個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
「トビ、お前も出向組だ。主に荷物運び」
「うっす! オイラ頑張ります!」
死穢八斎會の若頭との交渉。これを終えた死柄木がアジトで仲間達に情報を周知していた。
「いいのか、ボス? 俺が行ってもよかったんだぜ?」
「本来ならお前にも行ってもらいたいところだが、あの若頭の個性は危険だ。ブツの近くにはアイツが絶対にいる、それならトゥワイスとトビに行かせた方が、失敗時の損失も少なくて済む」
「え!? 俺ってそんな扱い!?」
「違う。お前の個性で安全に事を成せって言ってんだ。だが、お前の弱点はダメージで泥に戻ること、バックアップにトビだ。こいつなら死んでも痛手にならん」
「オイラだけっすか!?」
「お前はまだ何も成果を出してないからな。ま、敵連合仮免試験ってところだ」
死柄木の評価は敵連合の総意でもあった。
もともとAFOが消えてからやって来たこともあり、信用や信頼といった面でトビは他のメンバーと大きく違っていた。
「確かに、オイラの個性って戦闘向きじゃないっすけど……。でも、オイラだって皆さんのためにご飯とか色々持って来てるっすよ?」
「あぁ、助かってるさ。分かってる。だが、俺達が求めてるのは小間使いじゃない。分かるだろ?」
敵連合の目的。実際のところ全員が全員そういうわけでもないが、トップである死柄木のすべてを壊す方針に変わりはない。
目的遂行の障害は大きく、敵組織同士の衝突も予見される今、トビに求められていることは多い。
「大丈夫です。私達が付いてますよトビ君」
「と、トガセンパイィ……!」
「おう! 何かあったら俺達を頼れ! 仲間だからな! 頼んな一人でやれや!」
「ジンセンパイ……! オイラ! 頑張るっす! 死穢八斎會とかいうヤクザもんに目にもの見せてやりますよおお!」
ハイテンションに全身でやる気を見せるトビだが、死柄木が口を開けばすぐに静かになる。
「お前達にも負担を掛けるが、頼む」
「私、生きにくいです。でも、ここは好きです。私が私でいられるここが好きです。弔君」
「あぁ」
「弔君が言ってた私達のためって言葉、私信じる。だから我慢する」
「ありがとう」
「任せろってんだよ死柄木! 危うくマグ姉がやられかけたんだ、汚名挽回! 名誉返上!」
「逆だ逆」
敵連合の目的に死穢八斎會は邪魔。
だが利用価値がある。死穢八斎會の若頭が世界を変えられると本気で思っている根源、それを手に入れることが敵連合の目的。
もともと社会のはみ出し者同志、相いれるわけがなかったのである。
☆
死穢八斎會に出向した3人は、着いて早々若頭と幹部達と顔合わせをすることになった。
敵連合は3人、対する八斎會は10人近くと、とても対等とは言える雰囲気ではない。
「私、仲良くするつもりないです」
「そうだぜ! 俺達のマグ姉を殺したんだ! 許す!」
「アレは衝撃的でしたね~。あ、オイラもマグネセンパイ大好きだったので、正直悲しいっす!」
つまり、敵連合が手を取って笑顔を振りまくなんてことはありえないのだ。
「こちらも一人死んでいる。俺だって彼を殺したいわけじゃなかった」
ピクリと二人が反応する。
(彼じゃなくて彼女とか思ってそうっすねー)
敵連合の所業は敵のソレだが、意外にも仲間に向ける感情は一般よりも多感である。
死んではいない、しかし殺そうとしたことに変わりはない。
「まず、これから行動する上で連携が必要だ。そのためにも、お前たちの個性を教えてくれ」
「必要になったら教えるのです。まだ、貴方達は好きじゃないので」
「誰が好き好んで個性を教えるかってんだ! 個性についてなら何でも聞いてくれ!」
「はいはい! オイラの個性は収納っす! こうやって、両手に物を入れたり出したりできます! 容量は車ぐらいなので、荷物持ちに最適っす!」
「……」
「……」
「……ハッ!」
トガとトゥワイスのじとー視線にトビは愕然とした。
「いい奴じゃないか。仲良くしよう」
「よろっしゃす! パイセン!」
「「……」」
「ハ……ッ! つい、三下ムーブが……!」
「私達がバカみたいじゃないですか、トビ君」
「お前、ほんとそういうとこだぜ? 俺は好きだぜ!」
個性の情報は生死に直結する。
発動条件、効果時間、能力の下限上限。それらの情報一つで命を奪い合う世界では致命的だった。
オールマイトのように、いくら知ったところで対処のしようがない場合を除けば、死柄木や目の前の若頭でさえ対策が可能になってしまうのだ。
だから答えない。
トビのように雑で程度の低い個性ならともかく、トゥワイスやトガの情報は本来秘密にするべきものだった。
「個性について話したまえ」
治崎の背後に立つ幹部の一人がそう言った直後、トビを責めていたトゥワイスとトガも自分の個性について口を開いてしまった。
慌てる二人だったが、トビの仮面の下は二人以上に緊張に包まれていた。
その後、口を割らせる男からの追及を逃げるためにトビは一番に答え、馬鹿な振りをしてどうにか逃げ切った。
「裏切りを死柄木から指示されているか?」
という質問で終わったと思ったが、意外にも個性のルールが厳しいようで、利用は裏切り判定されることはなかった。
(ここでの潜入を上手くやれば、敵連合に正式に認められないまでも、一定の信頼を得られる)
さらに言えば、現時点でヤバいことを考えているのは死穢八斎會のほうだ。
敵連合みたいに目的も手段もあやふやではなく、明確な手段と道筋を持つ死穢八斎會のほうが現時点では危険だ。
仮面の奥でトビは目を細めた。
☆
「どもども~、パイセン方! お疲れさんっす!」
死穢八斎會に出向したトビ達だが、トゥワイスもトガもやる気なんて一切なく、宛がわれた部屋でのんびりと寛いでいた。
個性にしても、死穢八斎會からすれば手に入れたいが制御が難しい二人である。懐柔できるまでは軟禁状態が互いのためになっていた。
そんな中、ぱっとしない個性とバカっぽい言動を繰り返すトビは、意外にも死穢八斎會から受けが良かった。
「あ、パイセン掃除っすか? オイラもやりますよ!」
トビからすれば、出向してから特段命令もなかったので、散策がてら色々な組員と交流をしていた。
特に、義理人情の世界に生きるヤクザの生き残りは、トビにとって物語の人物のようで少し気に入ってたりもした。
「よう坊主。巷を騒がせた敵連合から来たって聞いて驚いたもんだが、お前みたいなやつばっかなのか?」
「そんなことないっすよ! みーんなおっかないんで! オイラのこーんな個性じゃ役に立てませんで、ようやくお仕事貰えてうれしいんすよ!」
「ガッハッハッハ! そうかそうか! ま、最近じゃどこもかしこも世知辛いがよ、お前さんも頑張れよ」
「うっす! あしゃしゃす!」
もはや言葉にもなってない感謝だが、テキトーなりの明るい振る舞いに組の構成員からの受けは良かった。
だからだろう、
「おいトビ、こっちこい」
周囲を窺いながらもトビを手招きする男。最近トビと会話するようになった者の一人に、人気のない部屋に案内される。
「どしたんすかパイセン。あ、前みたいにお菓子くれるんすか? あれちょーうまかったっす!」
「今日日の若いもんじゃハイカラなもん欲しがんのに、お前はガキっぽくていいな!」
「おい、今はそれより」
「おっと、そうだったぜ」
部屋に入れば数人。トビと交流を持つ組員がいた。
「おいトビ、お前は若頭のやること知ってんのか?」
「へ? いや~オイラバカなんで、ボスからもなんも言われてないんすよねぇ」
能天気に、何も知らない馬鹿を演じる。
そうすればもともと任侠の世界に生きる者、必然的に言葉が多くなるのは最近知った。
「だったらお前はここから逃げた方がいい。今ならまだ逃げれる」
「そうだ、あの子みたいにぽっくり消されちまう」
「うへえ!? マジすか!? て誰ぇ?」
「親父だって、今じゃ寝たきりだけどよ。ああなっちまう直前までは健在だった、突然だ。いきなり寝たきりになっちまった」
出てくるのは今の組を仕切る若頭に対する、恐怖から来る不平不満。
大体が愚痴交じりのトビに対する警告だったが、とある一言がトビの耳を叩いた。
「子供が消えた?」
「あぁ、そうだ。若頭は組長が養子で連れて来た子でな、本当の子供は別にいんだよ」
「だがな、ある事件からご子息の消息は不明。お孫さんがいたはずなのに、話にも出てこねえ。きっと組長同様……」
「うへぇ。怖いっすねぇ……」
(子供か……。組の舵を握るために消したか、あるいは……)
「ちな、その子が生きてたら何歳ぐらいになるんすかね?」
「まだほんの子供だったからな。5歳か6歳、そんぐらいなはずだ」
仮面で顔が隠れていることをいいことに、トビは仮面の下で深く考える。
(単純に組を仕切りたいなら、わざわざ消す必要もないか。となると、個性……?)
敵連合との最初の会合で見せた個性。
死柄木以上に凶悪に見えたアレを持っておきながら、他者の個性を恐れる必要はない。
つまり、単純な力とは別の個性である確率が高い。
「皆さんありがとうございやす! ホント最近会ったばっかなのに、こんな良くしてくれてオイラ嬉しっす!」
「あぁ。お前も上からの命令に逆らえないかもしれねえけどよ」
「せめて気を付けてくれ。これからこの組はどんどんヤバくなっていく、お前も自分の命を大事にすんだぞ」
「お前はバカだが、気の良い奴だって皆思ってんだ」
「う、うぅ……パイセン方ァ……」
泣く素振りを見せながら、トビは思考する。
敵連合に伝わっていない情報ということは、治崎にとって急所になりえる情報だということ。
下手に動けば簡単に消しに来るだろう。
(でもなぁ。子供がもしも監禁されてるなら、モルモットみたいな状態になってるなら……)
トビ自身、他人の生き死にに対してあまり頓着しない。
目の前で笑う組員が次の瞬間に死んだところで、そういう世界で生きているのだと割り切れてしまう。
しかし、無垢な子供が痛めつけられていれば気分が悪くなるし、助けてやりたいと思う善良性はある。
だから自分なりに理由を付ける。命を賭けるために自分が死んでも後悔しない、納得する理由を。
(理由なんて必要はないか。可哀そうな子供を助けるのに命かけられないんじゃ、恥ずかしくて死にたくなる)
「お! トビじゃん。まーたじいさん方の手伝いか? あきねえなー」
トガ達のところに戻ろうとしたトビの前に、治崎の部下が付けるペストマスクをした男が声を掛ける。
普段であれば何ら変わらない挨拶だが、今日は違った。
「あれパイセン! それ好きなんすか!」
「ち、ちげえよ! これは、その……あれだ、甥っ子が欲しがってだな」
違う。男の反応にトビは仮面の下で目を細める。
口を濁した言い方ではない。明らかにその場で理由を探し、でっち上げた言葉だ。
(タイミングのいい。おそらく話にあった子供か?)
確証はない。しかし、わざわざ組のところまで持ってくるのだ。件の子供でないにしろ、トビが今日まで一度もあっていない子供がどこかにいる。
ソレが分かれば調査に足る。
「と、とりま俺急いでっからよ、お前もきびきび頑張れや」
「了解っすパイセン!」
ビシッと敬礼したトビは、男が角を曲がるのを待ち、
「あ! パイセン待ってくださーい!」
離れたばかりの男に大きな声を掛ける。
「んお? んだよ」
角を曲がった男の後を追いかけ、変化した男が持っているのとは別の人形を見せる。
「それオイラも持ってたんすよ! 実は知り合いの子に渡そうと思ったんすけど、実はそれチーム物らしくてですね。一体じゃダメダーってめちゃ怒られたんすよ!」
「ま、まじかよ……!」
そう言えば、男は咄嗟に顔を青くさせてしまう。
その顔には明確な恐怖が浮かんでいた。
「オイラはコレ突き返されちゃったんすけど、パイセンどっすか? 全部ってわけじゃないっすけど、多い方がいいんじゃないっすか?」
「お、いいのか!?」
「どうぞどうぞ! 組の方にはホント良くしてもらってるんで! 子供なら絶対喜びますぜ!」
男はフィギュアを受け取ると、足早に去っていった。