個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
入寮の日。
緑谷達は相澤からの叱咤を受けつつも、新たな日常に適応するため、荷解きを終えてから互いの部屋を見ることになった。
尾白や常闇といった、個性がなかったり強かったりと見ごたえのある内容であり、次の部屋が忍堂ということもあり、皆の期待値が高まっていった。
「A組トップの部屋か……」
「いっつもござるござる言ってるからな。絶対畳に忍者屋敷だぜ!」
「ござるござる。見てのお楽しみでござるよ」
不敵に笑い、ドアを開ける。
上鳴たちが入っていくと、ある1点を除いては至極普通だった。
いくつかの筋トレグッズが、普段の部屋の過ごし方を思わせるのみ。
「んで、この防音部屋はなんだよ。まさかここにお宝が!?」
「ござるござる。大声で歌いたいときに便利でござるよ。中を見ても何もないでござるよ」
涎をたらす峰田に見せるように、簡易防音室の扉を開けて見せる。
「なんか変な臭いしねーか?」
「防音室って結構物によっては匂いが強かったりするんだよね、安いのだと特に」
「一応消臭しているでござるが、やっぱり全部は消せぬでござるよ」
特徴はあったが面白みのない部屋。皆がそう評価を下す中、緑谷だけが顔を青くして忍堂を見た。
「に、忍堂君……」
緑谷は知っている。
林間合宿で夜、忍堂がなにを行っているのか。
疑問だった。あんなことをすれば音でバレるはず。しかし、忍堂は中学のころから続けていると言った。
その疑問が今、解消されてしまったのだ。
「緑谷も、大声を出したいときはここを使っても良いでござるよ?」
答えながらも口に人差し指を当てた忍堂に、緑谷は言葉が出なかった。
☆
後日、中断してしまった林間合宿の続きを行うということで、集められたA組の前に相澤が立つ。
そこで告げられたのは、プロヒーローに成るための仮免許試験の受験。
受験に向けた必殺技の開発。林間合宿の個性を伸ばす特訓は、このためだということ。
「ここで開発を行ってもらう」
体育館γと呼ばれる専用の施設。セメントスによる地形整形と、エクトプラズムのサポートによる、個人個人での必殺技開発が行われることになった。
「つかさ、必殺技なら忍堂とかやばくね?」
「確かに。影分身だけでも強いのに、忍堂君は水を使った技もあるよね」
「なんだっけ、林間合宿で見せた螺旋丸? あれも威力やべーよな!」
「忍堂はそう言った面で見れば、この中でも頭一つ二つ抜けていると言っていい。どうする忍堂、お前が望むなら必殺技の開発じゃなくて、個性を伸ばしたりといったことでもいいぞ」
すでに自身の勝ち札を大量に持っているのなら、本体のスペックを伸ばすだけでも相当な強化になる。
しかし、忍堂は首を振るった。
「開発するでござるよ」
落ち着いた声だった。
「儂様だけの、オリジナル必殺技にござる」
その真意を知る者はいない。
NARUTOが存在しない世界の人間には、決して分からない忍堂だけのコンプレックス。
「忍堂すっげーやる気じゃねえか! 男らしくていいじゃねえか!」
「マジかよ。あんだけ色々できんのに、まだやんのかよ!?」
夏休み終了までの10日間。忍堂達の必殺技開発が行われることになった。
☆
「毎度のことながら寂れてますね~センパイ!」
「なんで毎回毎回、場所変えてんのに現われんだよ」
とある廃工場。
そこではAFOという強大な後ろ盾を失った敵連合の面々が、とある男と対峙していた。
といっても、イラついて崩壊の個性を当てようとしているのは死柄木だけで、他の面々はまたやっていると慣れた様子だった。
「いや~オイラ的には、世間を騒がす敵連合と聞いてすっごい楽しみにしてたんすよ? それがこんなホームレスもいなさそうドワッ!?」
飛ばされたナイフを大げさに叫んで避けた男の姿は、異彩を放つ敵連合に負けず劣らずの物だった。
全身を覆う黒いマント。頭部にはオレンジ色で両目に向けて渦を巻く仮面を付けた男。
「弔君、いい加減トビ君と仲良くしてもいいと思うの。ダメです?」
「ダメだ。顔すら見せられない変人を仲間とは言わない」
「いやぁ。あんまり見せたくないんすよ。まともな顔してないんすよオイラ」
トビの視線がちらりとスピナーに向く。
「スピナーセンパイなら分かってくれると思うんすよね!!」
「んなもん見てからこっちが決めんだよ。さっさとその薄気味悪い仮面を取れ」
「仕方ないっすねぇ……でも、顔を見せたら仲間に入れてくれるっすよね?」
「何度も言わせんな。まずは顔を見てからだ」
トビが仮面をゆっくりと取る。
仮面の下には目元以外を黒い布で覆うほどに徹底されていたが、その布すら外していく。
「「「っ!?」」」
「ひっどいなーセンパイ方。見せろって言うから見せたんすよ?」
トビが見せた顔、それは醜悪の一言だった。
顔中を覆うやけどの跡が痛々しく、薄い皮膚と歪に修復された皮膚のグラデーションが生々しさを引き立てていた。
「面白いツラしてんな」
「これはとあるヒーローにやられたんすよ。オイラの顔をこんなにしてくれたアイツを殺して、そんなヒーローが評価される社会をぶっ壊したいんすよ」
「誰がやったんだ?」
聞いたのは荼毘だった。
トビがひどいやけど痕の下で歪に笑う。
「エンデヴァー。センパイ達も知ってるはずっすよ」
「へぇ。あのNo2ヒーローがねぇ……」
「ちょっと強盗したくらいで、追いかけまわされた挙句こんな顔にしてくれたんすよ! オイラもうあいつを殺したくて殺したくて仕方がないんすよ!!」
トビが両手を広げる。
目は血走り、どこを見ているのかすら分からないが、生き生きと敵連合に語る。
「アイツに復讐したい! でもオイラの力は攻撃に向かないんすよ! どうしようか迷ってた時に見た! 神野の死闘!! エンデヴァーよりも圧倒的に強いオールマイトを引退に追い込んだ男!」
誰もが勝てないと思い、敵ですら怯えて隠れるほどのヒーロー。
オールマイトが死力を尽くした戦いに食いつくのは、何も光が当たる者達だけではない。
「あの男が捕まったのは残念極まりないっすけど。彼と共にいたセンパイ達ならできる! オールマイトの消えたヒーロー達を殺して! 新しい自由な世界を作れるって! だからオイラ来たんすよ! 壊しましょうよ、全部! なにもかも!」
「はぁ、どうしてウチにはどいつもこいつも、イカレ野郎が集まるんだ?」
「いいじゃねえか、死柄木。コイツを仲間に加えようぜ」
「荼毘。お前が言うなんて珍しいな」
仲間意識の強い敵連合において、目的意識という面で荼毘は分かりやすい男だ。
仲間ではあるが、明確に目的遂行が前提にあるのが荼毘。
トガやトゥワイスといった、居場所を求めている者とも違う。
だからこそ、死柄木は荼毘を信用している。そんな男が素性も知らない男を引き入れるなんて、異常な事態だった。
「別に、分かりやすくていいじゃねえか。現状、戦力以外にも色々足りてない。下っ端ってのも必要だぜ」
「あ! オイラの個性は下っ端最高な奴っすよ! ほら!」
トビがアピールするように、手に乗せた仮面を消す。
そして、消した仮面を再び手の上に出現させる。
「容量は車ぐらいっすけど、手に触れたモノを収納できるっす! 収納は右と左の二つだけっすけど、荷物運びにはもってこいっす!」
「ふーん。その個性があるから泥棒なんてしたのね?」
「そっす! 生き物は無理っすけど、ちょーっと触れただけで収納できるんで、食い物とかもいけますよ!」
「いい個性じゃねえか。コンプレスの劣化版だがこっちは戦闘員だ、アイツみたいな雑用は必要だぜ。死柄木」
トビはいそいそと布で顔を覆い、仮面を被る。
「あと! ちょっと空手やってました! てやー!」
腰を落として正拳突きを見せると、今度は格闘戦に秀でたマグネが好色を見せる。
「あら、いいじゃない。個性無しなら、ちょっとは戦えるかもね」
「これでも地元だとソコソコできる方で通ってたんすよ。たまたま散歩がてらにエンデヴァーの事務所近くで暴れたらこんな有様っすけど」
もともと過去に良い思い出の少ないメンバーが多い敵連合。ヒーローによる傷のこともあり、比較的歓迎ムードが出来上がっていたが、死柄木だけが首を振らない。
「まだだ。どうして場所を変えてる俺達の場所が分かる」
「色々あるっすよ。これだけの人数が隠れ潜む場所、ネットに流れる死傷者の内容と場所、そして食料等入用なものも多い。女の子が必要な物も盗まれてると来れば、ある程度は予測ができるっす」
「弱い。ヒーローが見つけられてないのに、お前がどうしてそんな情報で見つけられる」
「まぁ、こればーっかりはセンパイに納得していただくしかないんすけどね。臭いっす」
「臭い? お前動物系の個性だったのかよ」
ウンウンと頷くトビだが、より一層敵連合の視線が厳しくなっているのには気づいていないようだった。
「裏の世界に生きてれば大体分かるんすよ。表のお日様ポカポカアと違う、暗い下水道とか血なまぐさい臭い。こんな個性なんで、周りの臭いに敏感なんすよ。あとは鼻の赴くままっす!」
トビは背筋をピッと伸ばし、直角に腰を折る。
「まじちょー頑張るんで! 下っ端からよろしくお願いしまーすっす!!」
こうして、敵連合下っ端(仮)が増えることになった。