個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
緑谷が背後から伸びた、麗日に扮したトガの手とボールを叩き落としたのは、日ごろの経験からだった。
「バレてたんですね……」
「友達に人の姿をまねる人がいるから、普段から違和感を見逃さないように訓練してるんだ」
「やっぱり、あの人ですか。私、あの人嫌いです、苦手です」
バレても関係ない。
トガはケミィの姿(全裸)に戻り、緑谷に追撃を掛ける。
しかし、振るわれた手を緑谷は組みつくように取り、投げ飛ばす。
(忍堂君に体術を教えてもらっててよかった!)
度重なる自壊による腕の爆弾。
それを回避するためにシュートスタイルを身に付けたが、大振りで足を使う都合バランスが不安定になりやすい。
フリーになった腕を使った防御術。
真っ先に自分が倒れないため、デメリットを潰してメリットに変える、緑谷の攻防一体のスタイルだ。
「あの人の動きに似てて嫌です。緑谷君が汚されちゃいます」
「忍堂君になにされたの!?」
防御面の成長を見せる緑谷だが、それは敵を視界にとらえて発揮されるもの。
気配消し、死角に滑り込むトガの動きに翻弄され続けてしまう。
「おい緑谷! なんだこの羨ましい状況は!」
だが、動き回っているうちに本物の麗日と瀬呂が合流。
多対一の状況にトガが引いていった。
それから色々と状況が動き、最終的には緑谷達も試験に合格することになる。
「轟君! 忍堂君も!」
控室に来た緑谷達を同級生が迎える。
確率は低いが、可能性がないわけではない。特に、轟と忍堂は単独行動をしていた。
いくら強くても個性の相性と、数的不利となればおかしくはない話だった。
「他の学校生に変化すれば楽勝にござるよ。あの味方に裏切られた時の顔は、傑作にござった」
「せ、性格悪いね……」
忍堂の術の凶悪さを知っている緑谷は、被害者たちに合掌した。
「そう言えば忍堂君。士傑高校のあの人、知り合い?」
ケミィを指さすと、緑谷にだけ向けて手を振ってくる。
「はて、見たことないでござるな……」
☆
二次試験。
試験内容は一次試験で使われた演習場を解体して作った、ヴィランのテロ事件被害地における、民間人の救助活動。
HUCなる救助訓練のプロが民間人役となり、警察や消防が来るまでの繋ぎと円滑な引継ぎ。これらを見る試験となった。
『みなさーん! 注目にござるーー!』
試験開始と同時に飛び出す98人の受験者達の足を止めたのは、八百万作のメガホンを持った忍堂の声量。
『むやみやたらに動かれては、救助の偏りが生まれるにござる。そのため、我々100人で救助活動をするにあたり、いくつかの取り決めを行うでござる』
テロ直後。一秒でも早く救助をしなくてはならない状況。
しかし、1年生を試験に出している雄英と違い、他校は皆2年生以上。現場の初動に求められるものが早さだけではないことを知っていた。
『まずは司令塔兼避難救助者を保護する陣の設営。それに伴い事前に準備するべきものがあれば共有して欲しいでござる』
「緊急を要する負傷者はヘリ等で早急な運搬が求められる、ヘリの発着場が必用だ」
「一目で負傷者の状態が分かるようにトリアージも必要ね」
「テロの実行犯がまだいるかもしれない。狙われるなら負傷者が集まるココ、護衛が必要かも」
「トリアージといった小物類はこちらで用意できるでござる。八百万、頼むでござるよ」
「お任せください!」
集まった受験生が必要な物、注意するべき事柄をまとめ始める。
しかし、この中に雄英生の姿はない。
唯一、最初に声を出した忍堂が紙に書きだし、トリアージなどの道具は八百万が創造し始めている。
『避難状況、負傷者の状況に適した個性の割り当ては皆さんに判断してもらうでござる。情報の伝達は儂様が行うでござる』
多重影分身で数十体の分身体を作る。
『儂様の分身体には通信機があるにござる。チームは知っている者同士で組んでもらうでござるが、1チームに最低1体の分身体を配置させてもらうでござる』
「なるほど、ここに情報を集め、必要な場所に必要な個性と人を割り当てるのか」
「不測の事態があればこの子の分身体を通せばいいってことね。体育祭で見てたけど便利そうよね」
『分身体は一定のダメージで消えるでござるが、消えれば儂様が検知して再度分身体を送るでござる。必要な物、単純な人手なら儂様と八百万でカバーするでござる』
「しかし、コレだけの情報をどうやってまとめるんだ?」
『実は1次試験中に衛星写真から倒壊前のマップを作っていたでござる、丁度いいから、これを使って視覚情報に落とすでござるよ』
「倒壊前のマップがあるのか! それなら建物ごとの被害状況がある程度予測できるぞ」
「ビルとかなら瓦礫が多いだろうし、工場なら危険物質が漏れている可能性もある。対応できる個性持ちは優先的にそこに当てよう」
「ガスマスクは作れるのか?」
「可能ですわ。ですが、一度に多くは作れませんから必要な場合に数を教えてくださいまし」
ヴィランが相手なら、実戦経験を多く積んでいた。
しかし、救助となれば大前提に知識、次いで経験である。
1年だからこそ仕方がない部分ではあるが、それで納得できればヒーローなんて目指していない。
「ウチ等、足りないものばっかりだね」
「うん。でも、これから頑張ろう」
悔しいが認めるしかない。
前を向く、下を向いている余裕なんてないのだから。
話がまとまり、すぐさま受験生が方々に走り出していく。
☆
「イレイザー、アンタの生徒どうなってんの?」
「気にするな。ありゃイレギュラーだ」
2次試験開始と同時、受験生が走り出した瞬間全員に減点が課される予定だった。
もとより国からの命令で、オールマイトのような実力とカリスマといった、全てのパラメータが天井の存在を求めるのではなく、ヒーロー同士の密な連携による群で穴を埋める。
だからこそ1次試験では受験校同士でチームが必要になるものになった、2次試験は他校との即席の連携。
ゆえに、試験開始と同時に各自の思考で飛び出すのは減点だった。
減点方式ゆえに、忍堂の行いが加点されることはないが、減点時に考慮されることになるだろう。
「アイツは他の連中と違って、ヒーローに幻想を見ちゃいない。だからこそ、英雄的思考にとらわれず合理的な手段を取れる。一人で解決なんてアイツは端から考えちゃいない」
「確か、神野事件で自分の分身体を敵連合に捕まえさせたんだっけ。度胸あるね、あの子」
「幸か不幸か。A組にはクラスをまとめない癖に、周囲を巻き込んで成長しちまう奴が多い」
「ぶっは。べた褒めかよキメー」
「褒めちゃいない。事実を言ったまでだ」
「こんだけスピーディにやられちゃ、2次試験は全員突破かなー」
「……どうだろうな」
生徒達の動向を追っていた相澤の目が、試験官のいる場所に向けられる。
「オールマイトの引退、さらに敵連合を始めとした敵の活動の活発化。国が求めるヒーローの水準は例年に比べて高くなっている」
「つまり?」
「少しは自分で考えろ」
「いいじゃんかー。私とイレイザーの仲じゃん? 結婚する?」
「しない」
「ぶっは! 私何回振られるんだよ!」
五月蠅い笑い声を無視して相澤は思考を進める。
(1次で争わせた後にこれだ、中には仲間を脱落させた相手もいるはず。自己主張の強いヒーローにおいて自分だけの手柄ではなく、腹に何を抱えたとしてもヒーローとして合理的な選択を取らせる。中々に意地の悪い試験だな)
中には今年が最後のチャンスだった者も少なくない。
自身の夢のために他者を蹴落とす。言葉だけ切り抜けば残酷に過ぎた。
☆
受験生に用意された控室とは別の部屋。
そこには現役プロヒーローであるギャングオルカと、サイドキック達が静かにスタンバイしていた。
「状況は?」
通信の先は試験官。
変動期を迎えるヒーロー界に振り回される形で、寝る間もなくブラック労働に従事する男が、意外そうな声で答えた。
「おもしろい状況になってます。このペースなら当初予定していた時間には、全ての救助が完了しているかもしれません」
「ほぉ……。今年は粒ぞろいというわけか」
「いやぁ、どうでしょ。どうやら雄英高校の生徒さんが陣頭指揮を執っているようです。ほら、体育祭で1位だったあの子ですよ」
試験官の言葉からギャングオルカが思い出したのは、体育祭ではなく神野事件。
ギャングオルカ自身、あの事件に突撃隊の一人として参加していた。
そこで聞いた生徒。忍堂の個性の使い方に感心していたこともあり、強くイメージが残っていた。
「なるほどな。それでどうする?」
「彼の活躍は認めますが、もうちょっと足りません。なので、予定より早いですがお願いします」
「分かった」
忍堂が道化と呼んだヒーロービルボードチャート、国内ヒーローの実質的な実力を表すランキングで、10位まで上り詰めた男が動き出した。
☆
ドゴォン!!
その破壊音の起点は忍堂達が敷いた救助拠点のすぐ近く。
狙ったかのような場所に、敵役の実力派ヒーローが姿を現した。
「ギャング、オルカ……!」
敵っぽい見た目のヒーローランキング10位の鋭い視線が、拠点に向けられる。
「なるほど、即席ながら拠点として機能しているな。甘い部分は多いが、現場のプロでもここまでやれるのは稀だ」
評価する一方、敵としての思考が告げる。
アソコが急所だ。
「忍堂君! ギャングオルカだ! ランキング10位の武闘派だ!」
「そんな情報いらんでござる。個性を教えるでござるよ」
ちょうど負傷者を運んできた緑谷が、忍堂にギャングオルカの情報を伝える。
「全分身体に通達、救助拠点にてヴィランの強襲あり。敵はギャングオルカ、個性はシャチ。超音波による攻撃に注意でござる。救助拠点はこれより撤退戦に移行、場所は分身体に聞くでござる」
一度通信を止め、分身体を次々生み出していく。
そのうちの一体に籠を持たせて中に入ると、再び通信機に手をやった。
「また、救助活動は続行されたし。対応可能な戦闘に秀でた個性持ちは至急、旧救助拠点に集まるでござる。目標は負傷者たちの避難にござれば、敵の始末が難しければ足止めに注力されたし」
後で通信関係の本も読むでござるか。とつぶやいた忍堂は、分身体の籠に揺られながら食事と消費したチャクラの回復に努めた。
分身体の半数が負傷者を担いで走り、半分が手の空いた受験生たちと共にギャングオルカ達の足止めに向かう。
「なるほど。敵になって分かる。迅速な情報伝達がどれほど敵にとって厄介となるのか、いい経験だ」
人手不足と付き合いのない忍堂の手法に、ギャングオルカは感嘆の声をあげるが余裕は崩さない。
最前線で活躍するプロに、戸惑いはない。
「お前らは足止めに来るヒーローどもの相手をしろ。俺は」
「震伝動地!!!」
真堂が真っ先に範囲攻撃を放つ。
強大な地震が地面を割り、ギャングオルカ達の足場を崩していく。
「なるほど、だが甘い」
足止めなんてする間もなく、至近距離まで接近したギャングオルカの超音波が放たれる。
「ぐっ……!?」
脳を直接揺さぶられ、真堂が倒れる。
「乱戦になれば範囲技が使えないと踏んでの速攻。そこまではいいが、そのあとが問題だ。技を出すならその後の動きまで用意しなければ、敵にとって格好の的だ」
サイドキック達が他受験生たちと戦っているのを見て、避難している負傷者たちの下に向かおうとするが、横から襲ってきた氷に音波を放って相殺する。
「狙いはいい。だが!」
「ちっ、完全に防がれたか」
「儂様としては音波で氷壊すってどんな威力だよと、苦言を呈したいでござる」
「ド派手にやってきましたよお!」
現れたのは轟、忍堂、そして風を操る個性を持つ夜嵐イナサ。
「こちら轟の分身体でござる。現在ギャングオルカの下に到着、轟と夜嵐イナサで対処を開始するでござるよ」
密に行われる戦線状況の伝達。
これにより受験者側は状況を把握しつつ逃げ、適切な戦力の配置を行える。
「まずは目と耳からだ」
敵が狙わないはずがない。
狙われた忍堂は近くにいた轟を突き飛ばして、自分だけが超音波の攻撃を受けて消える。
戦線には轟とイナサのみ。
「次は手と脚だ」
ギャングオルカが轟達を見据えた。