個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
本タイトルのみのお話ということで
「まさか、1年でここまでやる子がいるなんて。正直舐めてた! ごめんね!」
「問題ないでござる」
「それで、俺の個性の対策は十分かな?」
「バッチグーにござるよ。次で終いにござる」
にやりと笑い、忍堂が挑発する。
「いいね。やる気満々って感じだ!」
合図を待たず、忍堂が駆けだす。
しかし、分身体より遅い速度、拙い動きで。
「んん? 分身体で力を使っちゃったかな? いや、何かを考えているって顔だね!」
飛び上がり、ミリオの頭上から忍堂が巻物を広げる。
水。大量の水がミリオに被さる。
「これは……ただの水だね! 美味しい水! 運動後に最適だ!」
だが、透過したミリオが素早く避け、丁度落ちて来た忍堂を拳で打ち上げる。
殴られた忍堂が消えることなく、そしてミリオの拳が忍堂の腹をぶち破った。
背中を貫通してミリオの拳が空気に晒される。
「ミリオ殺しちゃったよ!?」
「分身? でも消えてない……」
あまりの出来事に場の全員が固まったとき、忍堂がミリオの後ろに現れるのと、腹を貫かれた分身体が水になったのは同時だった。
「水遁! 水牢の術!」
溶けた水分身の水と、封印巻物から放出した水が集まり、ミリオを巨大な水の牢獄に包み込む。
「忍者が戦闘中に本体を見せるのは悪手にござるよ」
水の牢獄の中でミリオが忍堂を見て目を見開く。
「神威を発動させても無駄でござる。儂様の推測が正しければ、神威を使っても落ちれないでござる」
忍堂の言う通り、全身に個性を発動させたミリオだが、落ちたりすることはなく水の中にとどまっただけだった。
(それなら泳いで出るまで!)
「そう、来るでござるよな?」
水の牢獄に手を触れたままの忍堂が、にやりと笑う。
水中で全身のバネを使い、水の牢獄から逃れようとするが。
(体が、動かせない!?)
実際は個性を発動させれば動ける、しかし透過していれば水を掻くことすらできず。
個性を解除すれば全身が水で拘束され動かせない。
「降参するでござるよ」
完全に詰み。
しばらくしてミリオは両手を挙げて降参した。
☆
A組が回復するのを待って、ミリオの解説が始まった。
皆が強いと評した個性が抱える大きなデメリット。
自身が雄英で置かれた境遇、そこからの躍進。
強くない個性と向き合い、努力し、強い個性にした。
そして、これから行われるインターンではプロのヒーローとして見られること。
職場体験はいわばお客様。プロの仮免許を持つ者がヒーローの下で活動する意味、待ち受けているであろう心身を襲う現実。
伊達にBIG3と呼ばれていない、経験と実績に裏打ちされた話に、A組の生徒が唸る。
「にしてもよ。どうやって忍堂は通形先輩を攻略したんだ?」
切島が聞きたくてたまらなかったと、忍堂に詰めよれば周囲も賛同する。
「神威、ではなかったでござるな。透過を使った先輩が地面に”落ちた”のを見れば、この個性が透過と似て非なるものだとすぐにわかるでござる」
全員が首を傾げる中。
「光すら透過する個性なのに、どうして通形先輩が肉眼で見えているでござる? 光まで透過するなら目に見えない、まさしく透明人間になるはずでござる。光の屈折で透明になる葉隠とは逆にござるな」
「「「アッ」」」
「私を見ないでっ! 全然理解してないから!」
「え、あ、そうなの?」
「ミリオ、自分の個性だろ……」
「そう言えばそうだよね。服は脱げるし、裸もばっちりだもんねー、不思議ー」
つまり、透過と呼ばれているが実態は透過に見える別の個性。
逆に言えば、神威を知っている忍堂だからこそ、気づけたことでもある。
「儂様の予想では、通形先輩の個性は、実体を特異空間に隠し、個性発動時の情報を保持したアンカーとなる幻影と置き換える個性でござる」
これにも皆首を傾げる。
「なるほど!! だから水の牢獄なんだ!」
しかし、緑谷だけは目を輝かせた。
忍堂が説明するよりも先に、緑谷が口早に話す。
「すべてを透過するなら、そもそも重力すら透過するはずなんだよ。でも、全身に個性を発動させた通形先輩は地面に落ちた!」
「なるほど! 道理で!」
「なんでミリオが納得してるの、自分の個性でしょ」
「もっと言えば、地球は公転もすれば自転もしているでござるよ。儂様達の体は宇宙で見れば高速で移動しているでござる。それらの影響すら透過すれば、1秒も経たず地球外でござるよ」
空想科学というものがある。
例えば、時間を移動する力があるとする。
1年前に移動する場合、1年前の時間に地球が同じ場所にあるはずがないのだ。
自分が今立っている場所で、1年前に時間移動する場合、移動した先にあるのは宇宙空間になる。
だからこそ、時間移動を行う場合、1年前という情報と合わせて地球の場所、もっと言えば自分が立っている場所が、1年前にどこに存在しているのか、アンカーとなる情報が必要になるのだ。
「つまり、通形先輩の個性は、単純な透過じゃなくて。透過した時点で体が持っている情報を保持している必要があるんだよ! 重力を受けている情報を持っているから地面に落ちる、けど地球の運動情報もあるから宇宙に吹っ飛ぶこともない!」
「ん? それでどうして水の中で個性を発動させても落っこちないんだ?」
「水には浮力があるから、重力と浮力で相殺されるんだよ。ジャンプ中に個性を発動させたら麗日さんみたいにずっと空に飛ぶかと言われれば多分違うんだと思うけど、だから実際はもっと複雑なエネルギーの衝突と減衰が起きてるはず。もしかしてそこまで個性で……」
「なるほどですわ。おおよそ理解しました」
「まじで!? やおももすげー!!」
「そう言うことだったんスね! 通形先輩! すげーっす!」
「え!? あ、ごめん! 全然俺もこれが分からないんだよね! 参ったな! はーっはっはっは!」
切島たちがずっこける中、蛙吹がケロッと鳴いた。
「それでも忍堂ちゃんみたいなことができないと、私達に対処しようがないわね」
「ワンアイテムで同じ土俵には乗れるでござるよ」
巻物を広げて手のひらサイズのストロボライトを出し、緑谷に向けて高速で点灯させる。
「うわっ!? まぶしっ!?」
「軍隊でも使われる手法にござる。通形先輩の場合、個性発動中は暗闇なれば解除後のコレは良く効くでござるよ~」
「あっはっはっは! もうやめてくれないかな!? 俺攻略がノンストップで困っちゃう!」
「情報は力でござる」
実際はバイザーなどで対処されるだろうけど。
巻物に道具を仕舞った忍堂に、芦戸から質問が飛ぶ。
「じゃあさ! 通形先輩の攻撃を防御できたのはどうして?」
「それは」
「重心だろ、カス」
緑谷に対抗したのか、爆豪がつまらなそうに吐き捨てる。
「全力で物殴りゃ踏み込みがいる。踏み込んだ分だけスカれば体勢は崩れる、戻りが遅エ。透過でフェイント掛けんなら、戻りが早エよう踏み込まねえ。当てるつもりなら踏み込みが深くなるってことだよなア?」
「その通り! 俺もさっき気づいた! ありがとう忍堂君! 俺はまだ強くなれる!」
「なるほど。だから最後は体重移動の少ないボクシングスタイルにしたのか」
「俺の硬化全然だったけど、貫かれたのはそう言うことか。ならよ、踏ん張った状態でカウンター狙えば行けんのかな?」
「切島君の場合、硬ければ殴った側がダメージ食らうから。むしろ受けて相手の拳を狙うのはどうかな」
「殴った側がダメージを受けるか……。サンキュ緑谷! ちょうどいい新技があんぜ!!」
「どうしよう環! 俺丸裸! ちんちん以外も暴かれちゃってる!」
「女子もいるんだから、下ネタ止めなよ」
「つか! テメーは何時まで隠れてんだクソ忍者野郎!」
「え、どうしてわかったでござる?」
「「「ええええええ!?」」」
「テメーの考えるこったお見通しだ! 戦闘中に本体を出すなんざしねえことぐらいなア!!」
その後、分身体を消して現れた忍堂を伴って、その場は解散することになった。
☆
森に囲まれたソコにポツリと建つ、薄暗い埃まみれの倉庫。
「マグ姉!?」
「マグセンパイ!? そんな、オネエ枠は死なないはずじゃなかったんすか!?」
敵連合と指定暴力団、死穢八斎會の若頭の会合は敵連合の幹部が最初に死んだ。
「殺す」
「盾になれ」
仲間を殺された死柄木が腕を振り、若頭の前に現れた部下が盾となり死んだ。
倉庫の壁を破り、ペストマスクを被った一団が突入。
「遅れました」
「うひゃー!? センパイ! めっちゃ敵っす!?」
「黙れトビ」
敵連合と死穢八斎會の全面戦争。
いつ爆発してもおかしくない緊迫した状況で、死穢八斎會の若頭が手に着いた土を手袋ごと捨て、新しい手袋をはめる。
「こちらも一人失い、そちらも一人失った。今の状態では冷静な話し合いはできない」
「ふざけんな。お前の雑魚とうちのオカマは等価じゃねえ」
「関係ない。落ち着いて考えろ、お前がどんな組織を作りたいのかをな」
言い捨て、死穢八斎會は撤退していった。
お互いに一人の死人。しかし、敵連合の死者は替えの効かない幹部であり、仲間である。
「そ、そんなぁ!! マグセンパイ!!! オイラに麦茶くれた優しいマグセンパイが死んじまったぁ……!」
「うるせえトビ。黙ってろ」
「薄情っすよセンパイ! オイラ達の心のオアシスマグセンパイがやられたんすよ!! それが、こんな、こんな泥に……あり? 泥?」
泣きわめきながら、マグネだったそれを集めようとしたトビが手に着いた泥に首を傾げた。
「馬鹿か? ヤクザもんと会うのに雁首揃えるバカがどこにいる」
「えええ!? じゃあここにいるの全員トゥワイスセンパイのなんすか!?」
「ふざけんな。ヤクザ相手に頭が隠れたら面子に関わんだろ。俺以外だ」
「いや~ん! トビちゃんったらそんなにアタシのことを思ってくれてるなんて!! アタシ感激しちゃったわ!」
倉庫の奥の扉があき、マグネを筆頭に幹部たちが入ってくる。
「ま、マグセンパァイ!!!」
「トビちゃああん!!」
ヒシッ!
トビとマグネが感涙して抱き合う横を、他の幹部が無言で通っていく。
「あり? そう言えばセンパイ、どうしてオイラに話してくれなかったんすか?」
「お前馬鹿だろ。ウチでボロ出しそうなのお前に教えるわけねえだろ」
「うっそお!? オイラの評価ひどくないっすか!?」
おーいおいおいと地面に泣き崩れるトビを放っておき、敵連合は話し合いを始める。
「弔君、アイツ殺そ。偽物でもマグ姉殺した」
「ダメだ」
「なんで。殺すよ」
「今は我慢しろ」
「どうするんだボス。ことを構えるにしてもアイツはやべータイプだぜ?」
コンプレスが代表して方針を聞く。
幹部たちもトガほどではないが、本物だったらあの場で死んでいたことに変わりはない。
全体的に否定の空気が流れる中、死柄木が静かに告げた。
「利用する。大それた計画があるようだしな、だったら全部奪うだけだ」
「戦争ですね!」
「違う。協力のフリをするだけだ。あいつの個性は危険だからな、やり合うには犠牲が多くなる」
「トビ君使えばいいよ」
「そうだぜ死柄木、トビの個性なら死んでも問題ねえ! 命を大事にするって最高!」
「え? オイラのドラえもんポケットの出番っすか?」
シュッシュとマグネだった泥を出し入れするトビ。
横ではトガが「どらえ、もん? なんです、それ?」と首を傾げた。
「マグネ、お前はしばらく身を隠せ。バレたらややこしいからな」
「はぁ。仕方ないわね。敵連合のためですもの、我慢するわ」
「悪いな。埋め合わせはする」
「んもう! そんな言われちゃったら文句も言えないじゃない!」
「一度アジトに戻るぞ」
歩き出す敵連合の面々の背を静かにトビは見守る。
(なるほどね。リスクという言葉は知っているようだ)
AFOとオールマイトの戦いは凄まじかった。アレほどの巨悪がこのまま大人しくしているわけがない。
(今のコイツ等を始末するのは容易い)
しかし、裏を仕切っていたAFOが敵連合なんてちんけな物だけで、世界を相手にするはずがない。
オールマイトと対等に渡り合える巨悪の手駒が、こんなお遊びの集団だけであるはずがないのだ。
(いるはずだ。AFOに協力している手足に足る存在が)
帝王とまで呼ばれた男だ。そいつに感化された者が今の状況を坐して見ているわけがない。
AFOはいつか絶対出てくる。
その時までにどんな手を使っても手に入れるしかない。
AFOを殺す手段を。
「ふっ……」
グッと拳を握ったところで気づく、誰もいないことに。
「ちょ、ちょちょ!? センパ~イ!? オイラを置いていかないでくださいよー!」