよ。儂様の友を襲ったお前らを本来であれば、この場で全員始末したいでござるが、今のところ始末する大義名分も、緊急性もないでござるし、お暇させていただくでござる」
「コイツマジでいかれてんな! よろしくお願いします! さっさと黙らせちまおうぜ!」
「あらら。面白い子ね。でも、この状況ではいそうですかって、帰すわけないじゃない」
「やはりこいつは粛清の対象だ。話すことなんてない」
「燃やすのか?」
「私は様子見です。傷を負った姿を見てから考えたいのです」
半分が構え、緊張の時間が流れたときだった。
チャイムが鳴った。
「あ?」
『どーもォ。ピザーラ神野店ですー』
扉の向こうから聞こえた声に、敵連合の警戒が高まる。
「お、人質にピザでござるか! いやー気が利いてて素晴らしいでござるなあー!」
武器を構え、個性をいつでも出せるように構える中、忍堂がのほほんと扉を開けた。
壁が何者かに破壊され、敵連合が吹き飛んでいく。
「もう逃げられんぞ敵連合、なぜって? 我々が来たァ!」
オールマイトが壁を突き破って、シンリンカムイや緑谷の職場体験先であったグラントリノ達が突入してくる。
そして、忍堂が開けた扉の先には重装備に身を包んだ突入隊。
「なるほど、そう言うことにござったか! ピザが食べられないのは残念にござったが……」
「要救助者確保!」
落胆する忍堂と、爆豪が回収されていく。
もちろん、敵連合がそんなマネをさせないと飛びかかるが、
「先制必縛ウルシ鎖牢!!」
「お前等、ヒーローを前に何を呆けておる」
新進気鋭のシンリンカムイと、古強者のグラントリノが見逃すはずもなく、素早く敵連合達を拘束していく。
黒霧が動こうとするが、別のヒーローに意識を刈り取られ、敵連合はその凶悪さを発揮する間もなく制圧されてしまった。
はずだった。
「ごぼぉっ!?」
回収されたはずの忍堂と爆豪が口から灰色の泥を吐いたと思えば、急激に増大した灰色の泥に飲み込まれて行ってしまったのだ。
それだけではない、制圧したはずの敵連合ですら突如現れた泥に飲まれ消えていく。
代わりに、USJ、ヒーロー殺し、林間合宿で出現した脳無の別個体が、別動隊が抑えているはずの敵連合が保有する凶悪な戦力が続々と現れる。
「くっ!? どういうことだトシノリ!」
グラントリノの言葉に答えるように、オールマイトは脳無の拘束に当たったヒーロー達にコンタクトを取る。
返事がない。
脳無が相手ということもあり、配置されたヒーロー達は皆プロでも猛者たちばかり。
そんな彼らが報告できる状態ではなくなった事実に、仇の姿が脳裏をよぎった。
☆
緑谷達がその場面に出くわしたのは偶然だった。
連れ去られた爆豪と忍堂。葉隠が思わず入手した脳無の居場所。この二つから独自に動いたのは緑谷、切島、轟、飯田、そして八百万だった。
工場にやって来て、脳無を見つけ、現場に駆け付けたヒーローと警察隊に安堵した。
助けられると思えた希望が、一瞬で砕け散った。
「な、な……っ!?」
「くっ……っ!?」
ヒーロー殺しが見せたそれとは違う、冷たく歪な死の気配。
ヒーロー達が一方的に潰された、奇跡的に無事だった誰もが呼吸を忘れ、祈ってしまった。
だが、事態は緑谷達を置いて転がっていく。
ヒーロー達を一方的に倒した男が何かをした、回収途中の脳無たちが泥に飲み込まれ、代わりに別の泥から敵連合達と、忍堂達が現れたのだ。
「ござる。先ほどのモニターにいた者でござるか? めっちゃ怖いでござるよ、とりまご挨拶と握手にござる」
すすす、と忍堂が握手を求める。
「ははは。安心するといい、弔の友達を傷つけるつもりはないさ。僕とも仲良くしてくれると嬉しいね」
「年の差が……声的に大魔王ボイスでござる。絶対儂様の親より年上にござるよ」
「ふむ。やはり時代かな。弔の保護者でもあるし、仲良くしようじゃないか」
「ちょっと貴方達! なにくっちゃべってるのよ!?」
良くも悪くも、変わらない忍堂の姿に緑谷達の緊張が解けた。
友達が無事だったことに安堵した緑谷達。というよりは緑谷は疑問に思った。
(おかしい。かっちゃんならこんな時、黙っていられないはずなのに……)
しかし、疑問に思っている間に話は進んでいき、謎のヴィランは気絶した黒霧の個性を強制的に発動させてしまう。
このままでは二人が再び連れ去られてしまう、そう思った時だった。
「来たか……」
「オールフォーワン!!!!」
絶体絶命の状況で、日本が誇るナンバーワンヒーローが空から飛んできた。