個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
明るく拒絶した忍堂に、八百万がなぜと問う。
「情報は武器にござる。西部劇のガンマンが互いの残弾を数えるように、個性の発動条件、デメリット、特性を知られることは避けるのが道理でござる」
現に、と指を立てる。
「砂藤の個性は種が割れたでござる。個性の発動条件は砂糖の摂取、発動時間は2から3分。連続使用は倦怠感などのデメリットを引き起こすため、持久戦には向かない」
当たっているでござるよね? そう言われれば砂藤は頷くしかなかった。
「つまり、力がなくても砂藤の個性を把握していれば誰でも対処可能なことが、今回の戦闘で分かってしまったでござる。最初に個性を発動させ、持久戦に持ち込む。パワー型故にからめ手は不得手、発動のタイミングは砂糖の摂取と分かりやすい。情報とは武器でござる、考察は大いに結構にござるが。自ら教えるバカはいないでござるよ」
言い切った忍堂にだれも声を掛けることはなかった。
「けっ。個性の対策されんのが怖えだけだろ、ビビリ野郎」
唸る声を出す爆豪を除いて。
「誉め言葉にござる。ビビらない爆豪は個性の開示をしてくれるのでござるか。発動条件から、デメリット、特性についての全てを。流石にござる」
「なめてんじゃねぇぞビビリ野郎ォ……!」
ひょわー。ヤンキーに睨まれたでござるよー。
☆
いやー、作戦が上手くはまって気持ちがいいでござるよ。
ま、NARUTOを知っている人からすれば、儂様がなにを行ったのかはすぐにわかったでござろうが、一応説明するでござる。
①試合開始と同時に煙幕を張って、煙幕の中で影分身を3つ出す。
②変化の術を使い、1体を天井に投げた手裏剣、もう1体を芦戸に変える。
③ヴィランを見つけたら変化した手裏剣を天井に刺して、部屋全体を見渡せる位置に置く。
④とりあえず突貫して個性の発動を誘発。あえて食らい影分身のフィードバックを得て作戦を考える
⑤影分身の芦戸は相手が他にも力を隠していないか、同じように攻撃を受けて消える。
⑥残った手裏剣からのフィードバックを受けるまで待機
⑦静かに消えた手裏剣のフィードバックを受け、二人の立ち位置が分かった儂様達は、煙幕と共に突撃。
⑧核兵器を儂様が封印巻物に封印。
⑨後衛であり直接戦闘が苦手だと思われる口田に影分身を向かわせ、砂藤は芦戸が取り押さえる。
うむ。とっさに考えたので粗が多いのなんの。
⑧はタッチするだけで良かったし、もっと効率よくチャクラを扱えたと思うでござる。
というか儂様本体が戦う必要がないでござる。
チャクラを等分する影分身は運用ひとつで雲泥の性能になるでござるよ。
ま、ここら辺は今後の課題にござるな。
ある程度ケースを想定して、遊びを持たせた作戦を考えておく必要があるでござるな。
☆
後日、教室に入ると峰田から校門にオールマイト目当てのマスゴミが集まっている話をされたでござる。
すまぬ、知らんかったでござるよ。
朝のHRで相澤先生が戦闘訓練の所感を述べてくれたでござる。
プププ。爆豪なんかは普通に怒られてるでござるよ。
おや先生。今度は儂様の番でござるか。褒めると良いでござるよ!
「戦い方も情報の扱いも合理的だ。しかし、ヒーローは臨時のチームを結成することが多い。お前の主張は正しいが、その言動は不和しか生まない。直せ」
「御意にござる」
うーむ。プラマイゼロの評価にござる。
そして、別にどうでもいいのでござるが、そのままクラス委員長決めが始まったでござる。
最終的に自分以外に投票することになり、晴れて眼鏡真面目キャラの飯田が委員長、八百万が副委員長になりもうした。
お昼にひと悶着あったりはしたでござるが、有意義な一日でござった。
☆
今日、儂様達はバスに乗ってとある場所に向かっているでござる。
なんと、雄英高校の授業では必要であればこうして外での授業がバンバカ行われるそうな。
儂様わっくわくでござるよ。
「ケロ。私思っていること口にしちゃうの」
と、バスの中でコミュニケーションのきっかけを作ったのは蛙吹。
どうも緑谷の個性がオールマイトに似てるだとか。
確かに、技の掛け声もオールマイトに似ているとは儂様も思ったでござる。
なぜかあたふたする緑谷が自分の個性を御しきれていないという重めの話を展開、しかし学生の個性談義となれば盛り上がるのは必至にござる。
誰の個性が派手で、ヒーロー向きで、見せ方の問題だなどワイワイしておるなーと見ていると、とうとうお鉢が儂様に回ってきたでござる。
「爆豪とか轟の個性も派手だけどよ。謎なのは忍堂の個性だよな!」
「ケロ。確かに、身体能力の向上。自分や他者の複製体の作成、ダミー核兵器を隠したり、とても一つの個性とは思えないわね。まるで複数の個性を持っているみたい」
「な、なな! 何を言っているでござる! 儂様の個性はひ、一つだけにござルンルン!」
「デク君並みに慌ててる!」
「と、慌ててはみたが、儂様の個性は正真正銘一つにござるよ。複合系でもないでござる」
複合系で分かりやすいのは轟の半冷半燃だろう。
これほど分かりやすい個性も中々ないでござるよ。
そんなことを考えていたら切島がグッと拳を握る。
「忍堂の個性、すっげえ知りてえ! 情報が武器ってのも分かってるつもりなんだけどよ」
「頑張って考えるのでござるな。ヴィランと相対した時、儂様達が最初に行うのはヴィランの個性を把握することにござる。でなければ、儂様達は適切な手段を取ることが不可能でござる」
「そっかぁ。そうだよな。ヒーローは個性を知られてるのが前提、でもヴィランは個性を隠して使っているってことだよな」
切島が納得していると、今度は緑谷がブツブツと詠唱を開始する。
「忍堂君の個性は複合系じゃない、つまり単一の個性能力で複数のことが行えるってことだ。分かりやすいのは身体能力の強化だけど、麗日さんに聞いた話では自分と他人の複製体を作れた。つまり何かしらの身体情報の上書き、もしくは書き換えができるのかもしれない。複数体、それにダメージで消える。つまり自分を強化するのは上書きで、何かを媒体にして代替えする形で行ったのかもしれない。つまり」
「おー、詠唱してるでござるな。しかし、なんと不躾なことでござるか」
「え?」
ぱっと緑谷が顔を上げる。
「考察大いに結構でござるが、本人の目の前で行うのは少々失礼ではないかと思ったしだいにござる」
「あ、ごごめん!」
「他の者であれば別に良いのでござるが、緑谷。お主は自身の個性の話になった途端慌てる素振りを見せた。つまり、自身の個性について把握されることを恐れているということでござる。それなのに、他者の個性については白昼堂々考察を重ねる、質問もする。個性の開示を一切行っていない儂様が言うのもお門違いかもしれぬが、気を付けた方がいいでござるよ」
言葉にはしないが、個性による差別はこの世界の大きな問題でござる。
異形は分かりやすいが、個性の能力によっても差別は行われる。
治療系は好待遇になり、制御が難しく他者を傷つけやすい個性は恐れられ、発動条件や性質が忌々しければ嫌悪される。
そういった者からすれば、嬉々として自身の個性を詳らかに目の前で考察されて、嬉しいはずがないでござるよ。人によっては聞かれることすら嫌がる者もいる。
「そう、だよね……。ごめん、考えが浅かったよ」
「ま、そうは言ったが儂様の考察は大いにしてよいでござるよ! むしろA組で最強の個性だと自認しているゆえ、バレてくれた方が自慢できるでござる! 一切教えぬでござるが!」
(((結局どっち……?)))
賑やかに進むバスだったが、目的地であるUSJで出迎えたのは救助を主とするヒーロー、13号先生と、相澤先生、そして
「動くな! あれは、ヴィランだ!」
悪意に満ちた、招かれざる客だった。
☆
「せっかく、こんなに大勢引き連れて来たのにさ。オールマイト、平和の象徴がいないなんて」
USJ、ウソの災害や事故ルームで本来行われるはずだったのは、救助訓練。
破壊された都市、水害、火災、数多の危険な状況を想定して作られた巨大な施設に、ヴィランの存在は想定されていない。
ゆえに、黒い靄からゾクゾクと現れるヴィランは本物であり、顔や全身に手を引っ付けた不気味な男が放つ言葉に、ウソはない。
「子供を殺せば、来るのかなァ?」
華々しく活躍するヒーロー。
彼らがときに命を賭けて立ち向かう本当の悪意。
「ヴィラン!? 馬鹿だろ! ヒーローの学校に乗り込んでくるなんて、アホすぎるぞ!」
「13号先生、侵入者用のセンサーは!」
「もちろんありますが……っ!」
ヴィランの侵入を許したとはいえ、ここは未来のヒーローを育む巨大な機関。
有事の備えは万端のはずだった。
システムは動かない。だからこそ、プロは誰よりも早く行動を起こす。
「13号、避難だ! 誰でもいい、学校に連絡しろ!」
指示に弾かれるように動き出す。
しかし、スマホは圏外。電気系の個性を持つ上鳴も、コスチュームの機能を試すが失敗に終わる。
用意周到に計画された襲撃。
それに気づいた相澤は戦闘態勢に入るが、緑谷が慌てて口を開く。
「イレイザーヘッドの戦闘スタイルは、敵の個性を消してからの捕縛。正面戦闘は……!」
「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号、任せたぞ」
ヴィランの群れに飛び出す相澤先生。
個性の発動を強制的に止める抹消はサポート向きの力だ。
つまり、直接戦闘に秀でたヒーローがいてこそ真価を発揮する。
「すごい……!」
しかし、単身突撃した相澤は全てにおいて不利な状況にも関わらず、優勢に戦闘を運んでいた。
マスクによって個性の発動を隠し、ヴィランの連携を崩し、捕縛布によって高機動戦闘を繰り広げる。
とても、サポート向けの個性を扱っているとは思えなかった。
「一対多こそ、先生の得意分野だったんだ」
(違うでござるな。アレはあくまでも不得手を誤魔化しているにすぎぬでござる)
あくまで、真骨頂はサポート。
直接戦闘、多数を相手にできるのは個性ではなく、捕縛布を扱い不得手を克服した相澤の実力によって成り立っているにすぎない。
(儂様が直接戦闘に参加するのは愚かにござる。相澤先生の近くで戦えば、戦闘に集中なんて不可能でござる)
個性を出し惜しみ。なんてしている場合ではなくなった。
ここで相澤先生、13号先生が死ねば次は自分達だ。
敵に手心なんて期待できるわけがない。
「影分身の術」
目標は二つ。時間稼ぎと、雄英高校への情報伝達。
継続戦闘可能な数、合計10体の影分身を出す。
「戦闘訓練の時の!」
芦戸が声を挙げるがそれを無視して、忍堂は即座に行動を開始する。
10体のうち9体を相澤先生に、1体を緑谷達の傍に、本体は分身の煙に紛れて叢に飛び込む。
「相澤先生、儂様が助太刀に参った!」
「本体は来てないんだな」
「御意に。先生の邪魔はせぬでござる」
影分身の特性について、事前に入学時にある程度伝達済み。
「連絡は」
「本体が」
「合理的だな、時間を稼ぐぞ!」
そして、忍堂が雄英に情報を伝える手段を持っていることも承知済み。
飛び出した忍堂達に驚いた緑谷達だが、残った一体の影分身忍堂が口を開く。
「問題ないでござる。援護に向かった儂様がやられてもダメージゼロ、先生の邪魔にはならないでござるよ。それは先生も承知済みにござる」
チャクラの11等分は正直無視できない。
幸か不幸か、忍堂が習得している忍術に属性系はない。
というのも、大好きだった影分身、変化、巻物を使用した封印術。そしてとある術の習得に注力していたからだ。
本体の忍堂は集中しながらも歯噛みする。
(戦闘向けの忍術をもっと早く習得するべきだった。失態だ)
戦闘に向かわせるなら影分身はコスパが悪すぎる。
チャクラ消費が少なく、耐久力もある水分身か岩分身が使えたのなら、現状における最高の手札だったはずだ。
分身体だって、影分身10体出すよりも多く出せたはず。もしくは新しい運用、影分身を効率的に扱う手法を確立する必要がある。
(今さら考えても仕方がない。分身は見せ札と割り切っていたが、コッチが露呈しなければ問題はない)
草むらで息をひそめ十数秒、術の準備が完成する。
「忍法。逆口寄せの術!」
11等分したチャクラがさらに減り、視界が変わる。
先ほどまでのUSJから、慣れ始めてきた自身の教室に立つ。
忍堂が習得に何年もかけて会得した逆口寄せの術。
どれだけ訓練しようとも10秒以上の溜めを要するこれは、戦闘中に使うことは困難を極めるが、今回のケースなら最高の手段となる。
事前にマーキングが必要であり、現時点で設置済みなのは学校の教室、学校のトイレ、自宅のみ。
この時ばかりは、寝坊対策に学校にマーキングしていた自分に喝采を送りたい気分だった。
「閃光ほどでなくても儂様にもう少し才能があれば、バッタバッタと。は無理でござろうな。それよりも校長に情報を伝えねば!」
決して才能がないとは言わない、むしろ才能はある方だと自負している。
それでも、憧れた世界の忍者ならと歯噛みしつつも、忍堂は走り出した。