個性チャクラで影分身 作:切って捨てて
緑谷達が死穢八斎會にてオーバーホールを捕らえた後日、個性を破壊されてしまったミリオと、重傷を負いながらも一命をとりとめたサーナイトアイの下に、オールマイトが訪ねて来ていた。
「ナイトアイ……」
「オールマイト、貴方に会いたかった」
病室で横になっているナイトアイを見たオールマイトの顔に、普段の笑顔はない。
積年の後悔がありありと浮かんでいた。
「貴方に、謝りたかった。私は、間違っていた」
「そんなことはない! 君が私を想って言ってくれた言葉を、私は……!」
「貴方の未来を、私は変えようとしていた。凄惨な死を、なかったことにしようと」
「私は死なない……! 絶対にだ、だからナイトアイ」
「ハハハ。私の前で貴方が最後に笑ったのはいつだったか、正確に覚えています」
力なく笑うナイトアイ。しかし、そこに以前までの切羽詰まった様子はなく、憑き物が取れたように穏やかなものだった。
「貴方は間違っていなかった。彼は、緑谷イズクは貴方の後継に相応しい」
「そ、それはどういう……」
「私は見た、オーバーホールの攻撃で死ぬ自分の姿、彼が死ぬ光景を」
沈黙。
今までナイトアイの予知が外れることはなかった。
それはナイトアイと長くコンビを組んでいたオールマイトだからこそ、実体験として体が知っている。
だからこそ、自分の死を受け入れることができた。笑い飛ばすこともせず、真正面から。
「だが、彼は。緑谷はその未来を捻じ曲げて見せた……! 私の見た未来が変わったんだ……!」
「緑谷少年が、君の未来も捻じ曲げたのか?」
そう言うと、ナイトアイはまた笑った。
今度はテレビで芸能人のコントを見た時に見せる、”可笑しい”物を見た時の笑みだ。
「私にも分からない。私の未来は変わらなかった。確かに見た通りの光景になったんです、私が見た光景通りに、私は私の目の前で貫かれて……煙になって消えた」
「は……?」
ポカンと。オールマイトの顔を見たナイトアイが今日一番に笑う。
「私も同じ反応をしましたよ。白昼夢かとすら思った。緑谷から聞きましたが、騒ぎを聞きつけた護影と名乗る少年が、ミルコを連れて救援に駆け付けてくれたようです」
「護影……、忍堂少年か!」
「オーバーホールを前に震え一つ見せない強い子だ。彼のおかげで私は未来を変えず結果のみを変えられた」
この意味が分かりますか。ナイトアイの柔らかな光が、オールマイトと交わる。
「未来を捻じ曲げることができると証明された。未来を変えずとも結果を変えられると証明された。私の未来予知はいかようにも変えられるんです! だからっ!」
抑えられないと上体を無理やり起こし、激痛に顔を歪める。
「ナイトアイ! 大丈夫だ、私が聞いている! だから落ち着くんだ」
「落ち着いていられますか! 今まで諦めて来た未来を、彼らのおかげでもう一度! 希望を持って! 再び見据えることができた! 貴方の未来だっていくらでも変えられる! 皆の強い思いが因果すら捻じ曲げる! 私の見た光景がそうだったとしても、結果を変えられる!」
慌てて体を支えようとしたオールマイトの手を、ナイトアイが強く両手で握る。
「私一人では無理だ。でも、ミリオが、緑谷が、忍堂が、他の皆が力を合わせればより良い未来に手を伸ばせる!」
熱い想いが手を伝ってくる。
オールマイトの消えかけていた灯に、新たな燃料を投下する。
活動限界の短縮に伴いトゥルーフォームを常としてきたはずなのに、気が付けばマッスルフォームになっていた。
「あぁ! 変えよう! 私だけではない、皆の未来をより明るくするんだ」
「私達皆でやるんです! それが未来を変える大いなる力になる!」
「サー!? 急に暴れてどうしたんですか! ナースさん、が……」
別室から駆け付けたミリオが見た光景は、大男とやせ形の大人が涙を流して、熱く手を握って見つめ合う。そんな光景だった。
「大丈夫ですか! なにか、きゃっ」
絶対安静の患者が暴れたと思い駆け付けたナースも、ミリオと同じ光景を見てなぜか顔を赤くした。
「びょ、病院はそういう場所じゃありません!!」
プルプルと震えながら叫ぶナースの言葉に、一瞬の沈黙。
次いで三者の爆笑が院内に響いた。
☆
「通形先輩、大丈夫かな」
死穢八斎會との戦闘から数日、退院して通常通り学校に復帰した緑谷は、宿所の共同スペースで通形のことを考えていた。
「僕なんかより、通形先輩に」
透過という扱いの難しい個性を使いこなし、常に笑みを浮かべ、たとえ個性を失ったとしても手を差し伸べ続けた憧れの先輩。
個性破壊弾によって破壊された個性は戻らない。
自分なんかよりもオールマイトに近い男にこそ、ワンフォーオールがふさわしいのではないか。
「しみったれた顔してどうしたんだい! 緑谷君!」
「通形先輩……」
「笑えよ。そんな顔を壊理ちゃんに見られちゃ、あの子も悲しんじゃうだろ?」
「はい」
ぎこちなく笑う。
確かに死穢八斎會の一件、負傷者は出たが死者はゼロ。あの激闘を考えれば最高の結果と言えた。
しかし、しかしだ。
「通形先輩は、その、個性は……」
「うん。全然戻らないんだよねコレが。検査してもらったんだけど、個性因子が壊滅的なんだって」
やっぱりだ。天喰の時に使われた粗悪品とは違う、高純度の個性破壊弾が使われたのだ。
つまり、今目の前で笑っている通形の個性が戻ることは、ない。
「でもね、可能性はゼロじゃないんだぜ?」
「え?」
顔を上げて通形を見る。
そこには嘘も虚勢もない、確かな未来を見る顔があった。
「治崎がやろうとしていたことは、個性破壊弾と破壊された個性を戻す血清。この二つをヒーローと敵両方に売ることでパワーバランスを支配することだった。ま、その両方が紛失しちゃってるんだけどね」
「はい」
今では事件に関わった誰もが知る事実。というわけではないが、壊理に近しい人間に限られるが大体の情報は共有されていた。
治崎を護送していたトラックが襲撃され、ヒーローと合わせて消えた忌まわしい商品。
誰が襲ったかは不明だが、大方の予想は皆ついていた。
「個性破壊弾と血清。両方とも壊理ちゃんの個性によるものなら、将来壊理ちゃんが個性をコントロールできるようになれば、個性を取り戻せるかもしれないって、サーが言ってた」
「見てもらったんですか……?」
サーナイトアイの個性は未来を予知すること。その的中率は100%。
彼が個性を使って視たというのなら、確定した未来なのだ。
しかし、通形は首を振った。
「サーがさ、分かりきった未来を視る必要はない、てさ」
全てが憶測による希望的思考。
だが、この未来を疑う者は誰もいなかった。
「ちょっと時間は掛かっちゃうかもしれないけど。俺は依然ルミリオンなんだぜ、デク君」
何の憂いもない通形の笑みに、今度こそ自然に笑えた気がする。
「はい!」
「んー! 滾って来ちゃうよねー!! これは個性が戻って来たときのために、鍛えなくっちゃだ!」
「僕も通形先輩に追いつけるよう頑張ります!」
「ああ! 今度は完璧に皆を救って見せようぜ!」
男と男の拳を交わす。
同じ師を仰ぎ、同じ死地を切り抜けた盟友に、陰りはない。
「そういえばなんだけど、病院でサーとオールマイトが抱き合っていてね、ナースさんにそういう場所じゃないって怒られてた」
「ぶー!!??」
「やっぱ笑っちゃうよね! 皆で大爆笑さ! ハーッハッハッハ!」
☆
「ござる? どうして儂様ここに連れてこられたでござる」
途中参戦する形で死穢八斎會事件に関与した忍堂だが、相澤に連れられる形でとある病院に訪れていた。
ヒーロー御用達で、警護から中で活動する者まで数多くのプロが集うここは、ある種雄英に次いで安全と言える場所だった。
通された部屋に入ると、ベッドに一人の幼女がいた。
「壊理ちゃん、元気かな」
「相澤先生!」
相澤の顔を見たとたんパーと明るくなる壊理に、忍堂は疑問を浮かべる。
「そういえば、先の事件の重要人物だったでござるか? お初にござるな」
なお、事件当時、派遣していた分身体が早々に破壊されたこともあり、事件に関わっておきながら壊理と忍堂は初対面である。
分身体だったことがバレて、後日ミルコにヘッドロックを掛けられたのは別の話。
「ござる?」
忍堂の特殊な喋り方にオウムになる壊理。
「ござるござる」
「ござる、ござる?」
「なにやってんだ」
事件に関わっていたから呼ばれた。というわけではないだろう、そう思い相澤に問えば。
「ミルコから聞いた。お前の新技で自身のチャクラを相手に流して、強化できるんだろ?」
ビクッ。と忍堂が別の意味で反応する。
「ど、どこまで聞いているでござるか?」
「そうだな。とりあえず、お互いの了承があるならいいんじゃないか? 峰田にバレないようにはしとけ」
「ノオオオオオ!? 儂様アレ本当に本意でないでござるよ!!」
「分かってる」
話がそれてしまったな、と相澤は軌道を修正した。
「お前に頼みたいのは、壊理ちゃんの個性コントロールに協力して欲しいんだ。お前のも言っちまえば体内の第二次エネルギーを生み出し、コントロールすること。つまり壊理ちゃんの個性に似ているんだよ」
「はへー。なるほどでござる」
何気なしに横にいた壊理の頭を撫でる。
トビ時の出会いが、自然とそうさせていた。
「あ……」
「ござ、嫌でござったな。申し訳ないでござる」
「ミルコに興味がないのはそういう理由か、やめとけよ。そっちの枠は峰田で埋まってる」
「ござあ!? ホントに不本意にござる! 儂様お姉さまが好きでござる! ミルコやラグドール、ミッナイ先生がストライクでござるよ!!」
「そうなのか? ならどうしてミルコに興味ないって顔してるんだ」
「み、ミルコはその、戦闘訓練でお互いをボコっているでござるよ、なんというか。生存本能的に体が……」
「そうか……」
死穢八斎會事件の後、顛末を他者から聞いた相澤は聞いた。
血だらけになりながらも、狂気的な笑みを浮かべて突っ込んでいくミルコの姿があったと。
「じゃ、そういうことだから。分身体であっちこっち行ってんだから、俺が空いている時間にこっちにも分身体を寄越せってことだ。失敗しても問題ないしな」
相澤は聞かなかったことにした。面倒だから。
「ござー。明確な分身体差別にござる、分身体を代表して抗議するでござる」
なお、ここにいる忍堂は本体である。
実際はミルコのところで、授業や敵連合、はたまた訓練場にも分身体がいるので、いたるところに忍堂の影があるわけだが、日常風景として認知されている。
「相澤先生には伝えているでござるが、分身体がやられた時のフィードバックとして、痛みはないでござるが感覚は伝わるでござるよ。多分本体が恐怖に慄くでござる」
「大丈夫だ。失敗しなければいい」
「ござぁ……」
「お前の器用さは知っている。壊理ちゃんが個性をコントロールできれば、この子の安全もそうだが通形の個性を取り戻すこともできるかもしれん」
「……ん? つまりそれって」
オールマイトも、と言いかけたところで口を止める。
可能不可能も分からないうちから希望的なことを語りすぎるのは良くないからだ。
壊理が個性を使いこなし、通形の個性を取り戻して、そのうえで言うべき事柄だ。
「委細承知にござ。ミルコのところでコツは掴んでいるでござるに、早々にコントロールさせてみせるでござるよ」
「すまんな。本来お前に頼むべきではないのは承知している。だが、適材な人材が俺の知る限りお前以外いない」
期待されている。そう捉えてもいいのだろうか。
見ず知らずの他人ならともかく、他人であり少なくない交流を持つ相澤となれば、少しばかり嬉しくなる。
「じゃ、壊理ちゃん。今日初めての間にござるが、って」
隣に座り、まずは忍堂として関係性を築こうとした忍堂だったが、壊理はためらうことなく忍堂の膝の上に乗った。
なんだったら全身を忍堂の体に押し付けた。
「ご、ござぁ?」
困惑して相澤に救いを求める。
「まぁ。嫌われるよりはいいだろ。あと、練習するにしてもここじゃ都合が悪い、雄英に行くぞ」
「あ、はいでござる」
立ち上がる忍堂だが、壊理が一切降りようとしないため、仕方なく抱きかかえての移動になる。
道中、壊理は忍堂の服に顔を埋めては、ちらりと忍堂の顔を確認しては服に顔を埋めてと繰り返していた。
「あの、儂様の顔に変なものが付いているでござるか?」
そう言うと、壊理は耳元で小さな声でこう言った。
「トビ、さん……ですか?」
忍堂は足を止めない。バレたとしても反応しないよう、普段から注意しているから。
しかし、人生で初めて全力で隠している事実に気づかれたことに、動揺がないわけではない。
壊理を抱える手に、力がこもる。
(どこから……。誰かに言いふらされたか……? この顔で会ったのは今日が初めて、バレたのが今時点は確定だ。黙らせればバレないか? いや、記憶を読む個性なんてあれば、どうする)
消す。
今、忍堂が追っている敵連合にバレれば、掴もうとしてる強大な敵の尻尾すら逃してしまう。
消すのは簡単だ。トビとして壊理を始末して、死体として封印巻物に入れればいい。
だから考えるべきは消した時のデメリットとメリット。バレるリスクの天秤。
守ると誓った少女に向けたこの思考が、果てしなく気持ちが悪かった。
「あの、せんにゅうさくせん、なんですよね? 私、黙って、ますから」
ふと、壊理の顔を見る。
トビの時に見た暗い顔はそこになく、明るい女の子の純朴な姿。そして体を通して伝わる子供の高い体温。
(一度、守ると決めたのなら守り通す。殺す覚悟はあったでござるが、こっち方面の覚悟はまだまだでござるか)
「私、助かった。だからいっぱい、会えるよね? 一緒にまた、寝てくれます、よね?」
逃げていたのかもしれない。
だって、殺すのは簡単だから。
切り捨てれば考えなくていいから。
本当に守るべきもの、守りたいものを見据える。
「ど、どうしたん、ですか?」
強く、壊理を抱きしめる。
見捨てようとした自身の愚かさを隠すように。
「壊理ちゃんが可愛くて、連れ去ってしまいたくなったでござるよ」
「~~っ!?」
「あの時はすまなかった。目的のために、君をあそこから救い出すのを後回しにして。いや、見捨ててしまった。ごめん」
自分の情けなさに涙が出る。
守りたいものを見捨ててまで、手柄を取りに行った事実に今気づいた。
自分の人間性が破綻していることは知っている。今でも知らない他人が死のうとどうでもいいと思っている。
だからこそ、一度でも守りたいと思ったのなら、何に代えても守るべきだったのだ。
たとえ潜入がバレたとしても、自分の立場がなくなったとしても、振り返らず前だけを見るべきだった。
「次は絶対に君を守る。二度とあんな場所に君を置いて来やしない」
どうして忍者に憧れたのか。どうして敵なら始末してもいいと思ったのか。
簡単なことだ。
自分の世界にいる守りたいものがあって、それ以外のすべてを捨ててでも守りたいだけ。
そのために生きて死ぬ、NARUTOの忍者がまぶしかった。
「ありがとう、忍堂さん」
頭を撫でられ、驚いて見れば壊理も泣いていた。
子供は感受性豊かというが、あんな場所にいたのに……強い子だ。
「君みたいな可愛い子に、涙は似合わないな。笑った顔が一番かわいい、だから。笑った顔を……見せてくれないかな」
あまり笑ったことがないかもしれない。
だから見せる、誰もが安心するような、復讐の連鎖を断ち切ったあの人達のような、憧れの強い笑み。
「……っ」
と思ったら、なぜか顔を背けて再び服に顔を埋めてしまった壊理に、忍堂は慌てた。
どうにか顔を上げてもらおうと、いろいろ言った。色々褒めた。しかし服を掴む手だけが強くなるだけで、一切顔を上げてくれることはなかった。
き、嫌われた……。そう絶望しかけた時、視線を感じる。
「あ、相澤先生……?」
「いたいけな女児をナンパか。俺は人選を間違えたのかもな」
「ち、違うでござるよ!!! 誤解にござる! 証拠に儂様秘蔵フォルダーを見て欲しいでござる! ミルコのアレな感じの激レア写真があるでござるよ!!」
そう言って、携帯を取り出し。
「んっ!!」
壊理が叩き落としたことで、地面に落下。
「ござああ!?」
「んっ! んっ!」
証拠品を消されて絶望する忍堂、顔を真っ赤にして忍堂の胸をポカポカ叩く壊理。
「メンドクセェ……」
相澤は考えることを止めた。