個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
最悪の状況だった。
ナイトアイが追いついたときには遅かった。
ルミリオンはオーバーホールが、壊理の肉体を用いて作成した個性消失弾を受け、個性が失われてしまっていたのだ。
「よくやった、ルミリオン……!」
だが、壊理の奪還失敗。オーバーホールの逃走。これらは阻止できた。
ルミリオンの個性と引き換えではあったが、最悪中の最悪は阻止できたのだ。
イレイザーは捕まってしまったが、デクがルミリオンと壊理を連れて逃げた。作戦は成功したのだ。
個性を殺す基は壊理の肉体。あの子さえ逃がすことができれば、ヒーロー社会の根底を覆すオーバーホールの目的を打破できる。
後はオーバーホールを倒すか、デク達が逃げるだけの時間を稼ぐ。
部下と融合したオーバーホールと戦い、ダメ押しの個性を発動させた。
「……ッ!!」
見てしまった。
緑谷がオーバーホールの攻撃によって血に染まる光景を。
自分が、オーバーホールの攻撃によって腹に取り返しのつかないダメージを受ける瞬間を。
だからと言って引くわけにはいかない。未来が見えたからなんだと言うのだ、あの人の未来を変えるのなら、目の前の状況一つ変えられずどうするのだ。
「隙を、見せたな」
そんなオーバーホールの声が聞こえた。
分かっていたことじゃないか、一度回避できたとしても、巡り巡って視た光景は現実になるのだと。
「ナイトアイッ!?」
逃げたはずの緑谷の叫び声と、ナイトアイの腹部を助かりようもない攻撃が穿つのは同時だった。
「は……?」
オーバーホールを通してみた光景を見ながら、ナイトアイは困惑した声を挙げる。
誰だって、目の前で自分が殺される光景を見れば、こんな反応になるであろう。
「やーらーれーたー!」
我ながら情けない声とともに、白煙となって自分が消える。
オーバーホールも、ナイトアイもその光景に理解が追いつかない。
「忍堂君!!」
デクを除いて。
直後、地面に衝撃と共に兎が舞い降りた。
「お前! 強そうじゃねえか! 私とやろうぜ!!」
ラビットヒーロー、ミルコ参戦。
「手に触れちゃダメです! 奴の個性は手で触れた物の分解と再構築です!」
「触られたら終わりってか? 滾んじゃねえか!!」
「チィ!! 次から次に……!」
飛び出したミルコがオーバーホールと戦う。
ナイトアイは未だ混乱の中にいた。
確かに見た、自分が殺される光景を。
なのに、自分は生きている。見た光景は変わらず、結果だけが違う。
「ござるござる。誰かは知らぬでござるがサラリーマン、無事にござるか?」
いつのまにか横に立っていた忍服に身を包む男。
「忍堂君!!」
「今は護影でござるよ、デク」
「デク、彼はいったい……」
先ほどまでの絶望的な焦りを見せていたデクが、護影を前に笑みを浮かべる。
まるで勝機を見出したかのように。
「護影、この人はナイトアイ。僕のインターン先の人で、っていまはそれどころじゃないんだった!」
「要救助者の保護は儂様に任せるでござるよ、だが」
真横に着弾したミルコが、護影の言葉を遮る。
五体は無事であるが、体中に傷を負っていた。
「ミルコがボコられているでござる」
「違え。ちょっと転んだだけだ」
「大人が言うには大変見苦しいでござるよ、ミルコの場合ちょっと痛さが勝っちゃうでござる」
「アイツ蹴っても蹴っても回復しやがんだよ。サンドバックにはもってこいだけどな!」
決してミルコが負けているわけではない。
むしろ与えたダメージ量で言えば桁が違うはず、しかしオーバーホールは自己の分解と再構築を行うことで、ダメージを無効化していたのだ。
「どうしよう……。オーバーホールの回復を上回る攻撃を与えないと……」
「たく……。よくもまぁ、ヒーロー症候群の連中がうじゃうじゃと。少しまてば全員治療してやるってのに」
依然として状況は改善せず、ナイトアイはダメージにより動けない。
ミルコの攻撃では回復量が勝ってしまう。
「あ! 忍堂君の大きい螺旋丸なら!」
「無理でござ」
林間合宿で見た身の丈を超える超エネルギー攻撃。
確かにあれならば火力としては十分以上、しかし護影は首を振る。
「アレは儂様のチャクラを数倍使うでござるよ。チャージするのに20分以上掛かるでござる」
「ストック使えばいいだろ」
「ミルコ、安易に奥の手を話さないで欲しいでござる。新手のことも考えれば、あまり消費はしたくないでござるよ」
「ならスーパーラビットモードで」
「儂様を社会的に殺すでござるか?」
「壊理!!!」
どうやって倒せば。そう考えているデク達の耳に、強烈なオーバーホールの声が響く。
「お前のせいでまた人が死ぬぞ!!」
地を這うオーバーホールの声が通路の奥まで響く。
続くオーバーホールの言葉はどこまでも悪辣で、人の弱みを踏み荒らしていく蛮行にデクの怒りが沸騰する。
「治崎ィ!!!」
怒りに震える緑谷の前に、怯えた顔の壊理がゆっくりと現れた。
☆
「で、センパイ方どうするんです」
「おいおいトビ話聞いてなかったのか?」
「私達はヤクザ者卒業なのです。卒業証書の代わりにあの女の子を攫うのです」
「あーなるほどっす!」
死穢八斎會を裏切ることにしたトガ達、というより仲間と思ったことなど1度もない敵連合は、地表付近で状況を見守っていた。
本来であればもう少し早く行動に移す予定が、空から降って来たミルコによって一度様子を見ることにしたのだ。
「見た感じミルコ達負けそうっすね。というかあの回復ズルくないっすか?」
「うちのボスみたいに触れればアウト、ダメージを与えても回復ピンピン。誰が勝てるんだア? 楽勝だからお前行ってこい!」
「それに、隙を見て女の子を連れていくのは難しいのです。ヒーローが多すぎます」
「たしかミルコと言えばエグイ聴力があるとかで、戦闘中でも周囲の音を聞き逃すことはないとか言ってましたよ?」
「どこで?」
「ヒーロー紹介する雑誌っす」
壊理を敵連合に渡すのは治崎に渡す以上に防がなくてはならない。
AFOに付き従う幹部。それらの実態が分からない上に、社会のパワーバランスをコントロールしたい治崎と違い、破壊を目的とする敵連合だ。
壊理が渡ってしまえばどうなるか。
「トビ君はミルコが好きなんですか?」
「いいよなミルコ! 貧相で!」
「やはり大人な女性に憧れるは男児の常っすよ! トガセンパイも将来はボンキュどあわあ!?」
「セクハラ厳禁なのです。マグ姉に言いつけるのです」
「か、勘弁してくださいっすよトガセンパイ~!!」
(どうにかヒーロー側の手勢を増やす。というかヒーロー側の火力が足りなすぎだろ!!)
今ばかりは、動けない自分を恨めしく思う。
敵連合に入っていなければ、そもそも死穢八斎會にたどり着くこともなかったので、全てがマイナスというわけではないが、ない物ねだりである。
「でも、どうするんすか? 結局ヤクザが勝っちゃうと、オイラ達って実質ヤクザの下扱いされません?」
「あ」
どうにか死穢八斎會撃滅に向けた誘導をと考えていると、トガが関係のない方向を見て声を挙げる。
次いで、恐ろしいまでににんまりと笑った。
「ヒーローは便利ですねぇ」
駆け出すトガをポカンと見送るトゥワイスとトビはお互いを見合う。
「どします? センパイ?」
「自分勝手なトガちゃん可愛い」
「あの、センパーイ? さっき頭巻いてもらってからなんか調子変ですよー」
☆
頑張って生きて、頑張って助かって欲しい
そんなこと言われたのは、初めてだった。
ずっと、逃げられないって言われた。
お前のせいで、皆が傷つくって言われた。
でも、目の前のあの人は、私が助からないと諦めてくれないってわかった。
一日だけだったけど、次が来るよりも早くこうなっちゃったけど。
私が頑張って助かったら、またあの人にも会えるかもしれない。
優しい声と手で、また撫でてくれるかもしれない、眠るまで抱きかかえてくれるかもしれない。
忘れていた。眠るってことがあんなに安らかなんだって。
次のちりょうに怯えるんじゃなくて、あの温もりが来てくれると思うと嬉しくて。
あの人は言ってた。今は無理だって。
なら、私が助かれば、あの人はもっともっと会いに来てくれるかもしれない。
だから、手を伸ばした。
助けるって言ってくれたから、助かってくれって願われたから。
優しい、私が助かるまで諦めないあの人の手を掴んだ。
☆
いやー。無事問題が解決してよかったっすねー。
え? あの後どうなったのかって?
あの後はなんか幼女を背負って超パワーアップした緑谷が一方的にぶちのめして終わりましたっす。
負傷者を多数出しながらも死穢八斎會は御用になった。
「トビ、お前出向組の目的分かってんのか?」
「とほほ。申し訳ないっすセンパイィ……」
アジトに戻ったオイラを待っていた死柄木たちに、こっぴどく怒られる。
仕方ないのだ、目的はトガセンパイ達のサポート兼、個性を使ってのブツ回収。
サポートもあんまりできなかったので、言い訳のしようもないっすね!
「おいおい死柄木! トビはいい奴だぜ! 俺をヒーロー達から見捨てたからな!」
「仁君ノックアウト寸前だったのです。それに、ブツを回収できたのならいいじゃないですか」
なんと、トガとトゥワイスがオイラを庇ってくれた!
社会のクズなのに、仲間思いな一面にキュン。
「まぁいい。ブツは俺達が回収した、ちょっと邪魔が入ったが、あの上から目線だった奴を見下ろせたのは最高の気分だったぜ」
(はえー。まーじでヒトカスさんさー。せっかく人様が頑張ってんのに取られんじゃねえよ)
この場で動くわけにもいかないし、どうするかなー。
「そう言えばセンパイ。それ取ってどうするんすか?」
「アア?」
部活動の部室を思わせる内装を見回す。
「だってー、アジトはこんなボロッちいところじゃないっすかー。設備も知識もオイラ達ないのに、使い切り拾ってどうするんすか?」
「トビ、だからお前はバカなんだよ」
「マグネセンパイ、オイラバカなんすかね?」
「馬鹿な子ほどかわいいって言うから安心しなさい」
手に持った解毒薬と個性破壊弾のケースを遊ばせた死柄木が、静かに口を開いた。
「死穢八斎會が俺達に接触した理由は金だ。つまり、俺達敵連合の存在は裏の世界じゃ小さくないものってことだ。相手を選ぶ必要はあるが、俺達の名とこのサンプルを見せれば、土下座してでもすがってくるだろうさ」
「へー。流石センパイ! 頭いっすね!」
「とはいっても、元々は先生っつう後ろ盾があったからの話だ。八斎會は小さいが雑魚じゃなかった。俺達が動くには兵隊が足りない」
「宿と飯もな」
「オイラ頑張って取ってくるっす!」
また自腹を切っての飯提供かー。なんて項垂れていたら、コンプレスセンパイが肩をすくめた。
「つっても、ヤクザモノに俺達が関わっていることはバレてんでしょ? 不審な動きが連続すれば速攻動くと思うよ? 若頭君襲ったのが俺達だって、向こうも感づいてるだろうし」
手はある。だがしかし、巷で恐れられている敵連合の実情は困窮していた。
ヒーローだけではない、八斎會同様に敵連合を吸収して上に行くなんて、他の敵組織が考えないはずがない。
つまり、敵にもヒーローにも狙われている状況なのだ。
「あ、センパイ! その血清って本物なんすか?」
「どういうことだ?」
「確かにこれで個性の破壊はしてましたけど、血清を使ったところオイラ達見てないじゃないっすか」
そう言えば、敵連合の面々が一様に思い出すそぶりを見せ、あっとなる。
「数は少ないっすけど、どこかで血清が本物か、試した方がいんじゃないっすか?」
「……」
しばらく死柄木が考える素振りを見せ、オイラを見た。
「トビ、手を出せ」
「うっそおおおお!? 嫌っすよ!?」
「この中でお前の個性が一番なくなっても困らねえ。手を出せ」
「待って待ってくださいっす! オイラ一人知ってるっすよ! すでに個性破壊済みな人! 個性破壊弾だって数個しかないんすから、血清だけ使って確かめましょうよ!!??」
なお、真面目にこの流れで破壊弾を撃たれるぐらいなら、この場で全員を殺すつもりです。はい。
別にオイラだって殺したくて殺すわけじゃないんすけどね、仕方がないっす。
「だがそいつはヒーローなんだろ?」
「雄英の生徒さんらしいっすよ。透過できる個性持ちだとかで、個性を壊されるまではあのヤクザ若頭を圧倒してましたっすね」
「却下。んな強個性持ちの個性を治すなんざ嫌だね。そのへん歩いてる奴で試す」
(うわちゃー失敗したっすねー。見知らぬ人ごめんなさいっす)
後日、金策目的で襲った異形個性に強い反感を持っている団体を襲い、捕まえた一人で試した結果血清の効果が証明された。