個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
「ねえ忍堂!」
「何でござるか耳郎、今急いでいるでござるよ」
現在、分身体は緑谷の作戦で耳郎をギャングオルカ達のところに運搬していた。
「これすっごい恥ずかしい!」
お姫様抱っこで。
「仕方がないでござろう。背に乗せた場合は上下の揺れが激しくなるでござるし、こっちのほうが軽い耳郎を持つなら楽でござるよ」
忍堂に思惑があるわけではない。
単純に合理的な判断でお姫様抱っこをしているのであるが、耳郎にとっては羞恥プレイ以外の何物でもなかった。
しかし、現場に吹き荒れる火と風の竜巻に、激闘が繰り広げられていると意識を切り替える。
「轟君たちから、離れてください!」
現場に到着したのと、緑谷がギャングオルカを蹴り飛ばしたのは同時だった。
轟とイナサは力なく倒れており、先ほど見た火の竜巻が最後の攻撃だったのだと予測できた。
「耳郎さん! お願い!」
「む、新手か。妙な動きをされる前に潰しておくか」
少し距離はあるが、それでも人一人を昏倒させるほどの超音波攻撃を放つ。
「相殺!」
耳のプラグを腕の増幅装置に刺し、ギャングオルカの超音波を完全とまではいかないが、実害がない程度に相殺してみせる。
「なに……?」
「やった!」
ギャングオルカが困惑している隙に、緑谷が夜嵐と轟を回収する。
「だが、近づけば相殺はできまい」
超音波は特性上距離による威力の減衰が激しい。
ゆえに、近づいて1m以内による近距離超音波。そう思い踏み出そうとした足場が、突如揺れる。
「し、真堂さん!?」
「こっちは個性の都合で毎日頭揺れてんだ。耐性だって付くってモノさ!」
「耳郎さん! ギャングオルカを近づけないで!」
「任せて!」
緑谷の指示が飛ぶ。
足場を不安定にし、耳郎の音の衝撃でギャングオルカをじりじりと後退させる。
「くっ! なるほど、足止めしつつ遠距離攻撃に集中させるか。考えたじゃないか!」
だが、これでもプロヒーローであり、数多の敵と戦ってきた。
ゆっくり、一歩一歩と前に踏み出す。
「普通に物理も行くでござるよ」
ゴッ。と石が投げられた。
「え!?」
「緑谷、ぼさっとするなでござる」
困惑する緑谷に忍堂が近場の石やら瓦礫を投げ渡す。
「微量でも援護。働くでござるよ!!」
「ちょ、当たったら危ないだろ!」
「氷砕く超音波の方が危ないでござる!」
最後は締まらないやり取りになったが、救助対象全ての避難が完了するまで、緑谷達による足止めは続行された。
試験終了後。
「ふぅ。いい汗をかいたでござるな、緑谷」
「忍堂君、分身体でしょ……」
「あは、あはは。ウチも疲れた……」
「雄英生ってタフだなぁ」
艶やかな汗を拭う忍堂と、ぐでっと疲労困憊な3人の姿があった。
試験が終わればその場で合否の発表が行われた。
巨大スクリーンに五十音順で名前が並び、轟、夜嵐、爆豪他数名の名前を除き、多くの受験生が合格となった。
「A組スリートップの内二人が落ちるのか……」
「かっちゃん……」
「おいおいおい、どうなっちまうんだア! A組のヒエラルキーが忍堂の独走状態になっちまうぜ!?」
一人暴走する峰田を放っておき、スタッフが採点結果の紙を受験生に配っていく。
どの点が至らなかったのか等が細かく記載されており、試験において文字通り一人一人に正確な審査が行われていることが判明した。
「すげー!? 忍堂とやおもも99点!?」
「ほぼ満点じゃねえか!」
「ま、でもあれをされちゃ納得だけどよ」
点数が高い者もいれば、ギリギリの者もいたが、一様に合格した安堵感が会場に流れた。
そして、不合格者の轟達にも救済措置があり、真面目に受講すれば仮免許の取得が成されることが発表され、仮免試験が終了した。
「おいデク、ツラ貸せや。個性のことで話がある」
寮に戻り、今日の仮免試験で盛り上がるなか爆豪が緑谷を連れ出し、後日二人が謹慎処分となった。
☆
「トビ君、今日も美味しいご飯をありがとうなのです!」
「蕎麦あんじゃねえか、貰うぜ」
「トガちゃんに褒められたからっていい気になんなよ!? 御飯あざます!!」
「キッチンがあれば、私も色々お手伝いできるんだけどね~」
「あー、油もの多いなー。おじさん的にはもうちょっとさっぱりしたのが嬉しいかな」
「いやーどもどもっす! ま、オイラに掛かればざっとこんなもんすね!」
「トビ、飯」
「うっすセンパイ! どぞ!」
声は変わらず脳天気のそれだが、思考は冷酷に評価を下す。
(今のところ動きがない。裏社会を仕切っていたAFOがいなくなったのに、悠長なことだ)
挨拶もそこそこに迎えられたトビは、仮のアジトにいつものようにタッパーの食事を置いた。
各々が感謝を述べながら食事を取る中、死柄木が口を開いた。
「トゥワイスがヤクザと接触した。ビジネスの話があるんだとよ」
今まで隠れ潜んでいた死柄木たちが、動き出そうとしていた。
☆
夏休みが終了し、通常授業当日。
「インターン?」
相澤先生から説明されたインターン。雄英体育祭後に行われた職場体験との違いがピンと来ていないA組の前に、3人の上級生が立つ。
「彼らは雄英でトップに君臨する3人、通称ビッグ3」
(ダサいでござる)
木の葉の三忍と比べてしまった忍堂が少しがっかりするが、周囲は上級生であり自分達よりも先に立つ3人に盛り上がっていた。
「ごめん、ミリオ。ジャガイモと思い込んでも首から下が人間で、言葉が出ない」
「変化の術!」
「ジャガイモだ……! 彼だけなら行ける!」
「ねえねえ、貴方なんでござるって言うの? 不思議ー」
「ござるござる」
「前途ぉ……多難! なんつって!」
A組は確信した。全員おかしい人だと。
「なんつうか、ビッグ3って聞いてビビったけど、大したことない系?」
「オーラが感じられん」
A組の空気が絆される中、ビッグ3の一人である通形ミリオが言った。
「言葉で説明するより、実際に体験したほうが早い!」
それは相澤の突発的な授業を受けて来たA組にとって、肌で分かる提案だった。
「え、僕達と通形先輩一人とですか?」
体育館に集まった面々を前にミリオが提案した内容に、流石のA組もプライドを刺激されてしまう。
そんな提案に乗る形で、爆豪と轟を除いた18人とミリオの戦いが始まったのだ。
「僕が行きます!」
(らしくないでござるな)
先鋒に名乗り出た切島に被せるように、緑谷が前に出る。
(個性を知らない相手に、タンクの切島や遠距離近接の常闇を出さないでござるか)
緑谷が個性に並々ならない感情を持っているのは、A組全員が知るところ。
敵との戦闘も多く、仮免許取得試験の経験を踏まえれば、トップバッターで行くのは緑谷である必要はない。
「よろしくお願いします!」
「うん! 勢いが良くていいね!」
初動、緑谷は超パワーで飛び出す。
受け手のミリオだが、回避行動を取るわけでもなく、なぜか服が体をすり抜けた。
全裸になったミリオが慌てて服を着る隙を、緑谷はためらいなく突いた。
しかし、振りぬいた足は通形の顔を服同様すり抜けてしまう。
「神威だと……っ!?」
思わず普段の語尾が消えてしまうが、忍堂の頭はそれどころではなかった。
この世界にNARUTOはない、しかし自分と同じで再現する個性があってもおかしくはない。
(本当に神威なら超強力個性じゃねえか)
緑谷が驚き、ミリオが緑谷を見た背後を遠距離個性が襲う。
しかし、これも後頭部を貫通するようにすり抜けてしまう。
(自動ですり抜けている! やっぱり神威だ!)
ソレを見た忍堂の動きは静かに、そして早かった。
チャクラコントロールによる跳躍で静かに体育館の天井に、逆さ向きで張り付く。
元居た場所には分身体を配置。
(通形先輩にはバレてないな。あ、爆豪にはバレたか)
皆が通形の異常性に注目していたはずだが、爆豪だけは天井に逆さ向きで立つ忍堂を静かに睨みつけていた。
(お前がナニビビってんだ?)
(黙るでござるよ。神威の恐ろしさは恐ろしいでござる。頭痛が痛いでござる)
目でなんとなくそんなやり取りをした。
忍堂が知る神威の恐ろしさ。NARUTOの世界において、格闘術以外の攻撃の大半が一撃必殺。まともに受ければ戦いが決まることも多い中、オビトが使う神威の絶対防御の術がどれほど恐ろしいか。
また、任意に切り替えができることで、強力無比な攻防を実現している。
自分専用の異空間を介して移動、拘束や簡易的な拠点にも使え、能力だけを見れば最強の術の一つ。
(この世界に顕在しているからには、儂様同様にNARUTOとは完全一致ではないはず。まずはそこを見極めるでござる)
幸い、消えないデコイが17人もいる。
天井から試合の流れを観察することに注力した。
しかし、緑谷達前衛を除く大半が瞬く間にのされていく。
一方的。その言葉がまさしく当てはまった。
(初動は地表、次に地面に潜った。神威の適応範囲は自在にござるな)
不可解なのは地表から弾かれたように飛び出したところだが、おそらく実体を出すために物体から弾かれているためであろう。
この手の地中に埋まる事故はないようだ。
(ござるござる。あの動きは地中に”落ちた”、大体読めてきたでござるよ、だてにNARUTOの神威に憧れていないでござる)
体術もそこそこ高い。ミルコとかと比べればまだまだであるが、神威と抱き合わせになればまともに殴り合うのは避けるべき。
ここまでの考えは分身体もしているはず、なぜなら自分だから。
(頼むでござるよ。初めての神威戦にござる、前世から考えていた対処法を試すでござる)
通形の意識が分身体に向く。
今世において、分身体を使用した訓練を多用した忍堂が、必然的に高く鍛えられたスキル。
「なるほど! カウンターすらしない回避一択ってわけね!」
人の域を超えた動きを見せるミルコに対処できる回避術。
忍堂は振るわれる拳と脚を身のこなしだけで回避していく。
「神威の研究はばっちりでござる。異空間へは飛べるでござるか?」
「異空間? なんのことかな!」
「なんと。まさかコレだけにござるか?」
「おあいにく! 俺の個性は融通が利くタイプじゃなくてね!」
得た情報を精査する。
(ん~。おそらく個性は神威の絶対防御のみでござるか、なら……)
行けるかも。張っていた力みが自然と解ける。
それは、対処の可能性に対する安堵か、NARUTO世界でも最強の術が中途半端なことに対する落胆か。
「うん! 君は厄介だ。後回しにさせてもらうよ!」
「そうされると痛いでござるよ。妨害もできんでござる」
しかし、厄介な力に変わりはない。
もしも護衛対象がいた場合、忍堂が取れる行動は逃げの一手になるだろう。
幸い、地面からの弾かれ移動以外は人間水準。速度では勝てる。
「うん! 前衛の皆が彼みたいに武術の経験者かと思ったけど、違ったみたいだね!」
切島、飯田、緑谷といった前衛組が次々倒されていく。
「舐めないでください! アイツとの組み手は俺が一番多いんですよ!」
しかし、尾白だけは尻尾を使った機動力で回避する。
防御を考えない回避の一手であれば、ミリオ相手でも数手は持った。
「ぐっ!?」
「ま、そう来るよね! でも、尻尾を使った逃げまで予測すれば問題ないさ!」
だが、それ以上にミリオの戦闘能力が高かった。
腹パンされ、尾白が腹を抱えて転がる。
「彼はいいね。もう少し頑張れば手ごわい相手だ!」
俺の方が強いけどね! と笑うミリオが、残っている分身体を見据える。
「それで、分身とか色々使うって聞いたけど、しないのかな?」
「要らぬでござるよ。それに、尾白のおかげでソレの欠点も見えたでござる」
(え、ウソ。儂様の分身体優秀!?)
なお、本体は未だ理解していない。
これは分身体が先にミリオと戦った際の違和感を、尾白の攻防で解析したからである。
それに気づかない本体は、自分が分身体だっけ? と頭を抱えた。
「へぇ。じゃあ教えてくれるかな!」
飛び出す、いや。地面に落ちたミリオが忍堂の背後に現れる。
振るわれた拳に対して、忍堂は先ほど同様回避一択。ではなく、
「ミリオの攻撃を防いだ……っ!?」
「わあ! 凄い凄い! でも不思議―、ミリオの攻撃が防がれるなんて久しぶりにみたー」
腹の上に重ねた手で、ミリオの拳を防いでいた。
これによって、分身体は推察が正しいことに笑った。
「おっとと。すごいね、どうやったのかな?」
「終わったら教えるでござるよ!」
そこからは不思議な光景が続いた。
忍堂は、ミリオの攻撃を防ぎつつも、透かせる攻撃には防御の一切を取らない。
まるで攻撃が当たる直前に行われる実体化の有無を、あらかじめ知っているかのように。
「なるほど。踏み込みを見られたか」
しかし、実戦経験ならミリオも多い。
分身体の視線、そして防御を行う前後の自分の状態。それらの状況から、分身体がミリオの何を見て判断しているのかを理解する。
「なら、これはどうかな?」
ミリオがスタイルを変える。
全身のばねを使った重たい一撃を叩きつけるスタイルから、ボクシングスタイルに。
「きちーでござるよ」
数度の攻撃。分身体はどうにか対処しようとするが、判断を誤り腹部を殴られ消滅する。
「不思議ー! ぽふんって消えちゃったよ! なんでー?」
「彼、分身体を出せるんだって。多分それ」
「エクトプラズム先生みたいだねー! でもいつの間にー?」
「多分、最初。ミリオが背中を見せたとき、だと思う」
「へー、これが分身体か! 殴っても消えるまで本人かと思ったよ!」
(爆豪と似たタイプにござるな。個性の使い方が上手いでござる)
天井で見ていた忍堂が情報の整理をしていると、我慢ができなくなった爆豪が怒声を挙げる。
「いつまで張り付いてやがる忍者野郎! 降りてこいや!」
爆豪の言葉で視線が天井に立つ忍堂に集まる。
「天井に立ってるよ……。1年怖い」
「すごーい! いつの間に移動したんだろ? どうして天井に立ってるんだろう? 教えてー」
「あちゃちゃ。あそこにいられると俺は手詰まり。こりゃ参ったなー!」
(ござる。そう言うことでござったか)
フィードバックの情報から、ミリオの個性の欠点(対策済み)などに頷いた忍堂は、ふわりと地表に降りた。